無理強いは良くないデスケド。
学校が冬休みに入った。それと同時にアウスの家へ向けて出発した。年末には家に戻らねばならないので、家に帰ってゆっくりする暇もなかった。
「雪だと進みが遅くて嫌だわ」
ルキナは窓に肘をついて言った。今回はルキナとユーミリアの二人で行くことになった。マクシスも連れて行きたいところだったが、彼がチグサから何日間も離れることにたえられるわけがなかった。だからといって、マクシスを連れて行きたいばかりにチグサを連れて行くこともできなかった。マクシスは、アウスに会ってちゃんと収穫が得られるのかどうかもわからない、そんな行き当たりばったりな旅にチグサを連れて行きたがらない。だからこの二人なのだ。
「でも、おかげでコンサートがなくなりましたから」
ユーミリアは冬休みも仕事が入っていた。しかし、コンサートの予定日が大雪の予報で仕事が延期になった。そのおかげで、帰りの時間に余裕ができた。
「イベント延期とか、ファンがかわいそうだけどね」
コンサートを楽しみに仕事や勉強を頑張ってきた人たちもいるはずだ。そう言う人たちからしたら、延期は必ずしも嬉しいものではないだろう。ユーミリアは仕事にやりがいを感じているが、ルキナと一緒にいられる時間が増えるのが単純に嬉しいようだ。
「楽しみは後にとっておくものですよ」
「そうだけど。頑張ったのにご褒美をお預けっていうのもなかなか複雑なもんよ」
「そうですかー?」
ユーミリアはルキナと向かい合って座っていたが、ルキナにくっつきたくなったのか、立ち上がってルキナの横に移ろうとした。しかし、ルキナはユーミリアに手のひらを見せて止める。
「長時間座ってなきゃいけないのに狭いのは嫌よ」
「先生のケチ」
「ケチでも何でも良いわよ。快適な旅は適度な距離感からよ」
ルキナは腕を組んでふんっと鼻から息を吐いた。
「それに、いくら仕事がなくなったからって、帰る時間はそんなに変わらないわよ。もともと仕事がなくなったのは雪が降るからでしょ?大雪で帰れなくなったら困るじゃない」
ルキナはそう言って目を閉じた。到着までまだまだかかるので、寝て行こうと思ったのだ。
「先生、寝ちゃうんですか?」
ルキナが体の力を抜いたのを見て、ユーミリアが残念そうにする。ルキナが寝てしまったら話し相手がいなくなってしまう。
「寝てる間に何かしたら許さないから」
ユーミリアが残念がってもルキナは寝るのをやめるつもりはない。外の景色も変わり映えしないだろうし、寝て時間をつぶすのが一番だ。
ルキナは寝ようと思って目を閉じたのだが、この辺りは道が舗装されていないのか、ずいぶん馬車が揺れる。ガタガタと馬車が揺れるので、姿勢が定まらない。眠気が全くないわけでもないのに、全然寝付けない。
ルキナが馬車の揺れにイライラし始めたところで、ユーミリアが隣座った。ルキナは文句を言ってやろうかと思ったが、起きていることがばれたら、またしばらく話が続いてしまうだろう。それでは、いつまでたっても寝られない。ルキナは寝たフリのままユーミリアを無視する。そうしてルキナが静かにしていると、不意にユーミリアの手が肩に触れた。そして、ルキナのことを横に倒す。ゆっくりとルキナの上半身を倒すと、ルキナの頭を自分の足の上に乗せた。膝枕だ。
「ユーミリア、どういうつもり?」
ルキナは体を動かさず、ユーミリアの膝の上に頭を乗せたまま尋ねる。
「あれ?起きてらしたんですか?」
ユーミリアの驚いた声が上から降ってくる。
「最初から寝てないし、そんなに体を触られたら起きちゃうわよ」
ルキナは意地悪のつもりでユーミリアの膝の上にいすわっていたのだが、ユーミリアは一向にルキナをどかそうとする気配がない。
「でも、これで寝られますよね」
ユーミリアは、ルキナを本気で寝かせるために自分が枕になることを選んだのだ。ルキナの体の上に手を置き、「寝て良いですよ?」と言う。
