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第178話 暗闘

若頭(カシラ)! どうすりゃええですか? バックで車ブチ当てて強行突破しますか? 」

 普段は寡黙で冷静な天野さんが、明らかに動揺を隠しきれない様子でお伺いを立てる。


「 アホか、どう考えても無理じゃろ。ここまで迫られたら無理じゃ。突破するだけの加速が足りんわ 」

 右手に――鈍く光る金属製のブラスナックルをはめながら、姫野さんが冷静に伝える。

「 春乃さんらは()る気満々じゃろうけど、基本手は出さんでくれぇ。客分の春乃さんらの手を煩わせるんは忍びない。ワシらだけで終わらせる 」


「 え? 分かりました――外にも出ない方がいいですか? 」


「 あぁ~、まぁそのあたりは任せるわ。襲ってきたら好きにしてええよ。でもできるだけ殺さんでくれ 」

 助手席のヘッドレストを掴みながら身を乗り出した私に、姫野さんが答える。


「 分かりました 」


 前後左右からヘッドライトで眩しく照らし出された我々。後ろから追い立ててきた車両は、かなり接近している。


 四方を囲まれた我々の車は、まるで獲物を狙う捕食者たちに囲まれたかのようだった。


 前方から数名の男たちがジリジリと迫る。どうやら覆面をしているようだ。目元だけは大きく開いている。

 そしてどうやら拳銃を携帯しているようだ。


 男たちの動きは無駄がない。計画的であることが一目で分かった。


 姫野さんと天野さんが勢いよく、堂々と車外に出た。

 私は後部左右の窓を全開にして聞き耳を立てる。


 緊張感が一層高まった。


「 おいっオドレらぁ! どこのモンならぁ! ワシらが白凰のモンじゃと知った上での襲撃か?! 」

 姫野さんがドスの利いた声を披露した。


 不意に後方から男の声が響く。

「 知ってるか? 日本では毎日250人が行方不明になっている。そして日本の殺人事件は、三割が未解決なんだぜ 」


 さらに隣の男が続ける。

「 広島の田舎者とはいえ、腐ってもヤクザと言うべきか――この状況でそれだけの威勢を張れるのだからな 」

 そして同じ男が「 はっはっはっ! 」と笑い声を上げた。

「 正気かよ! まさか拳で()り合うつもりか? ったくヤクザ屋ってやつは度し難いな 」


 確かに――我々を囲んでいる男たちの視点からは、姫野さんと天野さんは異様に映るだろう。

 拳銃を持つ集団に対し、ナックルを拳にはめ対峙しようとしているのだ。

 天野さんに至っては完全な素手で丸腰だ。覚えたての言葉を使うなら「 ステゴロ 」で銃に挑もうとしているわけだ。


 しかも四倍の人数相手に・・・


 もはや敵から見れば狂気の沙汰だろう。


 もしくは死を受け入れた――最後の最後に極道らしく派手に暴れて散るという、美学を貫く男たちに映るかもしれない。

          ・

          ・

 相手も同業の極道か半グレ集団かと思われたが、口ぶりから推測するに、プロの殺し屋集団なのかもしれない。


 手に手に拳銃を持った覆面の男たちが前に6、後ろに2、の計8人・・・冷酷な目で睨みつけている。緊張が張り詰め、空気はまるで凍りついたかのようだった。


 姫野さんは言葉を発した後方2人組に鋭い視線を送っている。拳を固く握りしめ、いつでも飛びかかれるように身構えていた。その目には決して引かないという強い意志が宿っていた。


 拳銃を構えた後方の2人組が挟みこむように、ジリジリと距離を詰めてくる。


「 諦めろ。お前たちに選択肢はない。全員死んでもらう 」

「 女もいるようだが容赦はしない。女はできるだけ苦しまないように殺すと約束しよう 」

 と、後方の男2人がそれぞれ冷たく言い放った。


「 はぁー大儀(たいぎ)ぃ奴らじゃのぉ~ホンマ。金じゃのうて、ワシらの(タマ)が狙いか? バカタレが! 獲れるもんなら獲ってみぃや! 」

 姫野さんが低音ボイスで呆れるように言い放った。


「 まったく・・・その余裕はどこからくるのか知らんが、死ね!! 」

 後方の男が右手を伸ばし、躊躇なく引き金をひく――


 プシュ! プシュ!


 サイレンサーで長くなった銃身から二発の弾丸が発射された――


 チュイィィンッ! キュイィィンッ!


