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第106話 プレゼン

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~日本・兵庫県~


 高速道路をひた走り兵庫県に入った。


若頭(カシラ)! そー言えば最近、近所は勿論ですが、島内の結構な数のジジババに妙に感謝されるんですよ・・・島に引っ越して来てくれてありがとう! ――って。一応当たり障りのない返事でお茶を濁すんですけど、何かどうも腑に落ちなくて・・・若いモンがわざわざ島に引っ越して来てくれたってことが、そんなに嬉しいもんなんですかねぇ? 」


「 マツ。お前は島の内部に()るのに、なんにも解っちゃおらんようじゃのぉ 」

 白凰組で若頭を務める姫野真也は、自身所有の高級車の後部座席で大股を拡げ踏ん反り返っていた。


「 す、すんません・・・何かあるんスかね? 」

 構成員の松川はハンドルを十時十分の位置でしっかりと握り、真正面を向いたままペコペコと頭を下げていた。助手席には、松川の兄弟分ともいえる天野が座っている。


「 ええか? まず周防大島は戦後すぐのピーク時に比べると、人口が五分の一まで落ちとる。しかも今や高齢化率は五割を超える勢いじゃ 」


「 え? そうなんですね・・・ 」


「 じゃけどな。ただ引っ越して来てくれたってだけで、いくら何でも普通――直接感謝なんかされるわけないじゃろ? 近所の数人ならあるかもしれんが、もっと大勢の周りの地元民から感謝されまくるわけじゃろ? 」


「 はい。そうなんです。何か違和感しかなくて・・・ 」


「 じゃったら答えは一つじゃな。今あの島の税収が、平年の五~から六倍になっとるのを知っとったか? 」


「 え? まさか! 姐さんの影響ですか? 」


「 んなわけあるかボケェ!! 春乃さんは仕事して納税なんかしとらんじゃろうが! お前ちょっとは日本の社会情勢ちゅーもんを勉強せえよ? 曲がりなりにも地元住民じゃろうが! 」


「 す、すんません! 」

 勢いよく頭を下げた所為で、ハンドル上部に頭部をぶつけそうになっていた。


「 ド田舎とはいえ「 瀬戸内のハワイ 」と称される島じゃけぇな。富裕層が数多く移住しとる証拠じゃ。超が付くような富裕層が移住しとるらしいぞ。それで島の税収が一時的に跳ね上がっとるんじゃわ 」


「 なるほど・・・え? でも何で俺が感謝されるんスかね? 」


「 爆買いしまくる春乃さんもその富裕層の1人と思われとるか、もしくはお前も含めて――移住してきた超富裕層の関係者だと勘違いされとるんじゃろ。町民は諸手を挙げて喜ぶじゃろうが、町長だけは意外と複雑かもなぁ。なにせ急に税収が五~六倍になると、国からの助成金が減らされる恐れがあるけんなぁ 」


「 なるほどぉ! そういうことでしたか! 合点がいきました! 」


「 感心しとらんで前向いて運転せえや! 」


「 は、はいっ! 」


          ▽


          ▽


 ~兵庫県・姫路市内~


 広域指定暴力団である、西日本最大派閥の桜花(おうか)会。

 その頂点に長年君臨する金光会長の邸宅に到着した。


 静かな山々に囲まれた広大な土地に、荘厳な門がそびえ立つ武家屋敷。

 すでに案内人となる構成員が2名待機してくれており、車に乗車したまま門をくぐり抜けると、そこには大きな庭園が広がっていた。

 花や木々が風に揺れる様子が美しく、訪れる者を静かに迎え入れてくれる――


 屋敷の建物は、赤い瓦屋根と白い壁が印象的だ。

 正面には三階建ての本館がそびえ立ち、その左右には翼棟が伸びている。

 本館の中央には大きな広間があるようだ。大勢の客人をもてなす為の広いスペースが確保されているのだろう。

 広間には立派な柱や梁があり、何やら豪華な装飾品が壁に飾られているのがここからでもハッキリと判った。


 一方、翼棟には客室や茶室などが配置されているのだろうか?

