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15. 探し物が見つからないんデスケド。

 六月に入り、生徒会や実行委員会が積極的に文化祭に向けて動き始めた。ルキナは後輩たちが忙しくなり始めた中、ルキナは図書室で本を読んでいた。ルキナは授業がないが今は授業時間。放課後は生徒会室でいつものメンバーと打ち合わせをする約束をしているが、それまで時間が空く。ルキナは暇つぶしに読書をすることにした。ルキナの隣にはユーミリアも本を読んでいる。しかも、彼女が読んでるのはルキナが執筆したものだ。書いた本人の前で読むとは地味な嫌がらせだ。ユーミリア自身はそんなふうに思ってもいないのだろうが。

「あれ?ないなー」

 ルキナの向かい側にはマクシスがいて、マクシスは何かを探している。カバンから取り出した教科書を机に置いて、カバンをひっくり返す。

「どうしたの?」

 さすがに目の前でバタバタと動き回られているのに無視し続けることはできない。このままでは本にも集中できないし、ルキナはマクシスに声をかけた。

 マクシスは一度手を止めると、頭を書きながら言った。

「後で読もうと思ってた手紙がどこかに行っちゃったみたいなんだ」

 かなり困っているようだ。

「手紙をなくしたの?」

 ルキナはマクシスを手伝ってあげようと思い、本を閉じて立ち上がった。マクシスによると、探しているのは秘議会廃止に関して協力を仰いでいた相手からの手紙らしい。たしかにそれはなくしたら困るものだ。

「カバンの中に入れてたの?」

 ルキナは机の向こう側に移動してマクシスに近寄る。

「どうかしましたか?」

 ルキナが動いたことで、ユーミリアもマクシスが何かあったらしいことに気づいた。

「マクシスがなくしものをしたらしいの」

 ルキナはマクシスが机の上に広げた物を動かして手紙を探しながら、ユーミリアの質問に答える。

「何をなくされたんですか?」

 ユーミリアも手伝うためにルキナの方にやってきた。

「手紙らしいわよ」

 ルキナが探している物を教えると、ユーミリアは「なるほど」と頷いて、机の下を探し始めた。「机に置いてたはずなんだけどなぁ」

 マクシスがお手上げと言うように呟いた。ルキナが見た時、マクシスはカバンの中を探していたが、その前に机の上やその周辺を探していたらしい。

「普通の白い封筒に入ってる手紙よね?」

「うん。普通の手紙だよ」

 ルキナはマクシスの教科書の間に手紙が挟まっていないか確認していくが、それらしい物は見つからない。

「そろそろ時間だし、先に本だけ戻してくるわ」

 時間を確認したところ、もうすぐ授業が終了する時間だった。ルキナは一度手紙探しを中断し、すぐに動けるように本を片しておくことにする。

 ルキナは本を持って本棚に移動した。

(えーと、たしかこのへん…)

 ルキナは本の並びを見て、自分の持っている本の会った場所を探す。本と本の間に一冊分の隙間がある場所を見つけ、ルキナはそこに本を入れようとした。

「これって…?」

 ルキナが本を入れようとしたところに何か紙があることに気づいた。それを取り出すと、封筒であることがわかった。マクシスが探していた手紙はこれだろう。封筒にマクシスの名前も書かれている。

「マクシス、あったわよ」

 ルキナは急いでマクシスたちのもとへ戻り、見つけた手紙を見せた。マクシスがどこにあったのか問うたので、ルキナは本棚にあったと答えた。

「なんでそんなところに?」

 マクシスは予想外のところに手紙があったので首を傾げる。

「風じゃないんですか?」

 ユーミリアは手紙がどこにあったのかしっかり理解しているわけではないようで、的外れなことを言う。

「風であんなところまで来ないでしょ」

 ルキナは風が要因ではないだろうと答える。途中までは風の影響もあったかもしれないが、人の手も借りずに手紙が本棚に入るとは考えにくい。

「誰かが落ちてるのを拾って本棚に置いたんだと思うんだけど…」

「変なところに置く人もいるものだね」

「そうなのよね」

 ルキナは誰かが親切で落ちていた手紙を本棚に置いてくれたのではないかと考えたが、わざわざ見えにくい場所に置くのは逆に意地悪だ。いっそ床に置きっぱなしにしていてくれた方がこちらも見つけやすかった。偶然、ルキナが本を戻そうとしていた場所に手紙があったから見つけられたが、それ以外の場所にあったらルキナも気づくことはできなかっただろう。

