第168話 ヒーローは遅れて現れる!
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フラフラと突然入口から湧いて出てきた魔物2体に、軍兵たちは槍を構えて対峙していた。
「 違う! あれは死霊魔道士じゃない! 」カノン・ヘルベルが叫んだ。
「 それは確かか? カノンさん! 」剣を正眼に構えたまま、エリオンが即座に反応した。
「 ああ、よく考えてみろ、闇と孤独を好むと言われる死霊魔道士が、こんな陽光が降り注ぐ真っ昼間に外に出てくるか? 」
「 じゃ、じゃあアレは何だ? 封印されていた魔物なのか? 」
「 それも違う! 確かに俺たちには脅威的に映るが、ハルノ様があの魔物を脅威に感じるとは到底思えん。とにかく俺たちも加勢するぞ! 」
「 リアナさん! 付与を頼む! 」
カノンは、杖を抱え身構える癒し手のリアナに――強化魔法を依頼した。自分のパーティーメンバーには魔道士がいないので、別パーティーのリアナに頼むしかない。
「 は、はい! 炎属性しか付与できませんが、それでも良ければ! 」
「 頼む! 」
カノンからの依頼を聞き届け、リアナは慌てながら詠唱を開始する。
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「 炎属性付与! 」
青いプレートアーマーを纏い片手剣を扱うカノン・ヘルベル。
そのロングソードに、朱色の属性エネルギーが纏わりついた!
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魔法の属性とは――
炎属性(ファイアー)、熱の力であり、破壊の象徴。
水属性(ウォーター)、流れの力であり、癒しの象徴。
風属性(ウィンド)、移動の力であり、変化の象徴。
土属性(アース)、耐久の力であり、実りの象徴。
氷属性(アイス)、静寂の力であり、反射の象徴。
雷属性(ライトニング)、速さの力であり、啓示の象徴。
光属性(ライト)、真実の力であり、浄化の象徴。
闇属性(ダークネス)、潜在の力であり、隠蔽の象徴。
聖属性(ホーリー)、神聖の力であり、治癒の象徴。
邪属性(エビル)、腐敗の力であり、不浄の象徴。
無属性(ノンエレメント)、全ての力のバランスであり、調和の象徴。
の計11であり、一般的な属性に限ると6属性のみとなる。
それぞれの属性には相互に関係性がある。
たとえば炎属性の場合――
風と氷に対して強力に作用する。風は炎を増幅させ氷は炎で溶けるためだ。
しかし炎属性は水と土に弱い。水は炎を消し土は炎を覆い隠すことができるからだ。
さらに雷に関しては相互に無効という特性がある。
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リアナは――カノン、エリオン、そしてガレスの武器に炎属性を付与した。
もし魔力量がもっと豊富であれば、カノンのパーティーメンバー全員に付与できるのだが、残念ながらそれは不可能だ。彼女は自分のパーティーメンバーを優先した。カノンはその事を理解しており、不満を表に出すことはなかった。
アンデッドの魔物が2体、今まさに対峙する兵士四人に襲い掛かろうとしていた。
魔物の外見は死の使者を思わせるほどに不気味で、黒く長いローブがその体を覆っていた。その下からは白い骨が露わになり、陽の光を浴びて輝いているかのようだった。腕は異様に長く、触れるもの全てを冷たく包み込むように伸びていた。
骸骨の顔には一つの巨大な眼球が中央に据えられており、その冷たい視線は周囲の全てを捉えて離さなかった。
さらに、アンデッドの魔物はそれぞれ――闇属性と思われるエレメンタルを使役しているようだった。
エレメンタルは闇そのものを形にしたような存在で、漆黒の大きな水晶のような外見をしていた。その表面はほとんど光を反射しない。魔物の傍らでフワフワと静かに漂っていた。
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廃墟と化した寺院の入口前で、ハンターたちと軍兵たちは死をもたらす魔物との戦いに身を投じていた。兵士たちは堅牢な陣形を組み、鋭い眼差しで魔物の一挙手一投足を見守っている。彼らの鎧は太陽の光を反射し、眩いばかりの輝きを放っている。
