最悪な出会い方デスケド。
二月。ルキナは一抹の焦りを抱いていた。それは言うまでもなく、もう間もなく、学年が変わってしまうからだ。二級生になると、ヒロイン、ユーミリアが転入してきてしまう。タイムリミットがもうすぐそこまで迫ってきている。ルキナが焦らないわけがない。だが、そんな焦りが何かを生み出すこともない。
「うん、もう駄目だわ。駄目よ。もはやどうにでもなれって気分よ。そもそも前世で彼氏の一人もいなかった私には無理な話だったのよ。ええ、そうよ。わかってわ。でも、別に諦めたわけではないのよ。むしろ、これからって感じよ。フフフ」
ルキナは、頭を両手で抱えてぶつぶつと独り言を繰り返す。しまいには、不気味な笑い声を上げている。
「ルキナ、どうしたの?」
ルキナの奇妙な言動に、マクシスがひいている。シアンは、ルキナの意味不明な行動は見慣れているので、「一種の五月病。心配しなくて良いよ」などと適当なことを言っている。本から目を離さず、ルキナのことは一度も見ないまま言っている。ルキナの奇行など、本当にどうでも良さそうだ。
「五月病?もう二月ですけど」
シェリカが、ルキナに痛々しいものを見るような視線を送る。ルキナは、その視線に気づいて、すっと顔を上げた。そして、シェリカに「何か失礼なこと言ったでしょ」と言うように視線を送る。シェリカはふいっと顔をそらして、知らぬふりをする。
「それはそうと、ルキナ様、今日の放課後に放送局に行かれるんですよね?見学に」
アリシアが、通常通りに戻ったルキナに問いかける。すると、途端に、マクシスが立ち上がった。
「え!?いいな!知ってる!?今日!ミユキ・ヘンミル先生が!」
マクシスが興奮のあまり言葉を省略してしまっている。それでも、皆、なんとなくマクシスが言いたいことは理解できた。特に、ルキナは、マクシスが何の話をしているのか完璧に理解できた。なぜなら、ルキナは、その当事者だからだ。
今日、ルキナは、放送局に行く。表面的には放送局の見学ということになっているが、本当は、ミユキ・ヘンミルとしての仕事で行くのだ。以前、約束していた通り、売れっ子小説家として映鏡への出演が決まった。それが今日というわけだ。
「今日、そのミユキ…なんちゃらって人が映鏡に出るんだってね」
ルキナは知らないふりをしてマクシスの話にのる。
「ミユキ・ヘンミル!出るっていうか、話をするの!」
マクシスは、ミユキ・ヘンミルが映鏡でも顔出しをしないことを知っているので、事細かく指摘する。ルキナは、大はしゃぎなマクシスを横目に、チグサの方をチラリと見る。マクシスがこれほどまでのミユキの熱狂的なファンになったのは、チグサの影響だ。だが、チグサは、我関せずという顔で、そっぽを向いている。
「でも、なんでルキナも知ってるの?映鏡は見ないって言ってなかった?」
「別に見ないわよ。正直、興味もないし。それなのに、マクシスが何回も話してたんじゃない」
ルキナがため息をつくと、マクシスが心外そうに「そんな迷惑みたいな言い方しないでよ」と言う。
「あ、そういうわけだから、サインもらってきて」
マクシスがいそいそと色紙とペンをルキナに渡す。ルキナは反射的に受け取ってしまってから後悔した。
「いや、無理だし」
ルキナは慌ててマクシスに色紙を押し返す。しかし、マクシスは受け取ろうとしない。
「いいじゃん。とりあえず持って行ってよ。もしかしたら、会えるかもしれないじゃん」
「いや、だから無理だって。顔出しをしてない人でしょ?絶対見つけられないって。それに、前、サイン会でサインもらったって大喜びしてたじゃない。そんなにサインばっかりあっても困るじゃない」
「あれは本に書いてもらっただけだから。色紙にも欲しいの。持ってくだけだから」
ルキナとマクシスは、互いに色紙を押し付け合っていたが、結局ルキナが負けた。シアンもチグサも、助けに入ってくれなかったので、ルキナが折れる他なかったのだ。ルキナは諦めて色紙をカバンに入れる。帰ってきてから、ミユキには会えなかったと色紙を返せばすむ話だ。
「それで?アリシアちゃん、何か話したいことでもあったの?」