 マクシスは誰かがわざと手紙を隠した可能性を考えていた。誰が何のためにこんなことをするのかは不明だが、考えられないことでもない。

「妨害にしても、やってることが小さいですよね」

 ユーミリアが苦笑した。ルキナはユーミリアの言うことはもっともだと思った。

 ルキナたちの行動を良く思っていない人がいるのは確かだ。この学校にも四頭会議廃止に反対する者がいてもおかしくはない。ルキナたちはまだ表立って運動を行ってはいないが、計画のことを全力で隠しているわけではない。手紙の目的に気づいている者もいることだろう。だが、妨害のつもりで行ったのなら、よほど気が小さい人だ。手紙を一つ隠すだけではたいした妨害にはならない。たしかに手紙をなくしたかもしれないと思ったマクシスは焦っていたが、事情を説明し、もう一度返事をもらうことはできる。そうでなくても、他にも賛同者はいる。一人や二人の信頼を失ったところで、たいした痛手ではない。

「とりあえず、手紙も見つかったことだし、移動しようか」

 マクシスは机に広げた荷物をカバンに詰め込み、生徒会室に移動しようと言った。今移動を始めたら到着した頃に授業が終わり、放課後の時間になる。

 ルキナたちは図書室を出て、生徒会室に向かった。絶賛文化祭準備に追われている生徒会は生徒会室での活動を主としている。しかし、今はまだ毎日活動しなければならないほど切羽詰まっていないようで、今日も空いた時間を縫って場所を借りている。とはいえ、これからはそうもいかないだろう。他の場所を探さなければならない。

「鍵は?」

 中央塔の階段を上りながら、ルキナはマクシスに問う。

「生徒会室の鍵はシリルが持ってるよ。今日は借りに行くタイミングがなかったから」

 皆で打ち合わせを行うと決めた日、マクシスはいつもシリルに生徒会室の鍵を借りに行く。でも、今日は珍しく鍵を借りられなかったそうだ。互いの授業の組み合わせ的に、鍵の受け渡しを行うタイミングが合わなかったのだ。

 そんなこんなで生徒会室に到着すると、ルキナたちは様子がおかしいことに気づいた。生徒会室の扉に『立ち入り禁止』と書かれた紙が貼られている。関係者以外立ち入り禁止の看板なのかとも思ったが、どうやらそうではなさそうだ。紙が完全に扉を封じるような位置に貼られているのだ。ドアの開閉には紙を剥がす必要がある。ただ生徒会役員以外の立ち入りを禁止するために、そんな手間なことをするだろうか。

 当然鍵もかかっていて、紙を剥がす剥がさない以前に開けようがない。マクシスがドアノブを動かしてガチャガチャと音を立てるが開きそうにない。ドアが開かないことを首を横に振ってルキナたちに知らせた。

「シリルが来るまで待機かしらね」

 この様子では生徒会室を使えない可能性が高いが、状況もわからない状況ではシリルを待つしかない。生徒会長であり、生徒会室の管理を任されている彼がこのことを知らないことはないだろう。

 ルキナたちが廊下で途方にくれていると、シリルより先にタシファレドとアリシアがやってきた。アリシアは話し合いに参加しないので、タシファレドに付き添って来ただけだろう。

「今日は場所変えた方が良さそうだぜ」

 タシファレドはルキナたちの前に現れて早々言った。生徒会室が使えない事情を知っているような口ぶりだ。

「生徒会室使えないの?」

 ルキナが問うと、タシファレドは肩をすくめながら「窓ガラスが全部割れてたんだってさ」と応えた。タシファレドも詳しいことを知らず、知っていることは全てアリシアから聞いたのだと言った。

「たまたま私がここを通りかかった時、中からすごい音がして…」

「え?事件?」

 アリシアはどうやら生徒会室が使えなくなった原因である事件に居合わせたらしい。と言っても、生徒会室の中を確認したわけではないので、何があったのかは知らない。変な音がしたことで、危険を察知したアリシアは、教員に変な音がしたことを報告に行ったそうだ。その教員と一緒に室内を確認したので、生徒会室の窓が割れたことを知っているのだ。

