彼は推しデスケド。
ルキナは校門の前でノアルドを待っていた。今日は婚約者であるノアルドとデートをする日だ。夏が近づき、日陰に身をひそめたいと思うような気温になってきた。ルキナは恨めしそうに太陽を見る。
「ゲームの世界くらい日焼けって概念なくても良くないかしら」
どんなに気を付けても毎年少しは焼ける。ルキナにとって日焼けは天敵で、できるだけ避けたいものだ。だから、今日だって日焼け止めを念入りに塗ってある。
「お嬢様、ご自分で日傘をさされないなら、帽子とかかぶった方が良いのではないですか?」
シアンはルキナのために日傘をさしている。シアンはルキナの使用人なので、こうして日傘をさしてあげるのは別に変なことではない。しかし、デート中もこのままというわけにはいかない。シアンもずっとルキナの傍についていられるわけではないのだ。
「えー、シアンも一緒にいれば良いじゃない」
「誰が人のデートについていくんですか。完全に邪魔者ですよ」
ルキナが不満そうに言うが、シアンは取り合う気がない。だって、そうだろう。ノアルドはルキナを二人で出かけるためにデートに誘った。そこに日傘要員とはいっても、シアンがいるのはおかしな話だ。
「…前はついてきてたじゃない」
ルキナ小さな声で言う。すると、シアンはため息をついた。
「前って、一回だけですよ。しかも、お嬢様にお願いされたからで」
シアンはルキナの初デートを陰から見守ったことがある。ルキナがノアルド相手に何かやらかすかもしれないからついてきてくれと言うので、ノアルドにばれないようについていった。だが、シアンはそれっきりルキナのデートについていったことはない。そんな無粋なことをする必要がない。
「じゃあ、私がお願いしたら、またついてきてくれる?」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか。せっかくのデートなんですから、二人で楽しんできてくださいよ」
ルキナがどんなに言ってもシアンは以前のようにデートについてきてくれなさそうだ。
「そ?シアンは、私がデートを楽しんでも良いわけね」
ルキナが試すようにシアンの顔を見る。シアンがルキナのことを好きなら、彼の内心は複雑なものだろう。好きな人を他の人とのデートに送り出さなくてはならないのだから。
しかし、シアンはルキナが変なことを言いだしたと思って、首を傾げている。ルキナの問いの意味がわかっていない。
「だから、楽しんできてくださいって」
シアンは返事に困った末、ルキナにデートを楽しむようもう一度言った。
「まあ、そうよね」
ルキナは独り言のように呟いた。
(普段はシアンは自分の気持ちを隠すのが得意だし、恋愛関係は基本的に疎そうだし)
ルキナはシアンの可愛い反応に期待をしていたのだが、それも無駄だったということに気づく。シアンが嫉妬してくれないかと思ったが、シアンは立場をわきまえているはずだ。彼の想い人は雇い主の娘で、婚約者だっている。普通に考えて結ばれない相手だ。気持ちを隠して当然だ。それでもルキナがシアンの気持ちに気づいたのは、彼が時々見せるすき故なのだが、本人はそのことを自覚していなさそうだ。
「あ、ほら、ノアルド様がいらっしゃいましたよ」
シアンが右の方に目を向ける。校門の目の前の道は何台かの馬車が走っている。その中に、王族用の豪華な馬車がわかる。あの馬車にノアルドが乗っているのだろう。
(綺麗な馬車はテンション上がるけど、こんなに目立ってたら暗殺してくれって言ってるみたいだわ)
ルキナはひと際目立つ煌びやかな馬車の動きをじっと見つめる。上品だが金がかかっているとすぐにわかる装飾のほどこされた馬車は、王族の力の大きさを物語っているようだ。
馬車が校門の前で止まった。そして、御者が慣れた手つきで車のドアを開けた。中からノアルドの笑顔が覗く。早く乗るよう手招きしている。
