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58. 今年もコンテストがあるんデスケド。

「へー、今年もコンテストやるの?」

 朝食の後、ユーミリアが文化祭初日の朝から生徒会の仕事だと言うので、ルキナも一緒について行く。その道中、ユーミリアから今回の文化祭で企画されているイベント聞いた。その中に、ルキナが始めたコンテストもあった。そして、ユーミリアはその担当だと言う。

「もうほぼ恒例イベントね。私たちが卒業した後も続けば完璧だけど」

 ルキナは自分が作った物が残っているのが嬉しくて、満足そうに頷いた。ただ、今年はユーミリアが生徒会にいて、ルキナの想いを引き継ごうとしてくれたから残ったが、ルキナたちの代が卒業してしまったら、後輩たちは続けないかもしれない。ちゃんと恒例イベントと言えるのは、ルキナたちが卒業した後も続けられているのを確認してからだ。

「それで?今年は何にしたの?男装ミスターコン?」

 去年、ルキナは女装ミスコンを企画した。だから、その流れからいくと次は男装だろうと、安直ながらも考えた。しかし、意外にもユーミリアは否定した。「いいえ」と首を横に振る。

「え、じゃあ、何をするの?」

「カップルコンです」

「カップルコン?」

「恋人同士でエントリーしてもらって、そのラブラブ度を審査するんです。それで、最終的にベストカップルを決めるんですよ」

「ユーミリアが考えそうなことね」

 ルキナが新しい企画に感想を言うと、ユーミリアは胸を張って「だって、私が考えましたもん」と言った。ルキナはコンテストが続くならなんでもいいと思っているので、ユーミリアが何を企画しようが、正直どうでもいい。とはいえ、盛り上がることにこしたことはないので、面白そうな企画であることに安心する。

「「「ユリアたーん!」」」

 ルキナたちが並んで歩いていると、ユリア・ローズのファンと思われる人たちがユーミリアを芸名で呼んだ。ニコニコと手を振っている。その横で、別のファンがプライベート中に名前を呼ぶのは良くないと注意する。ユーミリアが学生として制服を着ている間は、あくまで一生徒だ。アイドルではない。一応、ユーミリアは皆に笑顔で手を振ってあげるが、空気を悪くするような過剰反応するタイプも迷惑といえば迷惑だ。

(毎年やってるのに、ファンは減らないわね)

 ルキナは周りをきょろきょろと見た。ユリア・ローズのファンがユーミリアに視線を集めていた。ユーミリアがクリオア学院で文化祭をするのは三回目。そろそろ見飽きてもいいのではないかと思ったが、これほど間近でユーミリアを見れるのはこういう時しかないのだろう。毎年文化祭に足を運ぶファンがいる。これではユーミリアが卒業した後の客の激減ぶりが今から恐ろしく感じるものだ。

 ルキナが視線を元に戻すと、ユーミリアがニコッと笑った。まだ話に続きがあったらしい。ユーミリアはルキナの意識が自分の方に戻ってきたとわかると、再び話し始めた。

「ちなみに、エントリー期間は今日一日なんですよ。先生…」

「出ないわよ」

 ユーミリアが言い切る前に、ルキナは断った。ユーミリアが何を言い出すかなんてだいたい予想がつく。どうせユーミリアのことだから、カップルコンを選んだのは、ルキナとシアンの二人に出させるためだろう。これまでと違い、わざわざエントリー期間を文化祭当日にしたのもそういう理由だろう。しかし、だからといって、ルキナが出てあげる道理はない。

 ルキナがもう一度はっきり断ると、ユーミリアは「そんなこと言わずにー」とルキナのご機嫌をとるような柔らかい声を出した。表情もニコニコと嘘くさい笑顔だ。

「出ない。シアンだって嫌がるし」

「じゃあ、他の人と出ましょう!」

 ルキナがシアンを理由に出ないと言うと、ユーミリアは名案だと言うように満面の笑みで提案した。ユーミリアが何を目的にしているのかわからないが、なんとしてでもルキナをステージに立たせたいようだ。

