コロナ19のワクチン接種方法の違いによる影響差
2020年の1月頃、新型コロナウィルス(以下、コロナ19)が中国の武漢で流行し始めているというニュースを初めて耳にした時、僕は「あ、これはまずいな」とすぐに思いました。
この当時はまだ毒性がどれほどでどんな性質があるかなど、まだまだ詳しい事は全然分かっていなかったのですが、それでも「感染しても、人によっては無症状、或いは軽症で済む」という特性だけは伝わっていたからです。
ネットワーク科学という分野があるのですが、この分野で出された結論の一つに、「ショートカットリンクがあると、ネットワーク全体の距離が一気に縮んでしまう」というものがあります。
この理論は、感染症のネットワークにも適応が可能で、つまりは仮にショートカットリンクが活きていた場合、ウィルスにとって人間社会はスモールワールドになってしまって、実質的に感染力が上がってしまう事を意味するのです。
通常、毒性の強い感染症は、このショートカットリンクが非活性状態です。罹患した人は苦しくてあまり動けなくなるからですね。ところが、コロナ19は「人によっては無症状、或いは軽症」なのです。つまり、ショートカットリンクが活きている状態です。ならば、感染力も自ずから高くなってしまいます……
コロナ19を知った時、僕はエッセイでこのショートカットリンクの話を訴えようかと思ったのですが、結局は書きませんでした。
「これ、果たして、訴える価値があるのだろうか?」
と、それに価値があるのかどうか悩んでしまったからです。
情報発信のタイプは、大きく二種類に分けられると僕は考えています。
一つは、小規模であっても、価値のある情報発信。
例えば、健康情報、心理的なケア、斬新なアイデア、思想、思考。
こういった情報は、例え小規模であったとしても、情報が伝わればそれなりの効果を生みます。
もう一つは、大規模でなければ、価値のない情報発信。
社会全体を動かす経済理論、大ヒットを狙った商品の宣伝、その他政策に関わる情報。
こういった情報は、範囲を大規模にしなくては効果を生みません。小規模ではあまり意味がないんです。いえ、長期間を経ればそれでも効果があるかもしれませんが、少なくとも短期間ではあまり意味がないでしょう。
国のトップの方にいる人達が僕のエッセイを読んでいて、参考にしているとかだったら話は別ですけどね。
「コロナ19がスモールワールドの特性を持つ」
という情報は、後者だろうと僕は判断しました。“訴えても少なくとも短期間では効果は出さないだろう”。短期間で効果がなければ政府の対応を変える事はできません。ならば、訴えなくて良いのじゃないか?
そう考えたのです。
それに、です。
ネットワーク科学の知識がなくても、「感染しても無症状か軽症」という特性が恐ろしいというのは直感的に分かるだろうとも思っていたんです。
エイズでも、無症状のキャリアが感染を広げてしまう点が問題視されていましたし、無症状で感染者の判断がつかなければ、感染を防ぐのは非常に難しくなるのは自明です。
だから、放っておいても日本政府もWHOも危機感を持って対応してくれると思ってもいたんです。
ところがどっこい、日本政府もWHOも初期の対応は非常にのん気でした。そして「大丈夫なの?これ?」と思っている間に一気に状況は悪化していきました。
それで僕は後悔したんです。
一か八かで、訴えておけば良かった、と。
その後、2月になって、投稿した短編が偶然にバズったので、その期間だけ一時的に高くなった情報発信力を利用して僕はそれを訴えたのですが、ちょっと遅かったですね(因みに、この頃はまだ世界中に蔓延するかどうかは分かっていませんでしたが、僕は予想しています)。
それで、実を言うと、今回もこのエッセイを書こうかどうしようか悩んだのですが、一応、書いてみることにしてみたのです。
(前置き長いですね)
ただし、先の
「ショートカットリンクにより、コロナ19がスモールワールドの特性を持つ」
という話は、僕はほぼ確信していたのですが、今回はあまり自信がありません。
「もしかしたら、こんな事もあるかもしれない」
程度の内容なんで、あまり信頼しないでください。