 垣間見える部屋には畳敷きの床や木製の家具が配され、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 また翼棟には庭園を眺めることのできる縁側が設置されており、風情ある景色を楽しむことができるようだ。


「 約束の時間通りですね。どうぞこちらです。会長がお待ちです―― 」


 バカ丁寧な銀スーツの中年男性に促され――、車を降りた姫野は珍しく緊張し恐縮していた。


「 すみません。ご案内頂きまして感謝致します 」


          ▽


 屋敷内には武家屋敷らしい厳かな雰囲気が漂っていた。しかしどこか暖かみを感じる居心地の良さもある。

 姫野は玄関を上がっただけで、静かな風景と共に屋敷の趣を十分に堪能することができた気分だった。

          ・

          ・

 銀スーツの男性に先導され、大広間に到着した。


 銀スーツ男性が膝を突き、障子(しょうじ)を開ける――


 姫野たち3人も(なら)って膝を突き、入室の許可を得るべく頭を下げた。


「 おお! 白凰の! ようこそやで! 」


 室内最奥に座る禿げ上がった老齢の男性が、にこやかに大声を掛けた。


 軽く三十~四十畳はあろうかという大広間の、一番奥にその老齢男性が座っていた。

 両サイドには、入り口に向けそれぞれ4人ずつ、計8人が等間隔に鎮座していた。


「 御無沙汰しております会長! 本日は貴重なお時間を割いて頂き誠にありがとうございます! 」


「 おう! まぁこっちに来て座りやー! おう、お前らも楽にしときー 」


 3人とも畳の縁を踏まないように注意しつつ、最奥の金光会長の御前まで堂々と進んだ。


 姫野はドカリと腰を落とし胡坐をかいて座る。お供の2人はその左右後方で正座だ。


「 改めて――、ご無沙汰しております会長! 本日は有難うございます! 」

 上体を折り曲げ深々と頭を下げた。


「 おう、ええで! ところで雅やんは息災か? 電話の声が妙に気になってな・・・ 」


「 はい! 組長(オヤジ)は相変わらず達者です! 」


「 そうかそうか! ほんで? 早速やが、他でもない雅やんからの要請でこの場を設けたんやが――絶対に無駄にはならん会談になるやろ、と聞いたんやが? お前はこのワシに一体どんな提案をするつもりなんや? 」


「 はい。絶対に損はさせません! ただ会長がお相手とはいえ、対価はキッチリと頂きたく存じますが・・・ 」


 金光会長は「 ほう・・・ 」と、感心したような吐息を漏らしただけだが――

 周囲で微動だにせず座って静観している者たちは違う。微妙に顔色が変わった。


 そもそも金光会長と同期の桜である――白凰組組長の顔を立てて面会を許しただけだ。

 本来、姫野ていどの地位では金光会長とサシで会話する事自体が異例中の異例だった。

 しかもその遥か格下の姫野から、会長に対価を支払わせる、という信じられない言葉が飛び出したのだ。

 直系の配下としては、ピリつくのも無理はなかった。


「 随分と勿体ぶるやないか! 一体何を売りつけるつもりなんや? 」


 松川が革張りのケースを姫野に手渡し、姫野がジッパーを開けて中からくすんだ色のガラス小瓶を三つ取り出した。


「 コレです 」


「 なんやソレは? まさかとは思うが、新種の(ヤク)ってオチやないやろな? 」


「 新種も新種! まさに神が創ったヤクですよ 」


 不敵に笑う姫野の言動が(かん)に障ったのだろうか・・・右側に座っていた配下の男が、「 おい! 」と凄んだ!


