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16. 家の問題デスケド。

 ファンレミリーが終わり、本当に日常が戻ってきた。ルキナは、シアンからもらった指輪をチェーンに通し、ネックレスとして身につけている。買った店でサイズの調整はできるだろうが、ルキナは、そこまでして指にはめるより、こうしている方がさり気なくて好きだ。シアンもルキナを真似てネックレスにしている。シアンはあえて指輪を選んだだろうに、結局、ペアリングではなくペアネックレスになってしまった。このことに関して、シアンは何も言わなかったが、本当に気にしていないのかは不明だ。

「先生、ご機嫌ですね」

「そう?」

 生徒会室に向かう途中、ユーミリアがニコニコしてルキナを見る。ルキナは普通に歩いているつもりだったが、無意識に跳ねるように歩いていた。ルキナがスキップ気味に歩いているのを見て、ユーミリアは、シアンの恋人になれたのがよっぽど嬉しいのだろうと微笑む。

「でも、いいんですか?タシファレド様たちの問題はまだ解決してないですよね?」

 ユーミリアはそういった後、「私は別にどうでもいいんですけどね」と付け足した。

「まあ、とりあえず、シリルに話を聞きに行こうかなって思ってるわ」

 ルキナは落ち着いて歩くことを意識しながら、今後の予定を言う。すると、ユーミリアが意外そうな顔をした。

「シリル君にですか?」

 ユーミリアは、ルキナのことだから、強引にでもアリシアとタシファレドをくっつけに行くとでも思ったのだろう。だから、まずは、二人のデートでも企画するのではないかと考えていた。ルキナは、それをユーミリアから聞いて、本当にデートを計画したとして、シリルに邪魔をされたら失敗するだけだと指摘する。

「なんでシリル君は邪魔をするんでしょうね」

「さあね。誰も教えてくれないもの。何が原因で仲違いしてるのかだって、アリシアちゃんもタシファレドも教えてくれないし、知りようがないわけよ。こうなったらシリル本人に聞くのが手っ取り早いと思わない?」

「その原因ってシリル君じゃないんですか?」

「アリシアちゃんがシリルと一緒にいるのは、上からの命令っぽいのよ。ようは、シリル自体に原因があるのとは違うような感じなのよ。あくまで憶測の話だけど。それを確かめるっていう意味でも、シリルに聞いてみたいのよ」

「答えてくれますかね?」

「今のところは、神のみぞ知るっていうところね」

 ルキナとユーミリアは生徒会室に入り、席についた。今日はゆっくりめに来たので、席はほとんど埋まっていた。席は指定ではないので、毎回少しずつ席が変わるが、定位置がなんとなく決まっている。ルキナはシアンの隣に座り、ユーミリアがその隣に座った。位置がずれることはあっても、ほとんどこの並びだ。

「シリル君たちはまだ来てないみたいですね」

 ユーミリアがルキナの耳に口を近づけて言った。

「そうみたいね」

 ルキナも小さな声で返事をする。こそこそと話すようなことでもなかったが、ユーミリアにつられて内緒話をするような形になってしまった。

 二人が秘密の話をしていると思ったシアンが、首を傾げてルキナたちを見ていた。シアンは話の内容が気になっている。それに気づいたユーミリアは、勝ち誇ったような顔でシアンを見た。シアンは、ユーミリアに勝手に負けたことにされたので、ムッとする。

「ユーミリア、何してるのよ」

 ルキナは、ユーミリアが急に顔芸を始めたのかと思って、呆れる。ユーミリアは、シアンに対抗心を燃やしていたのだとは言えず、良い説明が思いつかなかったので、うろたえる。その様子を見て、今度はシアンが笑った。馬鹿にする笑いではなく、純粋に面白いと思ったからこそ湧き上がってきた笑いだ。

「シアンまでどうしたのよ」

 ルキナはシアンまで突然笑い始めたので不信感を抱く。シアンは「何でもありません」と言って答えない。

 ルキナたちが話していると、その後ろをタシファレドが通った。そのまま部屋の奥に進むと、イリヤノイドの隣に座った。すると、イリヤノイドが椅子をガタッと音をさせながら立ち上がった。

