表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/221

11. 嘘はバレるものデスケド。

 ルキナは、タシファレドが無事にアリシアへの贈り物をゲットするまで買い物に付き合った。結局、タシファレドは髪飾りを購入していた。ヘアアクセサリーなら、同じアクセサリーでも、ネックレスや指輪に比べ、もらう方も受け取りやすいだろう。ルキナは、タシファレドの選択は間違っていないと思った。

「用はすんだし、さっさと帰りましょ。せっかくの休日もろくに楽しめてないのに、もうこんな時間よ」

 ルキナが手のひらを天に向けて言う。時間はあっという間に過ぎて、日が落ちかけている。朝に街に出てきたのに、もう一日が終わってしまう。タシファレドが悩みに悩んでこんな時間になってしまったのだ。タシファレドがお詫びとお礼にと昼食を奢ってくれたが、ルキナの貴重な休日を奪ったのだから、対価をもう少しくれても良い気がする。

「なんでそんなに機嫌が悪いんだよ」

 ルキナが文句を言いながら帰途を急ぐので、タシファレドはルキナにそこまで怒らなくて良いだろうと言う。タシファレドは本当に大切な用事がすみ、ほっとしている。ルキナと違って、タシファレドは上機嫌で、ルキナがそんなに腹を立てている理由が理解できないようだ。

(まあ、たしかに成果は大きいけど)

 タシファレドのプレゼント選びが終わり、ほっとしているのはルキナも同じだ。タシファレドからの贈り物を受け取ったアリシアがどんな顔をして喜ぶのか楽しみだ。ルキナは、未来のアリシアの喜ぶ顔に免じて、あまりタシファレドに文句を言うのはやめておこうと思う。

「これが私のデフォルトよ。仕方ないでしょ。癖でこういう喋り方になっちゃうの」

 ルキナは、手のひらをひらひらさせ、気にするなと言う。できるだけ陽気に、イライラしているわけではないことが伝わるように言う。タシファレドは、突然ルキナの機嫌が良くなったので、不思議そうにする。

「女子に対してはもう少し優しい喋り方してた気がするけど」

「気のせいよ、気のせい。私はいっつもこんな感じよ」

 ルキナは依然として学校に向かう足は速めている。タシファレドがその遅れを取り戻すように駆け足でルキナに近づく。

「あとは、当日にちゃんと渡せるかどうかね」

「ああ」

「まあ、タシファレドのこれまでの経験をもってすればおちゃのこさいさいかもだけど」

「女子にプレゼントしたことはあんまりないんだけど」

「でも、お返しでアリシアちゃんに何かあげたことはあるんでしょ?」

「一応」

「じゃあ、いつも通りで良いわよ。大事なのは、アリシアちゃんより先に渡すこと。初日を逃しちゃ駄目よ」

 ルキナたちが並んで話しながら歩いていると、向かい側から赤髪の少年少女二人組が歩いてきた。彼らの赤い髪は人の多い夕方の王都の中でもかなり目立っていた。ルキナは二人に気づき、足を止める。

「あ、アリシアちゃん」

 ルキナが赤髪の二人組を指さすと、「へ!?」とタシファレドが驚いて、ルキナの指さした方を見た。

「シリルも一緒みたいね」

 ルキナがそう言っている間に、タシファレドが脇道にそれようと、細い道に入って行こうとした。ルキナは慌ててそれを止める。

「もう遅い。バレてるって」

 ルキナがタシファレドの服を引っ張って制止すると、タシファレドは逃げるのを諦めて立ち止まった。ルキナに引っ張られて皺が寄ってしまった服を直し、アリシアたちが近づてくるのを待つ。人の流れのある歩道の真ん中で立ち止まっているのはかなり不自然なことではあったが、今更あえてアリシアたちに近づいて行くのも変な感じだった。

