第138話 新たな仲間
リディアさんとミラさんを迎えに行くため、マリアさんが管理する交換所へ向かった。
石畳の道を歩く。道の両側には、果物や野菜、肉などを売る屋台がぽつぽつと並んでいた。
帝国の侵攻を食い止め、迎撃戦に勝利したことにより、街の人々の顔には明るさが溢れていた。
先ほどの少年と母親のような境遇にある者は、比較的少数ではあるだろう。
大雑把にいえば、戦死者のうち蘇生成功者が九割。残り一割は効果がなかった。もしくは遺体の状況を見、私が諦めざるを得なかった者たちだ。
――全員を救うなんてやはり無理だった。
九割を救った自分を誇るよりも、一割を救えなかった自分を責めてしまう。これは、私の生まれ持った気質だろう。
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すれ違う誰もが私に気づき、感謝を述べつつ跪く――
私は愛想笑いを返しながらも、先ほどの少年の、心からの叫びが脳内で反芻していた。
テクテクと歩いていると、比較的大きな石造りの家屋が右手に見えてきた。その家屋の傍、無造作に置いてある三つの大樽に何気なく視線を向けたが、思わず二度見してしまった。
――ん? なんだ? 影が濃くないか?
んん? 三つの樽の影が妙に濃い。
不用意に近づくと突然――、真っ黒なその影が上空に飛び上がった!
「 うおおっ!! 」
飛び上がってストンと着地したその黒い塊は、頭を垂れ平伏した姿勢を取っていた。
「 やっとお会いできましたな。使徒様 」
「 うおっ! まさかバルモアさんですか?! ど、どういうことなの? なんでこんな所にいんのよ! 」
「 ヒヒッ! 少々驚かせてしまいましたな。バルドルフ様からの命で、使徒様の護衛をせよとの下知でございます 」
ビックリし過ぎて動悸が激しくなっていた。
ひれ伏している黒い塊は、以前戦った西洋風忍者で、妖異人という種族のバルモアさんだった。ちなみに、名付け親は主君のバルドルフ皇子らしい。
「 はぁ? バルドルフ皇子は? 一緒じゃないんです? 」
「 はい。バルドルフ様は皇帝陛下に拝謁する為、ユリアーネ様と共に帝都にお戻りになられております 」
「 え? でもバルモアさんって、皇子様の側近中の側近だったんじゃないの? なんで? 」
「 ヒヒッ! バルドルフ様の崇高なお考えまでは、下賤の身では推し量ることはできませぬ故―― 」
「 いやいや護衛って! ちなみに私が断ったらどーなるの? 」
「 それは弱りましたな・・・その場合、無理やりにでも使徒様の後をついていく形になるやもしれませぬ。ヒヒヒッ 」
「 えー! 」
――これはアレか? ライベルクの国王陛下が、リディアさんを私の護衛として即時任命したのと同じ意図か?
強者のバルモアさんがもし我々に同行するならば、戦力的には嬉しい誤算ではあるが。
だがこのまま同行を許すと、一応秘匿している私の世界間転移能力をバラさなければならない。
世界間転移をせず、この世界内だけの移動だと、何日かかるかわかったもんじゃないし・・・
――う~む、今さらか?
今後は手を取り合い、共に繁栄しようと約束する予定の国家同士。
相手に全幅の信頼を寄せることなしに国交を開こう――、なんて矛盾している。
ずっと小競り合いを続けてきた国同士なら尚のこと、お互いが胸襟を開かないとダメだろう。
「 う~む。まぁ一応了解しました。ただ、実は近いうちに別の国に移動して、半ば戦争を吹っ掛ける事態になるやもしれません。それでも同行するとおっしゃいますか? 」
「 ヒヒヒッ! いやはや! これはこれは! 戦争行為を否定なさる使徒様からそのような言葉が飛び出そうとは! なかなかに興味深い! 」
「 あ~、たまたま最終的な敵が「 とある国の君主 」の可能性があるってだけの話で、別に戦争を望んでいるわけじゃあないんですけどね・・・ 」
「 ヒヒヒッ! 使徒様の御心のままに―― 」
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交換所へ二人を迎えにきた私に――すぐに気づいたリディアさんが店外に出て駆けてきた。
だが、私の後ろに佇む真っ黒い人物に目を奪われた様子で――絶句したまま立ち止まる。
「 ハルノ様! その御仁は・・・バルモア殿ではありませんか!? 」
「 ええ、そうなんです。さっきそこでバッタリ会っちゃって 」
「 ええっ? バ、バッタリって――そんな! 」
慌てた様子のミラさんとマリアさんも――続いて表に出てきた。
「 あ~、マリアさん毎日ありがとうね。随分と忙しくなってるみたいですね。なかなか手伝えないけどホントごめん 」
「 何を仰いますか! ハルノ様が民の為に隙あらば霊薬を御創りになられているからこそ、全てにおいて好循環となっているのです。一同その好循環に携わることができて、心の底から喜びを感じておりますし、日々邁進することができているのです。お礼を申し上げるのは我々の方でございます 」
「 う~む、そう言ってもらえると脳死状態で霊薬を製作してる甲斐があるわ 」
「 ハルノ様! もしかしてバルモア殿も連れて行かれるのですか? 」
未だ激しい衝撃を受けたままのリディアさんだった。
