第18話 模擬訓練を始めよう
「 よいよい! 楽にしてくれ! 」
ナゼだか当たり前のように私の部屋での会合となった。第一王子の御前に、三人が雁首を揃えている状態だ。大隊長さんは冷や汗を拭い、アイメーヤさんは硬直している。ちなみにマリアさんは自室にいるはずだ。
「 殿下・・・護衛も付けずにナゼ御一人で? 御身にもしもの事があれば一大事ですぞ! この辺りは比較的治安が良いとはいえ、御一人で街に降りられるなど! 宮廷の者に知れたら大騒ぎです! 」
「 ははは、言うな! なに理由は単純明快だ。転生賢者と呼ばれる御仁に是非お目通り願いたくてな! 」
「 え? 私ですか? 」
「 おお、やはり!まさかとは思ったが、貴殿が転生賢者殿か? 少女の姿と言うのは真実だったのだな。しかしこうして見ると本当に若いな、実際の年齢をお聞きしてもよいか? 」
――う~ん・・・
そんなに子供っぽいかな~?
別に騙す気はサラサラないんだけどな。
ってか何歳って答えよう?
「 う~ん、一応二十歳は越えてるんですけどね 」
「 ほう、そうなのか? しかしそれは今生の年齢であろう? 」
私は今、思案顔になっていると思う。
なんて答えよう?
言い淀んでいる様子に王子は気付いたのか、即座に前言撤回してきた。
「 すまんすまん! 淑女に歳を訊ねるなんぞ少々無粋であったな。許せ! 」
オリヴァー王子はふりふりと右手を振り、話題を無理やり切り替えた。
「 まぁ一言で言うと好奇心だな。陛下への報告を俺も聞いたのだが、こと魔法に関しては知識欲が抑えられん。伝説の蘇生魔法を行使する存在となるとな! 幼少の頃より研鑽を積んでいる身としては、一刻も早く会ってみたいという衝動に駆られたのだ。何というか――、幼児の如く我慢できずに居ても立ってもいられなかったというわけだ! 」
「 お気持ちはわかりますが――、殿下は王国の至宝! 御自覚下さいませ! 」
「 そう怒るなラグリット。で賢者殿、正直に言うとな、俺は少々疑ってもいる 」
「 原野に巣食う怪物、騎士団でさえも尻尾を巻いて逃走を図るような怪物だ。それをたった一人で倒し、さらに神にしか使えぬと伝えられている蘇生魔法を行使できるとは! ラグリットの進言でなければ、戯言を申すなと門前払いを受ける類の話だ。流石に易々とは信じられん 」
「 ああ、まぁ――今までの皆さんの反応を見れば至極当然かと。一応そちらのアイメーヤさんは私が蘇生しましたのですけどねぇ 」
なんだか変な敬語になってしまっている私に指を差されたアイメーヤさんの身体が、一瞬ビクッと震えた。
「 無論それも聞いている。そこで一つ提案がある! ――蘇生魔法は死者がいなければ、その真贋を見極めることができぬのかもしれんが、その他のたとえば攻撃魔法に関してはどうだ? 放つだけで効果が歴然だろう? 僭越だが、貴殿の魔力が如何ほどのモノか確かめたい! そこでだ、俺も魔道士の端くれとして貴殿に一戦申し込みたい! 」
「 え? 一戦とは? 」
「 俺と一戦――、魔法で勝負をしてほしいと言ったのだ 」
「 魔法だけを使い、対戦形式の模擬試合をするってことですか? 」
「 そうだ! ルールはお互い事前に一度だけ魔法障壁を張り、試合中の張り直しは禁止。試合中は攻撃魔法と魔法障壁以外の自己強化魔法のみ。もちろん治癒魔法も禁止だ 」
――い、いや・・・
攻撃魔法となると、与えられた魔法のシステム的に私は手加減ができない。
最悪、殺してしまう可能性だってある。
もしそうなったら、即座に蘇生すれば良いだけなのかもしれないけど
「 う~ん、正直申しますとですね、最悪死なせてしまうかもなのでその提案は却下でお願いしたいのですが・・・ 」
「 ははは、戦う前から心配されるとはな! だが悪くない! そもそも殺す気でなければ真の力量は測れまい! もし俺が死んだら、そうだな――、その時は蘇生を頼むとしよう 」
「 ええー!? いや矛盾してませんか? 信じてないんじゃないんですか? あーでも私の蘇生魔法を見たいだけならば、今夜蘇生魔法を使う予定がありますが――、殿下もその場に同行して頂くってのはどうでしょうか? 」
「 おお! そうなのか? それは是非とも立ち会わねばな! ――しかし俺は蘇生魔法だけを見たいわけではない。貴殿の魔道士としての格を見たいのだ。なに――、そう構えることはないぞ、前座の、そうだな――余興とでも考えれば良い 」
「 改めて聞くが、手合わせを願いたい! よいな? 」
周りに有無を言わさぬ貫禄が、オリヴァー王子にはすでに備わっているようだ。
君主となるべく生まれた者特有の鷹揚さとでもいうのだろうか?