放送局に行くと言う話はアリシアが振ったのだ。アリシアも何か話したいことがあって話題にしたはずだ。ルキナが尋ねると、アリシアが自分の番が回ってきたことを嬉しそうに、話し始めた。
「カフェテリアに、ドリンクが可愛くて美味しいと噂のお店があるらしんですよ。そのカフェテリアは一般の人は入れない場所にあるので、そこで働く人しか行けないんです。それで、もし、行けそうでしたら、ぜひ。ちゃんと手続きして見学に行くなら、もしかしたら入れるかもしれませんから。後で感想聞かせてください」
アリシアがどこから仕入れたのかもわからない情報を教えてくれる。だが、このくらいの話なら、確かめても良いかもしれないと思う。ルキナは、「わかったわ」と軽く答える。すると、マクシスが物言いたげな表情でルキナを見た。
(マクシスのお願いとアリシアちゃんのお願いじゃレベルが違うっていうの)
ルキナは、またマクシスにうざい絡み方をされても困るので、口には出さず、視線で訴えるだけにとどめる。
ガタガタと椅子の動く音がする。シアンが立ち上がったのだ。
「あれ?シアン、何か用事でもあるの?」
ルキナが問うと、シアンは何食わぬ顔で「もう授業始まるんですけど」と言い放った。ルキナは慌てて時間を確認する。たしかに、もう間もなくチャイムがありそうな時間だった。
「口で言いなさいよ」
ルキナはシアンに文句を言いながら立ち上がる。シアンは誰にも何も言わないで、自分一人移動を始めるつもりだったらしい。いつの間にかチグサの姿もない。チグサは一足先に授業に向かったらしい。
「姉様を送ってから授業に行くつもりだったのに」
マクシスが嘆いてる。
皆、時間がぎりぎりなので走ってそれぞれの講義室に向かう。シアンは足が速いし体力もあるので、走れば間に合うだろうと見越していたのだろうが、ルキナやシェリカはそうではない。走らないと間に合わないくらいなら、早めに時間を教えてくれても良かったのだ。
「シアン、ほんと意地悪よね」
ルキナは、シアンへの怒りを原動力にして走った。
放課後、ルキナはシアンを連れて、映鏡の放送局に入った。受付で本名を言うと、見学者用の名札を渡された。その後、「案内します」というお姉さんについて移動を始めた。さっそく、見学に来たという設定で館内を案内されるらしい。そうして、ルキナたちが案内されたのは、何の変哲もないもない会議室だった。
「ミューヘーンさん、お疲れ様です。迷わず来られましたか?」
会議室では、カテルがルキナたちが来るのを待っていた。
「案内してもらったので大丈夫ですよ」
「そうですか。さっそくなんですが、打ち合わせをしましょう。まだ収録までは時間があるので焦ることはありませんが」
そう言って、カテルは隣にいた局員に合図を送った。
「こちらが本日の放送スケジュールになります。ヘンミル先生には五時ごろにスタジオ入りをしていただいて、四十五分からの放送になります。三十分間の収録になりますが、こちらが用意した質問に答えていただく形になりますので、気楽にお話していただけると良いかと思います。こちらが、質問の一覧ですね」
ルキナは、局員から資料をもらう。
「リハーサルの方も、何も難しいことはないので、簡単に済ませようかと思っていますが、確認したいことはありますか?もしあれば、もう少しスタジオ入りを早めますが」
「大丈夫です」
「それでは、収録時刻までお待ちください。館内を歩いていただいても結構ですよ」
局員は、さっさと打ち合わせをすませて出て行った。
「ミューヘーンさん、緊張していますか?」
カテルがルキナの反応を見る。ルキナは、ぶんぶんと首を横に振った。
「顔が映らないので、最悪失敗しても良いかなって。問題を起こしたら、正体明かさないままでいれば良いんだし」
ルキナがのんきなことを言うと、「できれば失敗しないでもらえると嬉しいんですけど」とカテルが苦笑した。
「まだ全然時間はありますが、どうしますか?せっかくここまで来ましたし、見学もされますか?」
「そうですね。次の小説の参考になることもあるかもしれないし」
ルキナは、カテルと別れ、シアンを連れて館内を見学して回る。
