エリザベス・マクラーレンの考察 ~その2~
「ならぬものならぬのです」の著者、エリザベス・マクラーレン。
歴史学者なのに、なぜか外交問題に引っ張り出される!?
過去の資料から考察を重ね、検証する彼女の出した結論とは?
私はエリザベス・マクラーレン、このフルフレール王国の歴史学者にして、教育本「ならぬことはならぬのです。」の著者でもある。
そんな私は今、執筆机にへばりつきウンウンと頭を悩ませている。
事の起こりは昨日の事。至急、との事で陛下に呼び出されたのだ。
公ではない、との事で陛下の個人的な応接室に呼ばれた。
そこには陛下だけではなく、外務大臣のエドアール様も居られた。
その時は(ん?何故、一介の歴史学者の私に外務大臣との面会の必要性が?)と思ったのだが、
話を伺ってみると然もありなん、と言う話だった!
でも、でもですね!わ た し は、歴史学者なんですよ!!!
外交問題なんて範疇外なのだ!!
よそに振って下さい!
と、言いたかった。でも言えなかった。だって貴族だもん。陛下にお願いされたら、嫌だ!って言えないし…
願いされたら、嫌だ!って言えないし…
外務大臣にも
「すまぬ。おぬしに、外交を任せようとは考えておらぬ。だが、もしかの方をこの国に迎え入れた場合、今後どの様な事が起きうるのか、わしらにはとんと想像がつかん。知恵を貸して欲しいのだ。」
と、言われてしまったのだ。
そりゃあ、私も陛下の忠実なる臣下ですからね。
考察しますよ!すればいいんですよね!
はぁ~
と力ないため息を吐きつつ、渡された資料を読み始めた。
事の起こりは、我が国の東側の海上には華栄国という島国がある。
華栄国は、我が国が西の大陸と交易をする際には船の補給等で寄港したりさせてもらっている関係上、それなりに良い関係を築いている国だ。そこの皇女様が我が国に移住したい!とご希望なされてる…っと。
なんで、皇女様が?
と思ったら、皇女様の結婚相手に問題があるらしい。
かの国は比較的、身分制度が緩いらしく、皇族の方々は主に神事を司り、摂政が政を行っているそうだ。
で、問題のその皇女様、神事の帰りに出会った商人に一目惚れしたそうな。
初めは、皇女様の初恋が叶って良かったね~ と、周囲も暖かく見守っていたらしい。
が、身元を調べれば調べるほど怪しい案件がてんこ盛り。
女性問題やら金銭問題、それも本人だけで無く親族一同、何かしらの問題を抱えているという…
んなの、お付きの女官や侍従が先に調べておけよ!怪しい人物を皇女様に近づけちゃイカンだろうが!!
と思わず愚痴る。
さすがに皇女様のご両親である王弟殿下ご夫妻も、慌てて二人を引き離しにかかったそう。
が、時既に遅し。皇女様はすっかり意固地になってしまい、
婚儀を認めてくれぬのなら、皇族の身分を捨ててかの商人の妻に
なる!
と言い出す始末。
本来、他の国々なら相手の商人を、サクッと始末して終わりのはず。
が、華栄国では神事を司る国の為、己の利益などで人を殺めた場合、神が力を貸してくれなくなるそうな。
神が力を貸してくれなくなるそうな。
過去に皇族がその様な事をしでかした時、神力を失い神事が行えなくなってしまったらしい。
で、他国に…と言うわけか。
丸投げすんな!!
いかん、いかん。つい感情的になってしまった。
問題は華栄国の国民感情だ。
華栄国は島国だったお陰で、侵略されたりする事が無かった。
そのせいか、比較的穏やかな国民性で勤勉、真面目で国としての評価は比較的高い。
の評価は比較的高い。
その国民の評価は現在、真っ二つに分かれているらしい。
『姫様の初めての恋。是非、応援して差し上げたい!』
という、頭お花畑派と
『姫様はご自分の責務を放棄されている。ましてや、相手が悪すぎる。賛成出来ない。』
という良識派。
そして一番の問題は皇女様が婚姻される時に下賜される「化粧料」
の事だ。一般庶民には一生かかっても得られない程の化粧料が、かの商人たちに渡るかもしれない…
商人たちに渡るかもしれない…
と聞かされた国民たちは
お花畑派ですら
『ご両親が反対されているのだから、化粧料は辞退すべきでは?』
と言い出しているらしい。
が、これは皇女が可愛くてならない、王弟殿下夫妻がせめて「化粧料」があれば、粗末にはされないのではないか、との思いから下賜して差し上げたい模様。
粗末にはされないのではないか、との思いから下賜して
差し上げたい模様。
自分達の資産ならいいんじゃない?
とも考えたが、どうも華栄国の国民の税から徴収したものらしい…
あ、そりゃあ不味いわな。
考えながら、次の資料を手に取る。
ふむふむ、『皇女様語録』?
これを読めば、かの方の考え方が分かるかな?
『私にも自由があっても良いと思うのです』
『いつも誰かに見張られている生活はもう、こりごりなのです』
『私の自由を尊重して欲しいのです』
読めば読むほど、この皇女様のヤバさが浮き彫りになる…
この方、うちの国に来るの?
ヤバくない?
この方々の訳の分からない言動で陛下や大臣の方々が右往左往される様子が想像できる。
私は早急に過去の他国の王女様がたが降嫁した際の資料をかき集めた。
三日後、私は取り纏めた論文を陛下に提出した。
その後、王宮の廊下でエドアール様と行き会った。エドアール様は私を見るなり、ガシッと両手を取り、
私を見るなり、ガシッと両手を取り、
「助かった!礼を言う!本当に助かった!ありがとう!!!」
と、こちらがドン引くのもお構いなしで、私の手をぶんぶんとぶん回す。
「お、お役に立てて何よりです。」 それより手離して?
皇女様は、我が国にいらっしゃる事は無かった。
私が取り纏めた論文には次のような事が書いてある。
フルフレール王国は華栄国と違い、身分制度が厳しいこと。
我が国に来ると言う事は来賓扱いになり、平民にはならないこと。
来賓扱いということは、それなりの身分が発生し、常に周りには警備の者、侍女、侍従がついて回ること。
警備の者、侍女、侍従がついて回ること。
我が国と華栄国とでは国民の姿形が違う為、街に降りれば余計に見られると思われること。
見られると思われること。
また身分を持つと言う事はそれなりに義務が発生し、常に公務が生じること。
など、皇女様が望んだことは何一つ叶えられる環境には無い事を懇切丁寧に書いてみた。また、周辺国も全て同様であることも付け加えておく。またエドアール様には
「確か、華栄国の周囲には人が殆ど住んでいない島々が幾つもありましたよね?そこに宮でも建てられて住まわれるのはいかがでしょう?そこでしたら、皇女様の望みが全て叶うのではないかと、愚考いたしました。」
と伝えてみた。
やれやれである。
今後、皇女様が、王弟殿下夫妻がどの様に考え、行動されるのかは分からない。
分からない。
身分を持つということは不便でもある。が、その身分によって守られてきたことも事実。
皇女様はかの商人に出会う前までは、立派に神事を執り行い、国民にも親しく尊敬されていたそうだ。
華栄国の島々であれば、多分今まで執り行ってきた神々のご加護もあるだろう。
あるだろう。
どうか、皇女様が幸せであるように願うばかりである。
金の切れ目が縁の切れ目、とならないことを切に願う。