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久しぶりの祭りデスケド。

(我ながら完璧だわ)

 ルキナは、浴衣を着たリュカと甚平を着たミカを見て満足げに頷く。相変わらず男女逆の見た目だが、予想以上に素晴らしい出来栄えだ。双子たちは初めて着る服を面白がっている。着替えた双子を見た皆も、可愛いと口々に言った。

「そろそろ時間じゃないかしら」

 ルキナがそう声をかけると、皆、ぞろぞろとリビングを出始めた。皆の支度が整い、ちょうど祭りの屋台も開き始めた頃合いだ。

「さあ、ロット様、行きましょう」

 ハイルックがタシファレドの横に立って急かす。すると、アリシアがしかめっ面になった。

「その顔でたっちゃんの横を歩くなんて言わないよね?」

 アリシアがハイルックを睨む。ハイルックの顔がアリシアに殴られたせいではれているのだ。二人は激しいを喧嘩をしたばかりだ。手当はしてあるが、そんなすぐに治るわけじゃない。

「誰のせいだと思ってるんですか」

 ハイルックが負けじと言い返す。ハイルックが、アリシアにタシファレドを独占させるような真似をするわけがない。

「そんな痛々しい顔でうろちょろされたら、楽しい気分も台無しよ」

 アリシアがハイルックを嘲笑する。アリシアは何を言われようが、殴ったことを謝る気はないようだ。そのうえ、怪我まるけの顔面を理由に、ハイルックをタシファレドから離そうとしている。

(また喧嘩するつもりなのかしら)

 ルキナは、どこに行っても喧嘩ばかりのアリシアとハイルックに呆れる。そして、喧嘩が始まる前にシアンに止めてもらおうと考え、チラリとシアンの方を見た。

「そうだぞ、ハイルック。おまえは休んでた方が良い」

 アリシアの言葉に、タシファレドが同調した。予想外な流れだった。あんなに仲裁しようとしなかったタシファレドがアリシアたちの言いあいに参加し始めた。

「…たっちゃん?」

 タシファレドの乱入に、アリシアが一番驚いている。なんだかんだハイルックも一緒に行くことになるだろうとわかってて言い合っていたのだ。タシファレドはハイルックが来ようが来なかろうが興味がないはずだ。だから、こんなくだらない言い合いに乱入してくるとは思わなかった。

「ロット様、お優しい!」

 ハイルックは、タシファレドが本当に自分を心配して残るように言われたのだと思っている。まさか、自分の都合でハイルックを置いてけぼりにしようと考えてるなんて想像もしない。ある意味素晴らしいほど純粋だ。

(かわいそうなハイルック)

 ルキナはひそかにハイルックに同情する。おそらく、タシファレドはハイルックが邪魔だと思って、残るよう言ったのだ。普段は、多少は面倒くさいとは思っても、邪魔とまで思ったことはない。今だって、嫌いだから来るななんてことも思ってない。そもそも、いつも通りの顔だったら、こんなことは言わなかった。

「お祭りなら可愛い女の子いっぱいつれそうだものね」

 ルキナだけは、タシファレドが何を考えているのかお見通しだ。タシファレドは、自分のことが好きな女の子が大好きだ。お手本のような女たらしが、夏祭りという絶好のチャンスを逃すようなことはしない。より多くの女の子をたらしこむために、万全な態勢は整えておきたいものだ。たとえば、今のハイルック。ボコボコの顔のハイルックが近くにいては、成功するナンパも失敗しそうだ。タシファレドは、ハイルックが自分から離れないことは諦めているが、ナンパをするのに不利に働くのであれば、ためらうことなく排除する。

