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第133話 謀略

 遺跡の入り口にたどり着いた。


 そこにはかつてのエレシア王国の栄光を象徴するような、巨大な扉がひっそりと佇んでいた。


 扉は所々鉄でできているのか、錆びついている。扉にはエレシア王国の紋章っぽいものが刻まれていたが、その中央には穴が開いており、強引に破られたようだった。


 私たちは扉を押し開け、内部へと侵入した――


          ▽


 そこには広大な空間が広がっていた。


 空間の中央には王宮が建っており、その周囲には無数の通路や部屋が連なっているようだ。

 王宮は黒い石で造られており、高さは十数メートルもあった。


 王宮の正面には幾重にも階段が続き、その頂上にはかつて――王国の旗が掲げられていたのだろう。

 ボロボロになった旗が風もないのにヒラヒラと揺れている、そんな幻覚を見る感覚に囚われたのだった。


 王宮の窓や扉はすべて閉ざされており、中からは何も聞こえない。

 私たちは王宮に近づくことはせず、地下通路へと繋がる石段へと進んだ。


          ▽


「 踏破している地下五階層までは寄り道しない。あるていどの測量をしながら――地図を製作するのは地下六階層からだ。ルイさんは地図製作に集中してくれ 」


「 はい 」


「 ルイさん以外の全員は、常にルイさんを護衛するような陣形で進むこととする――ハルノ殿のパーティーは後方を常に警戒してくれ 」


「 了解しました 」


 リーダーシップを発揮し、テキパキとシュナイダーさんが指示を出してくれた。


 何とも小気味よい理想のリーダー像だった。

          ・

          ・

          ・

 石の階段は狭くて急で、勿論手すりなんてあるわけない。


 私が光源魔法を発動させるという提案を――ナゼだか断ったアルトさんとエドさん。

 二人が持つ松明にマッチで火を点け、彼らが先頭を進み、その後ろを私たちが一歩一歩慎重に降りていく。


 松明二本のみの光源だが意外にも結構明るく、思っていたよりも視界は良好だった。

 念のためLEDランタンを腰に装備しておく。ちなみに説明の難しいモノは、全て魔道具ということにして誤魔化している。


 階段の下には広い通路があり、その両側には多くの扉が並んでいた。扉の上には何やら文字や記号が書かれているようだが――その意味は勿論解らない。


 通路を進みながら、扉の中に何があるのかを想像した。

 おそらく王国の財宝や武器、装飾品などが隠されていたのだろう。しかしそれらは二百年かけて、既に盗掘によって奪われてしまったのかもしれない。あるいは、罠やモンスターが待ち構えているのかもしれない。


 私は好奇心と恐怖とで揺れ動きながら、皆と一緒に通路の奥を目指した。


          ▽


          ▽


          ▽


 何事もなく目的の地下六階層まで辿り着いた。


 ここまでで、既に三時間半が経過している。

 私だけはストップウォッチを使い正確に時間を計っている。


「 ハルノ殿。昨夜の話だが――、考えてくれたか? 」


「 ああ、【遮断の指輪】のことですか? 」


「 ああ、そうだ 」


 なにやら必死に羊皮紙に書き込んでいるルイさんを尻目に、シュナイダーさんが私が装備している指輪について言及した。


「 あ~、すみません。やっぱりこれは売れないです・・・すみません 」


「 そうか・・・残念だ。何度も聞いて悪かったな 」


「 いえ、すみません。その代わりマッチ箱やライター、それから缶詰とかは――ここから出た後で良ければですけど、追加でいくつか売ってもいいんですが 」


「 グウゥゥゥ! ワウゥゥゥ! 」


 エドさんの相棒の狼っぽい獣が、通路先の闇へ向かっていきなり唸り始めた。


 エドさんが通路の先へと目を凝らす――


「 モンスターか? 」シュナイダーさんが冷静に問う。


「 ああ、多分な―― 」

          ・

          ・

 通路の先から、ゥアアアァァァアア・・・という不気味な声が聞こえる。喉の奥から絞り出すような声だった。


 闇の中から、白い歯と赤い眼が光る人型の怪物が飛び出してきた!


屍鬼(グール)だ! 」

 エドさんが叫ぶ!