「 ぐあぁ! 」

「 痛あぁ! クソがホンマァ! 」

 胸の辺りを押さえて悶絶しながらも、姫野さんはお構いなしに駆け出し、撃った男の下へ駆け出す。

 同時に天野さんは前方の集団に向け突撃していた。


「 なっ!? 防弾か? 」

 撃った男は一瞬動揺を見せたが、すぐさま三発目を撃った!


 プシュ!


 キィイインッ!


「 ぐっ! クソがぁ! 」


 姫野さんは頭を片手で押さえながら勢いを殺さず全力で踏み込んだ。


「 えっ!? あ、頭を撃ち抜いたのに・・・ 」


 撃った男はさらに驚愕し、動きが止まってしまった。


 ゴスッ!!


 姫野さんはその隙を見逃さず、左手で胸倉を掴み、渾身の右ストレートを覆面にブチ込んでいた。


「 ごはぁああ! 」


 ゴスンゴスンと、鈍い音が絶え間なく響く。あんな金属を握り込んだ拳で殴られたら、たとえ一発でも鼻がへし折れているんじゃなかろうか・・・


 もう片方の覆面も、我々の車越しに姫野さんに照準を合わせてはいるようだが、殴られている仲間に命中することを危惧しているのか、引き金をひくのを躊躇(ためら)っているようだった。

          ・

          ・

 姫野さんには、自分たちのゴタゴタに私たちを巻き込んでしまったという自責の念があるのかもしれない。

 私たちの手を煩わせるのは申し訳ないとのことだったが、どう考えても今更だ。ちょっと切ない気持ちすら湧いてくる。


 そもそもダメージカットの魔法障壁を張ってあげているので、すでにこの戦闘において、間接的に手を貸していることになる。


「 リディアさん、姫野さんは大丈夫そうだし、天野さんに加勢しますよ 」


「 御意 」


 私たちはそれぞれ左右の扉から車外に出た。


 殴りまくっている姫野さんに対し、銃口を向けているもう1人の覆面が、咄嗟の判断で私たちへと照準を変えた。


 その挙動を視界の端に捉えたが、私たちはお構いなしに天野さんが暴れている前方へと駆け出した。


光神剣(フォトンソード)


 空中に浮く光輝く剣を顕現させ、リディアさんの手元へ移動させた。

 しっかりと握ったのを確認してから、意思の力でコントロールを切断する。


「 できるだけ殺さないようにね 」


「 はい。お借り致します 」


聖なる水球(ホーリーウォーター)! 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 半グレ集団のリーダーである黒田は、この異常な事態に思考が追いついていなかった。


