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第179話 事後処理

 広場には静寂が戻っていた。闇夜に乗じて襲ってきた者たちは、今や手足を縛られ地面に無造作に転がっている。彼らの衣類は血の赤と混ざり合い、干拓地の暗闇に溶け込んでいた。


「 何なんやこら? 一体何があった? 」

 呼び戻された龍哲さんたち三人は、唖然としながらも険しい表情を見せていた。


 我々が襲撃者たちを返り討ちにしたのは一目瞭然。そしてそれが自分たちが企画した規格外な取引の直後に起こった現実。その意味するところがどれほど重大であるかを、龍哲さんは理解しているだろう。


「 見ての通り(タマ)ァ狙われましたわ。龍哲さん――問題はどこから情報が洩れたか・・・肝心なのはソコですわ。場所はともかく日時を決めたタイミング的に、白凰組(うち)からってのはちぃと考えにくいんじゃがなぁ~ 」

 タバコを吹かしながら、姫野さんが面倒くさそうに言い放った。


「 あ~姫野はんの言いたいことはようわかっとる。その前にまず、この状況を説明してくれや 」


 龍哲さんの催促には私が応える。


「 相手は八人で襲ってきましてね。仲間の流れ弾で一人死んだみたいです。それと私がつい殺しちゃったのが一人。死体はこいつらの車に捻じ込んでます。残りは手と足の腱をぶった斬って動けなくした上に、見ての通り結束バンドで縛ってる状態です。ほぼ全員、意識が混濁(こんだく)してます。一応スマフォとかは没収してますが、まだ何かしらの通信機器を持ってるかもしれませんね 」


「 すでにどこかちぃと離れた場所で、このワシらのやり取りを盗み聞きしとる奴がおるかもしれんなぁ。たとえばこいつらの雇い主とかなぁ 」

 すかさず姫野さんが付け加えた。


「 姫野はんらに怪我はあらへんのか? 」


「 ええ、ワシらはこの通りほぼ無傷ですわ 」


「 そうか――、とりあえず人気(ひとけ)は無いが安心できん。通報されて大事(おおごと)になる前に、こいつらの身柄(ガラ)俺らがもろてええか? 」


「 う~む、どうしたもんかのぉ 」

 煙を吐き出しながら、姫野さんがワザとらしく表情を曇らせた。


「 どう考えても金光組(こっち)から洩れた可能性の方が高いからな。キッチリ落とし前はつける。些細な事でもすぐに知らすから 」


          ▽


 現在――大型SUVは、荷室に死体が二体無理やり押し込まれている状態で先を走行している。運転手は天野さんだ。


 こちらの車は襲撃者たちの1台だ。車内は比較的広い。5億の札束が入ったキャリーケース二つは荷室に放り込んでいるため、さきほどよりはゆったりと座れている。


 結局、死体になっている二人は、白凰組が引き取る事になったのだ。

 これは色々な可能性を考慮した結果、私が強く希望したためだ。


 残り六人の襲撃者たちは、龍哲さんたちが乗って帰るレンタカーと、襲撃者たちの車2台に分けて押し込まれた。

 その3台を、龍哲さんたち三人がそれぞれ運転し、桜花会本部がある姫路へと直行するらしい。

 念のため三人には【女神の盾(アイギスシールド)】を付与してあげた。その時、額の文字を乱暴に拭き取った跡が残っていた凛太朗さんに、もの凄い圧で(にら)まれたが・・・


 龍哲さんは、「 高速乗るまで油断すなよ! 」と怒号を飛ばしていたが・・・しかし油断もなにも、パトロールしている警察に目を付けられたら終わってしまうだろう。


 そのリスクを最小限にするため、桜花会傘下の組に要請し、高速道路のサービスエリアまで応援を何台も呼ぶそうだ。


 そして、警察に目を付けられたら終わるのはこちらも同じだ。

 龍哲さんの方は、足首を切断されている者など大怪我を負っている者たちばかりだが、少なくとも数時間ていどならば死亡する者はいないだろう。だがこちらは死体が二つだ。現行犯逮捕されるにしても、傷害と死体遺棄では警察の対応も全く違うモノになるだろう。

          ・

          ・

 人間のクズに行使するのは不本意だが、やはり前もって蘇生しておく方が安心だ。


「 姫野さん、殺し屋どもの死体を蘇生してもいいですか? 」


「 はっ? 何でや? 生き返らせるにしても本部に戻ってからでええじゃろ? 」


「 いえ、嫌な予感がするんです。警邏(けいら)中の覆面パトとかに止められたらと考えると・・・ 」


「 ん~、最悪、力業で切り抜けるんじゃなかったんか? 」


「 実は、私もう睡魔がヤバイんですよね・・・力業はホント最悪中の最悪なケースの場合です。私たちの転移が映像とかに残らないのと違って、車ごと浮いたらどこぞの監視カメラとか、警察のドラレコに映って残るでしょうし。まぁあくまで確実なる安心の為にってやつで―― 」


