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バーバリアンズ・ウォー  作者: 川崎 春
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08

「一撃で破壊する事は出来ないんですか?」

「できるのは弱い装備だけだ。武将クラスのプレイヤーの装備は、金をかけて何重にも強化されているから、弓の一撃で壊れる事はない。カンナギの補助魔法で弓の威力を上げてからだとすると、戦場が既に混戦状態になっていて、味方に当てるリスクが高まる。だから最初に連続で同じ装備に当てる事が必要なんだ」

 弓の国宝にガムランですら手が届いていない理由が分かった。弓武者と言うのは、癖の強い、とても難しい職業なのだ。……しかし、逆にその難しいを可能にすれば、国宝に手が届く事になる。

 あうん道場で精密射撃の訓練を受けながら、その事を考える。

 ガムランが目指しているのは、射撃を連続で当てる事による装備破壊だ。自分一人で全てを担う。

 ガムランは何年もプレイしていて、弓武者としては一番能力が高い。だったら……同じ方法で私が敵のコマンダーやジェネラルの装備破壊をするのは難しい。国宝には手が届かない。

 辻の話では捜査はすぐには終わらないから、長期的にゲームに居られるポジションがあると他のプレイヤーとの交流もし易くなると言われた。やはり、武将クラスに成り上がり、国宝を持てるならそうすべきだろう。

 カンナギの魔法の発動を待っていたら混戦している中で味方を攻撃する事になる。高威力で武将クラスの装備を破壊する様な攻撃を食らわせたら……あまりに恐ろしくて考える気にもならない。

 ゼンに聞いたのだが、武将クラスになると、武者鎧の専用カスタマイズには信じられない様な金額がかかっているらしい。曰く、

「もうすぐ武将になれるって頃にさ、彼女に振られたんだ。結婚するつもりで資金貯めてあったんだけど……全部装備に突っ込んだよ」

 味方の装備を破壊すれば、関係も見事に破壊される未来しかない。他のプレイヤーも、武将でないにしても皆金をかけて装備をカスタマイズしている。同士討ちだけは決してあってはならない。

 思っていた事を訓練中に『うん』に聞いてみる事にした。ゲームを提供している側の情報は、Tルームに居るAIならどこの国でも持っていると辻に言われたからだ。

「射った矢を、狙った目標に必ず当てる方法はありますか?」

 『うん』は怖い顔のままだが、少し面白そうに笑って答える。

「そんな方法があったら、ガウラは滅亡しませぬ」

「そうなのですが……弓武者になってしまった場合、弓の活躍場所があまりに限定的で、このままでは国宝に手が届かないのではないかと」

「アシガルの内から国宝をお望みか?」

「やるなら高みを目指そうかと」

 『うん』は、人間臭い動きで少しだけ間を開けて言った。

「プレイヤーの皆様が、勝手にサムライの能力を決めつけておられる。本来は武者を武器で振り分ける様に設定されておりませぬ」

 一瞬、『うん』をまじまじと見てしまった。

「刀と弓を使うのがサムライと言う職業の本質。その両方を極めるのが難しいからと、分けてしまったのは、今おられる武将方であって、開発も運営も、その戦法が予測された通りの方法だとは公言しておりませぬ」

「それは……よく分からないので詳しく教えてください」

 『うん』は怖い笑顔を浮かべたまま語り始める。

「そもそも、ガウラの兵士には壁役と呼ばれる重装兵が一切存在しませぬ。故に他国以上に連携が重視されまする」

「武将達も同じ事を言っていました」

 そこから、今まで武将達が言っていた事を覆す様な話になった。

「然り、されど本来望まれていた戦法は、オンミョウジもカンナギも、ニンジャやサムライと共に戦場で小隊として移動行動し、戦闘に臨む事でありまする」

「あの、オンミョウジとかカンナギって……簡単に死んでしまうから前線に出してはいけないって聞いているのですが」

「機動力はありまする。重鈍なナイトが追いかけまわすのは不可能でございまする」

「ニンジャやサムライの動きについていける程の素早さだって事ですか?」

「然り。なれど、誰も試そうとされなんだ」

 知らないだなんて。……何故こうなってしまったのか分からない。ただ唖然としてしまう。

 『うん』は笑みを深めて言った。

「建国当初からの流れを話しまする」

 ゲーム開始時の事だ。『うん』は語り始めた。

 アルベスタが重装兵として最初に編み出した戦法、それがファランクスだ。壁となるナイトを横一列に並べ、密集させて前進してく方法は、背後からの槍投擲による援護もあり、圧倒的な強さを誇っていた。

 この戦術に打ち勝つ方法を見出す事が出来ずに一国が滅び、今のウルファになった。そのインパクトがあまりに強かった事もあり、ガウラはファランクスに対抗すべく、ファランクスを参考に今の戦術を編み出したのだ。

 つまり前衛と後衛に兵を分け、壁役のナイトが重く動きが遅い事を逆手に取り、素早い忍者と素早さの高いサムライのコンビネーションでかく乱し、オンミョウジ。カンナギの援護を受ける際には背後に戻り、また前線に戻っていく。弓武者は混戦になる前に弓を射ると、後衛の護衛を担う。