 その点では、アリシアの存在も厄介だ。しかし、ハイルックと違って簡単には行動を誘導できない。

「アリシアも待っててくれても…」

 タシファレドがアリシアも屋敷に残るよう言おうとする。しかし、アリシアは最後まで言わせない。

「なんでそんなこと言うの?たっちゃんは私とお祭り行くの嫌なの?」

 アリシアがタシファレドの目をじっと見る。前髪に隠れた彼女の目には不思議な威圧感がある。それには、タシファレドも抗えない。

「わかったよ…。」

 タシファレドは肩を落とした。勇気を出して行動を起こしたが、アリシアから距離をとるのは至難の技だと思い知ることになっただけだった。

「ロット様に何かしたら許しませんよ」

 ハイルックがアリシアに忠告する。

「何かってなんでしょうね」

 アリシアはにやりと笑ってタシファレドの腕に抱きつく。

「それですよ、それ!」

「えー?」

 アリシアがハイルックをからかい、ハイルックが怒る。ハイルックが留守番という話にはまとまったが、結局、出発ぎりぎりまでいつもどおり喧嘩している。タシファレドが迷惑そうに二人を見ている。

「僕も遠慮しておくよ」

 ベルコルがリビングの出口に向かいながら言った。

(まあ、当然よね)

 ルキナはベルコルが屋敷に残るような気はしていた。ベルコルは人混みが嫌いなのだから、必要以上にそういった場所に飛び込むわけがない。だから、驚きはしない。

「何か忙しいんですか?」

 シアンが理由を問う。

「そんなところだ」

 ベルコルは適当に頷いて、自室に戻って行く。シアンがその背中にもう一度声をかけようとする。ルキナはそれを止める。ルキナは、シアンがルキナの逆ハーレム化のためにベルコルに祭りに行くよう説得しようとしていることを理解していた。シアンはルキナのために動こうとしてくれている。

「良いんですか?」

 シアンはわけがわからないと言いたげな顔になる。それもそのはずだ。ルキナが積極的に親密度を上げるイベントに繋げようとしないのは珍しい。特に、ベルコルはまだ知り合って間もない人物で、焦りもある。普段のルキナなら、チャンスにがめつくあるべきところだ。

「どうせ言っても無駄よ。ベルコルはメリットでしか人付き合いしないもの」

 ルキナは今回ばかりは諦めるしかないと思っている。そもそも人とのなれ合いを好まないベルコルがこの屋敷に来ただけでも感謝すべき事態だ。とりあえず、今はそれ以上望む気はない。

「気づいてたんですか?」

 シアンが驚いたようにルキナに尋ねている。この様子だと、シアンはベルコルの人格の根本にあるものを知っているだろう。驚くべきはむしろルキナの方だ。ゲームの設定を知っているわけでもないのに、よく気づいたと感心せざるを得ない。ベルコルは厳しい父親の言いなりで、彼の人付き合いに関する価値観も父親の影響を強く受けている。そのことに気づくには、単に近くにいれば良いというわけではない。

「まあね、公式設定だし。しょうがないわよ、ベルコルは。家が厳しいのよ。そういう家に生まれた以上は仕方がないわ」

 今日のルキナは信じられないほどあっさりしている。シアンは戸惑いながら頷いた。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 ルキナが伸びをしながら言う。ルキナたちもリビングを出て、玄関に向かう。

「ルキナ、手を」

 玄関を出たところで、ノアルドがルキナに向かって手を差し出した。

「あら、ありがとうございます」

 ルキナは、ノアルドが積極的なのを嬉しく思う。一切の躊躇もなく、ノアルドの手に自分の手を重ねる。すると、ノアルドはルキナの手を誘導して、自分の腕に添えさせた。ノアルドは、ルキナの歩くスピードに合わせてエスコートする。

「ノア様ったら、意外と女性の扱いに慣れてらしたのね」

 流れるようにルキナをエスコートしている。イチャイチャのフリは昨日始めたばかりだ。最初のノアルドは慣れていない感じが丸出しだった。でも、今はルキナが何も言わなくても自分からルキナにぴったりくっついて、本当のカップルのように優しくしてくれる。