「先輩、席変わってください」

 イリヤノイドがシアンと席を変わることを要望する。優しいシアンは、「いいよ」と返事をして席を入れ替わる。結果、ルキナの隣にイリヤノイドが来た。

「タシファレドのこと、そんなに嫌いなの?」

 ルキナはタシファレドに聞こえないようにひそひそと尋ねる。イリヤノイドが特別タシファレドを嫌っているイメージはなかったが、タシファレドが隣に座ったタイミングでの移動だったので、そう考えるのが妥当だ。

「先輩の隣は譲りませんよ」

「誰もそんなこと言ってないわよ」

 ルキナの質問にイリヤノイドがちゃんと答えず、見当違いなことを言った。シアンが隣じゃなくなって残念だからあんな質問をしたわけではない。ルキナは腹を立てたが、このイリヤノイドの反応は、タシファレドを嫌っての行動ではないと判断できる。ようは、イリヤノイドはルキナからシアンを離そうとしたのだ。

(でも、なんでこのタイミングよ)

 ルキナはイリヤノイドの言動が理解しきれず、頭を抱える。

「優先順位の問題ですよ」

 ルキナが頭を悩ませていると、ユーミリアが何か知っているふうに言った。ルキナはその言葉の意味を聞こうと思ったが、タイミング悪く、シェリカがユーミリアの隣の椅子に座った。ユーミリアがシェリカの方を見てしまい、尋ねるタイミングを逃してしまった。

 シェリカたちはいつも今タシファレドが座っている場所に座る。だが、今日はそこが埋まっている。したがって、シェリカとティナは他の空いている席に座らなければならなくなる。だから、二人はユーミリアの隣に座ったのだ。今日はいつも早く来るような人たちが揃って遅めに来たので、席がズレ気味だ。シェリカとティナの後に来たシリルとアリシアも、いつもの場所がシェリカたちに取られしまい、いつもより遠い場所に座った。

「それでは、そろそろ始めましょう」

 ベルコルが生徒会を始めた。最初にベルコルからお知らせを聞き、その後、すぐにグループに分かれての活動に入った。

「今日も足を使って働くわよ」

 ルキナはそう言って、自分のグループメンバーに紙を配った。その紙には、女装ミスコンの現時点でのエントリー者の名前が書かれている。今回は推薦を多く採っているので、本人がエントリーしていることを把握していないこともある。その本人に知らせる方法としては、推薦された者の名前を張り出して知らせるのが一番手っ取り早い。しかし、その中には目立ちたくないという人もいるだろう。その配慮で、個人個人に会いに行き、出場の意思の有無を聞くことにした。その分、手間が増え、ここ最近はエントリー者探しに時間を費やしている。他学年で他学科の生徒とは全く接点がないので、探し出すのはなかなか苦労する。

「今日も外に出るんですか?」

 ルキナたちがグループ全員で生徒会室を出るところで、ベルコルが声をかけてきた。

「そうです。あ、ついでにできそうな仕事があったら言ってくださいね」

 ルキナは外に行くついでにこなせそうな仕事があったら任せてほしいと言う。それを聞き、ベルコルが「ありがとう」と微笑んだ。

「でも、今日はツェンベリンさんたちのグループにお願いしたので」

 ベルコルに言われ、ルキナは生徒会室を見渡した。シュンエルのグループというと、シリルとアリシアが所属しているグループだ。そのグループの姿がここにない。外に出ているようだ。

「そうなんですね。また何かあったら言ってください」

 ルキナはベルコルと別れ、生徒会室を出た。そして、廊下で皆に指示を出す。

「それじゃあ、今日は男女で別れましょうか。表の上半分を男子に任せるわ」

 ルキナはチームを二つに分け、ユーミリアを連れて移動を始めた。

「先生、あの人と一緒にしなくて良かったんですか?」

 ユーミリアがルキナの横に並び、尋ねる。ルキナは、いちいちそんなことを確かめなくても良いだろうと思う。既に何回かこうしてグループを分けて活動しているが、その全てがシアンと一緒だったわけではない。ルキナがいつも指示を出しているとはいえ、毎回同じメンバーにしたり、好き勝手に決めたりしないようにしている。シアンと一緒に行動しない日だってある。しかし、その度にそんなことを気にしていたら、効率的な仕事はできない。ルキナはきちんと公私をわけて考えているつもりだ。

