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第117話 私刑

「 白凰組の方ですよね! 」


「 法務局で登記を調べました! 周防大島のあの一軒家が、広島の白凰組関連の会社名義に最近変更となっていたのは既に確認済です! 」


「 やはりこの教団と広島市の白凰組には繋がりがある! 」


「 どうかっ! どうかお願いします! 真実を! ただ真実を知りたいだけなんです! 現代医学でも治すことができない身体を本当に完治させることができるのなら、その方法を! 謎を知りたいんです! 」


  神代という男性がマシンガンのように発言し、姫野さんにしがみ付くように掴みかかっている。


「 なんやお前は! わけのわからんことほざきやがって! ワレコラァ! 」


 姫野さんが胸座を掴んで捻じり、力任せに壁に押し付けていた。

 天野さんは後方で見守っているだけだ。

          ・

          ・

 高岡さんと2人で、玄関からは死角となる廊下の角に身を隠し、会話を盗み聞きしていた。


「 またあの人だ。つい最近も来たとですよ・・・もう何回目だろ? わたしが知る限り三回目かも 」

 高岡さんが消え入るような小声で囁く。


「 信者の身体障害が完治している謎を追ってる記者らしいけどね。教団的には危険な人物かもですね。高岡さんもそう思うでしょ? 」


「 ええ、事前に姫野さんからは注意されとったけど、なんか今日はいつにも増して鬼気迫る感じです・・・ 」


 事故のせいで絶望的な負傷と一生付き合うことを余儀なくされた人たちを、全員救うというのが私が掲げたとりあえずの宿願(しゅくがん)だ。


 残り12人を全て治したら、そこからは事故被害者に限らず、一定以上の条件をクリアした身体的障害を負っている人を定期的に治すつもりでいる。

 治すに値する人物か、秘密は守れる人物か、そのあたりの吟味をしてふるいにかけるのがこの教団となるわけだが・・・


 しかしそうなれば、さらに真実を暴こうと嗅ぎまわる――あの神代とかいう記者のような連中が増えるかもしれない・・・


 今後もずっとつき(まと)うであろう、ああいった連中をどう(さば)けばいいのか・・・正直私には分からない。


 とにかく――、もし明日になってもこの近辺をウロウロされると面倒なことになりかねない。

 明日は6億もの大金を銀行に預けに行かないといけないし、そのあとは残り12人の事故被害者の内、連絡を取ることが可能だった人で尚且つ予定が空いていた――ちょうど半分にあたる6人の治療予約を入れている。


 一般人に対し暴力は絶対にダメだが、姫野さんが威圧で押し切り少なくとも数日間は寄りつかない状態にしてくれることを切に願った。

          ・

          ・

「 どうかっ! お願いします! この通りです! わたしはもう確信してしまったんです! どうかっ! 壊れた身体を元通りに治す方法を教えて下さい! 」


 神代さんは姫野さんに対し、躊躇なく土下座していた。


「 おいっ! ええ加減にせえよ! こんな時間にいきなり訪ねて来て訳わからんことぬかしやがってからに! おいっ! (すが)りつくなやコラァ! 」


「 お願いします! どうかっ! 救いたい人がいるんです! どうかお願いします! いくら必要ですか? 望む額を用意します! すぐには無理でも必ず用意しますから! 」


「 お、おいっ! 何なんやお前は! ちょっとは落ち着かんかいっ! 」


 怒号を飛ばした姫野さんが、縋りつく神代さんを足蹴(あしげ)にして吹っ飛ばした。


 ――救いたい人? 記事にするためではないのか?


 演技とは思えないな・・・演技だとしたら迫真すぎる。


 もし手段は択ばず情報を得るために布石を打っているのだとしたら・・・それはそれで凄いプロ意識だが――


「 ちょっと・・・話だけでも聞いてみましょうかねぇ 」


「 あ、姐さん! 」

 真後ろから発言した私に対し、不意を突かれた天野さんが声を上ずらせた。


「 あっ!! 」


 神代さんも気がついたようだ。あの日あの平屋にいた女だということに――


          ▽


 現在、事務室の隣の小部屋でテーブルを囲んでいる。

 私と高岡さん、姫野さん、そして神代さんの4人だけだ。


 リディアさんと天野さん、そして信者の人たちには全員お寿司パーティーを続行してもらっている。

 リディアさんに関しては言葉が通じないので疎外感を感じてしまうかもしれないが、我慢してもらうことにした。


「 さて、話を聞く前に忠告を一つだけ。些細な嘘だとしても真実以外を口にすれば、たとえこの場は乗り切れても必ず後からバレますので御留意を。もし嘘が存在していた場合、今想像している以上の不利益を貴方が被ることになるので、その点は予めご了承くださいね 」


「 は、はい・・・ 」神代さんがゴクリと固唾を呑む――


 もっともらしい言い回しで忠告というか警告をしたが、それ自体は完全なハッタリだ。

 正直言って嘘をつかれても見破る術は無い。だが神代さんの表情を観察するに――このブラフは効果てきめんの様子だった。


「 私は貴方の「 救いたい人がいる 」という発言に引っ張られて、話だけでも聞いてあげようと思ったのですが――先に貴方の真の狙い、目的を教えてもらえますか? 」


 結局、私が何者なのか?

 この福岡の教団と広島の極道が一体どういう関係なのか?