ルキナは上半身を起こそうと座席に手をついた。が、ユーミリアがルキナの体をおさえつけ、起きれないようにする。
「そんな姿勢で何時間もいるつもり?あんた、体カチコチになっても知らなわいよ」
「本望です」
「Мなの?」
ルキナが呆れていると、ユーミリアが「先生のためならこのくらいたいしたことないってことです!」と怒った。ユーミリアは強情で、ルキナを絶対に起こさないように妨害する。ルキナは諦めて、ユーミリアの体に体重を預ける。
「馬車がもう少し広ければ足も伸ばせたんですけどね」
ユーミリアがルキナの床に下ろされている足を見て言う。
「馬車が大きくなったら、今度は狭い道が通れなくなるのよ」
「じゃあ、縦に長くするのはどうですか?」
「それだと今度は曲がれなくなるわよ。角とかカーブがあったら、狭い道も通れなくなるわけだし」
ルキナは向かい側の椅子をぼんやりと見つめながら、ユーミリアと話をする。くだらない内容で、特に頭を働かせるような話ではないので、ルキナはだんだん眠たくなってくる。馬車は相変わらずガタガタと揺れているが、椅子に体を密着させ、ユーミリアの脚というクッションが間に入っているので、以前ほど揺れは感じない。ユーミリアの言う通り、この姿勢ならちゃんと眠られそうだ。
「まあ、これはこれでありですよ。私が先生の枕になれますから」
ユーミリアがうふふと嬉しそうに笑う。ユーミリア曰く、馬車が狭いから、ルキナに膝枕をしても許されるのだと。
「膝枕がどうこう騒いでた人の所業には思えないわね」
ルキナは小さく欠伸をしながら言う。ルキナがシアンに膝枕をしてもらった時、ユーミリアは、シアンを変態だと罵ったり、ルキナを恥ずかしがらそうとからかったりしていた。しかし、今のユーミリアはまるで膝枕を崇高なものと崇めているかのようだ。ルキナが態度の違いを指摘すると、ユーミリアは「見るのとするのとでは全然違いますよ」と強く言った。
「あの時は、先生が照れるのを見たかっただけで。あと、あの人が羨ましくて、つい」
「ユーミリアって、男の人が嫌いなの?」
「え?なんでですか?」
ルキナは、眠気であまりちゃんと頭が働いていない。いつもなら絶対に聞かないようなことまで聞いてしまった。でも、ユーミリアはただ不思議そうに首を傾げるだけで、特に不快に思っている様子はない。
「なんでって…ユーミリアは覚えていることを、他の人は覚えていないのよ。ノア様とか、マクシスとか、タシファレドとか。結婚までするんだから、それなりに好きだったんでしょ?だから、ユーミリアはショックを受けているんじゃないかなって。男の人を信じられなくなるくらいに」
ルキナがぼんやりとした頭で言うと、ユーミリアは少しの間をおいて「それで男嫌いになるっていうことはありませんよ」と言った。
「記憶がないのは男の人だけじゃないですし、結婚はできなくても、大切に思っている友達はいました。だから、男の人だから嫌いっていうことはありませんよ」
ルキナは、たしかにと思った。ユーミリアには同性の友達もいたはずで、彼女たちもまたユーミリアのことなど知らない状態でユーミリアの前に現れる。冷静に考えてみれば、人生を繰り返すうちに男嫌いになるという結論は飛躍しすぎだ。
「もし、先生から見て私が男嫌いに見えたのなら、ただ単に先生にいい加減な気持ちで近づく人たちが許せないだけですよ」
「それって、私の逆ハーレムを邪魔したいってこと?」
「違いますよ。むしろ協力的ですよ」
最近はシアン奪還作戦で頭がいっぱいで、逆ハーレムのことなど頭からすっぽ抜けていることが多い。だが、ユーミリアがルキナの逆ハーレム計画に協力するという話をしたのはたしかだ。ルキナはその話をユーミリアが忘れているのではないかと疑ったが、ユーミリアはちゃんと覚えていると答えた。「本当は邪魔したいですけど」と小さく本音をもらしてはいたが。
