第15話 毒薬を求めて
ハンター組合本部に到着した。
カインズさんの商会が、仕事で使用しているらしい荷馬車で移動してきたのだが、ハンター組合の建物付近は馬車などの乗り入れが禁止されているらしく――、かなり離れた場所に駐車し歩いてきた。
重く頑丈な木製の扉を開ける。
三階建ての建物なのだが、吹き抜け構造になっておりかなり開放感のある造りとなっていた。
見渡すと、どうやら左半分はBARのようなお店が併設されている。
BARというより、PUBと言った方がいいのだろうか?
予想に反して人は少なく閑散としていた。
人は少ないものの、その誰もが頑強な防具や立派な武器を装備していた。
全員ハンターなのだろうか?
「 依頼を出したいのだが―― 」
「 依頼内容は・・・本日これから集まり次第、最長でも夜中までの護衛任務だ。護衛対象は我々三名とここには居ないが御者の一名。募集人数は三~五名を希望する。行動範囲は王都街南門エリアのみ。急ぎなのでな、報酬ははずませてもらう。一人につき大銀貨五枚だ。勿論交渉は可で出してくれ 」
「 畏まりました。依頼手数料、銀貨三枚を頂きます 」
受付嬢が言い終わるよりも早く、カインズさんが懐から銀貨を取り出し、カウンターの上に静かに置いた。
「 確かに――、では依頼書が完成次第すぐに貼りだしますね 」
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受付嬢はカインズさんが出した条件などの依頼内容を、手慣れた様子で素早く書き記していた。
ものの五分もかかっていない。
受付嬢は完成した羊皮紙を手にカウンターを出て行き、壁に設置された大きな木枠に向かった。
貼っている最中から、何名かのハンターらしき人たちが集まってきていた。
▽
私たちは本日中の依頼ということで、待合室でお茶を啜っていた。
もちろん有料だったが、代金はカインズさん持ちだ。
「 そういえば――、まだ報酬の話をしていませんでしたな 」
「 え? さっき大銀貨で五枚って仰ってませんでした? 」
「 ああ、いえ、ハンターたちにではなくハルノ様とマリア殿にです 」
「 え? 私たちに? 」
「 ええ――、正直、伝説の蘇生魔法となると・・・一体いくらお支払いすればいいのか見当がつきませんが 」
カノン・ヘルベルさんたちのお願いを聞く形でカインズさんに接触したので、報酬を別途もらうなんてことは念頭になかった。
「 う~ん、今のこの状況はカノンさんたちと知り合った結果であって、別に報酬を頂こうとか考えてもいませんでしたが・・・それにまだ結果も出てないわけでして 」
しかし報酬をもらうにしても、貨幣価値がよく解っていない私が対応してはマズいだろう。
ここはマリアさんにお任せするしかない。
「 まぁ、私はよく解らないので・・・そのあたりはマリアさんに全て丸投げします 」
「 え? ええ? わたしにですか? 」
予期せぬ申し出に、マリアさんが面喰っていた。
「 無論全て終わってからになりますが、金銭的な報酬とは別に、ハルノ様は何か欲している物とかはないのですか? 」
「 う~ん、そうですね。ああ、ちょっと言いにくいんですけど――、いや、やっぱ恥ずかしいのでいいです・・・ 」
「 ・・・そういう風に申されますと何だか気になりますなぁ。とにかくできるだけご要望にはお応えしたいのです 」
▽
ノックも無しに待合室の扉が開く。
組合職員らしき女性に引率されて、四名のハンターたちが入室してきた。
開口一番、戦士風の男性が承諾の意を示した。
「 依頼をお受けしたい! 」
「 おお、こんなにも早く決まるとは! 」
カインズさんは少々驚いた様子だ。
いつもならもっと時間が掛かるのだろうか?