 すでに五発は撃ち込んでいるはずだった。にもかかわらず素手の男は一瞬たじろぐ程度で、すぐさま勢いを取り戻し、一人また一人と掴んでは投げる始末だった。


 まるで柔道技の練習台になっているかの如く、次々に投げられるメンバー。一歩後退した場で、この異常事態を放心状態で見つめていた。


「 そんなバカな! あれだけ撃たれてナゼ動けるんだ・・・しかもナイフも効いてねぇ! 頭に突き刺したんだぞ! あり得ねぇ! 」


 サブ武器として、サバイバルナイフを装備している者もいる。その者が思い切りナイフを頭部に振り下ろしたのに・・・

 素手の男は「 痛てえぇ! 」と叫んだだけで、すぐさま振り返り掴んで背負い投げをきめていた。


 黒田は、最近漫画で読んだ――人類の身体を乗っ取る謎の宇宙生命体を脳裏に浮かべ、眼前の男に重ねていた。

          ・

          ・

 黒田たち臨時で雇われた6名は、それぞれサイレンサー付きの拳銃を貸し出され、カートリッジも予備を持たされるという徹底ぶりだった。


 その過剰準備に「 どれほど危険な集団と()り合うハメになるんだ? 」と、打ち合わせの前は戦々恐々としていたものだが・・・


 事前説明通り、ターゲットは一車のみ、そして蓋を開けてみれば――ほぼ丸腰の男女4人のみということで、胸を撫でおろしていたのだ。


 こんな楽な仕事で、前金と合わせれば一人100万円という破格の報酬。死体も指定場所まで運ぶだけで、解体処理はしなくていいという好待遇だった。


 数分で終わる楽な仕事のはずだったのに――

          ・

          ・

「 なんだコイツ! 人間じゃあねぇ! 」


「 バケモンか! 」


「 バカ野郎! 撃て撃て! 」


 撃てという掛け声に触発されキチンと照準を合わせず撃ったせいか、ターゲットではなく、ついに仲間の胸に命中し、膝から崩れるように1人が倒れ込んだ。


「 どうやらお前らは、頭数で呼ばれただけの素人みたいなのぉ。こがぁなイモ引いとる連中に、ワシらが獲られるわけがないじゃろぉがぁ! 」


 ターゲットの男が凄んだ。そのまま1人の襟首を掴み背負い投げで地面に叩きつけた。


「 がはっ!! 」


 叩きつけられた仲間は受け身を取れなかった様子で、呼吸もままならないようだ。


 次の瞬間――

 黒田の眼前に、バカデカい水球が飛来した。


「 え? 」


 突然、頭部が冷たい感触に包まれた。何が起こったのか理解する間もなく、視界は歪んだ水のレンズ越しに変わり果てた。

 周囲の音は遠く、ぼんやりとしたものに変わり、呼吸は急速に困難になっていく。


 黒田は銃を投げ捨て、必死に手を伸ばし透明な壁を叩いたが、水球はビクともしなかった。

 恐怖が全身を駆け巡った。

 水の中から外を見ると、歪んで見え、光が揺らめき遠くの景色がボヤけていた。


 息が続かない。

 肺は酸素を求めて悲鳴を上げていたが、口を開けると冷水が一気に流れ込んできた。咳き込み藻掻いたが無駄だった。水が肺に入り込み、意識は次第に薄れていったのだった――


 最後に見たのは、歪んだ世界の中で揺れる――金色に光る得物(えもの)を振り回す女だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


          ▽


 地面には動けなくなった者たちが(うずくま)っていた。覆面から覗く目には恐怖と絶望が浮かび、私たちの姿を見上げることしかできないようだ。


 リディアさんは器用に足首だけを狙い、ほぼ全員がアキレス腱に大ダメージを負っていると思われる。


 1人に至っては、完全に片方の足首が切断され、悲鳴にもならないような擦り切れた声を――喉の奥から必死に発していた。


「 可哀想に・・・すっごい痛そうだわ 」


「 申し訳ありません。少し加減を誤ってしまい斬り落としてしまいました 」

 リディアさんが心底申し訳なさそうに頭を下げる。


「 いや大丈夫よ。死んでなきゃいいんだし、問題ないでしょ。ってか私が水球で窒息させた奴のほうがヤバイかもね。たぶん死んではないと思うけど 」


 こちら側の襲撃者たちは全員が戦意喪失し、武器を地面に手放して、未知の恐怖に震えあがっていた。


 後方の姫野さんを見やった――


 どうやら、あちら側も既に決着したようだ。

 2人の襲撃者が、地面に大の字で倒れ込んでいる。ヘッドライトに照らされ、その様子がよく見て取れた。覆面を剥ぎ取られた顔面は血だらけで、真っ赤に染まり溢れているようだった。


「 うわぁ・・・痛そう。あっちの2人は死んでるんじゃないのか・・・ 」


 すぐ傍に、肩で息を吐く姫野さんが立っていた。その姿はまるで、仁王様のような印象だった。

進次郎構文が面白すぎます。


「 雪が積もるって事は、雪が降っているって事なんですよ 」

「 日本では1分が過ぎている間にも、アフリカでは60秒が経過している 」

「 私の中で30年後を考えた時に、30年後の自分は何歳かなと震災直後から考えていました 」

「 辞任するとは言ったが、辞任するとは言ってない! 」

「 力をパワーに 」「 地元がホームタウンなんですよ 」

「 明日から三連休なんですね。つまり3日間の連休。これはすごいことですよ。私はセクシーに過ごしたい 」

「 初対面の時思ったんだ。まるで初めて会ったみたいだって 」


「 今のままではいけないと思っています。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている 」

「 くっきりした姿が見えているわけではないけど、朧気に浮かんできたんです。46という数字が 」

(⇧「NEWS23」のインタビューで、目標の数値を聞かれた際)


ヤベーよこの人! この人総理大臣になったら、マジで日本詰むんじゃないだろうか・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新して頂きありがとうございます。 圧倒的な勝利ですね。 銃弾も効かずほぼ素手で向かってくる存在なんて相手にとっては悪夢のようだったでしょうね。 無双ですね。痛てえぇで済むのが面白かっ…
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