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みんなして大人げないんデスケド。

 クッキー作りの練習を終え、一度家に戻ったルキナは、改めて身支度をし、シアンと共に馬車に乗り込んだ。

「お嬢様、さっき急いで帰ってきたみたいですけど、何かあったんですか?」

 シアンが不思議そうに首を傾げた。ルキナは、自ら自分の用事をシアンに伝えることが多い。シアンに予定を知っていてもらわなければならないわけではないのだが、ルキナはおしゃべりなので、無意識に話してしまうのだ。その結果、シアンがルキナの行動を把握していないことはない。だから、シアンはルキナが何も言わずに出かけたのが不思議でならないのだ。しかも、ルキナは出発時刻のぎりぎりに帰ってきた。シアンが気にしないわけがない。

「ルシュド一家に渡す手土産を用意しただけよ」

 ルキナは事前に用意しておいたお菓子の箱をシアンに見せる。

「言ってくだされば僕が買いに行ったのに」

 急ぎの用なら余計に言ってほしかったとシアンは言う。

「いつもならそういうことは僕におしつけてくるじゃないですか」

「なによ、その横暴なイメージ」

「事実ですけど」

 シアンはまだいつものルキナじゃないと言い続けているが、ルキナは「自分で買いたかったから良いの」と言って圧し切る。

「まあ、シアンは双子の相手をしなきゃならないだろうから、体力を温存しておいてもらわないとね」

 ルキナが笑うと、シアンはもうルキナを問い詰めるのは諦めて頷いた。

「体力のないお嬢様に代わって、リュカとミカの面倒は見ますよ」

「だから、いちいち一言余分なのよ」

 ルキナはシアンにからかわれてムッとする。

 ルキナがシアンに憎まれ口をきかれている間に馬車は王都に入り、ミーナのレストラン前に到着した。二人はささっと馬車を降り、レストランの前に立った。

「貸し切り中?」

 ルキナは、入口の前に見たことのない看板が立っていることに気づいた。書いても消せるボードで、貸し切りしている時にのみ使う看板ではないだろう。

(そういえば、エルメスが買い物行ってたみたいだし、これを買いに行ってたのかしら)

 ルキナは、双子とボードゲームをしている間にエルメスが買い物から帰ってきて、ミーナと何かの場所を決める打ち合わせをしていた。その時に、この新しい看板を設置していたのかもしれない。

 ルキナが入口で足止めをくらっていると、シアンがドアを開けた。美味しそうな料理の香りが漂ってきた。

「シアン様、お嬢様、いらっしゃいませ。お待ちしてましたよ」

 ミーナが笑顔で出迎えてくれる。ルキナが今初めてレストランにやってきたかのような言い方をする。ミーナはルキナとの約束を守って、シアンにはクッキーのことがバレないように合わせてくれる。

「ミーナ、これ、どうぞ。たいしたものじゃないけど、子供たちのおやつの足しに出もしてちょうだい」

 ルキナは手土産のお菓子をミーナに手渡す。ミーナは遠慮がちに受け取った。ルキナから物を渡されることが多いので、こういうのは断らないで受け取るのが良いとわかっている。ルキナとしては、贈り物を受け取ってもらえる方がもちろん嬉しい。

「おやつ!?」

 双子はさっそくシアンに抱きついていたが、おやつという単語にすぐに反応した。

「今日のおやつはもう食べたでしょう?」

 ミーナはお菓子の箱を上に上げて、双子の手が届かないようにする。

「ごめんね。私が余計なことを言っちゃったから」

 ルキナは両手を合わせてミーナに謝る。ミーナは「いいえ」と答える。

 ルキナは店の奥に移動して、座っているチカ、チグサ、マクシスに近づく。

「二人とも、チカの送り迎え、ありがとね」

 ルキナがお礼を言うと、マクシスが笑いながら首を傾げた。

「ルキナがお礼言うこと?なんかチカの保護者みたいだね」

 今日は、方向的にチカを馬車に乗せてくるのはアーウェン家が一番良いだろうということで、チカはマクシスたちの馬車に乗ってやってきた。ルキナは当然のようにチカの送迎を担当するつもりだったので、気持ち的には、マクシスたちに送迎をお願いしたつもりでいた。

「ま、それもあながち間違ってないわよ。だって、私、チカの支援者だもの」

 ルキナは胸を張る。ルキナはチカの観劇のために馬車を出したりチケットを用意したりなど、彼の今後の活躍に対するちょっとした投資をしている。まだ額は小さいが、立派な支援者だ。そういう意味では、ルキナはチカの保護者に近い。