「へあ!?私はルキナ以外の女生と手を繋いだことも、そもそもこんなに近くで話したこともありませんよ」

 ノアルドは、ルキナに別の女の人との関係を疑われたと思ったのか、あからさまに焦り始める。

「そんなに焦ったら、逆に怪しいですよ」

 ルキナがからかうと、ノアルドは困ったように口を噤んで「んー」とうなった。どうやって弁明しようかと考えているようだ。

「いつも通りのノア様で安心しました」

 ルキナはクスクスと笑う。

「真面目なノア様が他の誰かと…なんて疑ったりしませんよ。女性の扱い方が上手なのは、きっと天賦の才能なんですよ」

「才能なんて…。」

「そういうのは馬鹿にできませんよ」

 ルキナは、ノアルドと話しながら、目の前にいるノアルドこそ、ゲームで幾度となく攻略した『りゃくえん』の攻略キャラなのだと思った。ルキナには、ノアルドがゲームの中から飛び出してきたように感じられてならない。でも、不思議と、以前のように緊張したりしない。推しがリアルに現れた故に緊張して話せないと思っていたが、今はそんなことない。

 ルキナとノアルドが話していると、ミッシェルが近づいてきた。

「あら、ミカ。肩車してもらってるの。良いわね」

 ミッシェルの肩にはミカが乗っている。

「良いでしょー!」

 いつもと違う目線の高さに、ミカが興奮している。

「ミッシェル、走ってー!」

 ミカがミッシェルにお願いすると、ミッシェルは強めにミカの足首を握って走り始めた。全速力ではないが、はたから見るとかなり怖い。

「怪我には気をつけてよ」

 ルキナはミッシェルの後姿に声をかける。ミカがあの高さから落ちることになったら大変だ。ミッシェルも気をつけているとは思うが、心配になる。

「なんだかお母さんみたいですね」

 ノアルドが微笑む。

「え?私がですか?」

「優しくするだけじゃなくて、怒るところとか」

 ノアルドがルキナと話していると、その声にかぶさるように背後からイリヤノイドの声が聞こえてきた。

「せんぱーい、僕も歩けなーい。おんぶしてくださーい」

 ルキナが後ろを見て確認すると、シアンがリュカを抱っこしていて、イリヤノイドがそれを羨ましがっているようだった。イリヤノイドは相手が子供だろうと、シアンを狙うライバルという認識をしている。

「ささ、エスコートしてください」

 イリヤノイドがシアンの腕に絡みついて、上目遣いをする。

(羨ましい)

 イリヤノイドがあんなに甘えるようになるまで攻略するのは大変だ。ルキナは、イリヤノイドに好かれているシアンが羨ましくて仕方ない。

「暑いから離れてくれ」

 シアンはルキナの気持ちも知らないで、イリヤノイドからの愛を迷惑そうにしている。左腕を振り上げてイリヤノイドから逃れる。

「先輩のケチ」

「文句言うならついてくるな」

「冗談ですー」

 ルキナは進行方向に顏を戻してシアンとイリヤノイドのやり取りを聞いていた。すると、ぐいっとノアルドの腕に手が引っ張られた。ルキナがどうしたのかと思ってノアルドの方を見ると、ノアルドがずいっと顔を近づけてきた。

「羨ましいって顔をしてますよ」

 ノアルドはそう言って顔を離した。ルキナは空いている手で胸を押さえた。ドキドキとうるさい鼓動を落ち着かせる。

「気のせいですよ」

 ルキナはいたって平常心を偽りながら言う。ノアルドはおそらく、ルキナが羨ましがっている相手がイリヤノイドだと思っている。シアンとくっつけるイリヤノイドが羨ましい。ルキナがそう思っていると考えている。ルキナは、羨ましいと思っている相手はシアンだと、うまく説明する自信がなかったので、気のせいだと言うしかなかった。

「オジョウ!祭りってここ!?」

 ミカがミッシェルの肩の上ではしゃいでいる。川沿いの大きな道に屋台が並んでいる。ルキナは頷いた。ここが祭りの会場だ。そこそこ遠いと思っていたが、友人たちと話して歩いてきたのであっという間だった。