「 たった数時だけの護衛任務で大銀貨五枚ですからね! そりゃ誰でも飛びつきますよ! 」
狩人っぽい別の男性が喜色を隠さず叫んだ。
「 確かに報酬は破格だが・・・その分危険なのでは? 俺はその辺りの説明をちゃんと聞いてから最終判断させて頂きたい! 」
棍棒を装備した僧侶っぽい男性が進言した。
即座にカインズさんが返答する――
「 ああ勿論だ。あくまでもわたしの予想だが・・・危険はほぼ無いと思っている。だが万が一という事もあるのでな、念のため防衛面を固めたいのだ 」
「 なるほど。大商会のカインズ殿が依頼主となると、積荷も含めた護衛ってとこですかね? 」
最後に質問してきたのは四人目の剣士だった。
「 いや護衛対象はこちらの御二人だ。御二人の安全が最優先。わたしと御者の優先度は最下位でかまわん。荷馬車も守る必要はない。そもそも積荷は無いしな 」
「 ・・・なるほど、何か特殊な事情が御有りなようですね。念のため最終確認ですが、報酬は一人につき大銀貨五枚ですよね? 」
「 そうだ。全員で五枚ではない。一人五枚だ。もちろん前金で支払ってもかまわない 」
「 委細承知いたしました。俺はお受けします! 」
剣士風の男性が意思表示をし――、他三人も続いて同意した。
▽
「 もう日が暮れそうですけど、お店閉まらないのかな? 」
「 閉まっていても無理やり開けさせますよ 」
当初私が王都を来訪した際、最初に潜った南門エリアに来ていた。
護衛のハンターたちはハンター組合本部近くの馬車屋さんで借りた馬に乗り、護衛任務に就いている。
もちろん馬のレンタル費用はカインズさん持ちだ。
▽
「 確か・・・この辺りだな。よし停車だ! ハンターたちにも伝えてくれ! 」
カインズさんは御者の方に指示を出し、荷馬車を停車させた。
路地裏のかなり入り組んだ場所で、荷馬車の幅ギリギリの道だった。
小窓から外を覗くと、こじんまりとした二階建ての商店が視界に入ってきた。
「 では御二人はここでお待ちください。周囲はハンターたちに警戒させますので、もし万が一不測の事態になれば、わたしのことは気にせず逃げてください 」
「 え? ここで待つんですか? 御一人で大丈夫ですか? 」
「 はい・・・相手に警戒されては元も子もないですからな。では行ってまいります 」
▽
ハンターたちの会話が、ダダ洩れで聞こえてくる――
「 おいおい・・・優先順位は最下位でかまわないと言われたが、一人で行かせていいのか? ここって噂のアノ店だろ? 俺たち全員ほんとにここで警戒するだけでいいのか? 」
「 依頼者からの指示は絶対だ。俺たちハンターは妙な詮索なんぞせずに、お嬢さん二人を全力で守ればいいんだよ 」
狩人が至極当然の疑問を口にしたが、間髪入れずリーダー格の戦士が窘めていた。
どうやらこの四人は元々同じパーティーというわけではないらしく、おいしい報酬に釣られて集まった即席パーティーのようだった。
▽
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一方
~薬屋店内~
「 おお! 誰かと思えばカインズ商会の・・・本日は何かご入用ですかな? 」
最奥に座る髭を蓄えた初老男性が、入店してきたカインズを視認するや否や声をかけてきた。
「 わたしも有名になったものだな。単刀直入に聞くのだが――、ノロキジンを配合した睡眠薬はあるかね? 」
髭の男性は一瞬だけ逡巡した様子だったが、ナゼか一つ深く溜息をつくと、まだ距離の離れているカインズを手招きで呼ぶ仕草を見せた。
「 カインズ殿・・・声が大きい。店内に誰も居ないとはいえ、もう少し半身の構えに徹した方がいいですぞ 」
「 これは失礼・・・で、有りますかね? 」
「 ・・・もしソレを入手したとして、何をなさるおつもりかね? 」
「 何だと? 用途まで伝えねば売ってはくださらんか? 」
カインズはあえて苛立ちを前面に出し、相手の様子を窺った。
「 ・・・こちらも単刀直入にお伺いするが、あなたは手練れのハンターのみならず、騎士団や宮廷にも太いパイプがあると聞く。まさかうちの店の良からぬ噂を聞き内偵の為に訪れた――、というわけではあるまいな? 」
「 まさか――、まぁ疑念を払拭する為にも求める理由を包み隠さず話すとしようか 」
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