「 ほうか・・・分かった。おい天野、尾道ICで下りて流通団地に入れ 」

 姫野さんはブルートゥース接続で、前方を走る天野さんと常時会話をしていた。

          ・

          ・

 尾道流通団地に入った。

 姫野さんが団地と言うものだから、個人宅が建ち並んでいるのかと思いきや、工場ばかりが並ぶ広大な工業団地だった。


 少なくとも、私たちが車で通過した際に見た工場は完全に操業を停止しており、必要最低限の明かりしか灯っていなかった。


 さらにその団地を見下ろしている山道を登る。山頂には巨大な送電鉄塔があるらしく、目的地はその鉄塔前広場のようだった。


          ▽


 山頂に到達した。


 天野さんは叩きつけるように、乱暴に死体を地面に降ろし、姫野さんの指示ですぐさま下山していった。


「 天野に入口を見張らせるけぇ、ここなら問題ないじゃろ? ホテル代を浮かそうとしとるアベックもおらんしのぉ 」


「 ア、アベックって! 縄文人ですか・・・ 」


「 また馬鹿にしとるんか! 」

 言葉は乱暴だが、姫野さんは半笑いでツッコんでいた。


「 まぁ、そのアベックが来る前にチャッチャと済ませますかね 」


「 おう 」


          ▽


「 目が覚めたか? オドレら誰から頼まれて鉄砲玉なんかしたんじゃ? 」

 目覚めて未だ微睡(まどろ)んでいる二人に対し、腰を沈めた姫野さんが優しく問いかけた。


「 ・・・えっ? あれ・・・? 」


「 なんで? い、痛くない・・・え? 」


 二人とも頭や顔、胸板を(まさぐ)り、間抜けな表情のまま視線を彷徨わせ、私たちと仲間の顔を何度も往復していた。


「 おい、しっかりせぇ。誰から頼まれてワシらの(タマ)狙いよったんじゃ? 目的はワシらを(バラ)して金を奪うことじゃったんか? 」


「 す、すんません! 堪忍してください! 俺らはただ雇われただけで、ほぼ何も聞かされないまま現地に・・・ 」

 たぶん私が窒息死させた男が――急に土下座し、頭をアスファルトに擦りつけて懇願を開始した。

 もう一人の、仲間に心臓を撃ち抜かれた男は放心状態のまま――まだ呆然としている。


「 何も知らんでも、雇い主くらいは把握しとるじゃろうが! 」


「 は、はい・・・ちょくちょく強盗(タタキ)で俺たちを使ってた(テル)さんって人からの依頼で・・・名前以外は俺たちも素性を知らないんです! 本当です! 俺たちのスマフォはテルさんが回収し、仕事の間はどこかに隠してて、その代わり第三者(トバシ)の端末を人数分渡されて、それで連絡を取っていたので・・・ 」


「 ほう、なかなかに徹底しとるんじゃのぉ。じゃあそのテルってのがお前らのリーダーで間違いないな? 八人の中におったんか? 」


「 あっ、はい、いえ、テルさんの相棒の人が(ガク)さんって言いまして、正確にはその二人かと・・・ 」


「 隣のそいつは――そのテルでもガクでもないわけじゃな? 」

 姫野さんが隣の男目掛け、顎をクイッと動かし詰問する。


「 あ、はい。こいつは俺のチームの一員でして・・・ 」


「 こっちはハズレか・・・ 」

 姫野さんは溜息混じりに、ワザとらしく落胆して見せていた。


「 状況的に、姫野さんが殴り倒して顔面血塗れにした二人が、そのリーダー格なんじゃ? 放っておいたら死にそうな感じでしたけど 」

 確信を持って私は口を挿んだ。


「 ああ、多分――あの半殺しにした二人じゃろうなぁ~。こうなりゃ龍哲さんの報告を待つしかないわなぁ 」

 姫野さんはスクッと立ち上がり、紙タバコを懐から取り出した。


「 とりあえず、こいつら連れて広島に戻りますよね? 」


「 ああ、悪いが春乃さんとリディアさん、こいつら縛るの手伝ってくれぇ 」


「 お安い御用です 」

「 あなたたち! 無駄な抵抗はしない方が身のためですよ。生き返らせたのは、単に死体を運んでいるリスクを消すためですから 」

「 それと、身をもって体験しているので説明は不要でしょうけど、私たちには拳銃も刃物も通用しませんからね。あなたたちが少しでも抵抗を見せたなら――確実に殺しますから! この姫野さんがね! 」


「 え? ワシ? 」


「 ええ、私たちはここで離脱しようかと思います。こいつらのこの車を貸してください、というかもらいます。姫野さんたちは四人でレンタカーに乗って広島に戻ってください。お金は後で平屋に届けますので 」


「 ああ、なるほどな。安全第一か 」

 姫野さんは納得の表情を見せた。


「 そうです。多分大丈夫な気もしますが、ただでさえ時間ギリギリだし、魔法を結構使っちゃってるので。帰り道でいきなり時間切れになったらまた面倒だし、安牌(あんぱい)取っておこうかなと―― 」


「 わかった。こんだけ隙ぃ見して時間もたっぷり取ったのに、襲ってくるヤツはもうおらんし。どうやら別動隊はおらんようじゃしのぉ 」


 私たちのやり取りを、襲撃者の二人は不思議そうにポカ~ンとした表情のまま見上げていた。

          ・

          ・

 狐につままれた状態の二人を、私たちは結束バンドを使い必要以上にキツく締め上げた――


「 お前らは運がええ。生き返らせてもろた上にワシらが引き受けたんじゃけぇなぁ。姫路に連れて行かれた他のんは――楽に死なせてもらえんじゃろうなぁ。極道は面子(メンツ)を潰されるんが一番鶏冠(とさか)にくるからのぉ 」

 姫野さんは含み笑いしつつも、他の連中が心底不憫(ふびん)だと続けていたのだった――

なんで世界間転移をさせているのか?って理由までを書いて終わりたいですばい。

体感ですが、少なくとも10人くらいの方には継続してお読み頂いている気がします。

展開として中だるみとか多々あって面白くないかもですが、長い目で読んで頂けると幸いでございます。

宜しくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新して頂きありがとうございます。 ハルノさんは慎重派ですね。警戒心は大事だと思います。 私も職場ではアベックという言葉を使うので、姫野さんには親近感が湧きました。 今後の展開も楽しみ…
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