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第173話 モンド寺院 その伍

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 光源を切り裂くように、巨大な翼を広げた異形の怪物が浮かんでいる。

 鋭い爪と青白い鱗に覆われたその体は、光を反射し、冷たい輝きを放つ。


 怪物の周囲には、まるで意志を持つかのように五本の魔法剣が突如顕現(けんげん)し、浮遊していた。

 剣は青白い光を放ち、静かに回転しながら怪物を守るように配置されているのだ。

 剣の刃先からは微かな魔力の火花が散り、空気を震わせていた。


 怪物の眼は輝き、リディアを見据えるように鋭く光っている。

 翼を一振りするたびに空気が唸りを上げ、周囲が揺れ動いているかのようだった。

 魔法剣は怪物の動きに合わせて微妙に位置を変え、まるで生きているように、怪物の意志に従っているようだ。


 まるで世界そのものがその存在を拒絶しているかのように、空気は重く冷たく感じられた。


 この魔法剣はただの武器ではない。それはこの怪物の魔力の象徴であり、その存在をさらに恐ろしいものにしていた。

 剣が放つ青白い光は、ただ冷たく輝いている。


「 ハルノ様がお使いになる光神剣のような魔法剣か? しかも五本・・・ 」


 大空を滑空するイメージを脳内で展開し、自分自身の操縦(かん)を握った。


 仕切り直しの戦端を自らが開き、突進する!


 五本の魔法剣が一斉に動き出し、縦横無尽にリディア目掛けて襲いかかる!


 第一の剣が左側から鋭く突き出され、リディアは素早く神剣を構えて受け止めた。金属がぶつかるような鋭音が響き渡る。


 続いて第二の剣が上空から急降下してくる。リディアは身を捻り魔法剣を避けるが、その直後に第三の剣が背後から迫った。

 リディアは素早く振り向き、神剣を振り上げて防御する。火花が散り、激しい衝撃が腕に伝わった。


 さらに第四の剣が右側から袈裟斬りで襲いかかる。その動きを見逃さず、リディアは身を捻じって魔法剣を避けた。魔法剣は頭上を通り過ぎ、勢い余って石床に突き刺さる。


 ――制御しているのは初動だけか?


 最後の剣が前方から一直線に飛んでくる!

 迎え撃つようにあえて前方へと飛翔し、剣を振り下ろして打ち据えた! 二つの剣が激しくぶつかり合い、再び火花が散る!


「 終わらせる! 」リディアは叫び、異形の怪物に向けさらに突進した。


 飛行機が飛行中に失速状態となり、機首を下にして前後軸を中心に回転しながら落下する――(きり)もみ状態のような飛行で一気に距離を縮める。


 まるで弾丸のように――面から一気に点となって怪物の眼前に迫る!


 怪物は「 斬られる! 」と瞬時に察した様子で、剛腕をクロスさせ盾とし防御態勢をとった――


 怪物のガードの上から一閃、神剣が閃光のように走った。


「 浅いかっ! 」リディアは心の中で舌打ちする――


 だがその衝撃で、怪物の巨体が後方へと吸い寄せられるように強制移動した。

 怪物は低く唸りながら、地下の天井に向かって勢いよく吹き飛ばされ、頭部を激しく打ちつけた。

 天井に響く鈍い音と共に、怪物の動きが止まった。

 さらにそこへ、振り抜いた神剣の軌跡から遅れるようにエネルギー体が発生し、自動追尾(ホーミング)して追加攻撃を加える!


 衝撃で地下全体が揺れ始め、天井からは小さな石や砂がぱらぱらと降り始めた。

 揺れは次第に激しさを増し、大きな石が崩れ落ちる音が響き渡る。


 リディアは素早く周囲を見渡し、崩れ落ちる巨石の先を確認する。

 埃が舞い上がり視界がぼやける・・・


「 ハルノ様! 」

 (あるじ)を危ぶみ、下方に向け叫んだ。


「 私は大丈夫よ! それより今のでこの地下ヤバくない? 脱出しよう! 地上に(おび)き出して龍さんにも参戦してもらえば余裕かもだし! 」


 どこまでも自分の心配をしてくれる我が主を想い、笑みが漏れる。


『 私にとってはリディアさんが何よりも大切なの 』という主の言葉が、頭の中で反芻(はんすう)されていた。

 その言葉は常に心に深く刻まれている。戦闘の混乱の中でも、その言葉が心を支えているのだ。


「 お待ちください! 今トドメを! 」


 矢弾のように滑空し、一気に距離を詰める!