「そんなこと良いのよ、別に。常に一緒じゃないと死ぬってわけじゃないんだし」

 ルキナがドライに返すと、ユーミリアが「恋人ってそういうものなんですかね」と言って、ルキナのクールさに疑問を抱く。ユーミリアが疑問を抱くのは、ルキナが冷めたことを言いながら、首元の指輪をいじっているからだ。

「先生はもっと素直になった方が良いと思いますよ」

 ユーミリアが、ルキナの手の中で転がされている指輪を見て言う。ルキナは、ユーミリアがいつも話す時と違うところを見ているので、どこを見ているのだろうと思った。

「ユーミリアはよくそう言うけど、私はもう充分素直だと思うわよ」

「先生のレベルで素直っていうなら、世の中の人みんな素直ってことになるんですが」

「それは言い過ぎよ」

「少なくとも今の先生は素直とは言いません」

 くだらない話をしながら歩いていると、不意にユーミリアが足を止めた。

「先生、今どこに向かってるんですか?」

 ユーミリアが向かうべき場所はそちらではないだろうと言う。といのも、ルキナたちが持っている表には、名前と所属している部活やその他人物を特定するたえの情報が少し書かれている。それを見る限り、ルキナが足を向ける方向に用事はない。

 ルキナは、行けばわかると答え、歩くスピードを上げた。そこから少し行くと、毎年、文化祭で野外ステージが設置される広場に出た。

「シリル君たちですか?」

 広場にある人影を見て、ユーミリアが言う。彼らのグループは野外ステージで行うイベントを企画している。ルキナはそれを知っていたので、そのグループが行く先がここであることを予想していた。

「話をするなら今しかないっと思って」

 ルキナは、そう言って、シリルの方に近づいて行った。ルキナとユーミリアが近寄ると、シリルが二人に気づき、どうしたのかと問うた。

「少しお話したいんだけど、時間もらっても良いかしら」

「お話ですか?」

 ルキナが用件を言うと、シリルが困ったように周囲を見た。すると、一番近くにいたシュンエルがその視線に近づき、駆け寄ってきた。

「何かあったんですか?」

 シュンエルがルキナたちに問う。シリルは、仕事を抜けるのをためらっており、誰かにそのことを相談しようと思って助けを求めるように周りを見たのだ。ルキナは、シリルの意図を理解し、シュンエルに事情をしっかり説明することにする。

「実はね、シリルも女装ミスコンに推薦されてるのよ」

 ルキナは、手に持っていた推薦者名簿をシュンエルに見せる。一番下に、シリルの名前がある。こんなこともあろうかと、ルキナがこっそり書き足しておいたのだ。生徒会の時間に、それらしい理由をつけてシリルを呼び出せば、アリシアに話を聞かれる心配もない。嘘をつくのは忍びないが、やむを得ない。

 シュンエルが名簿を見て、「ああ」と頷いた。シュンエルも、ルキナたちがしていることをなんとなく理解している。おかげで話がスムーズに進む。

「それほど時間はかからないから、シリルを借りたいの」

「大丈夫ですよ」

 ルキナが用件を言い終えると、シュンエルが頷いた。本来なら、生徒会の時間外にシリルを訪ねる方が良いのだろうが、ルキナの思惑を叶えるためには今話を持ち掛けるしかない。シュンエルは、ルキナたちが時間外に仕事をしたくないだけだと思っているようで、快くシリルを貸してくれる。

「ありがとう」

 ルキナはシュンエルにお礼を言って、シリルを連れて行く。後ろで、アリシアがシュンエルにどうしたのか尋ねている声が聞こえた。シュンエルが事情を話してくれているようなので、怪しまれることなく、シリルから話を聞き出せそうだ。

 ルキナは広場から少し離れたところにあるベンチにシリルを座らせた。ルキナがその隣に座り、さらに隣にユーミリアが座った。

「えっと…先輩方が聞きたいのは、ミスコンの話ではないですよね?」

 ルキナが話し始めようとした時、先にシリルが言った。ルキナたちの本当の目的に気づいていたようだ。しかし、これなら話は早い。目的をわかっていながらついてきたということは、少しは話してくれる気はあるということだ。