「あー、うん。そうだね」

 マクシスは何のことかわからないので、適当に頷いた。

「チグサ、今日はどう?いつもみたいにいっぱい食べられそう?」

 ルキナは、目の前の料理に釘付けのチグサにお腹の調子を尋ねる。すると、チグサはちらっとルキナの方を見て、小さく頷いた。

「腹がなるぜって」

 マクシスがくすくす笑いながら言う。チグサはもう料理に目がいっていて、聞いていない。

「腕がなるんじゃなくて?」

「うん、だって、言ってるのは姉様のお腹だから」

 マクシスは無表情ながらに嬉しそうなチグサを見られて、マクシスもテンションが高くなっているようだ。

「マクシスもそんな冗談を言うのね」

 マクシスが子供みたいな冗談を言ったので、ルキナはマクシスの意外な一面を見られたような気がした。

「皆さん、ごきげんよう」

 シェリカがルキナたちの前に立って丁寧にお辞儀をした。シェリカとティナも到着したようだ。ルキナがシェリカの方に顏を向けると、タシファレドと取り巻き、ベルコル、イリヤノイドも既に集まっていたことに気づいた。全員揃ったようだ。

「先日は、一週間も子供たちの面倒を見ていただき、ありがとうございました。このような形でしかお礼ができませんが、楽しんでいただけると嬉しいです」

 ミーナが皆の前で挨拶をし、深く礼をした。エルメスもミーナの横に並んでお辞儀をした。

「リュカとミカと遊んで、こんなごちそうにありつけるなんて幸運だわ」

 ルキナは、もてなされる者たちの代表として話す。ルキナの言葉に、皆が頷いた。

「それじゃあ、せっかくの料理が冷めないうちに、乾杯をしましょ」

 ルキナの提案に、皆が賛同する。ルキナはリュカとミカを自分の近くに呼び寄せ、耳打ちをした。すると、双子が自分のコップを持って、みんなに向かってコップを持つように言った。

「準備良い?」

 ミカが全員飲み物を持ったのを確認すると、「せーの」と小さな声でリュカに合図する。そして、双子が声を揃えて、「かんぱーい」と言った。

「かんぱいっ」

「かんぱーい」

「いえーい」

 双子の音頭に続き、皆が乾杯をした。こうして、ルシュド家のレストランでの食事会が始まった。

「美味しい!」

 さっそく料理を口にしたシェリカが笑みをこぼした。その隙に、ティナがシェリカの皿に豆をせっせと載せる。ここに来ても好き嫌いをさせるつもりはないらしい。ルキナは、ティナの行動を見て見ぬふりをしてシェリカに近づく。

「でしょ?」

 ルキナは他の者たちと違い、ミーナの料理を何度も食べているので、その美味しさはよく知っている。ミーナの料理の腕は、他人のルキナも自慢したくなるほどだ。

「ミーナはうちで働いた後、ジェラミラで修業をしてたのよ。もともと学校で料理をならってたし」

「ジェラミラって、あの?」

 ルキナが胸を張っていると、シェリカが驚いた。ジェラミラというのは、貴族の間で有名な高級レストランだ。一年先の予約もとれない超人気店だ。そんな店で修業していたと聞けば、誰だって驚き、感心する。そうでなくとも、料理学校で料理の勉強をしている時点で、料理人の中でもエリート中のエリートだ。ミーナは本当にすごい料理人なのだ。

「ほら、見てよ。チグサ、あんなに幸せそうに食べてるわよ」

 ルキナが言うと、シェリカが「本当ですね」と同意した。チグサは心なしかいつもよりゆっくり食べているように見える。

「姉様、美味しいですか?」

 マクシスが話しかけるが、チグサは料理に夢中で返事をしない。それほど美味しいということなのだろう。

「あ、噂をすれば何とやらね」

 ルキナたちのそばにミーナがやってきた。

「ミーナ、今日の料理も完ぺきね」

 ルキナが声をかけると、ミーナは嬉しそうにした。

「旅行はどうだった?」

「おかげさまで、とても楽しかったですよ」

 ルキナはミーナから旅行の思い出話を聞き出そうと思い、ミーナを椅子に座らせた。ルキナはその隣に座った。シェリカも流れに乗って座った。

「もうちょっと具体的にちょうだい。ミーナにはお土産話をしてもらうってことになってたし」

 ルキナは恋バナをする時のように興奮してくる。ミーナがどこまで話してくれるかわからないが、ドキドキして待ってしまう。

「お嬢様に用意していただいたプラン、とっても素敵で、特に船の上から夕日を見るのは本当にきれいでした。お嬢様にも見せて差し上げたかったです」

 ミーナが目を輝かせる。ミーナのテンションを見れば、その夕日がどれだけ綺麗なのか想像できる。

(写真があればなー)

 写真さえあれば、多少なりとも、ミーナの感動を共有することができただろう。ルキナは、写真のないこの世界の科学技術を疎ましく思う。

「料理も全部美味しくて、ついついメモ取ってしまいました」

 ミーナが照れ笑いをする。ルキナは、ミーナの可愛さに胸をうたれる。ミーナは料理人としての向上心は衰え知らずのようで、旅行中も自分の料理に活かせる技術や発想はないかチェックしていたらしい。

