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第143話 月下の攻防

「 今までシュナイダーが、私兵とも言える手下をどうやって囲っているのか不思議で仕方がなかったが、パトロンがいたとはな。しかもその後ろ楯が伯爵様とは・・・ 」


 ルグリードさんはその事実に驚きつつも――納得の表情を見せていた。


「 しかし弓を向けてしまってすまなかった。一瞬ハルノ殿たちが、警護を任されたヤツの仲間に見えてな。捕らえて情報を吐かせようと思ったんだが 」

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 私たちは、標的の館から少し離れた所にある――明らかに空き家と判断できる家屋内に侵入し、お互いの状況確認をしているところだ。


 空き家内には私とミラさんとルグリードさん。


 ルグリードさんの相棒――槍使いアンディスさんは、リディアさんと一緒に外部で周囲を警戒してもらっている。ちなみに、二人には暗視ゴーグルを渡し装備してもらっている。


「 人を探して最終的に辿り着いたって言ってましたけど――、次はルグリードさんの番ですよ 」


「 ああ、分かった。そもそも俺たちは、シュナイダーの一派には近づかないように意識していたんだ。シュナイダーと事を構えた奴は、もれなく悲惨な結末を迎えているからだ 」

「 情けない話だが、見かけただけでその場から逃げていた。今となっては、もっと注意深く視ておくべきだったのかもな。そうすれば――ヤツの剣の刻印にも気づけたかもしれん 」

「 とにかく、今はこっちから近づく理由が発生したんだ 」


「 もしかして――、あなたたちの仲間に被害が出たってことです? 」


「 ああ、妹のように目をかけていた薬屋の娘がいたんだが、数日前から突然行方知れずになったんだ。非公式ではあるが、その薬屋の主人からの依頼を受け捜索を進めた結果、あの館に行き着いたってわけだ。確証はまだ無いが、目撃した者の証言からシュナイダーが関わっているのはまず間違いない 」


 ルグリードさんの眼には、怒りと焦りの色が宿っているかのようだった。


「 なるほど―― 」


「 しかし村人を皆殺しにしたのが真実なら許される所業ではない! さらにハルノ殿やミラ殿を抹殺しようとするとは! ここまで非道なヤツらだったとは・・・だがそれも納得だ。伯爵が後ろについているなら、たとえ下級貴族を殺したとしても誰も手は出せんだろうしな 」

「 ヤツらがデカい面してたのは腕に自信があるからだと思い込んでいたが、結局は伯爵の威光だったってわけだ。滑稽なヤツらだぜ 」


 ルグリードさんは鼻を鳴らして嘲笑していた。


「 ハルさんがいらっしゃる限り、威光を笠に着て好き勝手できるのも今夜が最後となるだろう 」


 黙って聞いていたミラさんが静かに呟く――


「 あぁ、そう願うぜ。もしあの子が酷い目に遭わされていたら――俺は理性を失ってしまうかもしれない 」


「 さて、虎の威を借る狐を狩りに行くとしますか―― 」

 私は腰を上げながら出撃を促した。


「 ははっ。伯爵が虎でヤツらが狐ってことか・・・言い得て妙だな 」

「 俺たち冒険者は己の旗を己で振るから意味があるんだ。他人の旗を振ったってそこに意味なんてねぇ! 」


「 お~、良いこと言いますねぇ。とにかく共同戦線と行きましょう! 相手が誰だろうと、私たちは私たちの旗を振るまでのこと! 」


「 ああ、ハルノ殿のような特別な魔道士が味方になってくれるとはな! 俺たちにとっては幸運なことだぜ 」


「 あ~それから、もう敵ではないって確信したのでお伝えしますが、シュナイダーの手下どもの大半はすでに処刑済みです。あとはシュナイダーとエドに集中しましょう 」


「 なんだとっ!? そ、そうか――あんたたちは相当ワケありのようだな 」

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          ・

 家屋内に呼んだアンディスさん、そしてルグリードさんに女神の盾(魔法障壁)をかけていると――


「 ハルノ様! 」


 突然――見張りをしていたリディアさんが叫んだ。

 朽ちかけて半壊している木窓の隙間からリディアさんの背中が見える。


 私たちはすぐに駆け出し、外部へと勢いよく飛び出した。


「 どうしました? 」


「 鳥類が1羽――、先ほどから上空を旋回しています! エドが使役する魔獣の可能性があると考えお呼びしました 」


 月夜を見上げるリディアさんの視線を追いかける。

 月は白く輝いている。地上に静かな光が降り注いでいた。


 クルクルクルクルという鳴き声がする。

 それは猛禽類のような鳥の声だった。私は目を凝らして空を探す――

 すると月の前に影が見えた。間違いない。猛禽類のような鳥だ。その鳥は月の光を浴び、羽を広げて飛んでいた。


 確かに何らかの意思を感じる。ずっと旋回しながら、クルクルクルクルと鳴いているようだ。


 全員が上空を見上げていると――カシャカシャと金属が擦れる音が微かに聞こえた。


「 なんだ? 」

 今度は全員が音のする闇夜に視線を向ける。


 ドスドスと地を踏み鳴らす音と共に、月の光を反射して鋭く輝く――胴部分と脚部分だけにプレートアーマーを装着した、二メートル以上はありそうな熊が現れた。


「 うおおっ! ヤバい! 熊やんか! グリズリーってやつか? 家屋がほとんど無いとはいえ、こんな居住区に・・・ 」


 人の手には負えない獰猛な野生生物――

 だが、意外と可愛いらしい顔立ちな気がする。


 そしてある程度の距離を保ちナゼだか立ち止まり、低く姿勢をとって臨戦態勢に移行したようだった。


「 やる気満々って感じだわね。しかもすぐに襲い掛かってこないところを見ると、状況判断もある程度できるのかもしれない。これはもう疑う余地がないわね。エドが放った魔獣ってやつでしょ? 鎧着てるし・・・ 」