「でも、先生。それをわかっているなら、あの人に早く会いに行くべきなんじゃないですか?」
そう言って、ユーミリアは窓の外を見た。白色の世界が後ろに後ろに流れていく。細かい雪がふわふわと降っていて、時々、窓にぶつかって、一瞬だけ小さな小さな雪の結晶が見える。
「あの人が先生の記憶のことを知っているなら、先生がちゃんと覚えていることを早く知りたいと思いますよ。まあ、あの人が自我を保っていればの話ですけど」
血の盟約がシアンの意思まで捻じ曲げてしまうのかはわからないが、契約がなくとも、シアンがマインドコントロールを受けている可能性や、記憶操作を行われている可能性は考えられる。ユーミリアはそこまで言って、ルキナをシアンに引き合わせるのが必ずしも正解ではないかもしれないと思い始めた。
一方で、ルキナはユーミリアの言葉を寝落ちしそうな頭で処理していた。すると、突然、パアッと光が差し込んだかのような、世界が広がるような気分になった。
「そうだわ」
ルキナは急に目が冴えて、上半身を起こした。ユーミリアは、ルキナを膝に押し付けたりせず、ルキナから手を離した。
「シアン、言ってた。うちを出て行った日。私たちが会う前に戻るだけなんだから、悲しむことないって。シアンは私の記憶からシアンが消えることを知っていたのね…!」
ルキナは興奮気味に言った。座席に膝をのせ、ユーミリアに迫る。ユーミリアはルキナの勢いに圧倒されて、何も言えなくなっている。その時、ガタンとひときわ大きく馬車が揺れた。
「わっ」
「先生、危ない」
ルキナがバランスを崩して椅子から落ちそうになる。そのことにユーミリアが素早く反応し、ルキナに手を伸ばした。結局、ユーミリアがルキナを抱きとめ、ルキナは座席から落ちずにすんだ。
「そっか。そうよね。誰だって、知り合いに自分のことを忘れられたら嫌だよね。だから、ユーミリアは早く行けって言ったのね?」
ルキナは怪我の危険があったにも関わらず、ユーミリアの腕の中で何事もなかったかのように話を続けている。
「あんまりそういうことは考えていなかったんですけど」
ユーミリアは、ルキナから手を離しながら答えた。ユーミリアはルキナ中心で考えていたので、シアンのためにとはあまり思っていなかった。しかし、シアンが安心した表情を見せてくれたなら、ルキナにもプラスの影響があるだろう。それはつまり、結果的にルキナのためになるということだ。だから、ユーミリアは、「でも、そうですね」と微笑んだ。
「それじゃあ、計画通りに年明けのパーティに決行ね」
ルキナは椅子に座り直して言った。ユーミリアがそれを聞いて、「計画より早めることはないんですね」と少し残念そうに言った。ルキナの興奮具合を見て、今すぐにでも城に忍び込みに行くと思ったのだろう。
「パーティはすぐよ。早めるほどの差じゃないわ。それに、焦って失敗したら元も子もないわ」
ルキナはまた焦りを見せるユーミリアをたしなめる。ユーミリアはしょんぼりしながらも、素直に頷いた。
「ところで、先生」
ユーミリアが気持ちを切り替えて甘え声を出す。ルキナは、ユーミリアが面倒くさいモードに入ったので、嫌そうにユーミリアを見る。
「今日、お泊りする宿では、一緒に寝ましょうね」
ユーミリアがぴとっとルキナにくっついた。
「そうね。同じ部屋だものね。やっぱり、快適な眠りを手に入れるためには、一人一つベッドがあるべきよね」
ルキナが無表情で言うと、ユーミリアが不満そうに「何か勘違いしてません?」と、さらにルキナに顏をよせてきた。
「ダブルのお部屋をとったんですよ」
「ダブル?」
「大きなベッドが一つの…」
「意味は知ってるわよ。なんでダブルなのか聞いてるのよ」
「え?先生と一緒に寝たいからですよ」
ユーミリアは、当然のようにルキナと一つのベッドで寝ると宣言する。ルキナに拒否権はないと言わんばかりだ。