カノンとエリオンは魔物の後方から駆け寄り、奇襲を仕掛けた。
手にしたロングソードを風のように振るい、魔物の黒い衣類部分を何度も切り裂き、本体の骨部分にも何度かヒットした手応えを感じた。その刃からは強い決意が感じられる。
ガレスは両手剣を高く掲げ、魔物に向かって力強い一撃を下ろす。
しかしその剛撃は虚しく、魔物は上手く躱したのか――身体にはダイレクトに響いていないように見受けられた。
癒し手のリアナは、傷ついた仲間に癒しの光を送るためにスタンバイしている。
弓使いのコーセーも、援護のために――いつでも矢を射ることができる姿勢を保っていた。彼女の射撃は正確無比で定評があった。
ウレックは手斧を激しく振り回し、魔物の周囲を舞う闇エレメンタルを次々と打ち払う。ノックバックには成功していたが、やはり効果的なダメージは入っていないようだった。
デュランもまたロングソードを操り、魔物に対する猛攻を加えた。彼の剣技はまるで舞踏のように流麗でありながら、その一撃一撃には重みがあった。
魔物2体の敵対心が、軍兵たちから――カノンたちに移ったようだ。
2体の魔物の巨大な眼球が冷たく光り、その視線は彼らを捉えた。
突如、ハンターたちは身体が鉛のように重くなるのを感じた。
自分たちの身体に、まるで見えない鎖が纏わり付き、地面に引きずり込まれるかのような感覚を覚えた。
一歩一歩が億劫になっていく・・・
「 うぅ、【重力束縛の眼光】ってやつか? 」カノンが呻いた。
「 くっ、思うように動けない。マズイぞ 」エリオンも息を切らしながら呻いた。通常なら軽々と振るえるはずの剣が、今はまるで剣の形をした岩のように感じられた。
後方では癒し手のリアナが詠唱しようとしたが、唇さえも重く、言葉は震える息となって空中に消えていく。抵抗に失敗し、モロに影響を受けているのかもしれない。彼女の杖は地に落ち、持ち上げることすらできなかった。
「 これは・・・全身が重い 」ウレックが苦しげに呟いた。彼の軽やかな動きは影を潜め、まるで泥沼にはまったかのように足は動かない。
立ちはだかる魔物2体は、その大きな瞳から冷たい光を放ち続けていた。その視線はハンターたちを地に縛り付け、動きを奪っていた。まるで時間さえも遅くなったかのような錯覚に陥る。
カノンたちと軍兵で、一応挟み撃ちの形にはなっているが――
軍兵四人の槍に対しては、闇エレメンタル2体が対応しており、軍兵の援護は期待できない。
ハンターたち全員の表情に、落胆と諦観が入り混じる。
援護に入ったつもりが途端に窮地に陥り、逆に軍兵の援護を期待しているとは――
――ヤバイ! 何割かは抵抗できている感覚はあるが、どれくらい効果が持続するのか未知だ・・・
カノンは焦燥しながらも、眼前に迫る一つ目の骸骨アンデッドたちを見据えた。
瞳から放たれる光から不思議と目が離せない・・・
骸骨アンデッド2体が、黒いローブの裾を地面に引き摺りながら、ゆっくりとにじり寄ってくる。
――くそっ! 攻撃魔法がくる!
片方の骸骨アンデッドが右手をかざした。
標的になっているであろうカノンは、左手に持つカイトシールドを何とか頭の位置にまで上げるだけで精一杯だった。
しかし、標的は自分ではなかったと気付く――
鋭く太い槍のような形状で、斜め上方向に急速に盛り上がった土が、リアナの胴を容赦なく貫いた!
「 ガハアァッ!! 」背中からは土槍の先端が飛び出し、大量の血液がその小さな口から吐き出された。
「 リアナァーーー!! 」エリオンの心は一瞬にして混沌とした暗闇に飲み込まれた。土槍がリアナの胴を貫いた瞬間、エリオンの叫び声は周囲の空気を震わせ、カノンたちもその場に凍りついた。
貫かれ直立のままのリアナの目は徐々に光を失い、彼女の生命がこの世を去るのを、周囲の者はただ無力に見守るしかなかった・・・
緩慢な動きで魔物に背を向け、リアナに近寄ろうとするエリオン――、奇跡の霊薬を飲ませようとしているのだろうか? だが、誰の目から見ても即死だ。もう飲み干す力すら無いだろう。
「 おいこっちだ! 俺を狙え骨野郎! 」カノンが盾の縁を剣の柄で激しく叩きながら叫んだ。
カノンは自分にヘイトを集めたかったのだろうが、それも虚しく――もう片方の骸骨アンデッドも片手をかざしつつ、カノンたちの隊列の後方を見据えているようだった。
そして次の瞬間――、今度は弓使いのコーセーに対し土槍が襲い掛かった!
