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第10話 約束を果たしに

 もうすぐ完全に日没となる。

 夕方も終盤に差し掛かっていた。


 10メートル以上あるんじゃないかと思われる巨大な壁の内部の街は、多くの飲食店らしき建屋や商店が連なって喧騒(けんそう)を極めていた。私は思わずたじろぎながら、大隊長さんのすぐ後ろについて雑踏に足を踏み入れた。


 すれ違う人たちの視線が痛い。

 多分、この服装のせいだろうか・・・


 ワンピースにスニーカーという軽装は、こちらの世界の人たちにはかなり奇異に映るのかもしれない。


 あえて奇をてらった若者のファッションだと思い、物珍しさで見ている可能性もあるが・・・

 多分違う。私自身に纏わりつく、根源的な異質感を感じ取っている。そんな気がする。


 それから、街の内部に入ってすぐに気づいたことがある。


 それは、看板などに書かれている文字が全く読めないということだ。そういえば今まで、文字らしき文字を見かけなかった。


 まさに異世界の文字だったのだ。


 カノンさんが書いて持たせてくれた、紹介状の中身を確かめるなんてことは勿論していない。

 そんな無粋な真似はできないし、する必要もない。

 この分だと確認のために開いて見たとて・・・多分読めない。

 いや読めないどころか、見たことも無い文字で書かれているのだろう――と、容易に想像がつく。


 盲点だった・・・

 皆、当たり前のように日本語を流暢(りゅうちょう)に喋っていたので、只の一度も文字のことなんて気にかけたことすらなかった。

「 文字が読めない 」「 文章を理解することができない 」今後このマイナス面がどのような悪影響をもたらすのかは未知数だ。


「 ハルノ殿、わたしが宿をとるので暫くはそこに御宿泊ください。侍女のマリアをこのまま御側付きと致しますので、何なりと命じてお使い下さい。我ら二人は明日朝一番で騎士団長に面会し、その後王城に出向き拝謁(はいえつ)のお許しを頂いて参ります。一旦別行動となります 」


 ――まぁ、そりゃそうか

 話があるからってすぐに会える人じゃないよなー王様って

 手順を踏まないとダメだよな。


「 では私は明日、カノンさんたちから頼まれた例の商人さんのお(うち)にお伺いしてみますね 」


          ▽


 何だか、かなり高級っぽい宿に着いた。


「 え? ここですか? すっごい高そうだけど・・・ 」


「 ああ、お気になさらず。必要経費ですからな。ここは陸人族の出自の良い従業員しか居りませんから、比較的高級ランクの宿に属しているとは思います。でも意外と料金は安いんですよ! 」


「 え? 」


 ――陸人族? つまり普通の人類ってことかな?

 ってことは別の種族も存在すんのかな? まだ見たことないけど・・・

 どんな種族がいるんだろ・・・?


「 とにかく気になさる必要はございませんよ。おいマリア、粗相(そそう)のないようにな? 」


「 はい、心得ております 」


 宿帳に記入するのはマリアさんに任せた。そして支払いは前払いで、大隊長さんが大小の銀貨っぽい貨幣で済ませていた。


          ▽


          ▽


 一夜明け


「 すみません。私が拒否したばっかりに・・・やっぱ乗合馬車に乗ればよかったですね。こんなにも遠いとは 」


「 いえいえ! ハルノ様にはゆっくりと王都を観光してもらい、この王国を気に入っていただきたいのです! 徒歩の方がゆっくりと見て回れますしね! 」

「 実を言いますと、この王国を気に入ってくださるように敬意を持って御案内しろ――と、大隊長(ハオカー)様から仰せつかっておりまして・・・ 」

「 たとえ(わず)かな間だとしても、ライベルク王国と領民に御愛着を持っていただけるように、しっかりと御案内させて頂きます! 銀貨もたっぷり持たせていただいておりますので、何か欲しい物が御有りでしたら遠慮なく仰ってください! 」


「 そ、そうですか、お気遣いありがとうございます。あのマリアさん、その~、様付けとかしないでもらえると・・・逆に気を使ってしまうので 」


「 そういうわけにはまいりません! ハルノ様は騎士団の大切なお客様ですので。それに「 お客様 」と呼ぶよりは、親しみをもってお名前を呼ぶ方が良くはないでしょうか? 」


「 う~ん、まぁ確かに・・・ 」何だか妙に納得してしまった。


          ▽


 南門エリアにある宿からこの東門エリアまで、徒歩で1時間以上かかっている・・・


 王都の中心にはドデカい壮麗な白亜城が鎮座していた。どこに居ても視界に入るくらいに巨大だった。だがそのお陰で、方角を間違えることは少ないだろう。


 しかし、どんだけ広大な街なんだろうか・・・


          ▽


「 マリアさん~、この道で合ってますよね? 」


「 はい。お借りした地図によりますともう少しです! ここから二つ目の十字路を右に折れると、右手に大きな四階建ての建物があると思います。そこが目的のカインズ商会みたいです 」