「お二人でお出かけですか?」

 シリルが人懐っこい声で言った。アリシアとシリルはあっという間に距離をつめ、ルキナたちに話しかけてきた。タシファレドは、アリシアに、ルキナと二人で街を歩いているところを見られたくなかったのか、とても居心地悪そうにしている。さっきタシファレドが逃げ隠れしようとしていたのもそれが理由だろう。だが、あの時点で、ルキナが二人に気づいていたように、アリシアたちもルキナとタシファレドの存在に気づいていただろう。その状態で姿を消す方が怪しまれる。ここは堂々としているべきだ。

 ルキナは、冷静に、シリルの問いに答えようと息を吸った。何もやましいことはない。アリシアへのプレゼントを買いに来たことは隠しつつ、それ以外は正直に話せば大丈夫だ。明確な目的があって二人で出かけたのだと伝われば、この組み合わせの理由を疑問に思われることもなくなる。しかし、ルキナが話し出す前に、タシファレドが先に話し出してしまった。

「まあな。偶然そこで会って、お茶でも飲みに行こうかって。ね、ルキナ嬢」

 タシファレドがナンパモードに入った。タシファレドはこれで乗り切るつもりだ。

(見え透いた嘘を)

 ルキナは、タシファレドを馬鹿だと思った。嘘は危険な道具だ。その時はうまく誤魔化せるかもしれないが、バレた時は自分の首を絞めることになる。今回、タシファレドはルキナとはさっき会ったばかりなのだと言った。しかし、二人が朝から一緒に出掛けていたことが知られていたなら、この嘘は意味をなさない。それどころか、隠し事があるとして怪しまれてしまう。

 ルキナは、まず、嘘がバレた時のことを考えた。その時、最も避けるべきことは何か。ルキナは、アリシアに、ルキナとタシファレドが逢引きをしていたと思われるのが一番危険だと考えた。ルキナが誰を好きかなんて知っている人は知っている。これだけ一緒に過ごしてきたのだから、アリシアだってわかっているはずだ。だが、恋というのは視野を狭くする。それまでの出来事がすっぽ抜け、最近にあったことだけで考えをまとめてしまう。そうなれば、現実的でないと頭のどこかでわかっていても、あらぬ結論を出してしまいかねない。その結果の一例が、ルキナとタシファレドが想い合っているのではないかという勘違い。もしくは、ルキナがタシファレドを狙っているという勘違い。どちらにせよ、今のアリシアにそんな勘違いをさせるのは危険だ。今後のタシファレドの動きにも影響してくる。

(仕方ない)

 ルキナは、考えをまとめ、どう答えるか決めた。少々、恥を凌ぐ必要はあるが、そんなことはアリシアの笑顔のことを想ったら些細なことだ。

 ルキナは、目に力を入れ、タシファレドを精一杯睨んだ。

「誰があんたなんかと。私はシアン一筋なの」

 正直、何も解決はしていない。嘘を嘘だと明かしたわけではないし、これで嘘がバレた時のショックが弱まるわけではない。本来なら、タシファレドの発言は冗談、嘘だと言い、本当のことを言うのが一番の解決方法だっただろう。しかし、そうなると、なぜタシファレドは嘘をついたのかという話になる。それならば、嘘は嘘のまま貫き通し、嘘がバレた時のための対処をしておくべきだ。ルキナはあえてシアンの名前を出し、冷静に考えれば、ルキナがタシファレドとどうこうなろうと考えているわけがないとわかるようにした。視野の狭くなっている者にとって、最新の情報が一番重要となる。これである程度はアリシアの勘違いを防ぐことはできたはずだ。

「口裏合わせろよ」

 タシファレドがルキナに顏を近づけ、こそこそと耳打ちする。タシファレドの作戦では、とにかく今どう誤魔化すかが重要視されている。しかし、それもルキナが協力しなければ全く意味をなさなくなる。タシファレドはルキナに文句を言い、自分に合わせれば丸く収まったと主張する。

「アリシアちゃんに勘違いさせるようなことできないでしょ?」

 ルキナはタシファレドの浅はかな考えにため息をつく。ルキナとタシファレドがひそひそと二人で話していると、アリシアが悲しそうな顔をした。シリルがそんなアリシアをチラッと見る。その後、ルキナたちのひそひそ話を遮るように言った。