「お祭りには何回か来たことがあるんですか?」

 ノアルドが人にあふれる屋台を見ている。ルキナの方は見ていないが、これはルキナへの質問だろう。

「そうですね。少し前までは毎年来てましたよ。でも、いつもはシアンの友達と来てたので、その友達と予定が合わなくなってからはなんだか来づらくて」

 ルキナはそう言いながら、シアンの方を見る。友達というのは、キールと呼んでいる、この近所に住む男の子だ。彼が屋敷に顏を見せることが減ってから、祭りに一緒に行くこともできなかった。そのうえ、シアンは自分たちだけでは祭りに行きたがらなかった。こんな形で祭りに来ることにはなったが、シアンは本当は来たくなかったかもしれない。友達との大切な思い出の場所だから。

 シアンは、抱っこしていたリュカを地面に下ろしている。見たところ、シアンが苦しそうにしている様子はない。ただ、問題は、シアンはそういった心を隠すのが得意なのだ。ルキナの知らないところで傷ついてる可能性は大いにあり得る。

「リュカ、行くよ」

 ミカがリュカと手を繋いで走り出した。でも、リュカは浴衣を着ているので、いつものようには走れない。

「走ると転ぶぞ」

 見かねたミッシェルが、歩くよう双子を諭す。

「かんわいー」

 祭りにはしゃぐ子供たちを見て、ルキナがデレデレになる。難しいことを考えるのはいったん保留する。この可愛さを見逃すわけにはいかない。ルキナが双子の背中を見送っていると、シアンが隣に来た。

「この人混みだと、簡単にはぐれそうですね」

 シアンも双子から目を離さない。ルキナと違い、ただ可愛いからという理由だけで見ているわけではないようだ。双子が迷子になってしまうのを危惧しているのだ。

 この辺りの村が集まって合同で行う祭りなので、なかなか規模は大きい。そうなると、人も多くなる。シアンの言う通り、本当に簡単に迷子になりそうだ。

「ノアルド様」

 シアンの言葉を聞いて、ミッシェルがノアルドの隣に立った。

「わかってます」

 ミッシェルが、ノアではなく、ノアルド様と呼んだ。ノアルドは、彼が何を言おうとしているのか理解した。

 ノアルドは第二王子。その身は常に誰かに狙われている。いつ襲われるかもしれないノアルドにとって、この人混みは怖いものだ。だから、ミッシェルは、自分の傍から離れないようにと、言葉にはしなかったが、ノアルドに伝えたのだ。

 ミッシェルは、ノアルドの幼馴染みや友人である前に、主従の関係にある。ミッシェルは幼少の頃からノアルドの護衛を命じられている。こういう時こそ、ミッシェルの出番だ。

 一番の手前の屋台に目を奪われていた双子が道の奥に進み始めた。皆がその後ろについて行く。少し人混みの中に入るだけで、汗がじんわりと出てくる。人の体温と屋台から発せられる熱がこの空間に凝縮されている。

「大丈夫ですよ、先輩。僕は一生離れませんから」

 この熱気の中にあってもイリヤノイドは通常運転。シアンにくっつこうとする。シアンはその気配を事前に察知して避ける。

「子分、これやりたい」

 ミカがチカの服を引っ張って、目をつけた屋台の前に連れて行く。

「へー、射的ね」

 ルキナが腕を組んで射的の屋台と睨めっこをする。

「あのぬいぐるみ欲しい」

 リュカが景品の一つであるクマのぬいぐるみに心を奪われている。ミカの方は景品よりゲームそのものに興味があるようで、チカにやらせてほしいとせがんでいる。

 チカは、黙って店主にお金を渡し、弾を受け取った。そのうちの一つを指でつまんで、銃口に詰め込む。撃つ準備を整えると、ミカに渡す。

 なんだかんだチカも子供の面倒を見てくれる。ミカが変に懐いてしまって、そうせざるを得ないだけかもしれないが。

 ミカは、チカに用意してもらった銃で景品を狙う。しかし、残念ながら、一回も景品に中らなかった。

「おまけしてあげようか」

 欲しかったぬいぐるみが手に入らなくてしょんぼりしているリュカに、店主が声をかけた。そこへルキナが止めに入った。

「駄目よ、おじさん」

「おじさん!?」

 店主がルキナの呼び方に驚く。この店主は若い方だ。おじさんというよりお兄さんが正しいであろう年齢のはずだ。ルキナともそう離れていない。それなのに、おじさんと呼ばれるのは不本意だ。しかし、ルキナがそんなことを気にするわけがない。店主のリアクションなど気にしないで続ける。

