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彼女はたぶん親友デスケド。

「それで?ここ最近ずっとチグサと別行動してたって?」

 新学期が始まって早一週間。女子部の活動場所、調理室にて、マクシスの相談会が執り行われた。

 ルキナが若干どうでも良さそうに肘をついてマクシスに確認をとると、マクシスがこくんと頷いた。チグサは事あるごとにルイスのもとに行くようになってしまい、マクシスは全くかまってもらえてない。そのことを当然のようにマクシスは悲しんでいる。

(普通、姉弟でも一週間くらい会わないなんてこともざらにあるでしょうに。まあ、マクシスの場合、一週間もっただけでも良い方か)

 シアンの話によると、マクシスは初日から号泣していたらしいが、愛ゆえの暴走で大きな問題を起こしたわけでもないので、良しとみなすべきだろう。今だって、チグサはルイスを追いかけるのに忙しいのか、部活に顏を出さなかった。マクシスはそんなチグサのことをここで待っているのだ。マクシスがチグサを追いかけまわしていないのは成長とも捉えられる。

「はぁ…。」

 ルキナは、面倒くさそうにため息をついた。ルキナは、マクシスのチグサへの大きさはわかっているつもりだ。だが、ここで親身になってあげるかどうかはまた別の話だ。

「なんか理由は聞いてないの?チグサがルイスを追いかける理由」

 ルキナが質問すると、マクシスが首を横に振った。

「お二人がご婚約されたという噂は…?」

 シェリカが、噂の真相を尋ねる。

「たぶん本当に婚約したってわけじゃないと思うけど」

「でも、チグサ様がルイス様のことが好きっていう可能性は無きにしも非ずですね」

 マクシスが弱弱しい声で返答していると、ユーミリアが遮るようにして言った。マクシスがあまり考えないようにしていたことを、ユーミリアがはっきりと言うものだから、マクシスは固まってしまう。

(あーあ、マクシス、涙目じゃん)

 ユーミリアは、マクシスが泣こうがどうでも良さそうで、言いたいことを言うだけ言って、裁縫を始めた。

「チグサの本心なんて憶測の話でしかないんだから、そんなに気を落としてもしょうがないわ。チグサが何を考えているのかわからないのは今に始まったことじゃないし、チグサにも何か理由があるのかもしれないでしょ?」

 ルキナが努めて優しい声で言うと、マクシスが小さく頷いた。

「チグサ様がルイス様にかまうのと、マクシス様を無視するのとは全然違う話ですからね。チグサ様は、マクシス様のことが嫌いになったからルイス様と一緒にいるわけじゃないと思いますよ」

「そうですよ。チグサ様なら嫌いなら嫌いとおっしゃられるはずですよ。口数は少ない人ですけど、面倒な手段を選んでマクシス様を避けられる方ではありませんよ」

 アリシアとシェリカが順にマクシスを慰めた。

 ルキナは、こういう人を励ますような空気が少々苦手だ。一対一での相談で、相手一人を慰めるのは苦手だとか思わないが、複数人で一人を囲んでしんみりとした雰囲気の中話をするのは必要以上に気分が沈んでしまうので嫌いだ。慰められるべき人間を前にして、この空気が嫌だとか考えるのは失礼な気はするが、そういうのも含めて、こういうのはどうにも苦手だ。

 今、少し離れた机で、シュンエルとユーミリアが女子部の活動をしている。シュンエルもこちらの話に参加していたのだが、ユーミリアが裁縫を始め、ユーミリアがシュンエルに教えを請ったので、シュンエルも部活を再開したのだ。ルキナも、ここから抜け出して、そちらに混ざりたい気分だった。

「あー、もう。こんなふうにめそめそしてないで、いつもみたいにチグサにアタックしに行ったら?」

 ルキナは耐えきれなくなって、雰囲気を変えることにした。

「チグサ、たぶん知らないわよ。マクシスがチグサを本気で好きなこと。一回ちゃんと言葉にした方が良いわよ」

 ルキナは、この状況を打開するための解決策を提案する。

(本当は、マクシスとチグサをくっつけるような応援はしたくないんだけど)