 その他にもたぶん聞きたいことは山ほど溢れているだろうが、私は「 先に全てを話せ 」と促した。


 有無を言わせない私の態度のせいか、腹を括った様子で神代さんが粛粛と語り始めた――


「 今から二年前です――、わたしは大手マスコミ系列で雑誌記者をしておりました。自分で言うのもどうかとは思いますが、当時わたしは博多支局で現場のエースとまで言われておりました。多忙を極める取材がちょうど一段落し――、次はイジメを苦に自ら命を絶った女子高生の件を担当することになったんです・・・ 」


          ▽


 神代さんの話は聞くに堪えない――、聞けば聞くほど自然と殺意が湧く胸クソ悪い事件だった・・・


 口下手などこにでもいる女子高生が、実に半年もの間――凄惨なイジメを受けていた話だった。


 イジメていたのは4人の男女。

 このイジメグループの悪行の数々は、枚挙(まいきょ)にいとまがない。


 殴る蹴るは日常茶飯事、週末は万引きの代行を無理やり強要したり、売春も強要していたようだ。

 そして自殺する前日まで、連日のように男子生徒2人が強姦(レイプ)していたようなのだ・・・


「 わたしはとにかく真実を書きました。4人の悪人がどれほどの罪を犯したのかを・・・しかし公には少年法に護られ、実名報道することは勿論不可能で、表向きはただ4人の生徒というだけのものでした 」


「 ですが二か月も経過すると、ネット上では実名が晒され住所も特定され、中学の卒業アルバムなどの顔写真が世の中に出回っていきました。この4人が如何に(あく)かをわたしが書けば書くほど――比例するようにネット上では「 私刑 」を望む声が高まっていきました 」


 そして事件が起こったのは、女生徒が自殺して三か月後のことだった。


 イジメグループの男子生徒2名と、女子生徒の内1名が殺害されたのだそうだ。


 女子生徒の内1名が、自宅で1人の時に、自室で両目を抉られて死亡していたそうだ。


 そして同日、男子生徒1名がサバイバルナイフによる滅多刺しの状態で、自宅の数メートル先の道路で死亡していたらしい。どうやら犯人が家の中に押し入ってきて襲われ、何とか外へ逃げ出したがトドメを刺され力尽きていたらしい。


 さらに男子生徒のもう1名は、同じ日の真夜中に住居が激しく全焼し――ペットも含めた両親もろとも焼死したらしい。ただ中学生の妹だけが唯一奇跡的に生き残ったのだそうな。


 出火原因はもちろん放火だ。


「 わたしは一報を聞き高揚しました・・・私刑執行をわたしが手伝ったような、正義の鉄槌を振り下ろしたような、正直そんな気分だったのを今でも覚えています 」


 犯人はすぐ特定され翌日に逮捕された。

 犯人は――自殺した女子高生の兄だったのだ。


「 そして数週間後――わたしは火事から生き残ったその妹に取材を試みました。退院後、長崎の親族の農家に身を潜めているという情報を独自のルートから得たのです 」


「 ふむ、なんだか壮絶な展開ですね・・・ 」


「 あの時のわたしはどうかしてたんです。その妹や親族は何の罪もないのに・・・ 」

「 もちろん取材は拒否されましたが、わたしはWeb上に記事を書きました。その親族の家を遠回しに特定できるような手法で・・・ほんとにどうかしてたんです 」


「 ま、まさか、模倣犯が出たとか・・・ってオチじゃないでしょうね? 」

 恐る恐る――私が小声で質問する。


 神代さんは少しだけ涙ぐんでいた。


 高岡さんは絶句していたが、姫野さんは表情も変えず微動だにもせずに、ただ聞き入っていた。


「 その、まさかです・・・ 」

「 ある日その親族の家はまたも放火され、親族の叔母夫婦は煙を大量に吸い込み死亡。二階で寝ていたその妹は、窓から飛び降り両足を骨折。そして犯人の男に担がれ隣の畑まで強制的に移動させられた後、ナイフで両目を抉られ光を失いました。命自体は助かりましたが・・・ 」


「 エグうぅ! もはやサイコパス映画の展開やんか・・・んで、その模倣犯は捕まったの? 」


「 ええ、自分は正義の使者だと現在でも獄中で叫んでいるらしいですよ・・・ 」


「 ああ、そういえば何かあったなそんな事件。記憶が蘇ってきたわ・・・連日報道番組でやってた気がする 」

「 しかしどうせ()るんならその妹じゃなくて、まだ私刑を受けてない残りの女子生徒を殺せよ! 」

「 だけどまぁ全てが繋がりました。つまり神代さんは、奔放に書いてしまった自分の記事が引き起こした殺人事件に責任を感じていると。そしてせめて、その凶悪イジメ男子の妹の身体を治してあげたいと・・・そういうことですね? 」


「 そ、その通りです・・・外に駐車してある白凰組の名が入った大型車を見た瞬間、わたしの中でも全てが繋がったんです。やはり都市伝説なんかじゃないと! 完全治癒の噂は真実なんだと確信したんです! 」

「 お願いします! 何でもします! 貯金も人並みにはありますし、相続予定の実家を売ってでもお金は作ります! お願いします! この通りです何卒! 」


 そう叫び、神代さんは即座に土下座をしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄い展開になってきましたね。 投稿ありがとうございます。 続きが気になってドキドキします。
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