表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/245

第183話 凱旋ふたたび

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ライベルク王国の王都シャルディア城は、夕焼けの優しい(あかね)色に染まっていた。

          ・

          ・

 今日は珍しく貴族たちが大勢集まり、晩餐会が催されていた。


 宮廷の貴族たちは豪華な晩餐を楽しみながら、雑談に花を咲かせていた。


 しかし、その平穏は突如として破られることとなる。


「 失礼致します! 使徒様がお戻りになられました! 」

「 空から城にお越しになられました! 」

 という衛兵の拡声器を通した叫び声が城内に響き渡った。


 伝令係の衛兵は腰に装着したトランシーバーを手に取り、各所に伝達を始めた。


 その瞬間、宮廷内はまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

 貴族たちは驚きのあまりカップを落とす者もおり、使用人たちは慌てて走り始めた。


 早々に自室に引き上げていた国王や王子にもすぐに伝達され、側近たちは右往左往していた。


 貴族の一人が「 急いでお迎えに上がらねば! 」と叫び、他の者たちもそれに続いた。

 廊下では、貴族たちが互いにぶつかり合いそうになりながら走り回り、まるで迷子の羊の群れのようだった。

          ・

          ・

 一方、厨房にも伝達され、料理人たちは「 味を見てもらうチャンスだ! 」と大慌てで日本製の鍋やフライパンを振り回し始めた。

 パン職人は「 急いで追加だ! 新作のパンを焼け! 」と叫び、菓子職人は「 聖女様に試作中のデザートをジャッジしてもらうチャンスだ! 」と意気込んでいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私はオベッカを使う大勢の貴族に囲まれながら、大広間に入った。


 宮廷の大広間は壮麗さを誇っていた。高い天井は、精巧な木彫りの梁で支えられている。

 壁は重厚な石造りでありながらも、細やかな装飾が施されていた。太い柱が整然と並び、その間には豪華なタペストリーが掛けられている。タペストリーには王国の歴史や伝説が織り込まれており、訪れる者に誇り高き過去を語りかけていた。


 床は磨き上げられた石板で覆われている部分もあり、その冷たさが足元に心地よい。中央には巨大なシャンデリアが吊るされており、無数の蝋燭が煌めいていた。光は、大広間全体を幻想的な雰囲気で包んでいた。


 ――いつも思うが、シャンデリアを支える鎖が切れたら・・・もし下で食事してる人がいたら大惨事だよな。


 大広間の一角には王座が鎮座していた。金で飾られたその椅子は権威と威厳を象徴しており、誰もがその前にひれ伏すことを余儀なくされるだろう。だが今は、その座は空席だった。


「 国王様はいないんですね 」


「 王は、御后様、オリヴァー様と共に自室に戻られておりますが、既にお伝えしておるハズなので、間も無くお戻りになられるかと 」

 取り巻きの貴族の一人が、私の呟きに即座に反応した。


「 け、賢者様・・・わたしのような獣人が、本当にお城の、しかもこんな中枢に入ってもよいのでしょうか? 」

 マロンさんは、先ほどからずっと「 畏れ多い 」と口走り、戦々恐々としていた。


「 ああ、大丈夫ですよ勿論。そもそもこの国は獣人さんに対して理解がある国だと聞いてますし 」

 勿論ソレは建前だ。

 人の心なんて裏は解らない。この取り巻きの貴族の中にも、明らかにマロンさんを見て嫌悪を隠しきれていない眼差しを向けている者もいるし、ある程度の差別的な態度は仕方のないことなのかもしれない。

 あくまで私が連れている獣人だから――と、表情に出さないよう押し殺している者が多いのかもしれない。


          ▽


 先ほど私たちも潜った大広間の扉が開かれると、大勢の取り巻きを従えた――息を切らした国王様とオリヴァー殿下が足早に駆けてきた。

 そして私たちの前で急停止し、国王様と殿下は息を整え深く頭を下げた。


「 ハルノ殿! お待たせして申し訳ありません! 」と国王様が口を開いた。

「 この度のモンド寺院でのご活躍! 既に聞き及んでおりますぞ! 」


「 ブラックモアよ。よくぞ役目を果たした! 誇りに思うぞ 」

 オリヴァー殿下も、にこやかにリディアさんを褒めた。


「 ありがとうございます。陛下、殿下。全てはハルノ様の御力、そしてデュール様の御加護のお陰でございます。私が成し遂げたことは、ハルノ様とデュール様の導きによるものです 」