 逆ハーレムのためには、マクシスにもルキナのことを好きになってもらわなければ困る。だが、マクシスはチグサのことが大好き。この状態では、いつまで経ってもルキナの望む未来はのぞめない。こうなったら、マクシスに潔く玉砕してもらう他ない。しかし、ルキナも全くの望みなしで、マクシスに告白しろと言っているわけじゃない。チグサがマクシスの気持ちを受け入れる可能性もあると考えている。ルキナにとって、この可能性というのはリスクということになるのだが、ちゃんと応援するつもりだ。ルキナだって、マクシスが喜ぶ結果になることを願っている。

「そうだね。そうだよね。姉様、鈍感なところあるからね」

 マクシスが急に元気になった。その気になっている。マクシスが立ち上がって気合を入れ始める。

「そうね。準備も必要だろうし、今すぐって話じゃないけ…ど…!?」

 ルキナが言い終わるより早く、マクシスが調理室を飛び出した。

「マクシス!?」

 ルキナは慌ててマクシスを追ったが、既にマクシスは遠くまで走って行ってしまっていた。ルキナにはとてもじゃないが追いつけない。

「さすがマクシスね。まさかいきなり行っちゃうなんて思わなかったわ」

 ルキナはそう言いながら、自分の椅子に戻った。

「良いんですか?先生。彼を応援するようなことをして」

 ユーミリアがルキナのもとに駆け寄ってきた。ユーミリアはルキナが逆ハーレムを目指していることを知っているので、マクシスがチグサと本当にくっついてしまうことを危惧している。

「人の恋路の邪魔をすると、自分にもその罰が跳ね返ってくるのよ」

 ルキナは、マクシスの応援をするのは、結局、自分のためなのだと言う。

「先生はお優しいんですね」

 ユーミリアは、ルキナをぎゅっと抱きしめた。

「なんで私が慰められてるみたいな空気出すのよ」

 ルキナは、ユーミリアの腕を掴んで言う。ユーミリアの腕を自分の体からどかしていると、シュンエルが「ルキナ様はアーウェン様のことがお好きなんですか?」と素っ頓狂なことを言い始めた。

「いや、違うから。別に失恋とかしてないから」

「先生はむしろシアン・リュツカのことが好きですよね」

 ルキナが慌てて否定していると、ユーミリアも勝手なことを言い出した。シアンの名前が出て、二人で話していたシェリカとティナがユーミリアの方を見た。

「シアンがどうしたの?」

 シェリカが笑顔で尋ねる。ルキナがどうやって誤魔化すか考えていると、ユーミリアが「先生がシアン・リュツカのことが好きっていう話ですよ」と隠そうともせずに答えた。

「違う!違うからね!」

 ルキナは、ユーミリアに余計なことを言わないでと思いながら否定する。シェリカが、ユーミリアの言葉を真に受けて、複雑そうな表情になった。

「もうこの話は終わり。はい、終了」

 ルキナは、ややこしいことになる前に話を終わらせる。ルキナは、ユーミリアに一度も誰が好きだとか話したことがない。ユーミリアの思い込みでの発言だったが、ここで真偽を追究するより、早く話を終わらせた方が良い。

「そろそろ部活の時間も終わりね。片づけをしましょうか」

 ルキナはそう言って真っ先に片づけに取り掛かる。

「そういえば、もうすぐ…って言っても、一か月以上あるけど、ファレンミリーはみんなどうするの?せっかく女子部作ったんだし、ファレンミリーに関係のあるものでも作らない?」

 ルキナが手を動かしながら提案すると、ユーミリアが「良い考えだと思います」と一番に話にのった。

「ファレンミリーというと、クッキーとかビスケットとかですか?丸いお菓子の真ん中に赤色のジャムが入ってる」

「飴が入ってるのを食べたことあるけど、あれ、美味しいよね」

「飴も良いですよね。でも、飴って難しくないですか?市販のものを溶かして入れるにしても、ジャムより難易度が高いような…。」

「だからこその部活でしょう?」

 シュンエルとユーミリアが話を盛り上げている。ルキナの狙い通り、皆ファレンミリーのお菓子作りに意識が集中している。さっきまで話していたことなどもう忘れているだろう。

