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静かなる女王  作者: 間咲 零
3/5

3. 隠したいSと知りたいM

 昭野(あきの)が彼女…… 部下の今洞(こんどう) 静那(しずな)の姿をそこで見かけたのは、偶然だった。


 1週間前の残業の帰りのことである。

 通りすがりにたまたま、彼女がその建物から出たところを、見掛けたのだ。


(いつも忙しそうに帰るのは、ここに通っているからか)


 昭野は、今洞(こんどう)のことを憎からず思っている。


 地味で目立たない年上の彼女だが、スパスパと小気味の良い美しい喋り方、物怖じせずに意見を言う態度、上からな感じの中にチラ見える優しさ…… 全てが昭野のツボだった。


 気になる女性のことを知りたいのは当然、というわけで、その建物の看板を確認した昭野は…… 一瞬、固まった。


『辛子浣腸』 ――― 流麗な飾り文字で書かれたその言葉は、昭野の心の奥底の何かを激しく揺すぶったのである……!


 帰宅して、『辛子浣腸』 をネット検索した彼は…… 更なる衝撃にさらされることとなった。


今洞(こんどう)さんが……まさか、SMクラブ!?)


 そのゴシックスタイルのホームページでは、顔は隠しているものの、確かに彼女らしい女性が(なまめ)かしい黒ボンテージ姿を晒しており……


(これはダメだろ……! いや、しかし就業規則では他業種に限り副業OKだ……)


 要らぬお節介かもしれないが、相手は、どうしても見過ごすことはできない女性だ。


(さりげなく、そう、さりげなく……止めなければ!)


 そう決意しつつ、 『Menu』 ページを開けて……


 昭野は、完全にノックアウトされた。


 その脳裏は、黒ボンテージ姿の彼女に責め苛まれる己の姿に占拠されてしまったのである……!


(ああ、ダメだダメだダメだ……っ!)


 声には出ない悲鳴を上げつつ、昭野は震える手で 『ご予約』 のボタンをクリックしたのだった……。



挿絵(By みてみん)

©️猫屋敷たまるさま


 ★★★



「んひぃぃぃっ! あああっ!」


「なかなか良い鳴き声の豚ちゃんね! 醜くて可愛いわ!」


「んぶぅぅぅぅぅっ!」


「おほほほほーっ! ○○○の役にも立たない○○丸出しの○○声ね! ホラ、もっとちゃんと喋ってごらん! この駄犬!」


 ひゅんひゅんと唸りを発して鞭が飛ぶ。


(ああ……抑えてるつもりなのに、つい……)


 私ったら、いつもの3倍増しでハッスルしちゃってる……!

 これが 『相性がいい』 ということなのかもしれない。


 昭野さん(ほんもの)とのイキはピッタリだ。


「うううっ……痛いけど、気持ちイイです……女王様! もっと、僕を調教してくださいぃぃ」


「何ですって? そんな虫ケラのような声では、よく聞こえなかったわ?」


 四つ這いになった背中に腰をおろし、尻に鞭をあてる。


「ぁひっ……ひぃっ……!」


「愚鈍なロバが、この私に何をお願いしているのかしらぁ?」


「ぁぁあああ"っ! ご主人さまっ! ……女王ざば!」


「その汚い口をお閉じ!」


 鞭をふるう度に、苦悶と恍惚に彩られる表情と、増えていく蚯蚓脹(みみずばれ)れ…… 少し目にするだけでも、半端なくウットリしてしまう。


(ああ……どうしよう…… 本物って、こんなに快感なんだ……)


 ……私はもう、昭野2号(ほかのきゃく)では満足できないかもしれない……。



 ★★★



 目眩く調教初体験の夜から、数日後。


 昭野は迷っていた。

 本当は、あの夜、プレイが終わった後に彼女の気持ちを聞き出し…… プロポーズする、つもりでいたのだ。


 しかし、『辛子浣腸』 で女王様として君臨する彼女は真に気高く美しく…… プロポーズは愚か、気持ちを聞き出すことすら憚られてしまった。


(きっと、そんなことをしようとしたら……)


『何様のおつもりかしら? 豚の分際で! アラ豚なんて言ったら豚に失礼だったわ……!』 などと激しい鞭を喰らうに違いない、と妄想し、恍惚としてしまう昭野である。


 あの女王様を存続させるためには、昭野がその正体に気付いている、などとは、ゆめゆめ知られるわけにはいかないではないか。


 けれども。

 彼女と結婚したい気持ちは、より膨らんでしまっている……!


 彼女の本当の気持ち…… それは。


 考え、迷い続けたあげく、昭野が思い付いたのは。


 SMクラブの中よりは、まだ、会社の中での方が聞きやすいのではないだろうか。……ということだった。


 なにしろ、クラブの中では彼は完全な奴隷 (発言権なし) だが、会社の中では一応、上司なのだから。


 最初は、遠回しにソフトに……


今洞(こんどう)さんって、何か夢があるんですか?」


「そんなこと、課長には関係ないですよね?」


 相変わらずの高飛車な返事に、密かな身震いを禁じ得ない、昭野である。


「いえ、よく急いで帰ってらっしゃるから、何か習い事(レッスン)でもしておられるのかと……」


「ええ。調教(レッスン)ならしていますが」


「だから、何か夢をもってらっしゃるのかな、と思いまして」


「……そうですね」


 伊達眼鏡の奥の黒い瞳が、少し揺れた気がした。


「かわいくて従順な仔豚ちゃんに首輪をつけて、一生飼育したいな、と思うことはありますよ」



 こ れ だ …… !



 昭野は内心で、ガッツポーズをしたのだった。

2020/08/02 猫屋敷たまるさまよりシズナ様のFAをいただきました!

猫屋敷さま、どうもありがとうございます!



⇒猫屋敷たまるさま 作者ページ

https://mypage.syosetu.com/1751619/


『そして暗殺者は虚ろに笑う ―哀しみを失くした青年と嘆きの精霊―』

https://ncode.syosetu.com/n4341fy/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「調教レッスンならしていますが」 講師の方ですねw
[良い点] いや、これは間違いなく良い夫婦になるでしょう! 相性バッチリっていうのは夫婦生活を円満にする上でかなり重要な要素です。これは確かに恋愛カテゴリでもいい^^
[気になる点] 愚 鈍 な ロ バ [一言] 純愛じゃないですか!コメディジャンルで大丈夫ですか?
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