「なんでそんな浮気みたいなことしなくちゃいけないのよ。恋人同士って話じゃなかったの?」

「いやー、イリヤがあの人とエントリーするって聞かなくて。だから、恋人同士でなくてもいいっていうルールになったんです」

「へー」

 ユーミリアによると、イリヤノイドがシアンをステージに立たせるだろうと。だが、だから何だと言うのか。シアンが出場するからといって、ルキナが出る理由にはならない。

「勝手にやらせておけばいいんじゃない?」

 ルキナが興味なさそうな反応をすると、ユーミリアは「ですよねー」と悩ましげに相槌を打った。

「でも、イリヤだけだと心配ですし…。」

 ユーミリアは、友人同士でも良いというルールにはしたが、もし、その枠へのエントリーがイリヤノイドとシアンのペアだけだったら目立ってしまうので、自分たちも出場者となろうと言うのだ。周りがイチャイチャしている中、友人としての仲の良さアピールは苦しいのではないかという話らしい。ルキナもそれは一理あると思ったが、それこそ「だからなんだ」だ。ルキナがどうこうすることではない。やりたい人がやればいい。

「というわけで、先生、私と一緒に出ませんか?」

 ルキナが他人事だと考えているそばから、ユーミリアは無理矢理話を進めていく。ルキナは呆れてため息をついた。

「何が『というわけで』なのよ。私じゃなくてもいいじゃない。それに、ユーミリアが出たら勝負にならないし、ユーミリアは司会するんじゃないの?」

「大丈夫です、大丈夫。そのへんは手をうってありますから」

 ルキナがそれなりに的を射たことを指摘したが、ユーミリアはたいした問題ではないと言う。ルキナの方がよっぽど企画が成功することを考えている。企画者であるユーミリアが楽観的では、何かトラブルがあった時に痛い目をみることになる。

(こんなんで大丈夫なの?)

 ルキナがジト目で見ると、ユーミリアは「へへへ」と気の抜けた笑いをした。ルキナはこのユーミリアが何か隠し事をしているのではないかと思った。いつものユーミリアなら自分の成果をほめてもらおうと、自分が何を提案し、実際にどう動いたのか逐一報告するはずだ。ユーミリアがエントリーして騒ぎにならないように手を打ってあると言うのなら、その説明があってもおかしくない。

「あんた、何か企んでるんじゃないでしょうね」

 ルキナが腕を組んで尋ねると、ユーミリアは「へへ、へ…。」と変な笑いを止め、一瞬固まった。その後、「何にもないですよー」と作り笑いを続けた。

(怪しい。絶対怪しい)

 ルキナはユーミリアが絶対に何かを企んでいると思ったが、詳しく尋ねるのはやめた。ユーミリアのことだから、くだらないことを企んでいるのだろう。

「先生、出てくださいよー。恥をかくなら、二人一緒にしましょうよー」

 ユーミリアはルキナの腕を引っ張り、しつこくルキナに頼み込んだ。

(まあ、ユーミリアには恩があるし)

 ここはユーミリアの口車に乗せられてあげることにする。ユーミリアが望もうが、望まなかろうが、ルキナはユーミリアのためにお礼に何かしてあげようと思っていた。ユーミリアから受けた恩のことを思えば、カップルコンに出場するくらいのことは許容してもいいだろう。むしろ、お礼はこれでは足りない。多少ながらもユリア・ローズの名前を汚させてしまったのだから、ユーミリアのことを立てることは率先してすべきだ。

「わかった。わかった。出てあげるから、その手を離しなさい」

 ルキナがユーミリアの望むようにしてあげると言うと、ユーミリアはパアッと目を輝かせた。

「本当にいいですか!?え…嘘じゃないですよね?いいんですか!?」

 ユーミリアが大声で喜ぶ。ルキナが手を離すように言ったのに、ユーミリアは手を離すどころか、さらに強く腕を引っ張っている。

「あんまりしつこくするとやめるわよ」

 ルキナが脅すと、ユーミリアはパッとルキナから手を離した。

「なんでそんなに私を出させたいのよ」

 ユーミリアがルキナの言うことを聞き、ルキナの気が変わらないようにしているのを見て、ルキナはより謎が深まるように感じた。ユーミリアなら考えていることは単純なのだろうが、ルキナの性格では疑わざるを得ない。

「たぶんすぐにわかると思いますよ」

 ユーミリアは、ルキナをステージに立たせる理由について意味ありげなことを言って、少し疲れたような顔を見せた。ルキナが良い返事をした時は、ユーミリアも心底ほっとしたようだったが、少し経つと、なぜか辛そうな表情になっていた。何か他にも問題があるということなのだろうか。

