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今後の方針デスケド。

「みんな、私の記憶の話は理解してくれたと思うけど、他に説明しておくべきなのは秘議会のことかしら」

 ルキナは皆の顔を見回した。マクシスが懐中電灯を消してしまったので、また皆の顔が暗闇に消える。明かりがなくなると、なんとなく音も消えるように感じる。調理室にはルキナの声だけが響いている。シーンとなった空気の中、不意にタシファレドが手を挙げた。

「その説明は俺がする」

 タシファレドが秘議会の説明を買って出た。ルキナも、この件に関してはタシファレドが説明するのが適任だと思ったので、その申し出を受け入れた。

「せっかくだから、ゴール家に行ってわかったことも教えると良いんだけど」

「ルキナ嬢、任せてくださいよ」

 ルキナたちの話を聞き、アリシアが「ゴールさんのところに行ったのも関係があったの!?」と驚いた。タシファレドは、次期ロット家当主としての知見を広げるためと称して、ゴール家に話を聞きに行った。アリシアはそれについて行ったが、まさかさらに深い意味があるとは思っていなかったようだ。

「秘議会っていうのは、簡単に言うと、裏で国を牛耳っている奴らのことだ。所属メンバーや目的など、まだわかってないことは多いが、一つ確かなことは、国王であるルイス様の近くにいるということ。ルイス様を思うままに操ることで国を支配しようとしているのかはわからないが、ルイス様はおそらく秘議会の存在を知っていて、近くにいることも許している」

 戴冠式直後、チグサに集められた場で最初に秘議会の話をした時は、タシファレドが一番秘議会のことを知らなかった。だが、今は、おそらくルキナ以上に秘議会の情報を得ている。ルキナが部屋に籠っていた夏休みの間、タシファレドが秘議会の調査を主に行っていたのだから当然ではあるが、ルキナはなんだか不思議な感じがした。

「秘議会と思われるいかにも怪しい奴らが城の中を歩いていても、ルイス様は何も言わないそうだ。まあ、このあたりは親父からの情報だ。普段は国務従事員に紛れているらしいが、時々、城内で黒いローブを着た団体を見かけるらしい」

 タシファレドの説明を聞いて、シェリカが「あ」と何かに思い至ったように声を出した。戴冠式の日、シェリカが城の中で迷った時に見かけた不審者も黒色のローブを着ていた。シェリカは、あの時見た人たちが秘議会だったのかと納得した。

「ノアルド様も見たことあるんじゃないですか?」

 タシファレドは、ノアルドの方を見て尋ねた。すると、ノアルドがこくんと頷いた。ノアルドも、何度か見かけたことがあり、その正体が気になっていたようだ。

「ノアも王に聞いたことがあるんだ。あの人たちは誰だって。でも、王は気にするなとしか言わなかった」

 ミッシェルが、頷きだけで答えたノアルドに代わり、ルイスに黒ローブの正体を尋ねた時の話をしてくれた。それを聞き、タシファレドは満足そうにする。タシファレドには、父親からの情報しかなかった。だが、ノアルドとミッシェルのおかげでさらに確証のある情報となった。タシファレドはそのことが喜ばしいのだろう。なかなか証拠を掴ませてくれない相手だから、ちょっとした情報も確かなものになるのは嬉しいことだ。

 ノアルドたちからの情報提供を喜ぶタシファレドをよそに、ミッシェルが話を続けた。

「シアンの奴が話しているところも見たことがある。どんな話をしていたかまでは聞こえなかったけど、シアンは怒ってた気がする。少なくとも、仲が良さそうではなかったな」

 ミッシェルの話を聞き、ハイルックが呟いた。「リュツカが騎士になったのは秘議会に脅されたから?」と。たしかに、秘議会が何らかの脅しをシアンにかけていた可能性が考えられる。チグサからリュツカ家の呪いの話を聞いていたが、シアンがルイスに従っているのは、それだけが理由ではないかもしれない。直接の関係はないにしろ、秘議会ともひと悶着ありそうだ。

