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第104話 討死

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 真龍は上空から戦場を俯瞰(ふかん)で観察していた為、刻一刻と変化する戦況をつぶさに把握することができていた。


 驚異の魔道士に加担している身としては、王国側の陣営に真龍自身も確実に入っている自覚は勿論ある。


 だが戦況が王国側の勝利に大きく傾いている現状を、リアルタイムで認識していても、特に嬉しいといった感情はなかった。


 限りなく中立な立場と言っても差し支えないだろう。つまりはただの野次馬だ。

 こんなバカでかい、お構いなしに畏怖を撒き散らす存在の野次馬なんて、世界中探してもなかなかお目に掛かれないだろうが。


 だが真龍は中立のつもりでも――、完全に味方だと思い込んでいる王国側の兵士は士気が爆上がり、逆にいつ攻撃されるかとヒヤヒヤしている帝国側の兵士は、戦慄している者も多いことだろう。


「 魔道士殿。そろそろ決着がつきそうだぞ? 我は何もしてはおらんが、このまま待機でよいのだな? 」


 暫し間隔を空けて、頭の中に魔道士の声がこだまする。


『 ああ龍さん? 少し離れていても目視できる位置なら話せるの? でもごめん。今めっちゃ忙しくてさ――、とりあえず完全に決着がついた感じになったら、もう一回教えて! ごめんね 』


「 承知した 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


―――――――――――――――――――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユリアーネ周囲の帝国兵は、ほぼ戦死している。

 全体を見渡せばまだまだ戦い続けている帝国兵はいるだろうが、王国軍が図らずも、ユリアーネは孤立していた。


 いよいよ窮地に陥り――、正に四面楚歌状態で剣を振り回している。

 孤立無援状態で振るう剣に冴えは無く、全身を覆う重い板金鎧(プレートアーマー)が足(かせ)となり、全く息つく暇が無いこの状況では体力を奪い続ける一方だった。


「 皇女殿――、皇女殿の覚悟に対し侮蔑(ぶべつ)とも受け取られかねんかもしれんが・・・もうこの辺りで投降してはどうか? 捕虜として、丁重に扱うことを約束しようぞ 」


 元帥ドノヴァンは構えこそそのままだが、王国兵に囲み込まれた女傑に対し、静かに語り掛けた――


「 ・・・わたくしだけおめおめと生き延びられるものか! わたくしの盾となり死んでいった部下たちの為にも、最後のその瞬間まで――お前たちを一人でも多く道連れにしてくれる! 」


「 そうか・・・残念だな。できれば女は手に掛けたくはなかったのだがな 」


「 ふっ、笑いも凍りつくぞ・・・剣を握り一度(ひとたび)戦場に立てば、性別など意味を成さぬ! 」


「 そうだな。無粋であった。許されよ―― 」

          ・

          ・

 ドノヴァン直属の兵士が、手に手に剣、手斧、槍を構え、ユリアーネを牽制しつつ囲い込む。


 もはやこれまでと諦め意を決したのか――、ユリアーネは強く剣を握り直し、低く姿勢をとった。


「 おおおぉぉぉ!! 」

 そして勇ましく叫び、ドノヴァン目掛け直線で仕掛ける!

 もはや周囲の王国兵士の存在は、意に介していない。


 が、すでに限界ギリギリの状態なのだ――

 この囲まれた状況で、ドノヴァンにその剣が届くことはなかった。


 王国兵が突き出した槍の穂先で、その足首を捉え転倒させると、次々と覆い被さるように得物を突き立てていく・・・


 どの攻撃もアーマ―の隙間を狙っており、アーマーの接続部分から鮮血が吹き上がっていた。


「 ドノヴァン様! 」


 王国兵士の一人が元帥の名を叫ぶ。

 トドメを刺す最後の仕上げは、元帥ドノヴァンが相応しいだろう――という配慮だろうか?


 血塗れの大地に大の字となり、堂々と倒れ込んでいるユリアーネ。

 その顔を覗き込むようにドノヴァンが近づく。


(おのれ)の命を、兵の為に使えるお主のような武人が何故――、何故このような無益な(いくさ)に加担するのだ? ・・・侵略的な祖国に疑問を持つことはないのか? 」


「 ブッ・・ガハッ! ふっ、ふふ、愚問だな・・・ 」


 ユリアーネは血反吐を吐きつつ、焦点の合わない視線を彷徨(さまよ)わせながら、不敵な笑みを(たた)えていた。


「 ・・・風よ・・ 」


 突然、ユリアーネが消え入るような声で呟く――

 次の瞬間、その大地に接している背中の裏から砂塵が巻き上がり、まるで弾かれるようにユリアーネの身体が跳ね上がった!


 その勢いのまま、腰に忍ばせていた自決用のナイフをドノヴァン目掛け突き出す!


