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第116話 お寿司パーティー

「 ろ、6億円・・・・ 」


「 ええ、私もまだ信じられない思いですが車内にあります。持ってきてるんです 」

 現在事務室には、私とリディアさん、姫野さんと高岡さんの4人だ。


 数名の信者には席を外してもらい、天野さんは大金の詰まったケースを見張るため、キャンピングカーの中で一緒にカンヅメだった。


「 え? 6億円ば預け入れて必要な時に引き出すために、光輪会名義の銀行口座ば作るとですか? 」

 高岡さんはずっと驚愕の表情だった。


「 ええ、そうです。私が一旦ムコウの世界に全部持って行って、コッチに転移する際、つど必要額だけリュックに入れてって感じでもいいんだろうけどねぇ 」


「 ただ、ムコウはセキュリティがガバガバだからねぇ。たとえば扉の鍵なんてあって無いようなもんだし、余裕で開けれるしね 」


「 あの量だとさすがに場所も取るしなぁ。私が大事にしている物だ――と、もし不特定多数に知られると・・・信仰心の低い魔が差したヤツが狙う可能性がゼロではないし。宮廷の中にもまだまだ悪人はいるかもって話だし、盗賊系もたくさんいるしね 」


「 ムコウの人たちから見れば、間違ってもどこかの国の通貨とは思わないかもだけど。ムコウでは紙類ってただでさえ貴重品だからね。さらに私が大事にしてるっていうレア度も相まったら・・・たぶん小さな絵画、ってか肖像画に見えるだろうし。芸術的価値があるモノだと考え狙うヤツがいないとも言い切れない。まぁ城内に保管しておけば基本大丈夫だとは思うんだけどねぇ。ただ、どうしても一抹の不安は残るのよね 」


「 仰る通り、(たち)ん悪か連中に知られると、盗まれる予感しかしないですね。お話ば聞いとるだけでもちょっとヒヤヒヤするとです 」


「 でしょう? まぁ宝物庫に入れておけば確実に大丈夫なんだろうけどねぇ。でもそれだと逆に、おいそれとは持ち出せなくなって本末転倒でしょう? 王都がムコウの拠点ではあるけど、さすがに宝物庫に入れるのはなぁ・・・まぁでも、リュックに詰められる分くらいは持って行ってもいいかなぁ~ 」


「 あれ? ちょっと待ってください。姫野さんの組で管理するんはダメなんですか? 」

 腕組みをしたまま、黙って聞いている姫野さんを高岡さんが見やる――


「 ああ、ワシらの稼業は唐突なガサ入れの脅威に常に晒されとるけんなぁ。当初は、全部銀行に入れる予定じゃったが。それ自体が危険かもと感じてな 」


「 ああ、今は税務署に自動で報告が行くシステムですしね・・・ 」

 全てを説明しなくても、即座に納得の表情の高岡さんだった――


「 私こっちの世界では、社会的にはだけど幽霊みたいなもんだしねぇ。結局、他人名義に頼るしかないのよね 」


「 た、確かにそうですね・・・ 」


 高岡親子に対し、最初は宇宙人に誘拐されて――という設定で与太話を繰り広げたわけだが、今はもう真実を話して久しい。私が世界間を行き来している存在だと知っている数少ない内の一人だ。


「 分かりました。わたしに考えがあります。佐伯さんに全面的に協力してもらって、春乃さんの望む額ば振り込めるように手配致しますね 」


「 おお、ありがとう。高岡さんには全幅の信頼を置いてるからさ。じゃあさ、6億の内2億は別口座に預金して高岡さん管理で。5千万は現金で周防大島の平屋に隠すわ。んで、残り3億5千万分は私が通帳とカードを持って管理する感じでいいかな? 」


「 全幅の信頼!? 光栄です! あ、ありがとうございます! え? でも待ってください。2億をわたしが管理? 」


「 うん。とりあえず預けとくわ。あ~3億5千の内、現金で3千くらいはムコウに持って行こうかなぁ 」


「 か、畏まりました。ではすぐに手配ば開始するとです! 」


          ▽


 明日の正午前に、私が以前周防大島で身体を治してあげた、資産家の佐伯さんというおばさんと町で合流し、懇意の銀行へと向かう手筈となった。


 その後も高岡さんから数々の報告を受けることとなった。


 まず、この近隣で予想以上に噂が波及しているという事。

 あの山のポツンと一軒家の宗教団体に入信すれば、不自由な身体が治る――という(まこと)しやかな噂で持ち切りらしい。


 その噂に釣られて、すでに十数人の部外者が入信希望者として訪ねてきているらしい。

 もちろんその全てを断り、噂自体根も葉もないただの都市伝説だ――と、一蹴する対応を貫いているとのこと。

 だが念のため、どのような身体的障害があるのか? その障害があるのは本人なのか? 家族なのか? 知人なのか? などの聞き取りは、もちろん任意ではあるが、不自然にならぬよう可能な限り行っているとのことだった。


 余談だが、このポツンと一軒家の施設は元レストランだったらしく、現在のエントランス部分は店舗としての名残があった。

 信者の中には負傷したせいで仕事を辞める羽目となり、完治しても復職していない人が結構存在するため、その人たちが働く場を提供するために、何かお店を始めるのもいいかもしれない――と、高岡さんは言っていた。