(まあ、困った時は言ってくれるでしょ)

 ルキナはユーミリアの険しい顔の理由を追究せずに話を終わらせた。でも、後から思えばそうすべきではなかった。その時、ちゃんとユーミリアに問い詰めれば良かった。そうしていれば、こんなことにはならなかっただろう。


『たくさんのご応募ありがとうございました。コンテスト出場者を順番に紹介させていただきますね。あ、今ここにいらっしゃってないカップルさんはこの場で失格とさせていただきます。えーと、それでは、エントリーナンバー一番。イリヤノイド・アイス君とシアン・リュツカ君』

 初日のラスト。ユーミリアの進行でカップルコンテストの出場者の紹介を始めた。企画側に回っているだけあってイリヤノイドのエントリーは誰よりも早かったようだ。

『エントリーナンバー三番。タシファレド・ロット君とアリシア・ノオトさん』

 さすがのタシファレドとアリシアはラブイベントを見逃さない。抜け目なくエントリーしていたようだ。

 名前を呼ばれた人たちは、上手と下手に分かれて待機しており、ステージの両側からそれぞれから一人ずつ壇上に登っていく。ユーミリアはたくさんのエントリーがあったと言っていたが、エントリーの手続き自体は簡単で、本人でなくてもできるため、遊び半分で入れられた名前も多かった。三十組くらい名前が呼ばれたが、実際に残ったのは十組くらいだ。中にはコンテストのエントリーを告白に使ったらしく、カップルの片方しかステージに現れなかったりもした。事前に告白をしておき、その答えがイエスならステージに来てほしいとでも伝えておいたのだろう。怖い顔でステージに現れたところを見ると、相手の人が来るかどうか本人も知らなかったのだろう。

「ルキナ先輩、次ですね」

 ルキナが順番待ちをしていると、運営のシリルが声をかけた。もうすぐ名前を呼ばれるから壇上に上がる準備をするように言う。ルキナはシリルに言われるままにステージに上がる階段に近づく。そして、ルキナの名前が呼ばれる。

『ルキナ・ミューヘーンさんと…』

 ルキナは自分の名前が呼ばれたのを合図に階段を駆け上がる。自分の名前の後に誰が呼ばれたのかなんて聞いていなかった。

(結局、ユーミリアはどうするつもりなのかしら。普通に司会してるけど)

 ルキナがユーミリアのことを心配していると、誰かが向かい側の階段を上ってきた。だが、ユーミリアは司会を続けている。既に壇上にいるのに階段を上るなんてありえない。何よりそのシルエットは女性のものではない。では、その人物は誰だと言うのだろう。

 ルキナが階段を上り切ったところで固まっていると、相手も階段を上り終え、その顔を見せた。

「え…ノア様…?」

 ルキナは思わず声に出して名前を呼んだ。そこに現れたのはノアルドだった。

(聞いてない!こんなの聞いてない!)

 どうやらルキナはユーミリアとではなく、ノアルドとペアになってエントリーさせられていたらしい。そんなこと誰からも一言も聞いていない。ユーミリアからも一切説明がなかった。決して、ノアルドとペアであることが嫌なのではない。心の準備ができていないだけだ。

(シアン、怒るかな)

 このコンテストはあくまでラブラブなカップルを選ぶというもの。友達同士でも出場して良いというルールになっているが、ルキナとノアルドの男女の組み合わせを見て、二人が友人としてペアになったと考える人は少ないだろう。ルキナがシアンと付き合っていることを知っているのは周囲の人間だけ。校内の生徒全員ではない。だが、皆、ルキナとノアルドが元婚約者であることは知っている。人によっては、二人がまだ婚約を解消したことを知らないこともありえる。新聞には載ったが、国民がこぞって話題にするようなことではないので、世のことに疎い人なら知らなくても仕方がないというようなことだ。皆がルキナたちをどう見ているか、誰にでもすぐに理解できる。当然、そこにはシアンも含まれる。

 ルキナはシアンの顔を見れないと思った。ルキナが望んでこうなったわけではないが、ステージに立ってしまった以上、もうどうしようもない。一度出てしまったら、もう引き戻せない。嫉妬をすることの方が珍しいシアンだが、どんな反応を見せるかわからない。もしかしたら怒るかもしれない。ルキナは既に罪悪感でいっぱいだった。

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