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仕方なしの別行動デスケド。

 別行動をする前に、集合場所とグループの分け方を決めるために、一度全員で集まった。ただし、タシファレドを除いてだったが。タシファレドはさっそくナンパをしに単独行動を始めたらしい。

 ルキナはアリシアの顔を見る。ぼんやりとしていて、心ここにあらずという様子だ。タシファレドと何かがあったのはたしかだ。でなければ、タシファレドのナンパを止めに行くはずだ。

「アリシアは大丈夫なの?」

 ルキナは、シアンにひそひそと尋ねる。シアンはアリシアとタシファレドの後を追いかけていったので、何か事情を知っているかもしれない。

「ノオト様は大丈夫とおっしゃってたんですけど…。」

 シアンの言い方は歯切れが悪い。アリシア本人がどんなに大丈夫と言っても、周りにはそうは見えない。

「喧嘩なんて日常茶飯事でしょうに」

 ルキナは腕を組んでため息をついた。アリシアとタシファレドが言いあっているところは何回か見たことがある。いつもアリシアの圧力でタシファレドが負けることになる。アリシアの暴力やホラー映画なみの恐怖の睨みでタシファレドが丸め込まれることが多い。

「今回のはいつもとは違う感じで、タシファレド様が怒ってたんですよ。ノオト様はあまり言い返しませんでしたし」

「それは心配ね」

 シアンから話を聞いてさらにアリシアが心配になった。ルキナは、別行動の間、シアンにアリシアの様子を見てもらうべきではないかと考える。

「シアン」

 ルキナがシアンにそのことを言おうと呼びかけると、シアンは深く頷いた。ルキナの考えを全て理解したようだ。シアンもアリシアのことは心配だったのでちょうど良かったようだ。

「僕はもちろん姉様と一緒だよ!」

 ルキナとシアンがグループ分けの話をしていると察したマクシスがシアンに迫る。

「わかった、わかった」

 シアンはマクシスを手で押し返す。ルキナは、それを見て、マクシスのこともシアンに任せることにした。

「シアン、マクシスもよろしく」

 ルキナがそう言うと、シアンが仕方なさそうに「わかりました」と答えた。本当は、ルキナは自分とノアルド、シアンの三人は少なくとも一緒に行動するつもりだった。シアンにノアルドとのイチャイチャシーンを見せなくてはならない。しかし、シアンにお荷物二人を任せてしまった以上、自分も一緒にと言うのは難しそうだった。結局人数が増えて別行動の意味がなくなりそうだ。

「あとは…私はリュカとミカの面倒を見るから、一緒にって言う人がいれば私と一緒に来てもらう感じかしらね」

 ルキナが言うと、真っ先にノアルドが一緒に行くと言った。ノアルドが来るなら、護衛のミッシェルも同行することになる。

「子分、一緒に行こ」

 チカがミカに捕まった。チカも一緒のグループになりそうだ。

「シェリカとティナはどうする?別行動する?」

 ルキナが二人に尋ねると、シェリカが頷いた。

「リュカ君とチカちゃんの相手役が不足でなければ」

 シェリカはティナと二人で自由に屋台を見て回りたいようだ。ルキナは好きにして良いと言う。

「子守は私の担当だもの」

 双子をリュツカ家の屋敷に連れてきたのはルキナだ。ルキナが率先して面倒を見るのは当然だ。これまでが皆に頼りすぎていただけだ。

「そうだ。イリヤ、あなたはシェリカとティナについて行ってあげて。女の子だけっていうのは心配だわ」

 ルキナが言うと、イリヤノイドが不満そうな顔になった。いろいろと文句が言いたいことはあるだろう。

「イリヤと呼ばないでください」

 少し迷った後、イリヤノイドはまずは呼び方に文句を言った。

「僕は先輩と一緒が良いんですけど」

「わかってるわよ。そのうえでのお願い」

 ルキナが真摯にお願いしているが、イリヤノイドがルキナのお願いを聞いてくれるとは思えない。ルキナは視線をシアンに送って助けを求める。

「イリヤ、僕からもお願いするよ」

 シアンが言うと、イリヤノイドはわざとらしくため息をついた。そして、「わかりました」と頷いた。

「先輩が言うんですから、仕方なくですよ」

「無理なら来ていただかなくても大丈夫ですよ」

 イリヤノイドが恩着せがましく言うので、シェリカが遠慮し始めた。

「ティナは強いと思うけど、やっぱり男は一人くらいいた方が良いと思うわよ」

 ルキナがイリヤノイドも一緒の方が良いと言うと、ティナもそれに同意した。ティナは主人の命を第一に考えているので、イリヤノイドがたとえ貴族の子供であろうと、利用できるものは利用しようと考えている。シェリカは周りに流されるように、イリヤノイドに「よろしくお願いします」と言った。

