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第13話 蘇生魔法ふたたび

「 な、何をバカなことを! 蘇生魔法ですって? こんな若い子が? え? ご自分が仰っていることの意味が解っておられるのですか? 」


 カインズさんに苦言を呈した後、赤髪美女は私を真っすぐ見据えた。


「 意図的に一度死亡させてすぐに蘇生して――それでついでに病気も治す? あなた! バカも休み休み言いなさいよ! 」


「 おい! よさないか! ハルノ様はお前以上の回復魔法の使い手だ。それはすでに確認済だ。でなければわたしも何をバカなと一蹴していただろう 」


「 ちょっとっ! カインズさんともあろう御方がどうしたんですか!? 蘇生魔法を使える魔道士がこの世に居るわけないでしょう! 通常の回復魔法は使えても、蘇生魔法なんて神様以外には誰も使えませんよ! 」


 ――この反応・・・

 やはり私がカインズさんに何らかの目的成就の為に近づいて、嘘を吹き込み騙している――と、思われているのだろうか?


「 だからそれを証明してもらう為にここに来たのだ。老衰死以外、できれば突然死や事故死で出来るだけ綺麗な遺体を探しておるのだ 」


「 ・・・どうやら本気のようですね。ちょっとあなた! どうせ引くに引けなくなったんでしょ! どんな狙いがあるのか知らないけど謝るなら今のうちよ! カインズさんに近づいたってことは、間違いなく金銭目的なんでしょうけどね! 」


「 やめないか! お許しをハルノ様・・ 」


「 ああ、いえいえ、信じられないのは無理もないですよ。とにかく信じてもらう為にカインズさんの目の前で死人を生き返らせることが絶対条件なんで、是非ご協力お願いします 」


 私はぐっと我慢し頭を下げた。


 だが――

 赤髪美女は怒り心頭一歩手前といった様子で、完全に信じていないようだ。

 私のことをペテン師呼ばわりしているし。


 カインズさんはというと――

 息子の為に信じたい願望がある反面、そんなバカな! と――この世界の常識が邪魔をして、やはり最終的には信じられないといった様子だった。


「 ははは! 遺体を探すふりをして煙に巻こうとしてたんだろうけど残念だったわね! 御望み通り、丁度おあつらえ向きの遺体があるわ! わたし以上の回復魔法の使い手さん! お手並み拝見といきましょうか! 」


「 ヒルダ! 言葉が過ぎるぞ! 」


「 わたしは! 息子さんに関わる事で冷静さを欠いている――カインズさんの心の隙間に付け込むような真似をしているのが許せないだけです! 」


 ヒルダと呼ばれる美女に挑発された私が、そのうち怒りだすんじゃないかと危惧しているのだろうか?

 そんな感じでオロオロと挙動不審になっているカインズさんを、私はジェスチャーで制した。


「 いえ、私は気にしていないので大丈夫ですよ! それよりも遺体があるってどんな遺体ですか? 」


「 ・・・昨日、工事現場の足場から落下し全身を強く打って意識不明になリ、ここに運び込まれた時にはもうすでに死亡していた――、中年男性の遺体が地下に安置されてるわ。あなたが本当に蘇生魔法を使えるのなら、その男性を見事生き返らせてもらおうじゃないの! 」


「 おお! 頭が潰れて脳が損傷しているとかの酷い外傷が無いなら――、確かにおあつらえ向きだわ! カインズさん! かなりの好条件ですよ! 」


 挑発や嫌味を全く意に介していない私に対し、ヒルダさんの困惑混じりの懐疑的な視線が向けられている。


「 では早速、地下にいきましょ! 」


 できるだけ明るく振舞い、カインズさんに気を使わせないように努めたが――

 ヒルダさんがあからさまに怒っているので、かなり妙な空気になっていた。


          ▽


 地下室へ降りてきた。


 壁に掛けてある極々小さな松明のような物の先端に向け、ヒルダさんが掌をかざした。

 そして朗々と何かを呟いている。

 