収録中のスタジオには近づけないが、収録をしていないスタジオは見学させてもらえた。出演者が座る椅子に座ってみたり、高そうな機材を触れないように眺める。
「小学生の時、テレビ局の見学に行ったことあるけど、似てるわね」
ルキナは前世でも、テレビ局を見学したことがあるのを思い出した。地方のテレビ局ではあったが、わくわくしたのを覚えている。
「でも、編集なしで全部生ってしんどいわね」
ルキナが腕を組んで言う。この世界にはまだ、録画、録音の技術がないので、映鏡の放送は全てリアルタイムで撮影されたものになる。あくまで、親機に映った映像が、子機の映鏡に映されるだけの単純な仕組みしかない。
「これじゃあ、ドラマとかできないわよね」
ルキナは、映鏡を見ない家で育っているので、想像でしかないが、映鏡を見てもあまり面白そうには思えない。ドラマがなければ、アニメもない。ルキナは、映鏡にテレビほどの魅力を感じない。
「でも、演劇の放送はあるみたいですね」
シアンは、さっきもらった放送スケジュールを見ている。
「へー」
ルキナがシアンの持っている紙を覗き込む。すると、シアンが紙をルキナに渡してきた。一緒に一枚の紙を見るのは嫌だったらしい。ルキナは、シアンから奪ってしまったような気がして少し申し訳なく思う。
「すみません、通ります」
二人が廊下に立ち止まっていると、職員の人が端によるように言った。急に廊下が騒がしくなり、バタバタと人が動き回り始めた。この近くのスタジオで撮影があるようだ。シアンたちはどいた方が良いのではないかと思ったが、人が廊下をひっきりなしに通るので、身動きがとれない。
「ユリア・ローズさん、準備お願いします」
誰かが言った。
「どっかで聞いた名前ね」
ルキナが呟いた。
「アイドルですよ。たぶん、イリヤが教えてくれた人です」
「あー」
ルキナは、この世界のアイドルでユリア以外の名前を聞いたことがない。まだ姿も確認したことがないが、きっと可愛いのだろう。
超人気アイドルのユリア・ローズは、芸能界でもトップに近いところに君臨しているらしい。今日も、映鏡に出演することが決まっている。
(ついにナンバーワンアイドルを見られるかもしれないのね)
何度か見に行ける距離にユリアがいたことはあるが、さほど興味がないので、苦労までして会いに行こうとは思わなかった。だから、なんだかんだずっとユリアとの対面は叶わなかった。名前をあちこちで聞いているだけあって、気にはなっていたので、少しわくわくする。
「えっ!ユリアがいない!?」
悲鳴のような聞こえてきた。
「はい…さっきから連絡がとれず…ここには来てるみたいなんですけど…」
「そんな悠長なことを言ってる場合か。早く探せ!全員だ!手があいてるやつ全員で探せ!」
驚きの声を上げていた人は局の中でも上の方にいる人物のようだ。ユリアのマネージャーらしき男を叱り、周りの人たちに指示を出し始めた。
「大変ね」
ルキナは他人事のように言った。ルキナの隣で「顔がわかれば手伝うんですけど」とシアンが言った。
(たしかに手伝ってあげたいのはやまやまだけど、顔を知らない人のうえに、この建物の構造もわからないし)
ルキナは邪魔にならないように、壁にぴったりくっついた。今自分にできるのは、邪魔にならないように端に寄ることだ。
しばらくして、周囲から「良かった」「なんとかなりそうだ」「急げ急げ」という声が聞こえてきた。ユリアが見つかったようで、安堵と焦りの混じったような空気になった。
「ユリアさん、どこ行ってたんですか。時間はちゃんと伝えてありましたよね?伝映板の反応もなかったですし」
「だってぇ、先生が今日来てるって聞いてたから、どうしても会いたくて…。」
マネージャーとユリアが話しながら歩いてきた。ルキナたちは壁によって通り過ぎるのを待つ。
(ナンバーワンアイドルっていうのは声まで可愛いのね)
ルキナは、そんなことを思いながら、目の前を通り過ぎようとするアイドルの顔を見た。
「え…うそでしょ…。」
桃色のふわふわの髪に、キラキラと輝く金色の瞳。どこかイリヤノイドに似た顔だち。ルキナはこの顔を知っている。この世界で、できれば会いたくなかった人物だ。そう、ユリア・ローズと呼ばれた少女は、『りゃくえん』のヒロイン、ユーミリア・アイスだった。