ルキナは不意に、シアンと一緒にホテルに泊まった時のことを思い出した。ルキナが本を出している出版社が開催したパーティに参加したとき、ルキナはシアンのベッドに無理矢理押し掛けた。その時は酔っていたし、シアンをドキドキさせてやろうとか、ちょっとしたからかいのつもりだった。しかし、シアンは嫌がっていた。無理強いは良くなかったなと、ルキナは反省する。
「先生、寒いですか?どこかのお店で休憩しますか?」
ルキナが不機嫌にふくれていると、ユーミリアがルキナの体調を心配しだした。ユーミリアが変なことを言い出すからこんな顔をしているのに、ユーミリアは自分のせいだとわかっていないようだ。ルキナは、そのことにさらに腹を立て、同時に諦めのような気持ちになり、「大丈夫よ」とぶっきらぼうに答えた。
「じゃあ、どうしてそんなに思いつめた顔をしてるんですか?」
ルキナがせっかく怒りを抑え込んだと言うのに、ユーミリアはしつこく食い下がってくる。ルキナはじとっとユーミリアを見る。
「あんたに宿を用意させたのが間違いだったって後悔してたからよ」
ルキナはついに我慢がきかなくなり、ユーミリアのせいだと言う。しかし、ユーミリアは全く意に介していない様子で、「先生、せっかくの旅行なんですから楽しみましょうよ」とはしゃぐ。ルキナと二人で遠出というのが、ユーミリアをここまでハイテンションにするのだろう。
ユーミリアがそんな状態だったので、途中で立ち寄った街でも、馬車の中でも、終始、ルキナはユーミリアに振り回せることになった。こんなことなら無理にでも馬車で寝ておけば良かったと、ルキナは思った。
「ここが私たちの愛の巣ですね」
ホテルに到着し、予約していた部屋に入るなり、ユーミリアがベッドに飛び込んだ。ユーミリアが言っていた通り、ダブルベッドの部屋だ。大きく、綺麗で、とても良いベッドなのはわかるが、どこを見てもベッドは一つ。
「本当にやるとは思わなかったわ」
ルキナはため息をつきながら、こうなった以上は仕方ないと思った。事前に予約をしていたのに、部屋を変更したいとごねるのは、ホテルの人の迷惑になってしまう。ルキナは諦めてユーミリアと同じベッドで寝ることにする。
「先生、先にお風呂どうぞ」
ユーミリアがルキナにお風呂を譲る。ルキナは、ユーミリアの気遣いを素直に受け取り、遠慮せずに先に入浴を済ませる。ルキナは早めに出ることを意識してささっと入浴をすませ、ユーミリアと入れ替わった。ユーミリアもルキナが思っているより早く出てきた。ルキナと同じように、普段より短い入浴時間だっただろう。
二人が髪を乾かし終え、いざ寝ようかという時、ルキナはベッドに入らず、ソファに寝転がった。
「最初にも言ったけど、快適な旅には適度な距離感。私はこっちのソファで寝るわ」
ベッドに上ろうとしていたユーミリアは、ルキナの言葉を聞き、ソファに駆け寄ってきた。
「駄目ですよ、先生。それだと疲れが取れません」
「でも、ほら、同じベッドで寝てたら、どちらかが寝返りうつ度に揺れるわけじゃない?それはそれで疲れは取れないと思うんだけど」
「いえいえ、このベッドのスプリングを甘くみないでください。体がどんな向きでも安定して支えてくれて、そのうえ、振動が起きにくいんです。つまり、二人で寝ても寝返りで起こされることはありません」
「そんなの気休めにすぎないわ。それに、私は寝る場所にこだわりないし、スプリングについて熱弁してたユーミリアがベッドを使うべきだと思うわ」
ルキナは「おやすみ」と寝る姿勢に入る。すると、ユーミリアがさっと右手をあげた。
「それなら私が!」
ユーミリアがソファで寝るから、ルキナにベッドは譲ると言うのだ。ルキナは心の中でガッツポーズをし、ソファから足を下ろした。
「じゃあ、よろしく」
ルキナは、すれ違いざまにユーミリアの肩に、ポンと手を置き、去って行く。これでルキナがベッドを一人で使い、ユーミリアをソファにおいやることができた。これはルキナの作戦通りだ。