コロナ19の感染が広まり始めていた時期から既に、「一度、治って陰性になったはずの患者が再び発症し陽性になる」という現象が報告されていました。
そしてその後、コロナ19の抗体が消える現象が報告されるようになり、このような不穏なニュースが聞こえてくるようにもなったんです。
「コロナ19は抗体が消えてしまうので、ワクチンの効果は、それほど期待できない」
この話が本当なのだとすれば、ワクチンの接種方法に、考慮しなくてはならない点が出て来てしまいます。
イメージしてください。
誰か一人にワクチンを接種したとしましょう。仮に一か月間しか抗体が維持できなかったとするのなら、一か月後に再び感染リスクが出て来る事になります。
今現在、高齢者や基礎疾患を持つ人達から優先させてワクチンを接種してもらおうという話が出ていますが、そのような方法を執った場合、「抗体が消えた後に感染してしまう」という危険がある事になります。
もちろん、周囲の人間が全員、ワクチンを接種していて、コロナ19に感染しないのであれば、心配はいりません。
それは、コロナ19が終息している状態と言えるからですね。
ただし、この状態にする為には、交流のある地域単位で時間差を設けず、一気にそこの住む人達ほぼ全員が、ワクチン接種をする必要があります。
地域の範囲を見定めるのがかなり難しそうですがね。
もちろん、地域間で移動する人もいるでしょうから、その人に対しては検査を積極的に行っていくなどの対応が必要でしょう。
――がしかし、これにはリスクもあります。
時間が経ち、そのコミュニティの人達から抗体が消え去ってしまったとしましょう。そこに外部からコロナ19がやって来たなら、再び感染が始まってしまうのです。またワクチンの接種が必要になってしまいますね。
このリスクを回避するには、逆説的ですが、コロナ19を、地域内にある程度、感染させておくなんて方法が考えられます。
抗体が消えない内に、再びコロナ19に感染したなら抗体が維持されるでしょう。それを利用するのですね。無症状の人なら、コロナ19に感染し続けても大きなリスクはありません。ですから、敢えて、若い世代や健康な人のワクチン接種は後回しにし、この効果を狙ってみるのも“有り”かもしれません。
まぁ、つまり、恐らくは、今実行しようとしているだろうワクチン接種計画のままという事ですが。
もっとも、一回で終わらせるのではなく、定期的に複数回、ワクチンを接種するといった方法でも「抗体を維持し続ける」事は可能ですが(この場合、財源の問題や、そもそもワクチン確保の問題が出てきます)。
まとめると、以下のような感じになります。
・地域単位でのワクチン接種
メリット:抗体が消える事による感染リスクを抑えられる。
リスク:コロナ19が完全に終息した後、外部からのコロナ19の侵入によって、感染の再流行が起こる可能性がある。
・感染リスクが高い人優先のワクチン接種
メリット:地域内にコロナ19感染者が存在し続ける事で、コロナ19の抗体を維持し、再流行を防げる。
リスク:少人数ながら、コロナ19の抗体が消えてしまった人が罹患してしまう。
一応断っておくと、この結論は不確かな情報に基づく大雑把な予測に過ぎません。情報が変われば、また別の結論に至ります。例えば、「抗体が消える」と言っても、一体、何割の人にそれが起こるのかは分かりません。滅多に起こらないのであれば、それほど気にする必要はないでしょう。
そもそも、情報自体に何かしらの誤りがある可能性もありますしね。
実際、コロナ19に感染したあるニュース番組のスタッフ達に検査を行ってみたところ、数か月経っても抗体は消えていなかったそうです。
ただ、だからと言って、「抗体が消える」現象は起こらないと断定するのも早計でしょう。
その人達の抗体が消えていなかった理由が「再感染によって、抗体が維持されたからだ」とするのなら、それも分からなくなるからです(テレビ関係者のコロナ19感染率は高いですしね)。
そして、これと同じ理由で、集団免疫の獲得を目指したスエーデンで起こっている“感染の第二波が来ない”という現象を説明できるのじゃないかとも思うのです。