「そういうのはちゃんとした手順で手に入れるものよ」

 手近な銃を手にし、銃口を上にしてテーブルの上に立てる。

「私もやるわ。見てなさい」

 ルキナはかなり自信ありげだ。銃を片手に、お金と弾を交換して、準備を始める。慣れた手つきで弾を詰めると、銃を左手で持ち、腕を伸ばした。子供は机に置いて両手で支えないと持てない重さだ。シアンは、ルキナがそれを片手でしっかり支えられていることに驚く。

 ルキナは右目を閉じる。左目が利き目なのだ。その状態で、ターゲットのぬいぐるみに狙いをさだめる。そして、引き金を引く。

 ぱんっと、小さな爆発音と共に弾が銃口から飛び出し、まっすぐぬいぐるみに向かって進む。ぬいぐるみのおでこに弾があたり、見事ぬいぐるみが倒れた。

 その後も、ルキナは残りの弾全てを景品にあて、倒しまくった。

「そこらじゅうの射的屋で出禁になった私にかかればこんなもんよ」

 最後の弾を撃ち終えると、銃口にふっと息を吹きかけた。煙も何も出ていないので意味などない。ただのかっこつけだ。

 ルキナは、前世で射的が得意だった。毎年、近所の祭りに出かけては、景品を取り占めたので、射的屋を困らせてきた。

「そのぬいぐるみだけちょうだい」

 ルキナはゲットした景品を全部もらわず、リュカが欲しがってたクマのぬいぐるみだけ受け取った。店主はほっとした顔になった。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、オジョウ」

 ルキナがぬいぐるみを待ち構えるリュカに渡す。リュカは本当に嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。

「んー、全然当たんない」

 ルキナの隣では、アリシアも射的を始めており、上手くいかないことを嘆いていた。ルキナがいとも簡単に的に当てていたので、自分にもできると思ったらしい。

 アリシアが困っていると、タシファレドが近づてきた。

「前髪が邪魔なんじゃないのか?」

 タシファレドは、何のためらいもなく、アリシアの前髪に手を伸ばした。タシファレドが、アリシアの長い前髪を上げる。

「へっ!?」

 アリシアは突然のタシファレドの言動に驚きの声を出す。その後、何をされているのか理解したアリシアは、手に持っていた銃をタシファレドの頭に振り下ろした。

「いった!」

 タシファレドは痛みに顏をしかめる。

「前髪はだめ!」

 アリシアは、銃をテーブルに置くと、急いで前髪を顔の前に下ろす。頬は赤く、目には涙をためて、逃げるように走って行ってしまった。

「兄ちゃん、お熱いね」

 二人の様子を見ていた店主がニヤニヤする。

「そんなんじゃない」

 タシファレドは否定をしてから、アリシアの後を追いかけ始める。

「ちょっと、迷子にならないでよ!」

 ルキナは勝手に走り出したアリシアとタシファレドに声をかける。しかし、二人が止まってくれる気配がない。赤髪の男女がどんどん遠ざかっていく。

「ほんとに迷子になったらどうするのよ」

 ルキナが嘆いていると、シアンが人混みの中に飛び込んだ。追いかけてくれるらしい。周りが見えていない二人には誰かしらついていた方が良いだろう。二人のことはシアンに任せることにする。

「姉様、お腹がすいたんですか?」

 マクシスの声が聞こえてくる。チグサが良い匂いのする屋台をじっと見ている。表情には出ていないが、物欲しそうな雰囲気はわかる。このままではマクシスとチグサも離れて行きそうだ。

「集合場所を決めて別行動の方が良さそうね」

 ルキナは、こんなに大人数で来るべき場所ではなかったなと思った。

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