 次の瞬間、掌から小さな炎が飛び出して燃え移り、室内に明かりが灯った。


 巨大な石から削り出されて造ったのであろう無骨な寝台が二つ並んでいる。

 その片方には膨らみが有り、毛布のような物が掛けられていた。

 

 ヒルダさんが無造作に毛布を剥ぎ取ると、そこには衣類を着たままの男性が横たわっていた。


「 さあ! やれるものならやってみなさい! 」


「 はい! ではお言葉に甘えて! カインズさんよく見ててくださいね 」


 おもむろに唱える。


蘇生レザレクション!! 」


 眩い光が横たわる男性を包み、やがて収束し――光の珠となって男性の胸部に吸い込まれていった。


          ▽


「 ・・・・・・え? う、嘘! そん、そんな! 嘘でしょ 」


 ヒルダさんは茫然自失となり、その場にヘタリ込んでいた。


 カインズさんも同様に、目ん玉飛び出るんじゃないかってくらいにカッと目を見開いたまま――固まっていた。


「 あ・・あれ? ワシ、ワシは? ここ何処(どこ)だ? 」


「 ああ良かったです! 成功ですね! 身体、痛いとこ無いですか? 」


 男性は唸りながら、石造りの寝台の上でゆっくりと上体を起こした。


「 う~む、背中がちょっと痛いですな。ああそうか! ワシは仕事中に転落してしもうて――気を失ってたのかのう? あっ! ヒルダ先生! ああ、ここは治療院か―― 」


 男性は手の甲を背中に回し、しきりに擦っていた。


 背中の痛みは蘇生直後のものだろう。

 硬い所で寝ていたので、単純に背中を少しばかり痛めているに過ぎないと思う。


「 そうなんですよ! 意識が戻って良かったです! 転落して怪我を負っていたけど、こちらのヒルダ先生が全部治してくださったんですよ! 」


「 おお! ヒルダ先生! ワシの為にありがとうございます! お代は――、また後払いでも良いかのう? 今請け負ってる仕事の報酬の半分が、もう少しすると前金として入るので・・・それまで待ってはくださらんか? 」


 ヒルダさんからの返事はない。


 完全に放心状態だった。


「 ヒルダさん? 大丈夫ですか? 」


 どうだ! 嘘じゃなかっただろう? と言わんばかりの「 どや顔 」を作り――

 ヒルダさんの肩を掴んで揺すった。


 ――ダメだこれ・・・

 完全に別の世界に意識だけトリップしている。


「 ち、治療代金は、訳あってわたしが支払う・・・あんたは気にしなくていい 」


 どういう意図かは解らないけど――カインズさんは掠れた声で治療代金の肩代わりを申し出ていた。


「 え? 旦那はなにモンだ? しかしなんでだ? ありがてぇ申し出だが・・・なんで? ワシ、あんたに何かしたっけ? 」


「 と、とにかく代金は心配いらない! わたしが払う! それより、あんたが運ばれてきたのは昨日だ――、丸一日経過しているらしいぞ! 早く家に帰って家族を安心させてやったらどうだ? 」


「 なんだって! ワシ、丸一日も気を失ってたのか!? こうしちゃいられねぇ、ヒルダ先生! ありがとうございました! また果物でも差し入れにくるからよ。じゃあワシはこれで! 旦那も嬢ちゃんたちも有難うな! 」


 そう言って生き返ったばかりの男性は、慌てたままドタドタとわざとらしい足音を響かせつつ――「 あれ? ここは地下か? 」と呟きながら上階へと駆けて行った。


「 どうです? 信じて頂けました? 嘘じゃなかったでしょう? 」


「 ハルノ様! さすがでございます! 」


 ドヤ顔の私を褒めてくれるのは、マリアさんだけだった。

 

 ヒルダさんは放心状態から脱したものの、何やらブツブツと聞き取れない声量で呟いているし――

 

 カインズさんは頭を両手で抱え膝を突き、唸るような呻き声を洩らしていたのだった。

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