「アリシアちゃんはファレンミリーに向けてやりたいこととかある?」

「ファレンミリーのイメージは花束の方が強くて」

 ルキナの問いに、アリシアが困惑気味に言った。

「あー、まあ、そうよね。うちの初等学校だと、お菓子の交換をしている人がいっぱいいたから、私はお菓子のイメージの方が強かったけど、それがなかったら、私もお菓子のイメージはないかも」

 ファレンミリーというバレンタインによく似たイベントで定番なクッキーやビスケットは、庶民のお菓子とされている。貴族が食べてはならないというわけではないが、手で掴んで食べるようなお菓子は、貴族のティータイムで好まれない。したがって、ファレンミリーをお菓子交換の場として盛り上げているのは庶民たちなのだ。初等学校には通っていなかったと言うアリシアはなおさら、クッキーやビスケットに親しみがないのだろう。

「それなら、ブーケ作りも挑戦してみたいわよね。部費には限りがあるから無理はできないけど。あ、お金の問題と言えば、文化祭。うちの部も何か出し物する?文化祭費用の予算が下りるらしいのよ」

 ルキナは話しながら調理室を出る。他の部員たちも荷物を持って廊下に出た。

「部員少ないから、カフェみたいなことをやるのは難しいと思うけど、お菓子を作って売るくらいならできると思うわ」

 ルキナが話し終えると、シェリカが手を挙げてジャンプした。

「やりたい!」

「シェリカ様、布落ちてます」

 シェリカの持っていた箱から、布の切れ端や糸が落ちた。ティナがそれらを拾い上げ、箱に入れた。

「今日はチグサもいないし、また今度話し合いましょ」

 ルキナは、そう言って、調理室の鍵を閉めた。

「お腹すいたー」

「今日は何食べるんですか?」

「んーと、お昼はサンドイッチを食べたから…」

「シェリカ様、明日提出の課題が終わっていないようなので、今日はお食事の時間は短めにお願いしますね」

「ティナ・エリ、今言わなくても良いじゃん、それ。ご飯が美味しくならなくなったらどうするの!?」

 シェリカ、ティナ、シュンエルが楽しそうに話している。ルキナは三人の後ろをついて歩く。

「どうしたの?」

 背後から、アリシアがユーミリアを心配する声が聞こえてきた。ルキナが振り返ると、ユーミリアは何かを探すようにカバンを探っていた。

「忘れ物しちゃったみたいです」

 ユーミリアがカバンから目を離して、ルキナの方を見た。

「先生」

 ユーミリアが申し訳なさそうにルキナを呼ぶ。

「はぁ…。みんなは先行ってて。お疲れ様」

 ルキナは、ユーミリアのためにもう一度調理室の鍵を開けに行くことにする。部の活動場所の鍵の管理は部長の仕事だ。本当は、ユーミリアに鍵を渡して、一人で取りに行かせたかったが、ルールがある以上、仕方がない。