リアナとは違い、視線技を何割か抵抗することに成功しているコーセーは、身を翻し間一髪で避けることに成功した。
だが、右の太ももあたりを掠ったらしく――鮮血が滴っていた。
「 み、皆! 距離を取れ! 」カノンが誰にともなく、恐々とした声音で叫ぶ。
「 野郎! 後衛から潰すつもりか! 」
ウレックがそう叫びながら手斧を一つ投擲し、片方のアンデッドに直撃させた。だが、効果的なダメージは与えていないように見えた。
「 脳みそが無い骨のくせに、まず後衛から狙ったってわけか・・・厄介だな 」
デュランも後退しながら反応した。視界の端には、天幕で待機していたのであろう騎士団の者たちが駆け寄ってくるのが見えた――
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私たちは龍の背中にしっかりと身を任せていた。まるで生きているジェットコースターのようだ。
眼前には果てしなく続く青空が広がっている。
時間との戦いだ・・・私の心臓は、龍さんの翼の打つリズムに合わせて高鳴っている。
「 速く! もっと速く! 」心の叫びがつい口を衝いて出てしまう。
もはや一刻の猶予も許されない。龍さんも私の焦りを感じ取っているのか、彼の翼はいつもより力強く空を切り裂いている。
リディアさんは荷物を確認しながらも、私の不安を察してくれている。彼女は私を勇気づけるように微笑み、龍の背中で手を握ってくれている。
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風が強く吹き付ける中、目的地に向けて飛び続ける。
龍さんの背中は安全だ。龍さんの頭部が風除けになり、向かい風からも守ってくれている。
しかし今は、ジェットコースター並みのスリルを楽しむ時間はない。私たちの使命は、この龍さんの速さにかかっている。
遠くの地平線を見つめる。目的地はまだ見えないが、龍さんは私たちの思いを背負い、風を切って前進する。何としても間に合わせなければならない――
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「 しかしナゼ――残り時間が減っていたのでしょうか? 」リディアさんが不意に疑問を口に出した。
「 多分だけど――龍さんの呪いの痛みを四六時中緩和していたから、かも? 」
「 なるほど。そちらに何らかのエネルギーが注がれたのですね 」リディアさんは即座に納得の表情を見せた。
「 すまん・・・我が、迷惑を、かけたようだな 」龍さんがちょっとだけ頭部をくねらせ、ウィン大陸語で発声した。
「 いや違うよ! 龍さんは何も気にする必要はないよ。想像力が働いていなかった私の落ち度でしょう。もっと言えば、面倒な事を後回しにしていた私の所為だよ。ってか急いで! 」
▽
私たちが廃寺院の上空に到着したのは、お昼をかなり回った時間帯だった。
太陽は高く輝いており、森は生命の息吹で満ちているようだった。
しかし、その光と緑の中にある廃墟の寺院前広場では、まさに戦いが繰り広げられている真っ最中だった。
魔物っぽい2体と、これまた2体の黒いクリスタルのようなモンスターが、兵士たちとの間で激しい戦闘を展開していた。
日差しは容赦なく照りつけ、兵士たちの血が地面に滴っているように見えた。
魔物たちが蠢き、クリスタルのようなモンスターが放つ黒い魔法は、日光に照らされながらもその存在を主張していた。
騎士団っぽい人たちもいる。太陽の下で輝く鎧を身にまとい、不屈の意志で前線を支えている。
しかし、彼らの中には既に数名倒れている者もいる。
魔物たちは日の光をも恐れておらず、黒いクリスタルモンスターも、明るい光の中で周囲の自然を歪め、不気味な魔法を放ち続けている。
「 龍さん、急降下! 」
「 承知した 」
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風が激しく吹き、私の髪を乱暴に払いのける。目を細め、下界の廃寺院へと急降下する龍さんの背中にしっかりと身を任せた。空気が唸りを上げ、耳をつんざくような音が煩い。龍さんの背中は安定していたが、急速に近づく地面に心臓が高鳴る!
龍さんは翼を折りたたみながら急降下を続ける。一瞬、重力を忘れるほどの速さで落ちたのだった。
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広場は混沌としていた。剣が空を斬る音、戦士たちの叫び声、そして敵の魔法による閃光が交錯する。
龍さんはその中心に向かって一直線に降り立った。
その場にいた者たちの中には私たちの到着を感じ取り、戦いの手を止めている者もいた。
龍さんが地面に足をつけた瞬間、私は飛び降りた。戦いの渦中に身を投じる覚悟を決めて・・・
私はすでに光神剣を顕現した状態で地面に降り立ち――、愕然とする。
見覚えのある青い鎧を纏った戦士が、一心不乱に剣を振り回していた。
その近くではまるで彫刻のような状態で――女性が串刺しのまま立っていた・・・
大地から突き出た土の槍に胴を貫かれ、その場に静かに佇む。
彼女の瞳は遠く空虚なものとなり、生気は影を潜めている。その顔には最後の瞬間の驚愕が凍りついており、口はわずかに開かれ、未だに何かを訴えかけるかのようだった。
土槍によって不意に切り裂かれたその傷口からは、もはや血の一滴も流れ出ず、すべてが終わった静寂がそこにあった。
彼女の周囲には戦いの痕跡が散乱し、その中で彼女だけが――まるで時間が止まったかのように動かない。先端は彼女の背後からも突き出ている。槍の表面には細かな土粒子がまだくっついており、それが唯一彼女が最後に抗った証のようだった。
彼女の足元には――槍が地面を突き破った際に飛び散った土が小さな山を成しており、その静けさが、今なお続く激しい戦いとは対照的な光景を作り出していた。
彼女は、もはや戦うことも魔法を唱えることもない。ただ彼女の存在そのものが、魔法戦の残酷さを物語っていたのだった――
いまさらながら、自分の小説をサイト内で検索してみました。
「 とある惑星で 」で検索すると22もヒットし、逆に後半の「 神様の使徒始めました 」で検索すると、私の作品以外はゼロでした。
んで「 もしかしてこれ作者名でも検索できんのかな? 」と思い、「 まるねこ 」で検索すると、36もヒットしまして愕然としました。同じペンネームの人多すぎやんかー! と・・・
なので、まったく被らないペンネームに変更しようかと思案中です。