「あの、私は、兄上が秘議会に操られているのではないかと思うのですが」

 皆が、タシファレドから聞いた話を頭の中で整理していると、ノアルドがおずおずと言った。ノアルドは、王になってから別人になったように感じるらしい。話し方が変わり、城の従者に対する態度も変わった。ただ態度がでかくなったというわけではなく、常に上に立つ者の気質が溢れている。国王という立場になって、自ずとそうなっただけだと納得しようとしたが、それだけでは説明できない何かを感じているらしい。

 ノアルドは自信がなさそうに発言したが、彼の中ではほぼ確信していた。ノアルドが誰に対しても敬語を使うようになったのは、ルイスがそうしていたからだ。ノアルドが意識して真似をしていた部分が兄から消え失せたことによる違和感は小さいものではない。

「私たちもそう考えてます」

 突拍子もない話だと思っているノアルドに、ユーミリアが勇気づけるように言った。

 ルイスが自分の意見もろくに言えない気弱な性格だということは多くの国民が知っていたし、ここにいる者も含め、戴冠式での堂々たる態度とはっきりとした物言いには、皆驚いたものだ。ルイスが別人に感じるのは、ノアルドだけではない。

 それに、ユーミリアはチグサから、ルイスがそのように別人格になってしまった原因は秘議会にあるという話を聞いている。今のルイスに全く本人の意思が反映されていないのかは不明なので、操られていると明確なことは言えない。しかし、ノアルドの言っていることは、ユーミリアたちが考えていることとほとんど相違ない。

「でも、俺たちには、今すぐどうこうできるわけじゃないんですよ。情報が少なすぎる。チグサ嬢ならもっと詳しいこともわかってるみたいだけど、口留めされているので、とにかく自分たちで調べるしか…。」

 ユーミリアの言葉を引き継ぎ、タシファレドが言った。

「もう一つ方法はある」

 地道に調べる以外の手段はないと、気を落としているタシファレドの声を聞き、チグサが言った。チグサの澄んだ一声は、空気が浄化されたように感じるほど心地の良いものだった。皆がチグサに視線を集めると、チグサはまた口を開いた。

「あのカードの謎を解いて」

 チグサはルキナの方を見て言った。

(カードの謎?)

 ルキナは首を傾げる。チグサは何かを確信して、ルキナに向かって言っている。でも、ルキナはチグサが何の話をしているかわからない。

 チグサは自分の口から説明できない。本当はチグサもすぐにでも全て話してしまいたいと思っているだろう。しかし、呪いがそれを許さない。半分の力とはいえ、呪いがチグサの体を蝕んでいる。だから、チグサは違う方法でルキナに何かを伝えようとしてくれているのだろう。チグサはルキナにヒント与えてくれている。だが、ルキナはそのヒントの意味が理解できない。

「どういう意味でしょうか」

「さあ…。」

 皆、チグサが何を言い始めたのかわからず、頭を悩ませる。近くの者にどういう意味か尋ねるが、首を横にふるばかり。誰もチグサの考えを読むことができない。

「チグサ様はシアンの従姉なんですよね?」

 不意に、アリシアが問いを投げかけた。

「チグサ様がいろいろなことを知っているのは、チグサ様がリュツカ家と関係があるからですか?」

 アリシアが、特に誰に対してというわけでもなく、疑問を口にした。チグサは口数が少なく、あまり話してくれることがない。チグサに関する質問でも、多くが他の者が答える。だから、アリシアはチグサについての問いなのに、チグサの方は見なかったのだろう。

「そうだよ」

 アリシアの予想通り、マクシスがチグサの代わりに答えた。

「姉様は、リュツカの家のことと王族との関係を知っている。他にもいろいろ知っている。でも、話したら姉様が危険な目にあう。僕は少しでも早くシアンを取り戻したいと思うけど、姉様の命を天秤にかけることは絶対にしない」

 マクシスが確固たる決意で言った。マクシスは、友人であるシアンを助け出したいという気持ちは強くもっているが、それ以上に大切な姉を守りたいと思っている。友人と姉を天秤にかけるようなことはしないが、チグサの身に危険が及ぶとわかれば、途端に動いてくれなくなるだろう。でも、それは皆も同じだ。仲間に危険がせまれば、身動きがとれなくなる。誰も、呪いを打ち破って秘密を語ろうとしないチグサや、秘密よりチグサの身を重要視するマクシスを責めたりしない。