「楽しめたみたいで良かったわ」

 ルキナは、ミーナたちに旅行をプレゼントして良かったと思った。

「海って綺麗ですよね。浜辺を二人で歩いたんですけど、砂もさらさらで、今度は泳ぎに来たいねって話をしたんですよ」

 ミーナが唐突にのろけ話を始めた。ルキナは急いで意識を集中させ、ミーナの言葉に耳を傾ける。しかし、ミーナはすぐに話をやめてしまう。恥ずかしいようだ。

「手を繋いで歩いたの?」

 ルキナは容赦なく質問をする。ミーナは照れながらも「はい」と答えた。

「夜、砂浜に座ったりして?」

「はい」

「甘い口づけをしたり?」

「…はぃ」

「海や星より君の方が綺麗だよ、なんて言われちゃったり!?」

「…。」

 ルキナが怒涛の勢いで質問を重ねると、ついにミーナは黙ってしまった。

「お嬢様、そのへんで勘弁してください」

 エルメスが助けに入ってきた。エルメスの沽券にもかかわる内容ではあったので、エルメスが止めに来てもおかしくはないのだが、エルメスは紳士な対応を素敵だと思った。ミーナは旅行中の何かを思い出したらしく、照れてエルメスの顔が見れないでいる。エルメスはそれを可愛いと思っているようで、とても優しく微笑む。

(写真があればなー)

 おしどり夫婦の素敵なシーンを残しておきたいと、ルキナは心の底から思った。カメラがここにあったら、連写して何枚ものデータに残すだろう。

「ハネムーンの次は家族旅行ね」

 ルキナは、ミーナとエルメスに旅行を楽しんでもらえたことが嬉しくて、また旅行をプレゼントしようと勝手に計画を立て始める。

「そんな、そんな。旅行にはお金かかりますから」

 ミーナが慌ててルキナを止める。ルキナは新婚旅行を実際にプレゼントしてのけたので、ミーナはルキナの行動力を身に染みて理解した。本当に実行に移しかねないので、早めに止めておくしかない。

「そうですよ。お嬢様、ご自分の旅行を楽しまれてはどうですか?」

 エルメスもミーナと同じように旅行のプレゼントを遠慮する。高額なプレゼントはそう何度ももらいにくい。ルキナもそういう感覚はわかっているのだが、プレゼントする側になると、もっともっとという気持ちになってしまう。

「私、別に旅行が趣味ってほどではないのよね。あまり良いとこ知らないし。シェリカはどこかおすすめはある?」

 ルキナは旅行に詳しそうなシェリカに尋ねる。しかし、ルキナが顔を向けた先にシェリカはいなかった。

「シェリカ様ならあちらに」

 エルメスが少し離れたテーブルを指した。皆が集まって何やら盛り上がっている。ルキナは気になって近づいて行く。

「僕、もう出したよ」

「じゃあ、私の番ね。はい。シアン、良いよ」

 昼過ぎにルキナが来たときに双子に付き合って遊んだゲームだ。双子たちは皆に勝負を仕掛けているようだ。そうこうしているうちに、シアンが一番に上がった。双子とは圧倒的な差をつけての勝利なので、全く手を抜いている様子はない。

「大人げないことするわね。泣かれても知らないわよ」

 ルキナはシアンが子供相手にも手加減しないので呆れる。子供たちが負けたショックで泣き出さないか心配になる。しかし、ルキナの心配とは裏腹に、双子たちはシアンに尊敬の眼差しを向けた。

「シアン、すごーいっ!」

「すごーい」

 シアンはゲームが上手いと、双子は尊敬しているようだ。

「え、なんでそうなるのよ」

 ルキナは、あまりに予想と違う双子の反応に頭を抱える。子供の考えていることは全然わからない。

「今のところ、子分が一位で、二位がシアンとミッシェルとノアルドとマクシスでしょう?」

「へ?」

 ミカの発言にルキナは思わず驚きの声を出した。シアン以外も双子の相手をしたようだが、皆揃って双子に勝ってしまったようだ。

「オジョウがビリね」

 ミカがニヤリと笑ってルキナを見る。さも「オジョウってバカなんだね」とでも言いたげだ。

「みんなして大人げないってどういうこと!?」

 ルキナは叫び声を上げる。

「手を抜いてた私が馬鹿みたいじゃない」

 ルキナは恨めしそうにシアンを見る。シアンは手を抜いて双子を勝たせてあげるだろうと思った。シアンはルキナの視線に気づいて席を立った。

「いつの間にこのゲームやってたんですか」

 シアンがルキナに近づいて言う。

「内緒」

 危うく今日のことを口走ってしまうところだった。ルキナはふいっとシアンから顔をそらした。シアンは、ルキナが不機嫌なので困っている。

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