 突進のパワーをそのまま斬撃に加え、先ほどと同じ一撃を繰り出そうとするも――すでに怪物の周囲に帰還した魔法剣たちに阻まれ、リディアは急制動をかけた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 まるで天使と悪魔の戦いだった。


 光と闇が織り成す壮大な戦場の一角で繰り広げられるであろう――大将同士の1VS1(サシ)の死闘。


 天使の翼は純白に輝き、悪魔の影は深い闇を引き連れている。

 単なる力の衝突ではなく、信念と意志のぶつかり合い。

 天使は希望と慈愛を象徴し、その一撃一撃が光となって闇を貫く。

 悪魔は絶望と憎悪を体現し、その爪は闇の刃となって光を切り裂く。

 ここから見上げていると、そんな幻想的な映画のワンシーンのような――不思議な感覚に陥る。


 ――リディアさん、翼を手に入れて当たり前のように飛んでるし・・・


 ――しかもっ! 結局、衝撃波(ソニックブーム)みたいな飛び道具も、当たり前のように出しとるやんか!


 アレは標準搭載なのか? それとも素体であるリディアさんあってこその強化なのか? 身に纏う者の個性や身体能力によって変わるのだろうか?


 一つ確実に言えることは、聖衣の効果は、対象を超人どころか――もはや神人に変身させる魔法なのだ。


 ――っつーか、リディアさんもなかなかだけど、あのモンスターは反則だろっ!


 どう見ても近接戦闘が得意な力でゴリ押しする風貌なのに、魔法剣を複数本出して――まさかミドル~アウトレンジ主体で戦うとは・・・


 そもそもこんなラスボス感まる出しのモンスターに、生身の人間が勝てるハズがない。


 魔法が効くならまだしも・・・


 ――アズールは、ここまでの化け物だと知っていてリディアさんに託したのか?

 すでに消滅して久しいので憶測の域を出ないが、多分こんな化け物に変身するとは知らなかったんじゃなかろうか・・・


 聖衣魔法が無かったら・・・という「 もしも 」を考えると身が震えた。


 ――これは素直にデュールさんに感謝だわ。


 そんな夢見心地で見上げている間にも、高速で戦闘が展開されていた。


 リディアさんは次々に射出される魔法剣をことごとく打ち据え、針の穴を通すように着実に、衝撃波(ソニックブーム)をその巨躯に叩き込んでいく。


 リディアさんの身体に、敵の魔法剣が掠ることはあったが、ほぼダメージは皆無っぽい。

 逆にリディアさんが要所で放つ衝撃波(ソニックブーム)は、敵の的がデカイことも手伝って、面白いようにヒットしていた。


 さらに魔法剣による三連撃を華麗に躱し、ここが勝機と一気に間合いを詰め懐に飛び込んだ。


 虚を突かれたモンスターのガラ空きになった胸板に、右袈裟斬りが深々と入る!

 そのままグリンと剣先を回し、リディアさんは飛翔しながら斬り上げた!


「 うおぉ、決まったⅤの字斬り! 」


 だが――斬り上げ飛翔したリディアさんの左足首が、ガッシリと掴まれる。


 モンスターがその恐ろしい力を誇示する。


 リディアさんが足首を掴まれて振り回され・・・まるで人形のように扱われている。リディアさんの鎧が光源を反射し、絶望的な表情が一瞬見えた。


 次の瞬間には地面に叩きつけられた。石床が揺れ砂埃が舞い上がり、私はその衝撃に驚愕する――


 ――ヤバイッ! 助けねば!


「 手の甲を狙え! 光神剣(フォトンソード)! 」


 現状、攻撃面で唯一使用できる魔法剣を飛ばす!