「では、お嬢様、頑張ってください」
シアンが送り出すように言う。ルキナは覚悟を決め、シアンから離れた。小さな階段を上って馬車に乗り込む。ルキナがノアルドと向き合って椅子に座ると、御者が扉を閉めた。窓の向こうでは、シアンが日傘をとじている。
ルキナがシアンの行動を見ていると、馬車が動き出した。馬車が進んだことに気づいたのか、シアンが顔を上げた。向こうからルキナやノアルドが見るのかはわからないが、馬車に向かってニッコリ笑っている。
「本当にシアンと仲良しですね」
ノアルドが優しい口調で言う。ノアルドも見送ってくれるシアンのことを見ていた。でも、もうシアンの姿は見えない。窓から目を離し、ルキナの方を見る。ルキナは頷いた。ルキナも自分でもシアンとは仲が良いと思っている。
「ライトストーン君でしたっけ。最近、彼とも仲が良いみたいですね。演劇をよく一緒に見に行くと聞きましたよ」
ノアルドはルキナがチカと観劇仲間になったことを誰かから聞いたらしい。たしかに、最近、週末になるとチカと一緒に演劇を見に行っている。でも、まだ数回しか行ったことはない。
「昔からルキナは演劇が好きでしたよね」
ノアルドが微笑む。
(そういえば、最初のデートは劇を観に行ったんだっけ)
ルキナはノアルドとの初デートを懐かしむ。
ノアルドがルキナの顔を見て、馬車の揺れに合わせてゆらゆらと動くイヤリングの存在に気づく。そして、ためらいがちに口を開いた。
「私があげたイヤリングは…?」
最後まで言わなかった。でも、ルキナはノアルドが何を聞きたがっているのかわかった。
「大事にしまってあります」
ルキナは窓から目を離さないように意識して答える。ノアルドの方を見てしまったらさらに緊張してしまう気がする。
「そうですか。そのイヤリングはずっとつけていますね。シアンからもらったんでしたっけ?」
「えっと…シアンがつくった魔法石を業者に加工してもらった感じです」
ルキナは淡々とノアルドの問いに答える。今のところ会話ができている。今までで一番調子が良い。
ルキナは思わず気を抜いて、チラリとノアルドの顔を見てしまった。ノアルドはなんだか少し悲しそうな顔をしていた。ルキナは慌てて俯いた。もうノアルドの顔は見れない。
「イヤリングはお気に入りの物がありますものね。イヤリング以外のアクセサリーならつけてもらえますか?」
ノアルドがうつむいたまま顔を上げないルキナに問いかける。
「…。」
ルキナは何か返事をしようと思ったが、何も言葉がついて出てこなかった。それっきりルキナは声を出すタイミングを逃してしまい、黙っているしかなかった。ノアルドもルキナの答えが返ってこないので、困ったように口を閉じた。
ルキナが膝の上の手をいじり始める。それをノアルドが静かに見つめている。
(空気が重いっ)
原因はわかっている。会話が続かないのだ。ルキナはどうしてもノアルドを相手にしてしまうと緊張してしまう。頭では何を言えば良いのか考えているのに、それが声にならない。ノアルドとのデートはいつも静かだ。ルキナは要因が自分にあることを理解しているので、何とかしなくてはならないと思っている。でも、自分のことですら、一筋縄ではいかない。
ルキナはとりあえず俯いた状態でいるのはやめようと思い、顔を上げた。だが、ノアルドの顔を見るのは厳しい。ノアルドと目が合わないようにノアルドの方を見るのを避けながら窓の方に首を回す。窓に向かって顔の向きを固定してしまう。外の景色に集中しているふりをして、ノアルドとの二人きりの空間で間がもたないことをできるだけ意識しないようにする。
ガラスが光を反射して、ルキナの顔が窓に映る。
(我ながら、かったい表情)
ルキナは窓に映る自分と睨めっこする。その向こうでは街の景色が流れている。