          ▽


 ~18時22分~


 本日はこの光輪会建屋に、このまま宿泊することとなる。

 

 ジェラルミンケースも事務室内へと運び込んだ。

 

 未だに信じられない巨額の紙幣を所持しているプレッシャーで、この部屋から出ることができなくなっていた。

 信者の人たちが、何かの拍子に盗人(ぬすっと)へと変貌するかもしれない――と危惧しているわけでは決してないのだが。限りなく低い可能性だけど、単純に強盗が押し入ってくるとか――その可能性は決してゼロではないわけで・・・あらゆる可能性を考慮すると恐ろしくなり、ジェラルミンケースから離れることができなかった。


 リディアさんがネット動画にハマっているので、このまま室内にカンヅメになっても、特段苦ではなさそうなのが唯一の救いだ。


 言葉の壁を簡単に越えていく――ドッキリ企画動画に感謝せねば。

          ・

          ・

          ・

「 春乃さん。ちょっと個人的な野暮用ついでに、ワシら信者数人と飯買いに町へ下りるが・・・欲しいもんあるか? ちなみに、飯は回る寿司のテイクアウトにするつもりじゃ! ワシが喰いたいけぇなぁ~ 」


 事務室に入ってくるなり姫野さんが叫ぶ。


「 ああ、いいですね。私もお寿司食べたい! でもリディアさんが生魚に抵抗あるかもだから、リディアさん用にピザも買ってきてぇ~! 大きいの二枚くらい 」


「 おお、了解じゃ! 」

 もう私に移譲したから気が楽になっているのか――、6億もの大金が置いてあるのに、もはや姫野さんは意に介していない様子だった。


「 ハルノ様。食事のお話ですか? わたくし用と言っておられましたが、わたくしのために食事を買いに行かせたのですか? 」

 動画が流れる画面から視線を上げ、リディアさんが口を開いた。


「 いえ、別にリディアさんだけのためにってわけじゃないから気にしないで。生魚系にするって言ってたからさ、リディアさんは苦手かもだから、他のも買ってきてって伝えただけ 」


「 なるほど! お心遣いに感謝致します 」


「 いえいえ、王国は海に接してないから食べ慣れてないのも仕方ないよ。以前周防大島で、お刺身にだけ手をつけてなかったでしょ? それで苦手なのかなって思ってね 」


「 はい。海の魚自体がかなり珍しいですから。川魚は焼いて食べたことが何度かありますが、生で食べるのはちょっと・・・考えたこともなくて 」

          ・

          ・

          ・

「 そーいえば、龍さんにあの剣をネックレスみたいにして首から下げるのを提案したけど、どうなっただろうね 」


 呪いの痛み緩和の目的もあって、龍さんに預けたデュールさん製の神剣のことや、ドノヴァン殿のことなど――、その後も他愛のない会話を繰り返し、姫野さんたちが御馳走を持ち帰るのを今か今かと待っていた。


          ▽


          ▽


 会議用テーブルには、所狭しと鮮やかな色彩の皿と酒類、ピザの箱が並び、皿の上には美味しそうな寿司が載せられている。テイクアウトで手に入れた寿司を、信者の方が数貫ずつ取り分けていた。


 鮮魚の刺身やサーモンの巻き寿司、エビの天ぷらなども堪能できる豊富なラインナップだ。


 寿司の数もピザの枚数も凄い!

 来訪した私たち4人と高岡さんたち5人なのだが、9人でもこの量を食べきるのは結構キツい気がする・・・


 リディアさん用のピザも、LLサイズが三枚も重ねられていた。


「 もう完全にお寿司パーティーやんコレ・・・ 」

「 しかしお金出してもらっててアレですけど、いくら何でもちょっとこれ買い過ぎなんじゃ・・ 」


「 ほうかぁ? こんだけ人がおったら食えるじゃろ? 」

 そう言いながら姫野さんは、「 余裕、余裕 」と続ける。


「 まぁ足りなくなるよりはマシか。何だか大金が入って、貧乏性な私も気が大きくなってる気がするわ・・・ 」


「 はっはっはっ! そりゃそうじゃろうな! 」


          ▽


 宴もたけなわ――、お腹も膨れ私以外の皆がほろ酔いになっていた頃合いだった。


 ビイィィィー


 玄関から独特の音を発するブザー音が鳴り、来訪者の存在を告げた。


 時刻はもう21時をまわっている。


「 え? 誰だろ? こげん時間に怖いな 」

 高岡さんが立ち上がり応対に出ようとしたが――


「 事務長、僕が! 」

 信者の男性が手で制し、代わりにすくっと立ち上がった。


「 ああいいよ。みんな酔ってるじゃん。私が行くからそのままで 」

 唯一アルコールを摂取していない私が気を利かしたつもりで動き、事務室の入口横のモニターを覗き込んだ・・・


――あっ! この人。周防大島の家に突然来た人やんか!


「 平屋に来た人じゃん! 姫野さん、以前探りを入れてきた記者みたいな人だよ! どうする? 」


「 ああっ? あの神代(こうじろ)とかいう奴かっ! 春乃さんは面が割れとるけぇワシが行く! 」

 怒鳴りながらドスドスと足音を鳴らし、姫野さんが玄関へと向かった。そのすぐ後を、天野さんが追いかけていったのだった。

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