「なんで?」
ルキナが混乱し始める。なぜよりによって、人気ナンバーワンのアイドルがユーミリア・アイスなのだろう。こんな予想外の出会いはさすがに想定していなかった。
「どうかしたんですか?」
シアンが心配そうだ。
「今日の放送内容、覚えてますか?」
「何だっけ…街で見つけた…なんちゃらかんちゃら。その後は、先生のインタビューよね」
ユリア、否、ユーミリアが近づいて来る。会話は事務的だ。ユーミリアよりも、マネージャーの方が圧倒的に焦りを声ににじませている。ユーミリアがこちらに気づく様子はない。それもそのはずだ。ユーミリアはルキナのことなど知らない。
「街で見つけた美男美女特集です。ユリアさん、見つけてきましたか?」
「え?そんなことしてないけど」
「だろうと思いました。でしたら、うちの事務所に所属している人を一人選んで、それで乗り切ってください」
「見つけた…。」
ユーミリアが突然立ち止まった。ちょうどルキナたちの前で止まったので、ルキナはドキッとした。
(私を知ってる?)
ユーミリアはルキナ達の方を見て動かない。
「ユリアさん、急いでください。行きますよ」
マネージャーがしびれを切らしたように、ユーミリアの手首を掴んでいこうとする。すると、そのタイミングで、ユーミリアが動いた。
「お願い、来て」
ユーミリアが突然、シアンの肩に手を置いた。ルキナは何が起こっているのか全く理解できなかった。
「え?」
シアンが驚きの声を上げる。シアンはルキナの心配をしていたので、そんなにも近くにユーミリアがいたことに気づかなかったようだ。
「あの…何か…?」
シアンが困ったように尋ねると、ユリアは一瞬何かを考えるような仕草をした後、シアンの二の腕を掴んだ。
「やっぱりあなたイケメンだわ。私と一緒に出て」
そう言って、ユリアはシアンを強制的に連行していく。
「え…ちょっ…。」
シアンは抵抗しようとするが、この狭い場所ではそれは叶わなかった。シアンがユーミリアに連れ去られながらも、ルキナのことを心配そうに見ている。ちょうどその時、スタッフがルキナを呼びにきた。
「あ、ミューヘーン様、ここにいらっしゃいましたか。そろそろお時間ですので、こちらへ」
ルキナは、はっとしてスタッフと一緒にスタジオに向かった。ユーミリアとシアンのことは気になるが、今は仕事を優先させるしかない。後で、シアンに何があったのか聞けば良い。
「すぅー…はぁー…。」
ルキナは大きめに深呼吸をして、自分の収録に向かった。
「ヘンミル先生にはここに座っていただいて、インタビュアーと、こう向き合っていただくことになります」
ルキナがスタジオに入ると、すぐにスタッフがリハーサルを始めた。ルキナが撮影をするスタジオは、ミユキ・ヘンミルの正体がバレないように、かなり隔離された場所にある。
「こちらのスクリーンに先生のシルエットが映ることになります。表情は見えない分、身振り、手ぶりを大きくしていただけるとありがたいです」
ルキナ用の椅子を挟み込むように、大きな白色のスクリーンと照明が用意されている。ルキナの顔が映らないようにという配慮だ。ルキナは理解ある放送局を拝みたくなる気分だ。
「何か質問はありますか?」
「大丈夫です」
ルキナはスクリーンの奥に座って精神統一を図る。余裕をもって早めにスタジオに入ったため、収録が始まるまでの時間がかなりある。これだけ暇な時間があると逆に緊張している。
(シアン、今頃どうしてるかしら。ユーミリアの方は、シアンのことを知ってるふうだった気がするんだけど。でも、シアンは全然わかってなかったし。でも、まあ、ユーミリアの方も気のせいかもだし)
ルキナは本番が始まるまでの時間、シアンとユーミリアのことを考えた。そんなふうに時間をつぶしていると、意外と早く本番の時間がやってきた。
「そろそろ始まります。準備してください」
スクリーンの向こうからスタッフの声が聞こえてきた。
「開始一分前!」
ルキナは背筋を伸ばした。髪が乱れていないか、最後にチェックする。そして、撮影開始の合図が入った。