「別に、先輩のためですし」

 イリヤノイドの言い方はとげとげしい。

「それじゃあ、花火が始まる頃にここに集合ね」

 ルキナはそう言って、双子たちにどこに行きたいか尋ねる。双子は二人で手を繋いで河原から人であふれる道に飛び出した。

「走るのは禁止」

 ルキナたちが双子を追いかける。子供というのは視野が狭く、興味のある物以外見えなくなってしまう。ルキナの制止も聞かず、走り続ける。やっと止まったと思ったら、これがやりたいだの、あれが食べたいだの、わがまま放題だ。ルキナはその全てをかなえてあげた。本当は我慢ということを教えるために制限を設けるべきだったが、双子が可愛くてどうしても全て言うことを聞いてあげたくなってしまう。我慢を覚えるべきはルキナの方かもしれない。

「リュカ、ぬいぐるみ邪魔なら持っててあげるわよ」

 リュカはルキナがあげたぬいぐるみを抱えたままミカと手を繋いでいるので、両手が塞がった状態になっている。ルキナがぬいぐるみを持ってあげると手を差し出す。しかし、リュカは首を横に振った。自分で持って歩くらしい。

「転ばないようにだけ気をつけてね」

 ルキナが言うと、リュカが笑顔で大きく頷いた。

「子分、今度はあれ食べたい!」

 ミカはチカにおねだりしている。チカも怒ったりしないで、ミカの要望に応え続けている。もしかしたら、チカも子供が好きなのかもしれない。

「腹壊さないように気をつけろよ」

 ミッシェルが笑う。ミカがあれもこれもと色々食べたがるので、ミッシェルは面白がっている。

「チカ、ごめんね。後でお金は返すから」

 ルキナはチカの耳元でささやく。チカは平民の家だ。経済的な余裕はないだろう。ルキナは前世の記憶があるので一般庶民の感覚がわかる。お祭り価格の屋台での出費はなかなか痛い。子供のおねだりは際限がないので余計に辛い。

「いえ、全然足りませんが、いつものお礼です」

 チカは首を振ってお金を返す必要はないと言った。チカはルキナの支援で演劇を観ている。そのお礼にと考えているようだ。自分にはこのような返し方しかできないからと。

「そう、わかったわ。ありがとう。でも、無理はしないでね」

 ルキナの言葉にチカが頷いた。

「ルキナ」

 ルキナがチカと話していると、背後からノアルドに名前を呼ばれた。ルキナは首を回してノアルドの方を見る。

「はぃんっ!?」

 ルキナが返事をしようと思って開けた口に何かが入れられた。甘くて香ばしいたれの味が口いっぱいに広がる。筒状の食べ物を噛みきり、口の中に押しこむ。ノアルドが串を持ってニコニコと笑っている。ルキナは、視界の端で、ノアルドが持っている物と同じ物が売られている屋台を見つける。白色の生地に焼肉が包まれた筒状の食べ物だ。美味しいのはたしかだが、口に食べ物があっては何もしゃべれない。

「…。」

 ルキナは、早く食べ終わろうと、一生懸命もぐもぐする。ルキナが頑張って噛めば噛むほど、ノアルドが満面の笑みを見せる。

「んーっ」

 ルキナは大急ぎで肉を噛み切り、ごくんと飲み込む。やっと口が解放された。

「何ですか、これ」

「美味しいですか?」

「美味しいですけど」

 ルキナが食べ終わるのをじっと見ていたノアルドは、変わらず笑顔でルキナに感想を聞く。

「…って、そうじゃなくて。今はシアンはいないんですし、こういうことしなくても大丈夫ですよ」

 イチャイチャしているところを見せるべき相手はいない。ノアルドがルキナに可愛いいたずらをする必要もないはずだ。

「そうですね」

 ノアルドは笑顔で相槌を打ちながら、ルキナに食べかけの串を見せる。

「食べますか?」

 ルキナが頷くと、ノアルドが「はい」と口もとに串を近づけた。またあーんをするつもりだ。

「だから、今はそういうことしなくて大丈夫なんですって」

 ルキナが動揺している姿を見て、ノアルドが笑う。ルキナはノアルドにペースを乱されている。

「ミカ?」

 チカが手にフルーツの入ったカップを持ってキョロキョロと周りを見回している。

「どうしたの?」

 チカが焦っているようなので、ルキナが声をかける。すると、チカが顔をばっと上げた。

「ミカがいない」

「え!?」

 たしかに、チカの言うように、ミカの姿が見当たらない。さらに、リュカの姿もない。二人は手を繋いで行動することが多いので、もしかしたら、二人一緒に迷子になってしまったのかもしれない。