「それじゃあ、さっそくだけど、教えてほしいことがあるの」

 ルキナがそう言うと、シリルが真剣な顔をして頷いた。

「家のことに他人が踏み込むのは良くないと思うけど。ノオト家には秘密があるんでしょ?それを教えて」

「秘密なら簡単に公開できませんけど」

 ルキナが知りたいことを尋ねると、シリルに厳しい指摘を受けてしまった。ルキナは、それもそうだと思い、シリルから聞き出すのは難しそうだと諦めかけた。

「けど、大丈夫です。秘密ではないので」

 ルキナが話を終わらせようとした時、シリルが笑顔で言った。さっきの発言をしたのは、ルキナを驚かせたかっただけのようで、シリルは本当に話をするつもりで来ている。

 ルキナは、ほっとしながら、最初にシリルが現れた時にタシファレドに渡した手紙について聞いてみた。ルキナはあの手紙に全てが隠されていると読んでいる。ルキナが手紙の正体を尋ねると、シリルは「よく覚えてましたね」と感心した。

「あれには、アリシアの異動について書いてあったんです」

 シリルの回答を聞いて、ルキナはやっぱりと思った。

「それじゃあ、アリシアちゃんはタシファレドからシリルの担当になったっていうことね」

 ルキナが確かめるように言う。それに対し、シリルは肯定すると思われた。しかし、シリルは頭を縦に振らなかった。ルキナがシリルからの反応がなくて違和感を感じていると、シリルが口を開いた。

「まあ、あんなの嘘なんですけどね」

 シリルが悪気もなく言う。想定外の暴露に、ルキナは無言で驚いた。シリルがあまりにいい笑顔で言ったものだから、むしろそれが冗談なのではないかと思われた。シリルが嘘をつくなんて信じられない。凄腕の詐欺師ほど優しそうな顔をしているということなのだろうか。

「どうして嘘を?」

 黙っているルキナの代わりにユーミリアが問う。シリルは笑顔のまま答える。

「次期当主が困ってるのを見るのが好きなだけです」

「のわりに協力的だけど」

 シリルの発言にルキナがツッコミを入れる。シリルはタシファレドを困らせたいと言いながら、これまでアリシアとタシファレドの仲を取り持つような行動を度々見せている。邪魔が基本であるとはいえ、完全に邪魔を仕切らないところは言動の矛盾を感じる。ルキナがそのことを指摘すると、シリルがもっともな指摘だと言った。

「同時に、アリシアを応援したいとも思ってるんです」

 シリルがアリシアに協力していたことを肯定する。アリシアとタシファレドが話せる時間を作ったり、アリシアのクッキーを代わりにタシファレドに届けたり。あれらの行動はシリルが意思をもってとったものらしい。

「やはり恋は逆境にあってこそですから」

 シリルがタシファレドと同じようなことを言う。ルキナはシリルが恋愛について語るとは思っていなかったので、意表を突かれた気がした。その横で、シリルはユリアの歌の中でも好きな歌の歌詞だと言って笑う。ユーミリアはそれに対して自然に「ありがとう」と言う。

「アリシアは家が怖いんですよ」

 ルキナが気を抜ていると、シリルが言った。シリルがアリシアにまつわる話を始めた。ルキナとユーミリアは真面目な顔になって耳を傾ける。

「額の印、知ってますか?」

 シリルがトントンと自分の額をつついた。ルキナはシリルの額を見ながら、「額の印?」と繰り返す。

「はい。アリシアのおでこには印がついているんです。魔法の力を失う代わりに、超人的な身体能力を得るんです。ずっと昔から、ノオト家はロット家をそうして守ってきました。大きい家には必ずと言っていいほど黒い話がありますからね。ノオト家はそういうものからロット家を守るため、影で火種をつぶして回っています」

 シリルの話を聞いて、ルキナははっとするような思いをした。ルキナがアリシアと初めて会った時、アリシアはたくさんの大人を相手に喧嘩をして勝っていた。いつかミーナのレストランで夕食を食べた帰りに酔っ払いに絡まれた時も、アリシアが追い払っていた。彼らはどうやらロット家にうらみがあるようだった。アリシアにとって、タシファレドを守ることが当然だった。それが仕事だった。