 ルキナはアリシアが変な事件に巻き込まれなかったことに安堵した。アリシアが言うには、まだ窓ガラスが割れた原因は判明していないそうだ。

「というわけで、ここは使えない。他の場所を考えた方が良さそうだぜ」

 タシファレドはそう言って、ちょうど良かったじゃないかと言った。ちょうど良いというのは、どうせ生徒会室以外の場所を探す必要があった点に関してだろう。たしかにタシファレドの言う通り、いずれ場所探しは必要だった。その予定が少々早まっただけのこと。たいした痛手ではない。

 だが、生徒会にとってはそうもいかないだろう。窓ガラスを直し、復旧するのがいつ頃になるか不明だが、安全確保のためにしばらくは中に入らせてもらえないだろう。今後の活動にも必要な資料もあるだろうに、なかなか災難なことだ。

「すみません、今日は生徒会室は使えません」

 マクシスとタシファレドが次はどこで打ち合わせをしようかと相談をしていると、シリルが走ってきた。シリルは少し前から生徒会室のことを知っていたが、伝えるタイミングがなく、マクシスに知らせられなかったようだ。シリルは具体的な中の状況と復旧予定日を教えてくれた。他の生徒には教えてくれないだろうが、生徒会室の管理者は知らされて当然の情報だ。

「どうかしたんですか?」

 遅れてシアンとイリヤノイドがやってきた。イリヤノイドは相変わらずシアンにくっついていて、ルキナはそれを暑苦しいと思った。それが伝わったのか、イリヤノイドはルキナと目が合うと全力でそっぽを向いた。

「まあ、こんなとこにいてもしょうがねえし、移動するか」

 タシファレドは次の拠点とする場所の目星をつけていたようで、直談判がてらそこに向かおうと言った。それにマクシスが賛同する。

「シェリカたちに伝えなきゃだから、私はここで待ってるわ」

 ルキナはシェリカやシュンエルが来た時のため、ここで待機することにする。誰かはここに残って、まだ何も知らない人たちに状況を伝える必要がある。ルキナはその役目を買って出た。

「そんじゃあ行くか。リュツカは?」

「僕は少し気になることがあるので…」

 タシファレドがシアンも一緒に行くだろうと思って声をかけたが、シアンはここに残ると言った。タシファレドは意外そうにしながら、マクシスを連れて次なる目的地に向かった。

「たっちゃん、待ってぇ」

 アリシアがタシファレドを追いかけ、その腕に抱きついた。タシファレドとアリシアの関係は良好なようで、いつ見てもラブラブだ。そんな二人と歩いているマクシスは居心地が悪そうで、一歩引いた距離を保って歩いていた。

「先輩、気になることって何ですか?」

 イリヤノイドがシアンに尋ねる。ルキナも気になっていたことなので、シアンの答えを待つ。

 シアンは一度目を閉じ、しばらく何かに集中するように息を整えた後、ぱっと目を開いた。何かわかったようだ。

「魔法の痕跡があります」

 シアンはしゃがむと、さらっと床を手でなぞった。魔法が使われた痕跡とやらに手で触れることができるわけではないだろうが、たしかにそこにあるのだろう。ルキナはシアンと同じものを感じられないことを悔しく思う。

「不審者でしょうか」

 イリヤノイドがシアンの隣でしゃがんで言う。どんな目的で生徒会室を荒らしたのかわからないが、魔法の痕跡があるということは窓ガラスが割れたのは自然現象ではないということだ。

「窓が割れた時、このドアは閉まってたらしいし、中に泥棒でもいたのかしら」

 ルキナはドアをトントンと指で叩いた。当時、中の様子を見られた者がいないため、目撃情報はない。

「でも、中から感じる魔力より、こちらの方が強いんです」

 シアンが意味ありげなことを言って立ち上がった。ルキナは何が「でも」なのだろうと思った。

「それって…どういうことですか?」

 ユーミリアは一瞬わかりかけたような様子だったが、やはりシアンの言いたいことがわからなかったようだ。途中で言葉を変えた。

 シアンはゴホンと咳ばらいをすると、解いた謎を披露する探偵のような口ぶりで言った。

「魔法を使ったのは生徒会室の中、窓の外にいたのではなく、こちらの廊下にいたということです」

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