 リディアさんは頭を垂れながら、謙虚さと敬意を示しつつ返事をしていた。


「 ハルノ殿! このローブ。どうですか? この美しいローブ! 分かりますか? このローブが何か 」

 突然、国王様がドヤ顔になり――可愛くクルリと回ってローブの裾を広げて見せた。


 ――いや、女子かよ!


 国王様はいつもとは違う純白の神聖なローブを身にまとい、輝く笑顔を浮かべていた。

 ローブは繊細なレースと煌びやかな刺繍で飾られ、胸元には緑の宝石が象徴的に輝いていた。ローブに光が当たるたびに、金糸の刺繍がキラキラと輝いている。


「 す、素敵な御召し物ですね・・・新調されたんですか? 」


「 ふふふ、このローブ。凄い効果があるのですよ! 」


「 え? 効果? カレーうどん食べたら絶対ヤバイってくらいしか思いつかないけど・・・ 」

 カレーうどん、ナポリタンなどを食べる時に、絶対に着て行ってはならない純白の衣類。


「 ふふっ、実は精神統一をしますとですな、なんと治癒の効果が発動するのですよ! しかも装着している間は常時、状態異常を無効化するのです! 」


「 えええー! そんな凄い装備なんですかコレ! どこで入手したんですか? 」


「 そのご様子だと、やはり直接お聞きになってはおられぬようですな! 」


「 まさか! デュールさんですか! 」


「 ええ、そのまさかですよ! 」


          ▽


 どうやら、デュールさんが国王陛下との約束を果たしたらしい。


 ある日、陛下の夢の中にデュールさんが現れ「 礼拝堂に褒美の品を置いておいた。治癒と状態異常無効の効果がある品だ 」と御神託があったらしいのだ。


 慌てて飛び起き、護衛の制止を振り切って礼拝堂に走ると、デュールさんの像に純白のローブが掛けられていたそうだ。手に取った陛下はその場でむせび泣いたそうな。勿論、歓喜の涙だ。


 しかし効果が本当なら、装備している限り――陛下には毒も強制的な眠りも、麻痺も石化も魅了も効かないという事になる。まさに神が創りたもうた神話級の装備だろう。

 もしも他国の為政者に知られると、このローブ一着が戦争のキッカケになってもおかしくない・・・


 しかし今この有頂天な陛下に、そんな可能性を示唆しても効果は薄いだろう。


「 ところでハルノ殿。その後ろの獣人はどなたかな? 」

 有頂天陛下の真横で、オリヴァー殿下が至って冷静に問いかけた。


「 ああ、東へかなり進んだところに【風鳴りの森】って森があるんですけど、そこに住んでる獣人さんでマロンさんっていいます。地表から溢れ出る魔力の影響らしいんですけど、食料となる獲物が皆無だそうで、食糧支援と調査を依頼したいんです 」


「 ど、どうも・・・人狐族(ウェアフォックス)の集落から参りましたマロンと申します 」

 マロンさんは恐縮しきりな様子で、終始おどおどとしていた。


「 なるほど。案内役というわけですか。しかしお前たちの集落は、我が王国に税は納めておるのか? 」

 再び殿下が問いかける。


「 い、いえ――、納税したことは・・・一度も、無いと思います。徴税官が訪れたことは一度もありませんし 」

 しょんぼりと両耳を垂らしたマロンさんが答える。


「 そうか。残念だが税を納めていないのならば、あくまで基本的にはだが――我が王国としては動くことはできないな。いくらハルノ殿の口利きでもソレをやってしまうと、キチンと納税しておる臣民に示しがつかんからな 」