「 やっとか・・・結構な距離歩くのは覚悟の上でしたが、まさかこれほどとは! あ~マリアさん喉乾いてない? 大丈夫? 」


「 あ、はい、大丈夫です! ハルノ様はご所望ですか? 」


「 ああそうか、私が気を利かせるべきでしたね。ちょっと休憩しましょう! あそこのお店の看板の絵柄って、あれって何か飲み物のマークでしょ? あそこで何か飲みましょ 」


「 承知しました 」


 文字は読めなくても、さすがにデザイン的なものは理解できる。


          ▽


 飲食店でパインジュースに似た果汁を絞ったドリンクを、マリアさんと一緒に飲み一息ついた。


「 このジュース、温いけどめちゃめちゃ美味しいな! 」


「 そうですね! 普段グリム砦ではこんなに美味しい飲み物はまず飲めないので嬉しいです! ハルノ様ありがとうございます! 」


「 待って! お礼言うのは私の方でしょ? 支払いしてもらってるの私の方だよ!? 私、無一文だからさ・・・ってかさ、大隊長さんとかから私のことは何て聞いてるんですか? 」


「 規格外の大魔道士様で、大賢者様とお聞きしております。くれぐれも丁重にもてなすように――と、厳命されております! 」


 ――大魔道士と大賢者って、どんな違いがあるのだろう?


「 魔道士と賢者って同義語? ってかこの世界――いやこの国では、その魔道士とか賢者って呼ばれる人たちは結構いるんですか? 」


「 う~ん、いえ・・・少なくとも賢者と称される方はかなり希少な存在だといつぞや聞いたことがあります。魔法自体を扱える者はそれなりにいると思います。私はあまり詳しくはありませんが、其の筋で有名な魔導士はすでに宮廷のお抱えとして要職に就いてらっしゃるとか。申し訳ございません、そのていどしか知識がなく・・・ 」

「 あっ、ちなみに呼称ですが、一般的に魔道士の上位に位置するのが賢者だと聞いたことがあります 」


「 へぇ~、なるほどねー。しかし大隊長さんには上手く説得された感じがするなぁ。結局この王国のために私にも働いて欲しいのかもね 」


「 ハルノ様は何か旅の目的がお有りとお聞きしましたが――、もしそれを達成されましたら、その後は是非! 王国で過ごして頂きたいとわたし個人も願っています! 」


「 そ、そうですか、考えておきますね・・・ 」


          ▽


 一際背の高い大きな建物が見えてきた。


 石造りの立派な商館、もうこの建物を見るだけで大商会と判断できる。


「 すごいなー・・・もしかしてめちゃめちゃお金持ちなんじゃ? 」


「 そうですねー、王都内でも五本の指に入るとは聞いておりますね 」


「 へぇ~ 」


 怪物のような猛獣を(かたど)った装飾金具が咥えたドアノックハンドルを、ゴンゴンゴン! と打ち鳴らした。


 しばらく待つと――

 上部の小窓がスライドし、扉内側から男性の声がする。


「 どちら様でしょう? ご予約の御客様ではありませんね? 」


「 あ、はい。王都のハンター組合所属のカノン・ヘルベルさんからの要請でお伺いしました。カノンさんからの紹介状はこちらです 」


「 お預かりしても? 」


「 あ、はい。勿論 」


 私はスライドされた小窓から手紙を差し入れ、内側の男性に手渡した。


「 では、少々そこでお待ちください。旦那様にお取次ぎ致しますので 」


          ▽


 唐突に扉が開いた。


「 失礼致しました! どうぞお入りください! 」


 初老の男性が、「 ささ、こちらです 」と言いながら先導してくれた――

 

 長い廊下を進み、突き当りの部屋へと案内された。


「 少々こちらでお待ちください! 」


 見るからに高級なソファーに座るようにと促された。


 ソファーもテーブルも、(ふち)の装飾が非常に凝っていて(きら)びやかだ。


 小窓から日が差し込む比較的暖かい部屋だった。

 応接間だろうか?


 しかしこのソファーだけでも日本で買う場合、下手すると百万円以上とか・・・

 いや! もっともっと値が張るんじゃないかと思えるほどに高級感満載だった。


「 これはこれは! 大変お待たせしてしまい申し訳ございません! わたくしがこの商館の主――ウィリム・カインズと申します 」


 恰幅の良い中年男性が、先ほどの初老男性を伴って現れた。

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