「そうだな。そういう天秤のかけ方はすべきじゃない。ノアが知らないのにっていうところが若干気になるけど」

 場を和ませようとしたのか、ミッシェルがははっと笑いながら言った。しかし、一言余分に、王族は知らない秘密をなんでリュツカの人間だからといってチグサが知っているのかと皮肉まがいなことを言ったので、チグサに睨まれる。

「謎を解いて」

 チグサが少し怒り気味に言った。ミッシェルが手のひらをチグサに見せて、どうどうと言うように手を上下させた。チグサは、それ以上表情を変えることはなく、またいつものように無表情になった。

「それで、今後の方針なんだけど、やっぱり情報集めをしなくちゃいけないのよ」

 ルキナは椅子に座り直して言った。廊下からの光も暗くなってきた。日が落ち始めているのだろう。さっさと必要なことを話してこの場を後にしなくてはならない。

「そこで、まず、アリシアちゃん」

 ルキナがアリシアを指名すると、突然名前を呼ばれた驚きもあり、アリシアから裏返った「はい」という声が返ってきた。

「この石を調べてほしいの」

 ルキナはポケットから白色の石を取り出した。サイヴァンからノアルドの手に渡り、ノアルドが操られた元凶と考えられる石。

「本当は専門家とか、ちゃんとしたところで調べられたら良かったんだけど、なんせこっそりと動いてるからね。そういう怪しい動きはできないのよ。だから、アリシアちゃんと鉱物研究部の力を借りたいの」

 アリシアは、ルキナの話を聞きながら、石を手に取り、指の中でころころと転がした。

「暗がりでは石の特徴もわからないので、何とも言えませんが…普通の石みたいですね」

 アリシアが石を親指と人差し指でつまんだまま、上に掲げた。下から見上げるように石を見るが、変な石だとは思えないと言う。でも、石を調べろと言うルキナの言葉を疑うことはせず、「これも意味があるんですよね?」と笑って承諾した。

「ここ一か月くらい肌身離さず持ち歩いたけど、それっぽい害はなかったし、そんなに心配はしてないんだけど、一応、気をつけてね」

 ルキナはアリシアに石を取り扱う時は油断をしないように言う。アリシアは真面目な顔で頷いた。

「先生、なんでそんな危ないことを…!」

 ユーミリアががしっとルキナの肩を掴んだ。ルキナが自分の体を使って安全性を確かめたと言ったので、それがユーミリアの気に障ったらしい。

「もし、あの石が危ない石だったらどうするんですか!?そんな危ないことせずに、せめて相談とか。そしたら私が代わったのに」

「それでユーミリアが犠牲になったら一緒じゃない」

「そうではなくて、先生が危険なのがいけないんですよ。先生、いつも言ってるじゃないですか。何かあってからでは遅いって」

「無事だったんだから良いでしょ」

 ユーミリアがルキナを説得しようと熱くなっている。ルキナはそれを落ち着かせるように、椅子に座らせ、肩をぽんと叩いた。

「そんなに危険だってわかってたらそもそも私もやらないし、大丈夫よ」

 ルキナが笑うと、ユーミリアは「次からはやる前に言ってくださいよ」と口をとがらせつつも諦めた。

 ルキナは、ユーミリアに向けていた目線をノアルドとミッシェルに向けた。

「ノア様とミッシェルは、城内の動きに目を光らせてください。特に、黒いローブとルイス様。でも、深追いはしないで」

 ルキナの指示に、ノアルドが真剣な顔で頷いた。ルキナがこの場を仕切っていることに誰も文句は言わない。それどころか、皆協力的で、ルキナの方に視線を集めて指示を待っている。