 (くう)を裂く閃光のように(はし)り、モンスターの左手甲に深々と突き刺さった!


 モンスターは唸りを上げながら、リディアさんの足首を手放す――


 一瞬の解放。

 リディアさんが自由を取り戻す。


「 貴公の闇を断ち斬る! 」リディアさんが叫ぶ。


 その瞬間、目の前に覆いかぶさるように立つ巨大なモンスターの胸板目掛け、全力で神剣を握り締め、下から突き上げるように剣を振るっていた。


 鋭い刃がモンスターの胸を貫き、即座に引き抜くと青黒い体液のようなモノが飛び散った。


 モンスターの咆哮が響き渡り、その巨体は崩れ落ちた――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 剣を握る手に伝わる震えが、確実に致命傷を与えたことを告げていた。


 怪物の巨大な体が揺らぎ、膝を突くと、その異形の姿がみるみるうちに変わり始めた。


 鋭い爪と青白い鱗に覆われた腕が人間の肌に戻り、次に恐ろしい顔面が徐々に穏やかな表情を取り戻していく。

 怪物の目に宿っていた狂気の光が消え、代わりに深い悲しみが浮かんだ。

 全身の力が抜け体が地面に崩れ落ちると、そこには騎士然とした姿があった――


 騎士は見るからに瀕死の状態で地面に横たわり、微かな息を繰り返していた。

 彼の目はかつての仲間を探すように彷徨い、最後の力を振り絞って口を開いた。


「 ・・・貴女が止めて・・・いや、終わらせて、くれたのか・・・ 」


「 ああ、貴公の友人に頼まれてな。なかなかに骨が折れたぞ 」

 リディアは横たわる騎士の傍に膝を突き返事をする。


「 そうか、なるほど・・・ 」

「 時を超えた勇者よ・・・その力と決意に、感謝する! 」


 その感謝の言葉を最後に、騎士の目は静かに閉じられた。


 彼の身体は鎧も含め魔力によって創られたモノだったのだろう。その魔力が急速に失われていく。

 肌は微かに光を放っていたが、次第にその輝きは失われ、砂のようにサラサラと崩れ始めた――


 身体の一部が舞い上がり消えていく。手は指先から崩れ落ち、腕は砂のように地面に散らばった。


 間もなく、彼の存在は完全にこの世から消え去った。一本の神剣を残して――

          ・

          ・

 地下大広間は、激闘の余韻に包まれていた。


 突然、天井から微かな音が聞こえた。


 一度衝撃を与えた直後から、常に小さな砂粒が舞い落ちてはいたが・・・


 次第にその音は大きくなり、石の破片が次々と崩れ落ちてきた。


「 リディアさん! 」我が主の声が響き渡る。


 リディアは疲れ切った体を引きずりながらも即座に反応する。

 天井の崩落は止まる気配を見せず、大きな石が轟音と共に地面に叩きつけられる。


 広間全体が揺れ、埃が舞い上がり視界が遮られる。


「 急いで!ここはもう持たない! 私の傍に! 」主が叫びながら駆け寄ってくる。


 次の瞬間、身体に纏っていた聖衣が剥がれ消え去る――


「 え!? ハルノ様! なに(ゆえ)! 」

 リディアは面喰った。

 超パワーを携えた状態で、我が主を抱えて脱出しようと意を決した矢先だったためだ。


 脱力感が甚だしい。

 無理もない。あれほどの神がかった力をお借りして絶え間なく動いていたのだ。

 解除した途端、その反動が襲ってくるのも予想の範囲内だった。


 だがリディアは力を振り絞り、崩壊する地下広間の中、主の下に向け鬼の形相で駆ける。


 背後では、巨大な石が次々と落ち、広間全体が崩れ去っていくのだった――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

つい最近、先っぽにポンポンが付いたモコモコ帽をもらいまして

それを被り「GO!皆川」のモノマネを全力でやってましたら、思いっきり背中を痛めてしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新して頂きありがとうございます。 遂に決着ですね。 戦闘描写迫力があって良かったです。 GO!皆川のモノマネは確かに背中を痛めそうな感じがします。 お大事になさってください。 次…
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