 腐った肉の臭いと血の匂いが鼻腔を刺激する。


 人肉を食べることしか考えていないような個体だった。


「 3体!! 」


 屍鬼(グール)3体が私たちに肉薄する。


「 ここはわたくしに任せてもらおう! アルト殿とエド殿は松明の火を護ってくれ! 」


 そう叫び、リディアさんが抜刀した状態で縫うように前線に飛び出した。


 鍔は口元に位置し、しっかりと両手で握っている。

 上段の構えと中段の構えの丁度中間に構える、所謂(いわゆる)八相の構えというやつだろう。攻守にバランスの良さそうな構えだ。


 腐臭を放つ屍鬼(グール)の身体は、所々骨が剥き出しになっていた。


 リディアさんをその赤い眼球で捉え――攻撃対象だと即時に判断した様子で、間髪入れず飛び掛かってくる!


 リディアさんは少しだけ前屈みになり地を蹴った――


 屍鬼(グール)3体の間々を、右に左にと刀を振りながら――高速で縫うように駆け抜けた。


 あっと言う間の斬撃だった。まるで流水のようだ。


 リディアさんが駆け抜けた後、一刀両断された屍鬼(グール)たちが無残に転がっていた。


 それでも顔色一つ変えないリディアさんは、刀をブンッと一振りし鞘に収め、私の下へと戻ってきた。


「 凄い・・・リディアさん、いつの間にそんな技を習得したのよ 」


「 以前、移動中に「 ねっとのどうが 」で学習させていただきました! 実戦では初披露となりましたが! 」


「 な、なるほど・・・ 」

 ――ネットの動画って・・・単純に時代劇の殺陣(たて)シーンなんじゃないのか?


          ▽


 さらに進むと広大な部屋に辿り着いた。

 石造りの壁と床で囲まれており、ココがやはり地下であることを感じさせた。


 アルトさんとエドさんが別方向へと進み、石壁の窪みにそれぞれ松明を設置していた。

          ・

          ・

 部屋の広さは想像を超えていた。

 奥行きは何十メートルもあるように見える。天井も見上げるほどに高かった。


 こちら側の隅には巨大な柱が立ち、その間には鉄格子が張られていた。


 部屋の中央には、石で組まれた直径十メートルほどの円形のモニュメントがあった。

 モニュメントの上には何かの文字や模様が刻まれていたが、勿論私には読めない。


「 おおおっ! この部屋はっ! 何かあるぞ! 必ず何かある! 設計者の意志を感じるっ! 」

 ルイさんは目を爛々と輝かせ、ハイテンションとなっていた。


「 実はこの部屋は初めてではないんだ。この部屋には仕掛けがあってな。先に進むための特殊な仕掛けがあるんだ 」

 シュナイダーさんが壁沿いに進みながら、大声で伝える。


「 おおおっ! 素晴らしい! その仕掛けとは? どんなモノなんです? 」

 ルイさんは、はしゃぐ子供のようだった。


「 俺がこの人数を集めた理由がこの部屋にある。一定の重量を感知すると、この先の扉が開く仕掛けなんだ。つまりこの壁沿いのモニュメントの上に約四人分の重量。中央のモニュメントの上に約五人分の重量が必要になる。もちろん同時に乗る必要もあるんだ 」


「 おおおっ! 凄い! 」


「 俺とアルトとエドがこちらに乗る。他の者は中央に乗ってくれ。調整のため、俺が最後に乗るからな 」

          ・

          ・

 シュナイダーさんから指示を受け、それぞれ5:3( +1匹 )に分かれた。


「 配置に付いたか? 」


「 はい。こっちは全員円の内側に乗ってます! 」

 私が代表して答える。


「 ・・・拘束し、輪姦(まわ)したあとに拷問して目的を吐かせ――戦利品を全て手に入れて始末する流れが最良だったが。リスクは最小にしたかったのでな。致し方あるまい・・・疑わしきは始末するに限るのでな! 」

 シュナイダーさんが壁沿いのモニュメントに脚を掛けて乗りながら、意味不明なことを口走っていた。


 ――刹那!