「私がちゃんと見てなかったから…。」

 ルキナは、双子から一瞬でも目を離した自分が悪いと責め始める。ミッシェルが「僕の方こそ、見てるべきだった」と言って申し訳なさそうにする。四人とも自分のせいだと思っている。でも、ここで立ち止まって責任について話し合ったって何も変わらない。

「とにかく、二人を探しに行きましょう」

 ノアルドの声を合図に、四人一緒にその場を動き出した。双子の名前を呼びながら周辺を歩く。子供の足ではそんなに遠くは行けないだろう。

「リュカー!ミカー!」

 ルキナは、双子から返事が返ってこないので、もう二度と会えないのではないかという不安にかられる。目には涙がたまってきている。

「ルキナ様?」

 ルキナが双子を探していると、不意に名前を呼ばれた。顔を上げると、不思議そうな顔をしたシェリカとティナが立っていた。その後ろには、不機嫌そうなイリヤノイドが立っている。言われた通りに、女子二人を見守ってくれていたらしい。

「シェリカ!ティナ!大変なの。子供たちがどこかに行っちゃって」

 ルキナが血相を変えていたので、三人とも、事の重大さにすぐに気づいた。

「ルキナ様、私はお屋敷に戻りますね。もしかしたら、二人が帰ってるかもしれませんし。いなければ応援を呼べます」

 シェリカは冷静だ。ルキナの返事も待たずに、体の向きを変えた。

「ティナ・エリ、行くわよ」

 そう言って、シェリカはティナと一緒にリュツカ家に向かって歩き始めた。

「ルキナ、どこではぐれたんですか?」

 イリヤノイドも協力しようと、ルキナに声をかけてくれる。しかし、ルキナは答えない。その代わり、ルキナはイリヤノイドの顔を見てシアンのことを思い出し、一人で勝手に歩き始めた。

「ノア様、シアンたちに知らせてきます」

 ルキナはノアルドに一言言い残し、急いで河原に向かった。イリヤノイドもついて来る。二人が集合場所に行くと、シアン以外の三人とタシファレドが待っていた。

「ルキナ嬢、もう花火が始まるよ。みんなは?」

 タシファレドがルキナに笑顔を向ける。ルキナはそれを無視してシアンの居場所を尋ねる。その問いには、チグサが答えた。無言で腕を伸ばして、シアンのいる方を指さした。ルキナはシアンの姿を確認するとすぐに走り出した。

「ルキナ、何かあったの?」

 マクシスが後ろで何か言っているが構っている暇はない。ルキナは、シアンに助けを求めることで頭がいっぱいだった。

「シアン!」

 走りながらシアンの名前を呼ぶ。

「リュカとミカが!」

 シアンがルキナに気づく。シアンに近づくまで見えなかったが、誰かがシアンの傍から離れて行った。シアンと話していたのかもしれない。しかも、なんとなく見覚えがある気がする。

「どうかしたんですか?」

 ルキナが誰かに視線を奪われていると、シアンが声をかけてきた。ルキナははっとして、急いで事情を話し始めた。

「ちょっと目を離したすきにどっか行っちゃったみたいで」

 ルキナが泣きそうにしていると、シアンが励ましてくれる。

「もう一度ちゃんと探しましょう。手分けして探せばあっという間です。何事もなかったかのように、ひょいっと現れるかもしれませんし」

 シアンはルキナを慰めるように言う。ルキナとシアンが話していると、そこへ皆が集合した。他の皆にはイリヤノイドが迷子の説明をしてくれていたようで、全員状況を把握していた。

「成果があってもなくても、十五分後にここに集合しましょう」

 気が動転しているルキナに代わり、シアンが取り仕切る。皆、シアンの言葉に従い、動き始める。

「どこではぐれたって?」

 ルキナが走っていると、マクシスとチグサもついてきた。やはり、はぐれたあたりを重点的に探すべきだろう。

「あっちの屋台の方よ」

 ルキナは二人を案内するように、双子が消えた場所を目指す。

「姉様、離れないように気をつけてくださいね」

 双子を探している自分たちのうちの誰かがまた迷子になってしまったら元も子もないと、マクシスはチグサを気にかけている。集合場所を決めているので、最悪、何とかなるだろうが、チグサを一人にするのは不安だ。