有名な話ですが、スエーデンは、敢えて都市封鎖を行わず、多くの人に免疫力を付けさせ、その人達を感染の壁とする事で、集団免疫の獲得を目指しました。
初期の頃は、多くの死者を出してしまい、国際的にもスエーデンの集団免疫政策は批判を受けましたが、その後、社会的距離を取る対策を加えた結果、感染者数を抑える事に成功しています。
そして、感染の第二波は、2020年9月現在の時点では、起こっていません。
これが集団免疫を獲得したからなのか、他の何かの原因によるのか、様々に議論されていますが、もし仮にコロナ19の「抗体が消える」現象がコロナ19の感染の広がりに大きな影響を与えているのであれば、或いは、スエーデンに注目するよりも、他の国でどうして“感染の第二波”が起こってしまっているのかを考えた方が、正解に辿り着く近道になるかもしれないとも思うのです。
ある程度、感染が広まってしまった国では、当然ながら、抗体を持ち、免疫ができている人がかなりの数、存在しているはずです。
つまり、集団免疫を獲得しかかった状態ですね。
ところが、仮に「抗体が消える」という現象が本当に起こるのであれば、感染者が隔離されてコロナ19ウィルスに触れなければ、その免疫は消えてしまいます。そしてそれによって、感染第二波が起こり易くなってしまうのです。
皮肉なことに、コロナ19の感染を防ぐ為の都市封鎖のような隔離処置が、コロナ19の感染第二波を起こり易くしているのですね。
しかし、スエーデンではこのような隔離処置は執られていません。ウィルスにさらされるのをある程度は許容している状態です。それによって、コロナ19の抗体が維持され、感染第二波が起こっていないのではないでしょうか?
日本では第二波が起こっていると言われていますが、それでも感染の拡大は予想されいていたものよりも低いレベルに留まっています。そして日本も、社会的距離を取る政策は非常に緩く、スエーデンと似たような状態だと言えます。
つまり、日本も、コロナ19をある程度許容する事で、爆発的な感染拡大を抑え込んでいる状態なのかもしれないのです。
公衆衛生等によって、感染拡大の速度をある一定レベルに抑えられるのであれば、コロナ19を完全に消失させるのではなく、それを許容してしまった方が、被害は低く抑えられるという事なのかもしれません。
つまり、“感染速度<集団免疫獲得速度”の状態を維持できるのならば、高レベルの社会的距離を取る政策を実施しない方がメリットは高いのかもしれないんです。
もちろん、少なくとも日本の場合は、社会の全域において、集団免疫を獲得しかかっていると考えるのは少々希望的な推測が過ぎるでしょうが、一部地域においてはそんな状況にある可能性は捨てきれません。
また、実はヨーロッパなどに比べて、日本は“ご近所付き合いが少ない”のですが、それが感染速度を遅くしている可能性もあるのではないかと僕は考えています。
更に、まだ考慮するべき点はあります。
巷で言われているように、日本人が他の社会の人達に比べて清潔であるという数値的な証拠を僕は観た事がありません。だから、それがコロナ19がそれほど感染拡大していない事の原因かどうかは不明であると考えているのですが、明確に数値として示せる関係がありそうなデータも実はあるのです。
それは、“肥満率”です。
肥満率は、日本はヨーロッパやアメリカなどに比べて著しく低いんです。
肥満が様々な病気の原因になるのはよく知られた話です。そして、コロナ19は基礎疾患を持つ人で重症化し易い。仮に健康な人の方が免疫を得やすいと仮定するのなら、これが感染拡大を抑えられている一因になっている可能性はあると思います。
ただし、これらが正しかったとしても、感染速度が、集団免疫獲得速度を追い抜いてしまう危険はあるでしょう。
これから、秋、冬となり、ウィルスの感染が広がり易い時期になれば、“感染速度>集団免疫獲得速度”となってしまうかもしれません……
……なんて、もっともらしく書いてみましたが、一応、しつこくもう一度断っておくと、これは情報不足の状態でのかなり乱暴な推論です。
最初に書いた通り、「もしかしたら、こんな事もあるかもしれない」程度の内容である点はどうかご了承ください。