「 うっ? うおおおぉぉぉ!! 」


「 うあああぁぁぁ!! 」


「 なっ! なんだとぉぉぉ!! 」


「 えええええー--! 」


「 ハ、ハルノ様ぁ!! 」


 中央円形の床が突然ガクンと左右に開き、私たち五人は深い空洞へと飲み込まれるように落ちていった!

          ・

          ・

 一瞬にして暗闇に飲み込まれた。


 空気が切れるほどのスピードで下降する感覚に、恐怖と絶望を禁じ得ない。


 誰かが必死に手を伸ばしたが、他の誰かの手を掴むことはできなかった。互いに見えないまま落ち続ける――


 果てしなく続くようなこの落下は、いつ終わるのだろうか・・・

 意外にも冷静さを取り戻した私は、そう思いながら底知れぬ闇に向かって落ちていく。


 だが――、この長い落下時間のお陰で思考が生まれる!


聖なる光球(ホーリーライト)! 」


聖なる水球(ホーリーウォーター)! 」


 眩い光源が空洞内部を照らし、巨大な水球を顕現させる!


 そして意思の力で、膜で保護された巨大な水球の形を変形させていく――


 私と共に落下する水球はゆっくりと回転し形を変え始める。まるでお餅を押しつぶすように平たくなっていく。


 やがて水球は薄く伸ばされ、巨大なウォーターベッドのような姿になった。


「 皆! 衝撃に備えて! 魔法障壁の効果だけでは不安なので、この平たくした水球をクッションにするよ!! 」皆の耳に届くかは謎だが、力の限り叫んだ。


 ドウッ! ドウッ! ドドウッ! ドッ!


「 うおおぉぉ! 」


「 うあぁ! 」


「 ぐはあっ! 何だか前にも同じような目に遭ったような・・・ううっ、み、皆大丈夫? 」


 私は着地と同時に周囲を見回した。


 ユリウスさんの大剣やリディアさんの日本刀、手荷物が散乱している。


 ルイさん以外は、全員立ち上がる素振りを見せていた。


「 ルイさん! 大丈夫? 」


 私が近寄る前に、ユリウスさんが即座に駆け寄り様子を窺っていた――


「 たぶん大丈夫だ。気を失っているだけだろう。しかしあんたの魔法障壁はスゲーな・・・まさか無傷とは 」


「 良かった・・・リディアさんもリサさんも大丈夫? 」


「 はい! 問題ございません! 」


「 大丈夫です! 」


 二人とも引き攣った笑顔を交え、快活な返事だった。

          ・

          ・

「 何なの? このふざけた展開は・・・シュナイダーさんが何か言ってたけど全く意味が理解できないんですけど! 何これ? ちょっと混乱してるわ。もしかして故意に落とされたの? 」


「 あくまでも俺の勝手な推測だが、狙いはあんたらだろう。あんたらの命だろうな。俺たち二人は利用され巻き添えを喰らっただけだろうな。一体どうすればいい? こんな遥か地底で終わりを迎えるのか? 俺の命運もここで潰えるのか・・・ 」

 ルイさんを介抱していたユリウスさんが立ち上がり、唐突にそう呟いた。


「 狙いは私たちの命? どういうことです? 」


「 いやなに・・・あんたらは馬車の中でずっと寝てたから――違和感を感じることはなかったのだろうが、少なくとも同じ天幕で寝起きしてた俺はずっと違和感を感じていた。特に大鬼(オーガ)を討伐した直後からだ 」


「 違和感? 」


「 ああ、あいつら三人は、ハルノさん――あんたの魔法障壁にずっと驚愕していた様子だった。一見褒め称えている風に見せてはいたが、かなり焦っている様子が多分に見受けられた。特にあの弓使いの野郎は顕著だったな 」


「 私の――女神の盾のこと? 」


「 そうだ。あんたは無詠唱で全員に付与していただろう? 無詠唱の技能を持っているだけでもズバ抜けた魔道士という証になるが・・・それに加え、あんたの魔法威力は規格外だ 」


「 んん? どゆこと? 」

「 とにかく時間は無駄にたっぷりありそうなので、ちゃんと聞こうじゃないの 」

          ・

          ・

 気を失って水球ベッドの上で横になっているルイさんをよそに、私たちは岩盤の上に座りこんだ。


「 猿に木登りを教えるようで気が引けるが、つまり無詠唱で発動した魔法は、本来その威力がかなり低くなるはずだろ? だがあんたの魔法障壁は大鬼(オーガ)の渾身の一撃すらものともしなかった。つまりこれが示す事実は――あんた自身の魔力量がとんでもねぇって証だ。あいつら三人は即座にソレに気付いたんだよ 」