「リュカ!ミカ!返事して!」

 ルキナは二人の名前を呼びながら走り続ける。人が多くて動きづらいが、そんなことを言ってる場合ではない。

「あ、花火」

 見知らぬ誰かの声が聞こえて顔を上げると、ちょうど花が開いた。夜空が美しく輝く。その後、音が遅れてやってくる。

(本当はみんなで楽しく見るはずだったのに)

 ルキナはまた自責の念に襲われる。花火に見惚れている暇はない。ドン、ドンという空から響く低音を聞きながら、双子捜しを再開する。

 ルキナが足元を見ながらうろうろしていると、周囲が騒ぎ始めた。地元の人と思われる男性たちが人混みの中をするすると抜けながら進んでいく。しばらくすると、「見つけたぞ!」というひと際大きな声が聞こえてきた。ルキナが何のことかと不思議に思っていると、ひゅっと目の前を白い何かが駆け抜けた。

「えっ!?」

 ルキナが慌てて目で追うと、シアンの後姿があった。シアンが目の前を走って行ったのだ。その後ろをベルコルがついて行く。

(ベルコル?留守番をしてたはずじゃ…シェリカたちが呼んだのね)

 ルキナは状況を整理するようにその場でフリーズする。そうして考えをまとめると、シアンたちが向かった場所を目指して走る。もしかしたら、双子を見つけたのかもしれない。そんな淡い期待を胸に、騒ぎの中心に近づいて行く。

「川上で近いのは関所だけじゃない!」

 ベルコルの叫ぶような声が聞こえてきた。人垣の間からチラリとシアンとベルコルが見える。騒ぎの中心には荷車がある。

(双子を探してるんじゃないの?)

 ルキナは人と人の間の隙間から中の様子を確認しようとする。ルキナが跳んだりしゃがんだりして何とか状況把握をしようとしていると、ベルコルとシアンが走り出した。川上に走って行ったようだ。

「おい、こいつはどうする?」

「人攫いの仲間だろ?軍につき出そうぜ」

 シアンたちがいなくなって、ルキナも騒ぎの中心を確認することが可能になった。男たちに取り押さえられている男性は、荷車をひいていたらしく、それがなにやら人攫いに関係しているようだ。

(それじゃあ、あの子たちも人攫いに?)

 ルキナは、シアンたちの謎の行動の理由を理解すると共に、恐怖に体を震わせた。双子の身に何かあったらどうしよう。そんな思いがルキナを捕らえて離さない。

「ルキナ、そろそろ十五分経つよ。一回戻ろう」

 ルキナが取り押さえられている男性を凝視していると、マクシスが声をかけてきた。

「川上…。」

「え?」

 ルキナは、シアンたちを追いかけるべきだと思った。シアンが何をつかんだのかわからないが、彼が一番双子の居場所に近い。

「シアンたちが川上って。川上に走って行ったの。そっちに何かあるのかも」

 ルキナがそう言うと、マクシスはみんなと合流して全員で行こうと言った。チグサはルキナを落ち着かせるようにルキナの肩を数回叩いた。

「そうね」

 少し冷静になったルキナは、マクシスの提案に従った。三人で集合場所の河原に行き、全員に、双子が人攫いに攫われた可能性があることと、とにかく川上に行かなくてはならないことを伝えた。

「それなら早く行きましょう」

 アリシアが真っ先に駆け出し、皆がそれに続いた。

「先輩がまた危ないことをしてなければ良いけど」

 イリヤノイドが独り言のように呟いた。ルキナは彼の言葉に同感だった。シアンは危険なことに首をつっこんでは、危ない橋を渡ることが多い。今回のように、誰かを助けるための行動故だが、周りははらはらせざるを得ない。しかも、シアンがそういうことに足を踏み入れた時は、たいてい誰も止められない状態にある。ただシアンが無事であることを願うことしかできない。

「川上ってどこまで行けば良いんですか?」

 先頭のアリシアが後ろに尋ねた。既に端の屋台も通り過ぎ、屋台の荷物を運ぶための馬車の駐車場まで来ている。ここまでシアンとベルコルの姿はなかった。

「…ちょっと待って」

 ルキナは、駐車場に見覚えのある人物を見つけた。皆を止め、その人に話しかけに行く。

「やっぱりあなただったんですね」

 ルキナが声をかけると、背を向けていた男性がゆっくりルキナの方を見た。

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