「ほら、早く行くわよ」

 ルキナは、方向転換をし、来た道を戻り始める。もう外は暗くなってきて、灯りのついていない廊下はうすぼんやりとしている。

「すみません」

 ユーミリアがへらへらと笑いながらルキナについてくる。

「ほんとよ。私だってお腹空いてるのに」

 ルキナはユーミリアに文句を言いながら歩くスピードを上げた。

「何を忘れたの?」

「明日も使う、大事な物なんですけど…。」

「大事な物を忘れるってどういうこと?」

「返す言葉もありません」

 まだ調理室からそう離れてなかったので、早歩きした分、早く到着した。

「急いで取ってきなさいよ」

 ルキナは、鍵穴に鍵を差し込んだ。鍵をひねると、ガチャと解錠した音がした。

「はい、開いたわよ」

 ルキナがドアの前から体をどけようとした時、ユーミリアがルキナの前に立ちふさがった。ルキナがどかなくてはユーミリアは中に入れない。

「何してるの?」

 ルキナは、ユーミリアがふざけていると思って笑う。

「ほら、早くどいて」

「…。」

 ルキナは笑っているが、ユーミリアはちっとも笑わない。ルキナをドアに追いやって退路を塞いでいる。

「ユーミリア?」

 ルキナは途端に不安になってユーミリアに呼びかけた。

「私、見ましたよ」

 ユーミリアが突然話し始めた。

「先生がシアン・リュツカに抱きついてたとこ」

「抱き…!?いつ!?」

「学校を案内していただいた日です。夕食を食べた後、寮に戻る途中、先生がいらっしゃらないことに気づいて、慌てて戻ったんです。そしたら、先生がシアン・リュツカと…」

「あ、あれは、シアンに悩みを相談してただけで、他意はないっていうか」

 ルキナは、ユーミリアが何を話そうとしているのかわからなかった。

「え、まさか。忘れ物って…」

「はい、先生とこの話がしたかったんです」

「どうして?」

 ルキナが尋ねると、ユーミリアが一歩後ろに下がった。ルキナとユーミリアとの間に少し余裕ができる。

「先生がシアン・リュツカをどう思っているのか、知りたかったんです」

「…ユーミリアは、シアンのことが好きなの?」

 ルキナは、ユーミリアがそんなことを知りたがる理由を考えた。その結果、導き出されたのは、ユーミリアがシアンのことを好きで、ルキナがライバルであるかどうか見極めるためというものだ。

「そういう時期もあったかもしれませんが、それは今関係ありません」

 意外だった。ユーミリアがそういう感情をシアンに抱いていて、それを正直に話すとは思っていなかった。

(でも、「あった」?今は違うってこと?それなら、いつの話?まさか他の人生でもシアンに会ったことがあるの?)

 ユーミリアは、詳しくこの話をするつもりはなかったが、ルキナが知りたがっている顔をしているので、ユーミリアは諦めて話すことにした。

「小さい時ですよ。前に話しましたよね?あの人と会ったことがあると。その時、あの人のことが好きだったんです。でも、会えなくなって、過去の人生のことを思い出して、そんな気持ちは忘れてしまいました」

「そう…。じゃあ、なんでそんなことを知りたがるの?私がシアンをどうとかって」

「さっき、その話をしている時、先生は誤魔化してましたよね。何か先生が困っていることがあるなら協力したいと思っただけですよ」

 ユーミリアがルキナの目を真っすぐ見た。

「逆ハーレムの話はもちろん協力します。もし、先生がそれとは別で他に好きな人がいるなら、それも協力したいんです」

「それなら、何も問題はないわ。だって、私にとって、シアンは弟みたいなものだし。応援も何もないわ」

 ルキナは手をひらひらさせて、ユーミリアを自分から離れさせた。ユーミリアは、とりあえず聞きたいことを聞けたので、素直に離れた。

「もう、なんでみんなして私はシアンが好きって決めつけるのかしら」

 ルキナはぶつぶつ言いながら調理室の鍵を閉めた。もう用はないので、さっさと鍵を閉めて帰りたいところだ。

「みんなって…他にそういうことを言う人がいるんですか?」

「うん。ティナとかノア様とか」

「ノアルド様が?」

「うん。あ、鍵閉まったわよ。行きましょ」

 ルキナが調理室の扉から離れ歩き始める。が、すぐにユーミリアに引き留められた。がっしり肩を掴まれ、それ以上進めなくなる。

「ユーミリア?どうしたのよ」

 ルキナがユーミリアの方を見ると、ユーミリアはルキナを睨むように見ていた。

「ちょっと、ユーミリア、痛いって」

 ルキナはユーミリアの手に自分の手を重ね、肩から外させる。

「ノアルド様も同じ話をしたんですか?」

「そうだけど」

「その時、他の話もしましたか?」

「他?」

 ユーミリアは必死に何かを聞き出そうとしている。ルキナは、ユーミリアに圧され、渋々話した。ノアルドがルキナのことを好きでいてくれていること、婚約破棄の話があがっていること、ルキナの答えを待ってくれていること。それらのことをルキナが包み隠さず話し終えると、ユーミリアが表情を変えた。