タイヤが大きめの石を踏んだのか、車体が少し大きく揺れた。その時、ルキナの耳についているイヤリングも揺れた。ルキナの目の色と同じ緑色の石だ。この石はシアンが自分の魔力を込めて作った魔法石で、魔法石として完成度は低いが、綺麗な石だ。魔力を物体に変えるなんて、とても不思議なことだが、魔法の存在するこの世界ではごく普通のことらしい。もちろん、魔法を使える者にしかできない所業ではあるが、高度な技術が必要なわけではない。
ルキナは無意識にイヤリングを触る。丸い石が指の間でコロコロと動く。ノアルドの指摘した通り、ルキナはこのイヤリングを外したくなくて、ノアルドからもらったイヤリングもつけようとしなかった。ノアルドには申し訳ないと思いつつも、シアンからもらった石を手放すことを考えられなかった。
魔法を使える人の中には、魔力を感知できる人もいるらしい。魔力を保有していれば感知できるので、人に限らず、魔法石の場所もわかるそうだ。特に、自分で作った魔法石のことは簡単に見つけられる。シアンはルキナがこのイヤリングをつけている限り、ルキナの居場所を見失うことはないだろう。言うなれば、このイヤリングはシアンにとってGPSだ。でも、ルキナはそれを理解して身につけている。シアンに居場所がばれようが困ることはない。嫌な気分になるどころか、むしろシアンがいつも見守ってくれている気がして安心すら覚える。少し前のことになるが、一度、ルキナは誘拐されたことがある。その時も、シアンがこの石を目印に見つけてくれた。そんなこともあって、ルキナはこのイヤリングを外すという選択をできないでいる。
ルキナが石を指で転がしていると、それを見ていたノアルドが唐突に言った。
「予定を変更しましょうか」
もともとデートプランを考えていたのはノアルドで、その内容もまだ聞いていない。だから、ルキナは予定を変えようと言われても何も思うことはない。
ノアルドが頭の後ろにあった小窓をコンコンと叩いた。御者がその音に気づいて、ゆっくりと道の端に馬車を止めた。
「どうかなさいましたか?」
御者が小窓からノアルドに尋ねる。
「行先を変えてほしいんですけど…。」
ノアルドが御者に向かってほしい場所を説明する。御者はすぐに了承した。
「あ、伝令係に目的地が変わったと伝えてもらっても良いですか?」
御者が窓を閉める前に、ノアルドが付け足して行った。これにも御者が二つ返事で了承した。
ノアルドが変更した目的地はさほど遠くはなく、十分と経たないうちに馬車が停まった。御者がドアを開け、ノアルドとルキナを馬車から降ろす。
「ルキナ、こっちです」
ノアルドが目の前にある服屋に入っていく。ルキナはその後に続く。
「ノアルド王子、ようこそいらっしゃいました」
店主と思われる男性がノアルドに挨拶をする。二人をにこやかに迎えてくれる。
「予定より早いんですけど、前にお願いしていた服できてたりしますか?」
「ええ、ええ。完成しておりますよ。すぐにお持ちしますので、おかけになってお待ちください」
ノアルドは既にこの店に来たことがあるようだ。店主が店の奥に姿を消した。
ノアルドは店主に言われた通りに近くにあった椅子に腰かけた。ノアルドがルキナを見て、隣の椅子を手で指し示す。座れということなのだろう。
ルキナは表情をこわばらせたままノアルドの隣に座った。緊張で肩に力が入っている。
二人は何も言葉を交わさないで店主が戻ってくるのを待った。この店には他にも客がいて、店員も何人かいる。二人を物珍しそうに、でも、さりげなくチラチラと見ている。
「お待たせしました。こちらがご注文されていました品でございます」
店主が持ってきたのは青色のドレスだ。白色の柔らかい生地に青色のレース生地をあしらった一着だ。細かい刺繍があちこちにほどこされており、とても丁寧に作られたドレスなのだということがわかる。
「ルキナ、これを着てみてください」
