第141話 拷問官
~シュナイダーたちの拠点・館2F~
~アルトを仕留める2時間ほど前~
暁の軍隊を突撃させ、一階でくつろいでいた男たちを拘束することに成功し、二階の比較的大きな部屋に集めている。
ステンレス製結束バンドで手首足首を縛り上げ、猿ぐつわをかませて、力の限り締め上げている。
ちなみに、抵抗の激しかった一人はリディアさんが殺害したので、生きている者は残り五人だ。
一人だけ殺害したのはイレギュラーだが、個人的には都合がいい。
「 ぐうぅぅぅううう! 」「 ふぐうううぅぅぅ! 」
などと呻き声をあげながら、まだ五人のうち二人はジタバタとしていた。まるで水揚げされた直後の、船の甲板で跳ねるエビみたいだ。
「 大人しくしろ! さもなくばそいつのように刺し殺すぞ? 」
極めて冷徹な眼差しのまま、リディアさんが吐き捨てるように言い放った。
腰をくねらせ暴れていた男が、ピタリと静止する――
「 え~、静かになったところでちょっと傾聴していただきたい。突然ですが、実は私デュール様の御使いなんですよ! まぁ、いくら口で言っても信じてもらえないのは嫌というほど経験済なんでね、いきなりその証拠をお見せします 」
「 蘇生! 」
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生き返った一人は、いまだ微睡んでいるような様子だったが、他の五人はまるで時が止まったかのように微動だにせず目を見開いていた。
「 どうです? 信じましたか? 私はデュール様から蘇生の秘術を行使することを許されている――唯一の陸人なんです 」
放心状態でリアクションは無いが、ちゃんと聞いていると判断しさらに続けた。
「 で――デュール様の配下が何をしに来たのか? って疑問にお答えします 」
「 ズバリ! 裁くためにこの館に赴いたのです。様々な状況証拠を照らし合わせた結果、シュナイダーという魔道士を中心としたこの館を拠点とする者たちが、フロト村を襲撃し――村人を虐殺したという結論に到達したのです 」
「 ですが――実は私の早とちりで、実はあなた方が犯人などではなく冤罪という可能性も勿論あります。なのでまずはそのあたりを調べるために、申し訳ないけどあなたたちを一方的に拘束したのです 」
「 ここまではいいです? 聞いてますか? 」
六人のうち二人が、頭を縦に振り返事をした。
「 よろしい! では――あなたたちが実行犯ですか? 正直に答えて罪を認めれば、命だけは助けてあげます。これから猿ぐつわを外します。くれぐれも大声は出さないようにお願いしますね? もし大声を出したり魔法詠唱を始めた瞬間、こちらの我が護衛剣士が即座に喉笛を切り裂きますからね 」
リディアさんが日本刀をうやうやしく持ち上げ、少しだけ鞘から抜き刃を見せた。
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「 改めて聞きます――あなたたちが実行犯ですか? 」
「 ・・・・・ 」
全員目が泳ぎまくっているが、誰も口を開こうとはしていなかった。
が――
「 お、おれたちじゃない! そんな村は知らない! おれたちはそんな虐殺なんてしていない! 」
全員ダンマリを貫くのかと思いきや、一人が焦ったように発言した。
「 ふむ。では私の早とちりってわけですか・・・ 」
「 そ、そうだ! いくらデュール様の眷属だからといって、無実の罪で裁く権利なんて無いだろう! 」
「 確かにおっしゃる通り! では先に、もしあなたたちが虚偽の申告をしていた場合どうなるか、デュール様から下賜された魔道具を使い――用意したモノで説明させていただきます 」
「 私専属の拷問官が、今まで罪人に対し行ってきた拷問の数々をお見せしましょう。これを見れば素直に口を割った方が賢いことだと気付くと思います 」
「 ご、拷問官・・・ 」
芋虫のように転がっている男たちの一人が、ゴクリと喉を鳴らし呟いていた。
「 バルモアッ! 」
呼び捨てにするのは気が引けたが、ここはキャラを作って叫ばせてもらった。
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人を裁くなんて概念自体が傲慢なのかもしれないが・・・
だが――私たちがやらねば誰がやるのか? って話だ。
では、裁く上で最もやってはならないのは――ズバリ冤罪なのに刑を執行してしまうという事だろう。
日本でも過去――冤罪なのに命を奪われた人々が数多く存在する。警察機関の捜査ミスを含めた、くだらないプライドの犠牲になった人もいれば、単純に真犯人や第三者にハメられた人もいるだろう。
当たり前だが、こちらの世界には防犯カメラもなければ音声録音も無い。なので自白させるしかない。そしてソレは強制であってはならない。基本的には誘導もダメだ。あくまで自発的に自白させるのが望ましい。だがソレは至難の業だろう。
罪を告白すれば刑が執行されるというシステムを解っていながら、みずからトリガーを引く自白という行為をする奴はなかなかいないだろう。
なのでできるだけ強制はダメだが、あるていどの「 脅し 」はやはり必要なのだ。
誠実さこそ最もダメージの少ない正解の道だと思い込ませるのだ。