――しかしこの人、ただ魔法使って暴れたいだけなんじゃないかしら・・・
――いや待てよ? これはチャンスかも!
滅多にない模擬戦と捉え、修練のために受けて立つのもアリか?
不測の事態に備え攻撃魔法の特性を確かめるべく、実戦形式で演習しておくことが大切かもしれないと、ここ数日間なんとなくだが感じていたところではある。
「 う~ん、もし私が勝利したら何か褒賞とか頂けますか? 」
「 ははは、これは現金なことよ! 良いだろう! 賢者殿の望むモノを与えよう! 無論俺にできる範囲でだが、逆に俺が勝利した場合、俺の望みも聞いてもらえるのか? 」
「 え、ええ勿論、私にできることなら 」
椅子に座るオリヴァー王子に対面し立っている私の前に、大隊長さんがずいっと割り込む。
「 い、いやハルノ殿。そんな勝手にお決めになられては! 殿下も殿下ですぞ、お怪我でもなされたらどうなさるおつもりですか!? 最悪この場にいる全員が処分されます! 」
「 大事ないラグリット! お前の心配性は以前よりも悪化しているな 」
「 でも魔法をぶっ放すことが可能な場所って・・・街の外まで出るんですか? 」
私は至極当然な疑問をぶつけた――
「 ああ場所か・・・ハンター組合本部の裏庭でよく模擬訓練やら実技試験やらが行われていると聞いたが――、そこではダメか? 」
▽
▽
オリヴァー王子が乗ってきた四人乗りの豪奢な馬車。王家のエンブレムが施されたその馬車に揺られながら、ハンター組合本部へと到着した。
オリヴァー王子と大隊長さん、それにマリアさんと私といった組み合わせだ。
アイメーヤさんには留守番をお願いしている。カインズさんが迎えに来た時のための伝言役だ。
「 ではラグリット頼むぞ! 」
「 は、はぁ・・・ 」
大隊長さんの顔には「 え? 俺が行くの? 」と書いてあるようだった――
「 なんだその覇気の無さは! 早く使用許可を取ってこい! 」
「 は、ははっ! 」
オリヴァー王子に促され、渋々といった様子の大隊長さんは受付の前へと歩みを進めた。
▽
大隊長さんは、たった一刻の訓練場使用料として大銀貨二枚も取られた・・・と嘆いていた。
模擬魔法戦を行うためだと正直に申告したらしい。それに加え、あまりにも目立つオリヴァー王子の存在が、周囲のハンターたちの耳目を集め、結果として多くの観衆を呼び寄せることになった。
「 お嬢さん! 誰と誰が戦うんだい? そこの騎士と隣にいる貴族か? 」
見ず知らずのハンターらしい戦士が、馴れ馴れしく話しかけてくる有様だった。
「 あ~、まぁ私とその貴族の方ですね 」
嘘をついても詮無いので正直に対戦カードを伝えた。
「 ほほう、それは面白そうだな! お嬢さんは魔法が得意なのか? 」
「 いやまぁ、得意というかそれしかできない感じですかね? 」
「 よしよし! じゃあ俺はお嬢さんを応援するぜ! 頑張ってきな 」
激励の言葉は素直に嬉しい。でも、このハンターが応援してくれる理由は、「 分が悪いのが明らか 」+「 見るからに弱そうな若い女性 」という要素が重なって、ただの判官びいきな気がする・・・それでも応援はありがたいけど。
それに負けるつもりは毛頭ない。
かなり卑怯な手になるかもしれないが、頭の中ですでに作戦の組み立ては完了していた。
そう――、かなりシンプルだが効果的な作戦を試してみたいのだ。