「 風属性魔法か! ぐううぅぅ・・ 」


 虚を突かれたが――、咄嗟に左腕で防御したドノヴァン。

 その腕にはナイフが深々と突き刺さっていた。


「 ドノヴァン様!! 」


 取り巻きの兵士が、一気に間合いを詰めユリアーネを再び串刺しにせんと迫った。


「 やめいっ! 」


 だがドノヴァンが即座に制し、取り巻きの兵士がピタリと襲撃を停止する。


「 既に――事切れておる。女の身体をこれ以上傷つけるのは本意ではあるまい 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 遠方で軍用ラッパの音色が次々と鳴り響いていた――


 と同時に、王国軍の指揮官が拡声器を使い何やら叫んでいる。

 ここからでは判然としないが、やたらに同じ単語を連呼している風に聞こえる。

          ・

          ・

『 魔道士殿。大勢は決した模様――、相手の軍は撤退を始めたぞ。どうやら追い討ちをかけるようだがな 』


 突如、脳内に龍さんの声が響いた。


「 おお! やっとですか・・・私は今、次から次へと運び込まれる兵士さんを治療してるので、まだそっちには行けそうにない! なので龍さん。まだ疲れてなかったらでいいんだけど、自力じゃ動けなさそうな王国兵士を運ぶの手伝ってよ! 勿論死体も含めてだけど 」


『 承知した! 』


          ▽


          ▽


 真龍はその左右の剛腕で、一人ずつそぉ~っと包み込むかの如く、兵士の身体を握り持ち上げる。

 そしてその鋭いかぎ爪でこれ以上傷付けないように――と、気を使いながら魔道士の下へと運んでいた。


 その巨体には不相応な甲斐甲斐しさを目撃したドノヴァンは、即座に聖女様が合流していることを悟り、空飛ぶ龍の影を追った。


          ▽


「 おお! これは聖女様! よくぞおいでくださいました! 」


 ドノヴァン殿が親衛隊を引き連れ、救護用天幕内へとやって来た。


 私は治療の手を止めず、挨拶を返す――


「 ああどうも。結局外はどうなったんですか? 」


「 はい。敵将を見事討ち取りまして、残存勢力はジリジリと後退を始めました。今、追撃をかけておる最中です。聖女様が戦線復帰した兵士に魔法障壁を張って下さっていたのでしょう? そのお陰でガンガンと押すことができましてね。敵軍は逃げの一手でしてな! 」


「 そうですか。ミルディア城の奪還はどうします? 」


「 できればこのまま陽が沈む前に雪崩れ込みたいところではありますが・・・まずは兵の治療を優先していただこうかと! 聖女様に負んぶに抱っこで、大変心苦しい次第ですが 」


「 ああ、ではもう戦闘が落ち着いているなら私が外で動いた方が早いと思うので、このテントを出ますね。ドノヴァン殿は兵士を率いて、追撃ついでに城の奪還に向かってください。私よりも頼りになる真龍さんに、城の奪還を手伝ってもらいましょう。それでいいです? 」


「 え、ええ。それはもう願ったり叶ったりですが・・・ 」


霊薬(ポーション)は持ってます? 」


「 はい。あと二つ所持しております。先ほど一つ使わせて頂きましたが 」


「 そうですか。とりあえず皆さんにも先に魔法障壁をかけておきましょう。多分ですけど、数日間は効果が持続するはずなので―― 」


「 有難い! 」


 私は一旦治療の手を止め、ドノヴァン殿御一行に、順次【女神の盾(アイギスシールド)】をかけていく。


 そして運び役をこなしてくれていた龍さんに語り掛け、城奪還の為の戦闘に、協力するよう要請を出した。

 龍さんが上空から威嚇攻撃を仕掛ければ、たちまち城内はパニック状態に陥るだろう。さらに指揮官が討ち取られた事実を拡声器で叫び続ければ――、ブラフと考える可能性が高いかもだが、さらに動揺が広がることが予想される。


「 討ち取った敵将の亡骸は、何処にあるんですか? 」


「 外に安置しておりますよ。今――、鎧を剥ぎ終わり丁重に葬る為の準備を進めておる最中かと・・・実は女の将でしてな。しかも本人(いわ)く、皇帝の子らしいのですがね。本来ならば(いくさ)中とはいえ、使者を立て亡骸を帝国に引き渡す方がいいのでしょうがね 」


「 へっ? 」

「 えっ? 皇帝の子? え? じゃあ王国で言うと、オリヴァー殿下が最前線に出てきてて戦死しちゃったってのとほぼ同義ですか? 」


「 ええ、まぁ本当に皇族ならばそういうことになりましょうな 」


―――――――――――――――――――


 皇族のフリをした、ただの女兵士という線も可能性としてはあるのかもしれない。というニュアンスをあえて伝えたが、ドノヴァンは嘘偽り無しと判断していた。


 滲み出る気品、気高さ、そういった高貴な者特有の雰囲気を確実に纏っていた。

 一般兵が、一朝一夕で真似できる次元のモノではなかったのは確かだ。


 さらに彼我(ひが)の戦闘能力の差は、然程(さほど)無かったと思われる。

 いやむしろ、あの皇女が万全の状態で、もし一騎打ちを受けていたなら――敗北していたかもしれない・・・と、ドノヴァンは考えていた。

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