「 ええ、とりあえず今日はこっちでしっかり寝て、明朝準備が出来次第向こうに飛びましょう。バルモアさんに説明する時間も十分に確保したいしね 」
「 か、畏まりました―― 」
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~翌日、周防大島~
~午前8時19分~
私たちは世界間転移し、周防大島の平屋に帰ってきた。
こちらに転移したのは――私とリディアさん、ミラさんとバルモアさんだけだ。
戦士のユリウスさんと考古学者のルイさんには、ライベルク騎士団の宿舎に寝泊まりしてもらう手筈を整え、しばらくライベルク観光を満喫してもらうこととなった。
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私の指示に従い、志村さんもマツさんもすでに準備を完璧に整え、いつでも出発できる状態で待機してくれていたようだ。
「 あ~、マツさん! お茶とかはいいよ。この用意してくれてる飲み物を車内で頂くわ 」
「 はい! すぐに出発します? 」
「 ええ、申し訳ないけど、志村さん運転お願いしますね 」
「 了解っす! 」
バルモアさんには懇切丁寧な説明を行った。
バルモアさんにとっては異世界となるわけだが――、この現代日本の田舎を体験しても、特に驚きの声は漏らしてはいなかった。というか無言のままだ。
仮面を装着しているので表情は全く見えない。実際はその仮面の下で、驚愕の表情を晒しているかもしれないが――
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私たちはLLサイズのミニバンに大荷物を積み込み――共に乗り込んだ。
「 では出発します 」
私からの【女神の盾】付与を受け取ったことを確認し、志村さんがアクセルを踏み込んだ。
目的地は光輪会本部がある福岡県の遠賀郡岡垣町だ。
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しかし人族以外の種族が、こちらの地球へ転移したのは世界初ではなかろうか?
バルモアさんの素肌に関しては治療の際に腕を拝見しただけだが、失礼ながら――とてもじゃないが人間の肌とは似ても似つかない肌だった。何というか、タコとかイカとか――そのあたりの軟体生物の質感と酷似していたのだ。
もしバルモアさんがこの黒装束を脱ぎ捨て、仮面も剥ぎ取り衆目に晒された場合――、一体どうなるだろうか? UMAだったか? 未確認生物として世紀の大発見となり、世間を騒がせることになるのだろうか?
UMAで世界的に一番有名なのは――老若男女問わず、まず間違いなくネッシーやビッグフットだろう。そういった未確認生物、もっと言えば宇宙人的なヤツとか、小さなおじさんとか、妖精とかツチノコとか・・・たとえば、もしネッシーがでっち上げではなく実在していたとしたら・・・
もしかして、バルモアさんが世界初ではないのか?
ネッシーやビッグフットなども、遥か昔から転移してこっちに来ているだけだとしたら?
実在しているにもかかわらず、ネス湖をいくら捜索しても、結局発見には至らなかった要因は?
ツチノコを捕まえて容器に閉じ込めていたのに、気付いた時には忽然と姿を消していた――という報告が数件上がっている要因は?
ただ単純に時間切れで強制転移し、元の世界に戻ってるだけなんじゃないのか?
落ち着き払ったバルモアさんを横目で観察していると、ふと、そんな妄想が膨らんでしまったのだった。
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「 バルモアさん。もし気分悪いとか体調悪くなったりしたら遠慮なく言ってね 」
「 はい――、お心遣い痛み入ります。ですがそのような事態にはならぬかと 」
「 そ、そうですか。ミラさんも遠慮なく言ってね 」
「 は、はい! 」
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~約四時間後~
~福岡県遠賀郡岡垣町、光輪会~
山間部にポツンと佇む光輪会の建屋。敷地内の駐車場に進入すると、すぐに複数人が建物から飛び出して駆け寄ってきた。
責任者の高岡未佳さんと、他四人の信者だった。
スライドドアを開けると――五人ともすでに腰を曲げて出迎えてくれた。
「 高岡さん。バタバタとさせてしまってごめんなさいね 」
「 とんでもないです! 春乃さんの御力になれる事にこの上ない幸せを感じますよ! 」
「 お願いした物は用意できました? 」
「 はい! 準備完了です! 」
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事務室に入るなり目に飛び込んできたのは、テーブルの上に散らばった防犯グッズの数々だった。
スタンガン、催涙スプレー、防刃ベストなどが、まるで武器庫のように並んでいた。
私は少々驚きながらも、その中からスタンガンを一つ手に取った。クルクルと両手の中で回しながら確認すると、充電式っぽいスタンガンだった。その形はマニアが喜びそうな――重厚なハンドガンそのものだった。
私は思わず引き金を引いてしまい、バチバチと派手な音が鳴り響いた瞬間、青白い火花が飛び散った!