(アリシアちゃんの前髪が長いのもおでこの印を隠すためだったのね)

 ルキナは、アリシアが頑なに額を見せたがらなかった理由を理解し、腑に落ちた。アリシアは魔法を使えないことを気にしているところがあったし、自分の運命を恨んでいるのかもしれない。タシファレドにおでこを見られるのを嫌がって泣いたのもそれが理由だろう。逆に、喧嘩をする時、アリシアが前髪を上げて額を見せていたのは、その印の力を最大限に発揮するためだった。

「ロット家にあだなす者がいれば、例外なくノオト家がつぶす。アリシアもその役割を与えられています。だから、アリシアは次期当主と結ばれるのは難しいです。ロット家の血を守るためにノオト家の人間がロット家に嫁いだこともありますが、その人は額に印がありませんでした」

 ロット家は特殊な血をもつ家で、その血を絶やさないようにしている。そのために、分家が本家に嫁ぐことはあり得ない話ではない。だが、その例が多いわけではない。

「それじゃあ、応援すべきじゃなかった?無理矢理くっつけようとするのは、アリシアちゃんを悲しませることになるだけだったんじゃ…。」

 ルキナは後悔する。アリシアのためにと思って始めたことは、本当は逆の効果しかなかったかもしれない。そんなルキナに、シリルは「責任を感じることはありません」と励ますように言った。いや、シリルは本当にそう思っているので、励ますためだけの発言ではない。

「難しいと言っただけです。次期当主がアリシアを望むのであれば話は簡単ですよ。大人たちに話を聞いてもらえない頃とは違うんですから」

 シリルが言うには、ノオト家出身者がロット家に嫁ぐのを反対しているのはロット家の大人たちで、彼らを説得できれば問題はないのだそうだ。タシファレドたちが幼い頃は、子供の言うこととして、大人たちは聞く耳も持たなかった。代々受け継がれる時代錯誤な古い考えを子供たちに押し付け、縛ってきた。しかし、今は、タシファレドは次期当主として、大人の一員として力をつけつつある。今のタシファレドならそれなりに発言力がある。タシファレドが本気になれば、家の問題など、きっとたいした問題ではなくなる。

「年寄の考えは古いんですよ」

 シリルが毒を吐くように言った。依然として笑顔のままだが、腹を立てていると見て間違いないだろう。シリルは完全にアリシアの味方のようだ。ルキナは、それを知れて安心する。そのうえで、一つ提案する。

「今度、タシファレドとアリシアちゃんをデートに行かせようと思うんだけど、協力してくれる?」

 家の問題を解決するため、タシファレドに動いてもらうためには、もう少し二人の心を近づける必要がある。タシファレドがアリシアの気持ちを無視して家に交際を認めてもらいに行くとは思えないので、アリシアの本当の気持ちが恋心を知ったタシファレドに届くように計らわなければならないだろう。その手段として、ルキナはデートを提案する。

「もちろんですよ」

 シリルが大きく頷いた。もうシリルは必要以上にタシファレドの邪魔をするつもりはないようだ。ルキナに協力すると言ってくれる。ルキナは肩の荷が下りた気分になった。

「で、ちなみに、女装ミスコンには出ないよね?」

 ルキナはシリルと別れる前についでに尋ねた。シリルをここに呼び寄せる時に、女装ミスコンに関する話だと言ってきた。一応、その話もした方が良いだろうと思い、問う。とはいえ、どうせ答えはノーだ。本当に一応のつもりで聞いた。しかし、シリルは意外な返事をくれた。

「あ、出ても良いですよ」

 シリルはルキナの予想に反して、イエスと答えた。

「ほんとに!?」

 ルキナは、期待していなかった分余計に嬉しくて、大声を出してしまった。女装というハードルの高さゆえか、出場者が確保できるか不安だったところだ。一人でも増えてくれるのは素直に嬉しい。シリルからたくさん話を聞けたうえに、出場者を確保できた。女装ミスコンを理由にシリルを呼び出したのは、実に一石二鳥だった。

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