「次期当主、ルキナ先輩、予定があるので、僕らはこのへんで」

 シリルはぺこりとお辞儀をすると、アリシアを連れて離れて行った。ルキナはその後ろ姿を黙って見送った。

(あの二人こそ、こんなところに何の用があったのかしら)

 アリシアとシリルが一緒にいること自体は疑問を抱く余地もない。だからといって、二人で仲良く王都に買い物に来ているところもあまり想像できなかった。ルキナは、首を傾げて不思議がる。

「なんで俺に合わせてくれなかったんだよ。あれじゃあ、俺が無理矢理ルキナを連れてきたみたじゃないか。普通に偶然会って、偶然一緒にいただけって説明で良かっただろ。ルキナのせいで余計ややこしくなったじゃねぇかよ」

 ルキナがアリシアたちのことを考えている間に、タシファレドが怒涛の勢いで文句を言った。タシファレドはルキナの考えなど全く理解できていない。互いに意思疎通ができていないのだから当然ではあるが、それぞれの目的が違ったことがさらに話をややこしくしている。

 ルキナは、一方的に文句を言われたことに腹が立ち、言い返すことにする。タシファレドはタシファレドで彼なりに考えての行動だったようだが、ルキナにはその選択は理解しかねる。こちら側の主張も聞いてもらってから文句を言ってもらいたいものだ。

「あそこはあれで正解よ。あんたの空回りしたナンパじゃないと、アリシアちゃんは不安に思うわ。今までのことを考えたら、私がタシファレドと一緒にお茶とか怪しいじゃない。タシファレドがふざけてるだけで、私の方は断ってますっていう形にしておかないと、アリシアちゃんは変な勘違いをしちゃうじゃない」

 ルキナがタシファレドの主張を抑え込んで一方的に話していると、「二人はそんなに不仲なんですか?」という声が割って入ってきた。

「シアン」

 ルキナは声の主に気づき、名前を呼ぶ。いつの間にかシアンが来ていた。

「先生の浮気者!」

 どうやらシアンは一人ではなかったようで、ユーミリアがルキナに抱きついた。ユーミリアは怒っているようで、ルキナの体をぎゅーっと抱きしめて離さない。いつもより力が強いので、ルキナは苦しくなる。

「なによ、いきなり」

「先生はあの人が好きなんじゃないんですか。なんでタシファレド様なんかと一緒に出掛けてるんですか」

 ルキナがユーミリアに怒っている理由を尋ねると、ユーミリアは、ルキナとタシファレドが二人きりだったのが理解できないと言った。ユーミリアは、話しながらさらに感情を高ぶらせ、腕に力を加えた。ルキナはさらに強く抱きしめられる。

「私だって、タシファレドと二人で行くつもりはなかったわよ。でも、タシファレドに声かけられた時に、シアンもユーミリアもいなかったじゃない」

 ルキナは自分の言い分を言うと、ユーミリアに力を緩めるように言った。息苦しくてはろくに会話もできない。見かねたシアンもユーミリアに声をかけたので、ユーミリアは渋々ルキナから離れた。ユーミリアから解放され、ルキナは大きく息を吸って吐いた。

「行方不明になったかと思って、学校中探し回っちゃったじゃないですか」

 ユーミリアがすねたように口を尖らせる。ルキナがいなくなり、ユーミリアはかなりあちこちを探し回ったようだった。ここにたどり着くのに時間がかかったのは闇雲に探していたからだろう。ルキナは、呆れてため息をついた。

「子供じゃないんだし、何もそこまで心配しなくても」

 友達だからといって、毎日一緒に過ごさなければならない理由はない。一日や二日、姿を見れなかったからといって行方不明を疑うものでもない。ましてや休日だ。どこかに出かけているかもしれないことは予想ができるはずだ。

「それなら、せめて一言くらい声かけてくださいよ」

「だから、そんな暇もなかったんだって」

 ユーミリアは最後までルキナを探すのに無駄骨をおってしまったと文句を言い続けた。たしかに、ルキナもユーミリアや他の者に何か伝言ができれば良かった。が、そんな暇があったら、タシファレドと二人で出かけるなんてことにそもそもならなかった。