「 テメェ! さっきから聞いてりゃおかしな野郎やな! 何が目的なんや! 」


「 すみません。ですが何もふざけているわけではありません。コレが本当に神が創った薬って真実を、これからお見せします! どうか御覧下さい! 」


 姫野はそう豪語し、左後方に座る天野に小瓶を一つ手渡した。


 天野はおもむろに左手を差し出し、会長や取り巻きの者たちにもよく見えるように、左手をゆっくりと左右に振る。

 そして小指部分を右手で摘まみ――スポン! と小指をもぎ取った。

 

 取り外したのは義指だった。


「 この天野は、過去に一度ヘタ打って(エンコ)飛ばしとります 」

 あまりにも簡素な説明を唐突にしたかと思えば、顎をしゃくり姫野が促す。


 天野は元々寡黙な男なのだが、姫野から指示を受けたこの時も、返事すらせず小瓶の蓋をもぎ取り一気に(あお)った。


 次の瞬間、小指の先が無いすでに完治している部分、通常の皮膚と化している切断部分が破れ、クリーム色をした小枝にも似た骨が急速に生えた。


 そう、正に伸び上がるように生えたのだ。


 骨が突き出し皮膚が破れたことにより激痛が走る!

 寡黙な天野も流石に我慢できない様子で、「 ぐううぅぅ! 」と――声にもならないような呻き声を上げていた。


 そしてさらに小枝の骨に纏わりつくかの如く――筋組織がシュルシュルと流れ、あっという間に爪も含め失ったはずの小指が完璧に復元されたのだ。

 

 もはや接合の跡すら認識できないほどに完璧に・・・


「 な、なんやあぁぁこりゃあぁ!! 」


「 おい! なんやこれは! 手品? マジックかぁ? 」


 二人ほど取り巻きの者が雄叫びを上げながら発言したが、金光会長も含めその他の者たちは、驚愕のあまり目を見開いた状態で完全に停止し固まっていた。


「 会長。あと二本あります。一本5億。合わせて10億でお売りしたいと存じます 」

 姫野はそう言いながら深々と頭を下げた。

          ・

          ・

「 ・・・息子に使えっちゅーことか? ワシの所為であいつはカタワになってしもうた。ワシの罪悪感を消す対価が――、5億っちゅーことか 」


 姫野はその問いに対し、頭を下げたまま返答はしない。


「 最も重要な点を聞くが――、ソレは一体何なんや? お前はソレをどっから仕入れたんや? 仕入れ先はどんな組織なんや? 」


 姫野はゆっくりと上体を起こし答える。


「 正真正銘、魔法の秘薬です。組織ではありません。たった1人の神にも匹敵する能力(チカラ)を持つ――とある魔法使いです。俺はその人に命を救われました。大恩を返す為に俺は俺のできることをやっとるだけです! 」

          ・

          ・

 金光会長は鋭い眼光を姫野に飛ばしつつ、何やら思考中の様子だった。


「 ・・・深くは聞くなっちゅーことか。その魔法使いっちゅうのんは、俗に言う超能力者ってやつか? 」


「 はい。正直俺も完全には素性を掴めてはおりません。ですが本物の能力者で、絶対の信頼を置ける人物です 」


「 そうか――、しかし何でもっとふっかけんのんや? その薬の効果が本物なら一本10億・・・いや20億でも買う奴がおるかもしれんやろ? 少なからずこのワシに、恩もセットで売るつもりか? 」


「 はい。今後何かと御力を借りる事態になるかもしれませんので・・・ 」


「 ・・・そうか。良し! よう分かった! とりあえず三日待て。洗浄が済んどる現ナマ――10億。耳揃えて用意したるわ! 」


「 ま、待ってください会長!! こんな奴の、こんなペテンを! 信じるんですか!? 」

 

 すかさず取り巻きの1人が口を挿む――


「 ペテンかどうかは、こいつの眼を見りゃわかるやろ? まぁ言うても、もし万が一ペテンやったら――腕一本もらうがなぁ! 」


 そう言い放った金光会長は、暫くの間――高笑いを続けていたのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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