「先生!?」
ユーミリアが驚いたようにルキナを見る。だが、ルキナは既に布団の中に入って、練る体勢に入っている。ユーミリアは、自分がソファで寝ると言ってしまった以上、ルキナのいるベッドに乱入はできず、渋々ソファに寝転がった。部屋が静かになった。
ルキナは、バサッと掛け布団を押し上げ、上半身を起こした。そして、ソファで寝転がっているユーミリアの背中に話しかける。
「ユーミリア、ごめんって。冗談よ」
ルキナはほんの少しユーミリアをからかっただけだ。本気でソファで寝かせるつもりはない。
「風邪ひくからこっち来なさい」
ルキナが手招きするが、ユーミリアは動こうとしない。ユーミリアにも聞こえる声量で言っているので、聞こえていないということはないはずだ。それなのに、ユーミリアはベッドに飛び込んでこない。
もう寝てしまったのかと思って、ルキナはベッドから下り、ソファに近づいた。すると、ユーミリアが天に向かって、ルキナに向かって腕を伸ばした。
「それじゃあ、先生、私をベッドまで運んでください」
ユーミリアがお得意の甘え声を出す。
「は?あんた自分で歩けるでしょ?」
ルキナが拒否すると、ユーミリアは、ルキナの冗談で深く心が傷ついたから、そのお詫びと思って運んでくれと言った。ルキナも、ユーミリアを傷つけてしまったのなら申し訳ないと思うが、それにしては元気そうだし、「ベッドまで運べ」なんてつけあがりすぎだ。
「勝手にそこで寝てなさい。風邪ひいても看病しないからね」
ルキナはふんっと鼻を鳴らして顔をそらす。また一人でベッドに戻ろうかと思った。しかし、ユーミリアはずっと無垢な瞳でルキナを見上げている。ルキナは、おおげさにため息をつき、ユーミリアに向かって手を伸ばした。
「お姫様抱っこが良いです」
ルキナがユーミリアを運ぶ気になったのだとわかると、ユーミリアが要望を言った。ルキナは、ソファの傍にしゃがみ、ユーミリアの体とソファの間に腕を入れた。そのままぐっと力を入れ、持ち上げる。ルキナは、木登りで多少筋肉が鍛えられたからか、女の子一人持ち上げられないほど非力ではない。楽々というわけではないが、ユーミリアをお姫様抱っこするのは難しいことではなかった。ユーミリアも、ルキナに負担をかけすぎないように、体をルキナの体に密着させ、腕をルキナの首の後ろに回して、しっかり掴まっている。そのおかげもあって、ルキナは余裕を持って、ユーミリアを運ぶ。
ユーミリアは、ルキナに余裕があるとみたのか、首の後ろに回していた腕を解き、ルキナの体と反対側に重心を傾け始めた。ユーミリアの体重は変わっていないはずなのに、急に腕にかかる負荷が増え、ぐんと重く感じる。
「うわっ、落ちる!」
ルキナは、衝撃と体感的な重さの差の影響を受け、ユーミリアを落としそうになる。ルキナはダッと地面を精いっぱい蹴り、体を前進させると、ユーミリアをベッドの上に落とした。ルキナの反射的な動きのおかげで、ユーミリアを地面に落とす事態は避けられた。ルキナもベッドに倒れこみ、ほっと息を吐いた。少しの間、早まった鼓動を落ち着けるようにベッドに体を預けていたが、話をする余裕が出てくると、体を起こした。
「私を殺す気?」
「ごめんなさい」
ルキナがユーミリアを睨むと、ユーミリアがすかさず謝った。ユーミリアは、悪ふざけがすぎたと、小さくなる。ユーミリアはほんの少しの出来心でやったのだ。ルキナは、外で宿泊することでタガが外れてテンションが異様に高くなってしまう気持ちはよく理解している。だから、ユーミリアのことを叱るのはほどほどに、二人仲良く布団に入った。
「先生、楽しいですね」
「そうね」
二人で天井を見上げながら、たくさん話をした。たわいもない会話ばかりだったが、底知れぬ満足感があった。ルキナの「楽しい」という言葉は嘘ではなく、本当に楽しいと思っていた。