「 その可能性が高いですね 」

 リディアさんが即座に同意しながら日本刀を静かに抜いていた。

 ミラさんも自慢の宝剣を構える。


「 お、おい、ハルノ殿! あんたの精霊召喚で対応するんだ! こんなのとマトモにぶつかってタダで済むとは思えん! 」

「 ああ、甘えるようで情けないがそれが得策だ 」

 ルグリードさんとアンディスさんは武器を構えてはいるものの――腰が引けているようだ。


「 ああ、実は召喚は別の場所で使ってて、今は喚びだせないんですよね 」


「 え? 別の場所って・・・い、いや、ではどうする? 作戦を立ててる暇はなさそうだぜ! ハルノ殿がかけてくれた魔法障壁があるとはいえ、マトモにぶつかるのはやはり危険だ! 」


 ルグリードさんがショートソードを正眼に構えながら、ジリジリと後ずさりをしていた。

 アンディスさんも槍を突き出してはいるが、握りしめた両手が小刻みに震えているように見えた。


「 いや、大丈夫ですよ。私にとってはただの可愛い熊なので。ただこの熊に罪はあるのかな? 殺してもいいんだろうか? 」


「 何を悠長なことを! ()らなければ殺られるだけだぜ! 」


「 確かになぁ・・・どうせ人を殺すこと前提で調教されてるんだろうしなぁ。可哀そうだけど仕方ないか・・・ 」


「 よし! みんな下がってて! 」

 気合を入れ、叫ぶと同時に果敢に【鎧クマ】へと突っ込む!


「 お、おい!! 」


 唐突な私の疾走に驚いたのか――ルグリードさんは叫んでいた。

【鎧クマ】もそれが合図かの如く、唸りをあげながら突進を始める!


 巨大な熊が、鋭い爪と牙を剥き出しにして迫りくる!


聖なる雷雨(ホーリーレイン)! 」


 清々しいほどに解りやすいネーミングの魔法を唱える!


 私に肉薄する【鎧クマ】の頭上が激しく光り、突然稲妻が走る!


 次の瞬間――無数の細かい雷の雨が惜しげもなく熊に降り注いだ。


 ほぼ全ての雷が熊の体を貫き、感電した熊は激しく痙攣しながらぶっ倒れた!

          ・

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 倒れた熊の全身からは煙が湧き出し、口からも煙を吐いていた。


「 あ、あんた、属性魔法も使えたのか? それにしてもこの威力は・・・ 」

 唖然としたルグリードさんが、絞り出すように呟いていた。


「 無益な殺生はしたくなかったんですけどねぇ。というか、もしエドの使役する魔獣じゃなくただのモンスターだったらちょっと可哀そう・・・できるだけ苦しまないように絶命する魔法を選んだけど 」


「 夜間とはいえ、このような場所に野良モンスターは出没しないだろう・・・ 」

 アンディスさんがすかさずツッコんでいた。

          ・

          ・

 月が雲に隠れ暗闇に包まれた――


 上空を見上げ未だに旋回している猛禽類を凝視していると、暗視ゴーグルを装着したアンディスさんが突然口を開いた。


「 なんだ? 凄いスピードで何者かこちらへ駆けてくるぞ! むっ? あれは人がマウントしているのか? 」


 アンディスさんが首を伸ばしている方向に目を凝らした。


 タッタッタッタ――と、地を蹴る乾いた音が聞こえ徐々に大きくなっていく。


 ――次に現れたのは、大型の狼のような獣に騎乗したエド本人だった。


「 なっ! なんだとっ、貴様は! 」

 私たちに気づいたエドが急制動をかけた。


「 これは!? グ、グース! やられたのか! 」

 グウゥゥゥと唸る下の狼とは対照的に、上に乗るエドは驚愕の表情のまま目を白黒させていた。


 ――しかしこれはヤバい! 屋外で出会ったのはマズイ。ここで逃げられると面倒なことになる。まさかこんな形で対面するとは・・・


「 おい、お前! エドだっけ? よくもやってくれたわね! 地の底に突き落とされた恨みを返しに来たわ! 私が直々にサシで相手になってあげるわ! かかって来なさいっ! 」


「 貴様は魔道士ハルノ! なぜだ? どうやって? 這い上がって来たのか? こんな短期間で・・・ 」


「 そんなことはどうでもいいっ! 私が相手してやるからかかって来い! 1対1の勝負だ! まさか女からの果し合いの申し入れに、ビビってるわけじゃないでしょうね? 」


 ――とりあえずブチギレてるフリをして戦闘に持ち込む!


「 クソが! その手には乗るか! 認めたくはないがグースを倒している時点で、お前たちの戦闘力は桁外れだ。俺は愚者ではない! 」

 そう言い放ち、エドが身をかがめ狼の耳元で何やら囁いていた。

 そしてすぐさま狼がグルリと反転し、反対方向へと駆け出した!


「 くそっ! マズイ! 」

 時空操作(タイムコントロール)の射程ギリギリだ・・・発動するまでにインターバルがある以上、唱えたところでもはや手遅れ。移動速度が違い過ぎて、発動前に射程の外に出てしまう可能性大だ!


「 みんな! 追いかけるよ! 」


 無駄な足掻きだとは思いながらも――走って追いかける以外の選択肢はなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 最近は熊のニュースが多いので、熊の魔獣はタイムリーですね。 漫画もクマ撃ちの女というのをちょこちょこ読んでいます。 事故後の御身体の具合はいかがでしょうか。…
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