「皆さん、お待たせしました。本日は、ゲストに、ミユキ・ヘンミルさんをお呼びしております。皆さんもご存知の通り、ヘンミルさんは、人気急上昇中の小説家でございます」
放送が始まると、インタビュアー兼進行役の女性がルキナの紹介をする。ルキナは深々と頭を下げた、急にドキドキしてきた。ルキナに見えるのは女性の顔と照明とスクリーン。あまり生放送を撮影しているという実感がわかない。それでも緊張してくる。
「さっそくですが、ヘンミルさんは、どのようなきっかけで小説をお書きになられたのですか?」
「えっと…私、もともと本を読むのが好きで、こんなお話が読みたいなっていうのがずっと頭の中にあったんです。それで、物は試しと思って書いてみたんです」
「そうなんですね。どんな本がお好きだったんですか?」
「定番ではありますが、ジャックリーシリーズです」
「ジャックリーシリーズ。読書好きは皆さん読まれる本ですね」
インタビュア-は、もともと用意された質問だけではなく、ルキナの答えを聞いて、臨機応変に話を展開させていく。ルキナは、インタビュアーに進行を任せ、本当に気楽な気持ちで質問に答えていく。緊張しているので、あまり頭が働いていない。まかせっきりでいられるのはとてもありがたい話だ。
「では、小説家の道に進んだきっかけは…?」
「恩師が、私の小説を読んで、褒めてくださったんです。それから、その先生が知り合いの編集者さんに連絡をとってくれて。嬉しいことに、それからすぐに本の出版が決まったんです。いろいろな話を書きためておいて良かったと思いましたよ」
「素敵な出会いがあったんですね」
「はい」
ルキナも声を出すことに慣れてくると、少しずつ余裕が出てきた。笑いも交えながら話を続けていく。
「それでは、今後の目標は?」
「そうですね…小説家としてしたいことはだいたいできた気がします。サイン会は楽しかったですし、こうして映鏡にも出演できて…」
「先生の小説は演劇化もされていますね」
「はい。本当に、いろいろ楽しませてもらいました。今後の目標というと、あまり具体的なことは考えていないんです。でも、あえて言うなら、今のまま好きな話を好きなように書き続けたいっていうことですね」
「素敵な目標だと思いますよ。ミユキ・ヘンミルさん、本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
思っていた以上に時間はあっという間だった。ルキナは最後に頭を下げて、挨拶をした。
「はいっ、お疲れ様でしたー」
インタビュアーの手腕のおかげで、時間ぴったりに終了した。ルキナは肩の力を抜いて、長く息を吐いた。
「ヘンミル先生、お疲れ様でした。本日はありがとうございました」
スタッフがルキナに水を持って来てくれる。
「お疲れ様です。ありがとうございます」
ルキナはもらった水を一気飲みする。
(シアンのとこに行かないと)
ルキナは、シアンがどこにいるのか知らないことを思い出した。すっと椅子から立ち上がる。
「あの、私、もう帰っても大丈夫ですか?」
近くのスタッフに確認を取りに行く。すると、すぐに大丈夫だと返事をもらえた。
「お疲れ様でしたー」
ルキナはさっさと挨拶をすませて、スタジオを出る。と、スタジオの入り口に銀髪を見つけた。シアンだ。
「シアン、お待たせ」
ルキナがシアンに駆け寄って、シアンの背中に声をかける。
「先生の声!」
シアンの陰からひょこっとピンク色の頭が跳び出てきた。そうして現れたのは、ユーミリアだった。金色のくりくりの目が、ルキナをしっかりとらえている。
ルキナもユーミリアも、動きを止め、顔を見合わせて絶句している。そして、絞り出すように、互いの本名を呟いた。
「ミューヘーン様…。」
「ユーミリア…。」
同時だった。
「え?え?」
シアンだけは状況がわからなくて、二人の顔を交互に何度も見る。
(最悪)
ルキナは、腕を組んでユーミリアを見据える。目の前にいる少女は、間違いなく、あのヒロイン、ユーミリア・アイスだ。出会ってしまった以上、もうなかったことにはできない。
(最悪よ、こんな出会い方なんて)