「 うおおっ! こわっ! 」
スタンガンなどの購入を担当した伊藤さんが、簡単な説明を始めた。
先端の電極部を、直接対象の身体に強く押し付けて放電させるわけだ。
約170グラムの充電式。専用のカートリッジに変換すれば、アルカリ9Ⅴ電池(2本)も装填できる仕様らしい。もちろん電池も十分な数を購入済だった。
そして、なんと満タン充電で約500回もの使用が可能とか!
勝手な想像ではあるのだが、こういった物ってせいぜい10~20回くらいしか使えないと思い込んでいたので、正直かなり驚いた。
催涙スプレーに関しては、もはや説明を受ける必要もない。
対象の顔に吹き付けると、あまりの激痛で目が開けられず、さらに顔面全体の激痛で完全に行動不能に陥るといった絶大な効果を発揮する。しかも、その効果が最低でも1時間に渡り持続するそうな。ちなみに後遺症などの心配は全くないらしい。
「 ミラさんそしてバルモアさん。この道具をそれぞれ装備してください。使い方はこれから説明します。リディアさんも刀の立ち回りで支障が出ないようなら持っててほしい 」
「 畏まりました―― 」
備えあれば患いなし――ってやつだ。
魔法や剣術だけに頼らず、使えるものは何でも使う!
普段の動きが制限されるなら問題だが、スタンガン一つと催涙スプレーくらいの携帯なら問題ないだろう。
「 ああ、説明は後回しで先にお昼ごはんにしますか! 」
掛け時計に目をやると、時刻は正午をかなり過ぎていた。
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昼食の後、駐車場から転移で一往復し、キャンピングカーを光輪会に戻しておいた。
そーいえば、グリム原野に放置している改造軽自動車は今頃どうなっているだろう?
砂煙を浴びまくり大変な事になっていそうだ。さらに野良モンスターなどが体当たりを繰り返し、車体がボコボコになってたりして・・・
――回収はいつできるだろうか? バッテリーが上がっている可能性も高い。一か月くらいは何とか持つのだろうか? 最悪自走が不可能でも、掌で触れただけで転移に巻き込むことはできるので、そこまで心配はしていないが――
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防犯グッズの各種説明を終え、次にスマフォで馬車の中から撮影した【シュナイダーたち三人+ユリウスさん VS 大鬼】の戦闘シーン画像を、光輪会のパソコンへと転送した。
後々話のタネにでもしようと思い、軽い気持ちで数枚だけ撮っていたのだが、まさかこのような使い方になるとは・・・
パソコンからプリンターに出力し、シュナイダーたちをドアップにしたモノを紙としてバルモアさんに提出したのだ。
「 バルモアさん。あなた隠密行動が得意って言ってたよね? 諜報活動も得意だと 」
「 ヒヒッ、いかにも! その通りでございます。幾ばくかの隙間さえあれば、この身を折りたたんで潜伏できます故―― 」
「 そ、そうですか・・・凄いですね 」
「 ヒヒヒッ 」
「 で、では日が落ちたらフロト村近辺の座標に転移します。私たち三人はフロト村で待機しますが、バルモアさんは私が召喚した精霊を伴い王都ルベナスまで夜間飛行し、そのまま王都に潜伏。それで、手渡したその手配書の三人を捜してもらえませんか? 基本、居所などを調査するだけで結構です。仲間が大勢いるかもしれないので、できれば縦と横の繋がりも調べてほしいです。もし気づかれたりヤバいと思ったら――即時撤退でお願いしたいですが宜しい? 」
「 御意にございます。早速――隠密働きを披露する機会をお与え下さるとは、腕が鳴りますなぁ~。ヒヒッ! 」
私としてはバルモアさんが加わってくれたのは頼もしい限りだが、そのあまりの不気味さに、高岡さんたちとミラさんはかなりのドン引きを見せていたのだった。