ノアルドがそう言うと、様子をうかがっていた店員がルキナに近づいた。ルキナは着るとは一言も返事をしていないのに、店員がルキナを試着室に案内する。ルキナは店員に従って試着室に入り、渡されたドレスに着替える。実際にドレスを手に取ってみると、生地がなめらかで、どれをとっても高価そうだ。
ルキナはドレスを汚したり破いたりしないように慎重に着替え終え、試着室の扉を開けた。ルキナをそこまで案内した店員が待ち構えており、ルキナを見るなり「お似合いです」と微笑んだ。そのまま店員はルキナを連れて、ノアルドの前に立たせた。
「そのドレスはルキナのために作ったんですよ。私からルキナへの贈り物です」
ノアルドは自分が考えたドレスがルキナに似合っているので満足そうだ。
「オーダーメイドっていうやつですか?」
ルキナはなんだかドキドキしながらノアルドに尋ねる。ノアルドは、ルキナが変な口調になっているのも気にしないで大きく頷いた。ノアルドと一緒にルキナの着替えを待っていた店主も「そうです」と答える。
「オーダーメイド。その手があったわ」
ルキナは何かをひらめいたようで、店主に自分も注文したいと申し出る。店主は快く引き受けてくれる。
「デザインと材料を決めましょう」
そう言って、店主がルキナを店の奥へと案内する。そこには大きな机と様々な生地が並んだ棚が置かれていた。
「どのような服を作りましょうか。スーツやドレス。パンツスタイルやワンピース、スカート。何でも作れますよ」
店主が机に見本の服をいくつか並べていく。どれもこれまでオーダーメイドで注文の入った商品の試作品だそうだ。王道な物から個性的な物まで様々だ。
「えっと…着物を作ってほしいんですけど、着物って存在しないですよね」
ルキナはこの世界に着物という概念が存在していることにあまり期待していない。今まで着物を着ている人を見たことがない。
「キモノ…ですか?」
ルキナの予想通り、店主は首を傾げている。ルキナは机の端に置かれていた紙とペンを取り、紙に簡単にイラストを描く。着物を着た女の子のイラストだ。
「ルキナは絵が上手なんですね」
ノアルドがルキナの手元を覗き込んで言った。
「見たことのない服ですね。民族衣装みたいな感じでしょうか。いやぁ、仕立て屋をやっておきながら、知識がないなんてお恥ずかしい」
店主が頭をかく。ルキナは店主に知らなくて当然だから気にしなくて大丈夫だと言う。
「これはどのような構造なのでしょうか」
店主が尋ねるので、ルキナは大きな布を借り、自分の体に巻きつけた。
「ここで重ねて、ここを折り曲げると丈が調節できて…。」
ルキナは懸命に着物の作りを説明するが、基礎知識もない相手に理解してもらうのはなかなか骨が折れる。
「試作品をいくつか作ってみることにしましょう」
店主は作り甲斐がありそうだとワクワクしている。
「ちなみに、生地はどうしますか?」
店主とルキナが布が置かれている棚の前に移動する。
「夏に着る物を作りたいから、通気性が良くて、軽いものが良いんですけど」
「そうしますと、この辺りが良いかと。あ、でも、染めたり刺繍をするのであればこちらの方が」
「汗をかくことを考えると、色移りとか、色落ちが心配なんですけど」
「そのあたりは心配には及びませんよ。簡単に色が変わってしまうような材料は使いませんので」
「じゃあ、これかこれかしら」
ルキナが生地を選び、店主がそれをメモする。
「デザイン案はございますか?」
「それはまた今度でも良いかしら?絵を描いて持ってくるわ。今やると時間かかりそうだから」
「かしこまりました。それでは、試作品ができあがる頃に持ってきていただければ」
「わかったわ」
ノアルドは、ルキナが店主と話しているのを優しく見守っていた。ルキナが楽しそうで、ノアルドも嬉しく思う。
「ノアルド様、お付き合いさせてすみません」
ルキナはノアルドが一緒にいたことを思い出し、我に返る。つい店主と話が盛り上がってしまい、ノアルドの存在を無視してしまった。