 ルキナは、腰に手を当て、ユーミリアを見る。その後、シアンを見る。

「で、結局、シアンと一緒にここまで来たと」

 途中までは、ユーミリアは一人でルキナを探していた。しかし、それでは埒が明かないと、シアンに助けを求めに行った。シアンの魔力を探知する能力をもってすれば、人探しなど朝飯前だ。特に、ルキナは魔法石を身に着けている。シアンなら苦労せずにルキナを探し出せただろう。ユーミリアもそれをわかっていてシアンのもとを訪ねたのだ。ただし、シアンのところに行ったのは本当に最後の最後だった。シアンを頼るのは、ユーミリアにとっては屈辱的なことだったからだ。最初からシアンのところに行っていれば、こんなに時間をかけずにルキナに会えただろうに。

「これじゃあ、私、GPSを持ち歩いているも同然ね」

 ルキナは笑いながらイヤリングを触った。これをつけてる限り、ルキナの居場所はシアンに筒抜けだ。たとえば、かくれんぼをしていても、ルキナはシアンにすぐに見つかってしまう。シアンの探知能力が広範囲に及ばず、正確な居場所を特定するのにそれなりに近づかなければならないとはいえ、これではルキナのプライバシーもあったもんじゃない。

「外します?」

 シアンが申し訳なさそうな顔をして、ルキナにイヤリングを外すかと問うた。イヤリングを外してはどうかという話は、既に何回もされている。しかし、その度に、ルキナは断っている。

「ううん、たいした問題じゃないし、いいわよ。今更手放す方が気分悪いわ」

 ルキナはイヤリングをたいそう気に入っているので、何度尋ねられても、きっと外すにはいたらない。ルキナの返事を聞き、シアンは安心したような顔を一瞬したが、素直には喜べないようで、やはり申し訳なさそうな顔をしていた。

「先生、先生、パンが焼き立てですって」

 ユーミリアがはしゃいで手を振っている。パン屋の良い匂いに誘われ、ユーミリアは少し離れたところにいた。

「美味しそうね」

 ルキナが適当に返事をすると、ユーミリアは買いに行ってくると店の中に入っていってしまった。タシファレドもそのパン屋が気になっていたようで、ユーミリアに続いて店に入った。ルキナは外で二人が戻ってくるのを待つ。その間に、シアンがルキナに耳打ちをした。

「アリシアさんとシリル、朝から出かけてたみたいです。しかも、さっき、物陰に隠れて、あなたたちの様子を伺ってましたよ」

 シアンが言うには、アリシアたちはルキナたちをつけて王都に出て来たそうだ。ルキナたちに話しかけてくる前には、二人は隠れて様子を見ていたらしい。つまりは、アリシアたちはルキナとタシファレドが朝から二人で王都で買い物をしていたことは知っていたわけだ。

「へー、本当は知ってたんだ」

 ルキナは腕を組んで、ニヤリと笑う。シリルかアリシア、どちらが先に言い出したかはわからないが、ルキナとタシファレドが一緒に街に出掛けるところを見かけ、気になった二人はルキナたちをつけて来ていた。ルキナたちに話しかけ、何をしているのか尋ねてきたのは、ルキナたちの反応を見るためだったのだろう。彼らからしたら、タシファレドの嘘は見破るまでもなかっただろう。既に知られていることを隠そうとする姿はさぞ滑稽に見えたことだろう。結果論ではあるが、ルキナの素直に話すべきという意見は正しかったと言える。しかし、そんなことはもう問題ではない。

「先生!買えましたー!」

 ユーミリアがパンを片手に走ってくる。焼き立てだというパンを買ってきたようだ。ルキナの「美味しそうね」は「欲しい」という意味に捉えられたようだ。ユーミリアは、ルキナに喜んでもらえると思っていて、とても良い笑顔で駆け寄ってくる。彼女は今ルキナが頭を悩ませていることを知らない。

「どうしたもんかしらね」

 ルキナは目を閉じて呟いた。この状況はあまり良くない。タシファレドはアリシアに無事にプレゼントを受け取ってもらえるだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