「 う~ん・・・いや、ソレが私たちの命を狙うことと何の関係が? 」


「 いや、あんたらを狙う理由までは知らんが・・・何らかの理由があって、始めからあんたらを始末するために――この遺跡調査の依頼が組まれていたんだろう。俺が推理(すいり)してんのは、ナゼここに落としたのかって事に対する理由についてのみだ 」


「 ごめんユリウスさん。全然わかんない・・・わかるように順を追ってちゃんと説明して! 」


「 ああ、もう一度言うが、これは俺の勝手な推測だからな。あいつら三人は多分――初日の真夜中にでもあんたらの寝首を掻くつもりだったんだろう。だが、規格外な魔法障壁の効果のせいでソレが実現不可能になった 」


「 なるほど。確かに一撃では致命傷を与えられないものね 」

 リサさん(ミラさん)が口を挿む――


「 ああ、それにあんたのその魔道具(マジックアイテム)だ。【遮断の指輪】だっけか? そのアイテムのせいで完璧に魔力が隠蔽され、あんたの魔道士としての底がまるで見えない 」


大鬼(オーガ)戦で、あんたらを参戦させれば良かったと後悔してたかもなぁ。結果的にあんたらの真の実力を見る――最初で最後のチャンスだったのにな。まぁ~あの時点ではその日の夜中に殺すつもりだったんだろうから、単純に大鬼(オーガ)を殺る最も確実な戦法を優先しただけなんだろうがな 」


「 とにかく、大鬼(オーガ)戦後あいつらは相当焦ってたはずだ。寝込みを襲うのも失敗する確率が高い。ましてやまともに戦っても勝てる相手じゃないかもしれない――と、リディアさんに対しても警戒してる様子を感じたしな。だからココに落としたんだ。自分たちは反撃されない位置からな 」


「 落下時の衝撃に耐えてもし死を免れても、限られた食料しかない・・・いずれ餓死するだろうと確信を持って落としたんだ。それが証拠に、シュナイダーがあんたに対し――残りの食糧はどれくらいあるんだ? と、しきりに聞いていただろ? 」


 ユリウスさんは捲し立てるように一気に話しきった。


「 なるほど。あ~、ってか実はこの指輪――雑貨屋で三千円で買った何の変哲もないシルバーアクセの指輪なんですよね。特殊な効果は全部嘘なんです 」


「 はぁ? サンゼンエン? 全部嘘? い、いやでも実際――あんたの魔力は完璧に隠蔽されてるぜ。どういうことだ? 」


「 ああ、まぁ――実は元から隠蔽してるって言うか、まぁ何て言うか特異体質みたいなモンなんです 」


「 な、なんだよそれ、どこまでも規格外なヤツだな――あんた 」

          ・

          ・

「 ん~選択肢が無くなったせいで、最終手段でココに落とされたってことは何となく理解できたけど・・・でも、そもそも命を狙われる覚えが無いわね 」


「 それは俺に聞かれても分からん 」


「 ハルノ様・・・もしや我々が調査していた事が、既に露見していたのではないでしょうか? つまりあのシュナイダーどもが、フロト村を襲撃した張本人なのではないでしょうか? 」


 リディアさんが意見を述べた。


「 なるほど! それだと辻褄が合うな。自分たちのことを嗅ぎ回っている私たちに気付き、始末する目的で先に近づいた。そして遺跡調査に同行させるように仕向ける。道中、寝込みを襲ったり直接的な戦闘は分が悪いと判断し、遺跡内部の罠を利用し突き落とした。そして兵糧攻めってわけっスかぁ・・・ 」


(おおむ)ね、その線が濃厚かと存じます 」


「 ふむぅ~、もしその推理通りなら――よくもやってくれたわねって感じだわ 」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 日本刀活躍して嬉しいです。 リディアさんかっこいいですね。 疑問に思うのですが、シュナイダー達に付与した女神の盾の効果はハルノさんの任意で消せるのでしょうか。…
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