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家具と家具の間からズルリと這い出てきた黒い塊。
バルモアさんが、手に握る数枚のカラーコピーをミラさんに手渡している。
A3サイズのカラーコピー用紙が十二枚。それをミラさんが重ならないように床に並べる。
その十二枚の紙には、作り物だと頭では分かっていても――目を背けたくなる衝撃的なシーンの数々が連続で写っている。
芋虫たち六人も、光源魔法で照らされ床に整然と並べられた紙に目を奪われていた。
「 では説明いたしましょう! この紙にしたためてある絵は、我が専属の拷問官バルモアが、ここ最近――罪人に対し執行した拷問の様子です。デュール様から貸与された魔道具によって、この紙にその時の様子を念写して残したモノです 」
「 まずこちらが、対象を台座に縛り付けて固定し、下腹部にハサミで小さな穴を開け、そこから腸をひとつまみ取り出し、鉄の円柱に絡ませグルグルと円柱を回し徐々に巻き付けていき、長い腸を体外へとドンドン出していく――という恐ろしい拷問です 」
自分で言ってて気分が悪くなるが、できるだけ明るく快活に説明を進める。
どの画像も光輪会の伊藤さんに依頼して作ってもらったモノだ。どれも映画のワンシーンの切り抜きで、パソコンからプリンターへ高解像度出力したモノだ。
「 そしてこちらの拷問が――「 21の痛み 」という拷問です。手と足の指合わせて20本を切断し、最後に男性性器を切断するという拷問です! 」
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映画のワンシーンの――作り物だと理解している私でさえも、これほどまでに吐き気を催す画像だ。
こちらの世界の人類が、こんな鮮明な画像を見せられたら、そしてデュールさんが関わっていると理解したら――まず作り物だとは考えないだろう。
演劇は理解できても、映画という概念は無いし、パソコンやプリンターなんぞ想像すらできないはずだ。
どこからどう見ても、本当に拷問されて無残な最期を遂げている人々にしか映らないと思う。
「 どうです? 気持ちは変わりませんか? 虚偽やダンマリでも別に構いませんが、実は「 とある方法 」で、あなたたちが嘘をついているかどうか判別できるんですよね。もし虚偽だと判明すれば、これら拷問のフルコースを受けていただく事になると思います。本当にいいんですか? 今ならまだ少なくともこの拷問の数々は回避できるのですよ? 」
「 逆に――本当にあなたたちが無実なら、多額の賠償金をお支払いする事をお約束します。全てはその「 とある方法 」でハッキリするのでね 」
努めて――本当にあなたたちの為を想って言ってるんだ。という体で囁く。
「 ああ、それからもう一つ! あるていど頭の回る人ならお察しだとは思いますが、拷問は一度ではありませんよ? 私が治癒魔法をかけて治し、何度でも繰り返し拷問を受けてもらいます。必要なら蘇生してでも何度も何度も、地獄の苦痛を味わうことになります。そのうち、「 お願いだから殺してくれ 」と懇願するまでね 」
「 うわぁぁああ! い、嫌だぁー!! 助けてくれえええ!! 絶対にいやだぁぁぁあああ!! 」
「 助けてえええ! 誰か助けてえええぇぇぇ!! 」
「 お、お願いします! 話します! 全部話します! だから拷問だけはぁぁあああ! 」
突然堰を切ったように発狂する六人・・・
ハッタリも織り交ぜた私の「 脅し 」は、これ以上ない効果を発揮したようだった。
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「 あんたの推理通り、じ、実行犯は俺たちだ・・・シュナイダーがサリエリ伯爵から受けた仕事だ! 俺たちは仕方なく従っただけだ! 本当はあんな仕事はしたくなかった! だが逆らえばシュナイダーに半殺しにされる! あいつに意見できるのはエドだけだ! 俺たちは命令を聞いただけなんだ 」
「 その通りだ! 俺も命令に従ったまでだ! 罰は受ける! だからお願いだ、拷問だけは、拷問だけは勘弁してくれ! お願いします! 」
やはり予想通り冤罪などではなかった――と、私は胸を撫でおろした。
そして、これで死刑が確定した。
「 光神剣! 」
斬ッ!!
斬ッ!!
男の首が二つ・・・ゴロゴロと床に転がり、切断面からはまるで噴水のように鮮血が迸り、残った首から下がグッタリと横倒しになった。
一瞬、室内の時が止まる。
「 えっ?! 」
「 な、な、なんでぇ! 正直に話せば命だけは助けるって! 助けるって言ったじゃあないかぁ!! 」
顔を真っ赤にし、血管を膨らませながら、男がすかさず抗議していた。
「 そんな都合のいい話が本当にあると思っているのか? 欠片の罪もない村人を一方的に殺しておいて、お前らの要望だけが通ると本気で思っていたのか? ・・・私が裁判官で、我が護衛たちが陪審員であり死刑執行人だ! 」
「 続けて死刑を執行する! 陪審員たちよ! 異議を唱える者はいるか? 」
「 いえ、異議はありません! 」
「 異議なし! 」
「 ヒヒッ! ございませんな! 」
「 残りのお前らも満場一致で確定だ! せめてもの慈悲だ、できるだけ一撃で殺してやる! 」
残りの死刑囚をそれぞれ一人ずつ手にかけ、部屋は血の海と化していったのだった。