「バリファ先輩は、引き続き、誰が病院に口留めをしたのか調べてください。先輩のことは心配してませんが、動きに勘付かれないようにお願いします」

 ルキナから指示をもらうと、すかさずベルコルが頷いた。ベルコルは、特別、真剣な顔をしたわけでもなく、なんだか余裕がありそうだ。

「タシファレドはカンベルさんの方を」

「ああ、わかってる」

 ルキナがばっとタシファレドに鋭い視線を向けると、タシファレドはルキナの言葉を途中で遮った。口角を上げ、言われなくてもわかっていた、と。

「あとはどうやってシアンに会いに行くか、ね」

 ルキナは声を意識的に低くしながら、チカの方を見た。チカはずっと目を閉じていたらしいが、ルキナの視線を肌で感じたのか、目を開いた。

「シアンの部屋は?」

 チカの声はとても寝起きとは思えないほどはっきりとしているので、寝ていたわけではなさそうだ。チカは短い言葉で、シアンの城での部屋はどこかと尋ねる。

「えっと…北側の…。」

 ノアルドは、自分に向けての質問だと気づくと、口頭で説明しようとした。しかし、言葉で説明しきるのは難しく、すぐに止まってしまう。チカは、ノアルドの様子を見て、カバンから紙とペンを取り出すと、さらさらと何かを書き始めた。マクシスが慌てて懐中電灯をつけ、チカの手元を照らした。

「すっご」

 ミッシェルがチカの手の動きを見て驚いた。チカは、何も見ないで、城の見取り図を描き始めたのだ。さらさらと迷いはなく、まるでずっと城内で生活してきたかのようだ。実際に、城内で生活していたノアルドとミッシェルも驚いているので、チカの記憶力は常識を超えていることがわかる。しかし、チカがすごいのは記憶力だけではない。チカは、城に行ったことはない。それでも、これほど忠実に再現ができるのは、人から聞いた情報だけで想像できるほど、空間把握能力に長けているからだ。チカの城内見取り図は、ルキナとユーミリアの話を聞いて作られている。ルキナだって、最初にこの能力を見た時はたいそう驚いたものだ。

 皆があっけにとられていると、じきにチカは見取り図を描き終えた。それを黙ってノアルドの前に差し出し、シアンがいるという場所に印をつけさせた。

「三階」

 チカは印のついた見取り図を見て呟いた。ルキナはそれを聞いて、「木登りしたら忍び込めそうね」と冗談交じりに言った。すると、ノアルドがその手は使えなくもないと言った。

「そのあたりは木が植えてあるので、登ってシアンの部屋の窓に近づくというのは使えない手ではありませんよ」

 ルキナはノアルドの話を聞き、シュンエルに木登りは得意かと尋ねる。シュンエルは、試したことがないからわからないと答え、不思議そうに首を傾げた。

「キールは木登りが速かったわ。もしかしたら、シュンエルさんにも木登りの才能があるかも」

「でも、私はお城に近づくことすらできませんよ」

 ルキナは、ぽんぽんと話が進むのが楽しくて、焦って決めなくても良いような話もこの場で決めてしまおうとする。そんなルキナに引っ張られるように、シュンエルが早口になる。

「じゃあ、私の練習に付き合って」

「先生がやるんですか?」

 話が、ルキナが木登りをするという流れになってくると、ユーミリアが慌てて止めに入る。さっき、ルキナに危険なことはするなと言ったばかりだ。木登りで怪我をされても困ってしまう。

「木から落ちたらどうするんですか?それに、木登りはイメージほど簡単じゃないですよ」

「だから、練習していくんでしょ」

 ユーミリアの必死の制止も虚しく、ルキナはもう木登りをする気満々だ。しまいには、「ルキナなら、私の婚約者という手札を持ってますからね」とノアルドが後押しするしまつ。

「むぅ…。危ないものは危ないんです!先生もノアルド様も冷静になってください!」

 ユーミリアが大きな声を出して怒った。その瞬間、ぴかっと窓から光が飛び込んできた。その直後、ゴロッと雷鳴が響く。

「うわあっ」

 タシファレドがびっくりして椅子から落ちた。他の皆も、タイミングばっちりな雷に内心ビビっていた。皆の肩が同時に縦に揺れたのをチグサは見逃していない。

「どこに落ちたんですかね?」

「雷の日に木登りはやめたほうが良さそうですね」

 ノアルドとルキナが、心臓をバクバクさせながら興奮冷めやらぬ様子で目を合わせた。まだ木登りの話が終わっていない。ユーミリアはガタッと音をさせながら椅子から立ち上がった。

「もうっ!勝手にしてください!」

 ユーミリアはぷんぷん怒りながら調理室を出て行った。

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