 開発の想像もしていなかったこの分担でファランクスに対抗できてしまった事もあり、戦法は今に至るまで継承される事になったらしい。

 『うん』は話し終えると、好奇心の見え隠れする笑顔で聞いて来る。

「セリーヌ殿、これを周囲に話せますかな?」

 言えない。しかしこのままにも出来ない。

 新参者で、モチベーションを上げる為に担ぎ上げられているアイドルの様な状態が今の私だ。担がれている以上、『何も出来ない』事が前提なのだ。武将達はだからこそ親切にしてくれるし、必死で守ってくれているのだ。圧倒的なキャリアを持ち、独自の戦法でケールやゼンは国宝も手に入れている。誇りを傷つけるのは目に見えている。……良い方向に向くとは思えない。

 とはいえ、今アルベスタからの報復と言う名目で起こっている残虐行為は、あくまでもガウラありきで起こっている。ガウラが滅びてしまったらその名目を失い、異常な事態は収束してしまう。そうなったら、VR警察の探している犯罪者は全く違う別のゲームへと消えてしまう。犯人を取り逃がす事になる。そうならない為には、ガウラを存続させなくてはならない。

「高みを目指す方法を考えてあがかれよ。さすれば、滅びを脱する方法も見つかりましょうぞ」

 精密射撃の訓練を受けながら、頭の中はずっとこの事で頭が一杯になっていた。それでも、射撃に関しては銃で慣れている事もあって、一日経たずに課された訓練を終える事が出来た。

 これは捜査にも関わる事なので、まず辻に指示を仰ぐ事にした。

 捜査が絡んでいなければ、ガウラがこのまま滅びていくのを見ていても構わないのだ。しかし何としても犯人が居るなら捕まえなくてはならないから、ガウラの存続を優先しなくてはならない。

 口頭だと時間のかかる話になるので、報告書の形式にまとめて外部メモリにクリップする。そして辻に連絡した。少し緊張するが、個人アドレスに接続する。

『こんにちは、田辺です』

 制服姿のアバターで敬礼する。私は非番だが、辻は仕事中の筈だからだ。予想通り、辻も制服姿で現れた。

『どうした?』

『あの、現在の捜査に関して報告書を送りますので、時間がある時に読んで頂けますでしょうか』

『何か急ぎの事でもあるのか?』

『できれば数日以内には方針を決めたいと考えています。しかし自分では判断しかねる部分があって……意見をお聞きしたいのです』

『分かった。今晩会えるか?晩飯がてら話をしよう』

 直接会わなくても……と言いたいが、これは避けてはいけないのだった。

『分かりました。連絡を頂ければ出て行きます。今日は非番ですので』

『分かった。じゃあまた夜に』

『はい』

 夜までに家の中の事も片付けておきたい。そんな訳で、私は連絡が来るまで部屋の掃除をしたり洗濯を片づけたりして過ごした。普段できない所までしっかり掃除をしたらすっかり気分が良くなったのだが……。

 辻と落ち合う事になって服を選んでいる内に、気分が一気に落ちていく気がした。

 前に付き合っていた彼氏との初デートの時の気持ちは覚えている。どうしたら自分が良く見てもらえるか、必死で考えて服もかなりとっかえひっかえしたし、髪型も色々とアレンジした。

 それが……今では苦痛だなんて。

 別に辻の事がどうこうではなく、男に会う為に着飾るのが嫌なのだ。……誘っている様に取られたら怖いとか思ってしまうのだ。とんでもない自意識過剰だ。

 自己嫌悪と同時に、想像以上の重症だと自覚して更に気分が低迷する。VRだったら、嫌になったらすぐに消えられるし、触れられた所で服を脱がしたりもできない。だから安心できるのだが、現実はそうじゃない。

 結局、低いテンションのまま、普段着に少し盛った程度の化粧と髪型で出かける事にした。気合はいれたくないが、失礼にならない程度にと言う感じだ。

 辻はいつも通り、シャツとジーンズと言うラフな服装で待ち合わせ場所に立っていた。キッチリされていたら合せないといけないので、内心それにほっとする。

「調子はどうだ?」

 辻が挨拶も早々聞いて来る。この前、具合が悪いと言って別れた事を心配してくれていたのだろう。

「先日はすいませんでした。大丈夫です」

「そうか、じゃあ行こうか。和牛が売りのすき焼き屋が予約してある」

 高そうだ。まぁ、特別手当もあるし、バーバリアンズ・ウォーでは凄いチップが入って来るみたいだから別にいいかと思い直す。

「分かりました」

 現在、日本では飲食店では前払いが基本になっている。ビッフェ形式や食べ放題以外の食事も事前予約時にメニューから料理を決めて金を支払う事になっており、座席のリザーブも行われる。予定通りに行けない場合には食材費・リザーブ代として飲食店の物になる。返金は無い。