「かまいませんよ。ルキナが楽しそうで良かったです。良いですよね、服を自分で好きなように作るのは」
ノアルドはちっとも怒ってなどいなかった。ルキナは安堵しつつ、彼の言葉に頷いた。
「ノア!」
ミッシェルが息を切らして店にやってきた。ミッシェルは、白を基調とした青色の騎士服を着ている。青色のマントがはためく姿には目を奪われる美しさがある。
ミッシェルは、ノアルドの姿を見つけるなり、怒りながら近づいてきた。
「目的地で待ってろって言うから待機してたのに、急に予定を変えやがって。何かあったらどうするんだよ」
ミッシェルは、第二王子であるノアルドの護衛だ。ノアルドの近衛騎士団団長という称号を与えられており、ノアルドの身を守るために、いつも一緒に過ごしている。その一方で二人は幼馴染みでもあるので、ミッシェルは公の場以外、ノアルドをノアと呼び、敬語は使わない。ノアルドは誰に対しても敬語を使い、それはミッシェルも例外ではないが、二人が一緒にいる時の空気は自然と柔らかくなり、親しい関係であることは明らかだ。
ノアルドは王子である以上、命を狙われる危険が常にある。ミッシェルはノアルドを守る義務がある。しかし、このようなデートの時までべったりくっついているのは気持ちが悪い。ミッシェルはノアルドから先にデートプランを聞いておき、常に先回りして陰から見守るつもりだった。その予定だったのに、急にノアルドが計画を投げ出して、勝手な行動に出たので、あまり護衛らしい仕事ができなかった。もちろん、護衛はミッシェルだけじゃない。ミッシェル不在の間も、必ず誰かがノアルドの身を守っていた。目立たないよう、あくまでひっそりとだが。
ミッシェルの後に続くように、他の近衛騎士も店に入ってきた。ミッシェルは彼らの姿を確認し、改めてノアルドの顔を見た。
「今後は、このようなことがないようにお願いします」
ミッシェルは近衛騎士としてノアルドに言った。ノアルドはミッシェルの真面目な顔を見つめ返して頷いた。
「それで?今日のデートは上手くいったのか?」
ミッシェルがからかうようにノアルドを見る。
「ルキナのいる前でそんなこと言わないでください。まだ、終わってませんし」
ノアルドが少し照れたように言うので、ミッシェルが面白がる。
「それじゃ、お邪魔虫は退散するよ」
ミッシェルは手をひらひらさせてノアルドから離れて行った。ミッシェルと同じ騎士服を着た者たちを引き連れて行く。マントは団長の証だ。彼の後姿は見慣れた学生のものとは違った。
ノアルドとルキナは仕立て屋に居座るのはほどほどに、外に出て他の店も見て回った。なんだかんだデートらしい一日になった。相変わらず、ルキナはノアルドと一対一で会話するのは難しかったが、今までのデートで一番雰囲気が良かった。
ルキナは、素敵な仕立て屋でオーダーメイドの品を注文できたことや世界に一つしかないドレスをもらったこと、ノアルドとそこそこ話せたことが嬉しくて、学校に帰るなり、シアンに全て報告しに行った。
「こんなドレスもらっちゃうなんて思わなかった」
ルキナが興奮気味に話すのをシアンはちゃんと全部聞いてくれた。
「お嬢様はノアルド様のことがお好きなんですね」
シアンが表情を変えないで言った。一応、シアンは笑顔だが、ルキナはその表情が少し硬いことを見逃さなかった。
「好きよ」
ルキナは、あえてはっきりと言うことにした。シアンに嫉妬してほしいのだ。ルキナが断言すると、シアンは眉をぴくりと動かした。多少は動揺したらしい。
「だって、推しだもの」
ルキナが付け加えて言うと、シアンが首を傾げる。
「推しって、好きな人とは違うんですか?」
「そんな違いもわからないようじゃ、シアンはまだまだね」
ルキナはやれやれのポーズをして首を振る。シアンが「じゃあ、わからなくて良いです」と口をとがらせる。ルキナはシアンをからかえて嬉しそうだ。