「 ハルノ殿が関わっておるなら、なおさら情報が洩れるのは時間の問題だろうし 」

「 しかしどうしてもと言われるのであれば――できるだけ秘密裏に一個小隊を編成し向かわせますが 」


 オリヴァー殿下の良い所だ。他の貴族ならば、私の心証を良くしようとしてルール無視で二つ返事で承諾していただろう。


「 あ~そうか~。う~む、確かにそうですよねぇ。では個人的にハンター組合で依頼出すかな~ 」


 依頼の報酬としては、孤児院への寄付や慈善事業の資金確保のため、あまり金貨は使いたくない。

 だが報酬は何も金貨ばかりが求められるわけではない。私は、金貨に匹敵する報酬をいくらでも用意できる。霊薬(ポーション)もその一つだし、日本から持ち込んだ酒類や便利グッズもその一つだ。


 かなりの自惚れが入っているかもしれないが――私からの直依頼だと公表すれば、それを受けること自体が名誉だと考え、応募者が殺到するかもしれない。


          ▽


 ~翌朝~


 朝一、大勢の護衛を伴ったオリヴァー殿下と共にハンター組合へと足を運び、【風鳴りの森】の調査依頼を出した。


 昨晩、王城エリア中庭の一角が住居と化している龍さんに会いに行き、すでに輸送の依頼を取りつけてある。ちなみに同じエリアには、アストレンティア王国から成り行きでライベルク王都にやってきた――ユリウスさんとルイさんも寝泊まりしている。今回の依頼に、ユリウスさんもルイさんも興味を持ったようだった。


 それとモンド寺院からは総員撤収し、王都に戻っているらしい。落ち着いたら地下に埋もれたもう一本の神剣の発掘依頼も出すつもりだった。


―――――――――――――――――――


 依頼:【風鳴りの森】の異常な魔力波の調査


 依頼主:ハルノ様


 依頼概要:【風鳴りの森】において異常な魔力波が観測されている模様です。この魔力波は自然発生的なものとは異なり、未知の魔法生物や悪意のある何者かが関与している可能性もあるため、注意が必要です。これにより周辺地域の安全が脅かされているため、調査と対策が急務です。


 依頼内容:【風鳴りの森】に赴き、異常な魔力波の発生源を特定する。

      魔力波の原因を調査し、必要に応じて対処する。

      調査結果を詳細に報告し、今後の対策を提案する。


 報酬:調査完了後、1人当たり金貨3枚 + ハルノ様が厳選なされた豪華アイテムセット


 調査中の食料支援( 詳細は下記参照 )


 食料支援:調査期間中の食料に関しては、ライベルク王国が用意したものが無償で提供されます。


 さらに【風鳴りの森】に集落を構える獣人一族に対し、以下の食料を提供します。


 保存食( 乾パン、干し肉、干し果物、缶詰、瓶詰、シリアル、スナック食品など )


 輸送手段:【風鳴りの森】までは、真龍様が輸送を担当してくださいます。真龍様は安全かつ迅速に目的地まで運んでくれるため、安心して調査に集中できます。


 注意事項:調査中は【風鳴りの森】の生態系に配慮し、無闇に破壊しないこと。異常な魔力波により予期せぬ危険が発生する可能性があるため、十分な準備を行うこと。


―――――――――――――――――――


 真の王とは民の声に耳を傾ける者である――と、陛下から常日頃より聞かされている影響なのか、オリヴァー殿下はハンターや一般民衆に対しても結構フランクな感じで笑顔を振りまいていた。


「 ハルノ殿。すぐに転移なさるので? 」


「 そうですねぇ~。リアナさんに見つかると面倒なことになりそうだし、サッサと転移しますか 」


「 アストレンティアの件が落ち着いたら、また俺をアチラに連れて行ってくれるという約束、忘れないでくださいよ? 」


「 ああ、いつになるやらって感じですが必ずお連れしますよ 」


 私の即答に対し、オリヴァー殿下は太陽のように輝く笑顔を見せていたのだった。

マジ、ヤバイ、ムカつく、ビビる

これらは江戸時代から使われている言葉だそうです。

300年くらい前の会話なら、意外に現代と大差ないのかもしれませんな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
王様の女子ムーブにわらった
更新して頂きありがとうございます。 私もシャンデリアを見ると鎖が切れたら大惨事に繋がりかねないと度々考えてしまいます。 獣人たちもハルノさん達の支援を受けられるようで安心しました。 今後オリヴァ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