 ちなみに、食事は適性カロリーが各自設定されている為、それをオーバーする量の食事は提供されない事になっている。予約時にそれも計算されているのだ。だから焼肉が食べ放題でも、いつまでも食べられると言うものでもないのだ。何故そんな事になったのか……外食産業が国民の病気を誘発しているとして、大規模な集団訴訟が起こされたのだ。その結果、各自の一食当たりのカロリー上限を超える物を提供しない様にすると言う法律が制定された。……好きなだけ食べたいなら、テイクアウトか自炊をしろと言う事だ。

 VRベッドでバイタルを計測されながら暮らす様になってからの事なのだが、腰痛、関節の痛みを抱える人が激減したと言う。

 支払いをしようと思っていると、辻に止められた。

「奢る」

「でも……」

「その代わり、余分に俺に回して」

 ……外食での裏技。複数人数で来た場合、人数分の総カロリーで食事が出される。どう食べたかまでは精査されない。

「いいですよ」

 すき焼きはおいしい。こっちとしては少し量が減っても、食べられるならそれでいい。小腹が空いていたら、家で食べればいいのだ。

「じゃあ、交渉成立だ」

 辻に案内された焼き肉屋は、料亭の様なたたずまいで、一人だったら敷居が高くて入れなかったと思う。部屋に通されると、食べごろの状態で卓上にはすき焼きの鍋が置かれていて、いい匂いをさせながらグツグツしていた。

 辻と差し向かいに座り、一人暮らしでは絶対に食べないなぁと思って鍋を見ていたら、辻が言った。

「実は、一人だと食べに来辛いから巻き込んだ」

 同じ事を思っていた事に、何だか気持ちが緩んだ。

「分かります」

 笑って応じると、辻はほっとした様子になった。

「事前に聞こうかとも思ったんだが、今日は仕事が押していて余裕が無かった」

「平気です。基本的に好き嫌いはありませんから。それで、仕事が押していたって……」

 聞いても良いのか躊躇して最後まで言えずに口を閉じると、辻が答えた。

「例の犯人だよ。特定出来て来たんだが、色々問題があってね。まず複数のアカウントを所持している」

「そんな事出来るんですか?」

 一つのゲームに対して一つのアカウントは固定だ。マイナンバーと紐づけられているから、複数持つ方法など無いとおもっていた。

「ある。VR上の犯罪は大体が、スクラップアカウントで行われている」

「スクラップアカウント……」

 聞いた事はあるのだが、詳しい事を知らない。辻は私の様子からそれを察したのか説明してくれた。

「誰かがゲームで遊んでいたとして辞めたとする。その辞めてしまったアカウントの情報をサルベージし、なりすましで使用する。それがスクラップアカウントだ」

「サルベージって何をするんですか?」

「ゲームにハッキングをかけ、何か月もゲームにログインしていないアカウントを探す。ゲーム内部の古い情報にアクセスし、見つけ出す。犯罪者にとっては沈没船のお宝の様な物だから、サルベージアカウントと呼ばれている」

「使われている人は気付かないんですか?」

「気付かない。プレイヤーにとって、飽きて遊ばなくなったゲームはほぼゴミだ。それでも……思い出してやるかも知れないとか、育成したアバターの記録が大事だとか、色々な理由でそのままにされている。ハッキングを防ぐ防壁も強固になっているから、そう簡単な事ではないんだが、技術的に出来る人間は居る」

「そうなんですか……」

 VRゲームに関してはVRベッドの仕組み……脳と直接、電気刺激によるやり取りをするが故に、ハッキングはほぼ不可能とされていた。しかしVRベッドを分解し、その中の信号のやり取りを辿り、サーバーにハッキングをかけると言う事が実際には行われていると聞いている。VR内部の事件はニュースレベルの事しか知らない。ゲームの使わなくなったアカウントをそんな風に乗っ取る人が居る事自体、考えもしない。……皆そうだから、スクラップアカウントが出来て、使われてしまうのだろう。

「犯人が同じアバターで動き回っている訳ではない以上、潜入捜査をしている者同士が繋がっているかどうか、いつも監視されていると思った方がいいだろう。もう少ししたら、美月にもこちらの捜査に加わっている面子と顔合わせを予定していたが……今日それを取りやめる事が決定した」

「元々、お互いに持つ情報を最小限にする為に顔合わせはしないと思っていたのですが」

「うん、しかし……その、他の奴らが、俺だけずるいとか言い出してな……」

 どれだけ男所帯なのか。私は奪い合いされる様な女ではないのに。第一、会ったところで今の私の状態では相手も不愉快にさせるだけだろう。

「いっそ、うちの課と合同で飲み会とかした方がいいと思いますよ」

「……いきなりそういうのやるのもな。今、君の顔が割れると困る」

 警戒している。ずっと引っかかっていたので、思わず言う。

「まるで、警察内部に犯人が居るみたいですね」

 辻は真顔になった。

「うちの課ではないがな」

 箸でつまんでいた肉がポトリと落ちて溶き卵に沈んだ。

「そんな……」

 困った様に眉尻を下げて辻は言った。

「俺達としても、歯がゆい思いをしているんだ。難しい問題で、上も頭を悩ませている」

 手から箸も落ちた。

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