「気分が変わりました。先生、シアン・リュツカのことをどう思っているのか、はっきりと教えてください」

 ユーミリアがルキナに詰め寄る。

「もう誤魔化すようなことはせず、ちゃんと答えてください。もう意地を張ってる場合ではありません」

「ごめん、ユーミリアが何を求めてるのかわからないわ」

「どうして認めたくないんですか?認められないんですか?使用人との恋は無理だとか、前時代的な考えがあるわけではありませんよね?」

「そういうわけじゃないけど。なんでそんなふうに私の気持ちを決めつけるようなことを言うの?」

「見ていればわかるからです」

「でも、私にはわからないわ」

「そんなふうにいつまでも逃げてるわけにはいけませんよ。そんなことをしていたら、手の届かないところに行ってしまいますよ。後悔しても遅いんですよ」

 ユーミリアの声には熱がこもっている。ルキナは、怯えたようにユーミリアを見る。ユーミリアは過去に何か辛い経験をしているのかもしれない。だが、その後悔をルキナに押し付けるのは正しくない。

「私のせいですか?」

 ルキナが黙っていると、シェリカが乱入してきた。

「シェリカ、いつから?」

 ルキナもユーミリアも、シェリカがここにいることに驚く。ルキナの問いに、シェリカが「二人がちっとも戻ってこないから呼びに来たんです」と答えた。ティナたちは荷物を運びに行ってくれているらしい。シェリカが代表で様子を見に来たのだ。

「もし、私のせいでルキナ様が自分の気持ちを認められないのなら、謝ります。ルキナ様には辛い思いをさせてしまいました。ごめんなさい」

 シェリカが頭を下げた。ルキナは、慌ててシェリカに頭を上げさせた。

「違う。シェリカは何も悪くない。シェリカのせいとか関係ない。ただ、私が…わからないだけなの。いろんな人に、こうやって、シアンのことをどう思っているの?って聞かれる度に、わからなくなるの。考えても、考えても、わからないの。だから、たぶん、好きとか恋とかじゃない」

「ルキナ様、もっとゆっくり考えてください。ルキナ様はシアンと一番近くにいたから、気づけないだけです。焦って結論を出さないでください」

 シェリカがルキナの手を取った。「落ち着いてください」と言っているようだ。

「シェリカも、私が、その…シアンのことを…。」

「私は、そうでないことを願ってますよ。だって、ルキナ様は、あまりに強いライバルですから」

 シェリカがルキナに向かって笑顔を見せた。

「でも、できるなら、ルキナ様とは正々堂々と競い合いたいと思っています。もし、答えが出たら、教えてください」

 シェリカはそれだけ言うと、ユーミリアの方を見た。「これで良いでしょう?」と目で訴える。ユーミリアは、今すぐにルキナの答えを聞きたがっていたので、不服そうだ。それでも、答えを急いでも意味がないと理解し、シェリカの言葉に同意した。

「このことについて、何か話せることがあれば、ルキナ様からしてください。その時まで、この話は禁止です」

 シェリカは、ユーミリアにルキナのことを責めるような真似はやめるように言った。シェリカは、ルキナがこのような話をするのが苦手なのも、気持ちに名前をつけるのに時間が必要なのも見抜いていた。

「シェリカ、ありがとう」

 ルキナがお礼を言うと、シェリカはニッと笑った。

「マイペースも良いですけど。スタートが遅れてることは忘れないでくださいね」

 ルキナは、この時、初めてシェリカをカッコイイと思った。ルキナは、シェリカをちょっかいをかけてくる少し面倒な女の子だと思っていた。だが、長年、一緒に時間を過ごしただけ、絆は強固なものになっていた。シェリカは、ルキナの理解者であり味方だ。普段は見えてこないこの一面こそが、友達というものなのだろう。

「先生、私のこと嫌いになりましたか?」

 ルキナとシェリカの絆を目の当たりにしたユーミリアが不安げに言った。

「んー、まあ、ちょっとは嫌いになったかもね。通せんぼしてきたり、意地悪言ってきたりしたし」

「えー!?せんせーい」

「ちょっとよ、ちょっと」

「フォローになってませーん」

 ルキナは心からシェリカに感謝した。ユーミリアのことをこうしてからかって笑っていられるのも、シェリカがうまくやってくれたからだ。

(ルキナとシェリカは親友っていう『りゃくえん』の設定はあながち間違ってないかもしれないわね)

 ルキナは、さっきまで打って変わって、心が随分と軽く感じた。

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