2. 素敵なニセモノと困ったホンモノ
ゴシック風のシャンデリアが複雑な陰影を作り、棚に並んだ拷問具を黒々と浮かび上がらせる。
私は、豪奢なベッドの上に腰をおろし、品良く脚を組んでいた。
足先を彩るのは、真っ赤なエナメルのヒール。その前にひざまずいているのは、かわいい私の昭野2号。
「靴をお舐め!」
「はい、女王様……」
足元で動く頭。靴の上から伝わるかすかな舌の感触が、ゾクゾクと背筋に響く…… たまらない。
「そう、上手ね、ブタちゃん…… 御褒美は、いかが?」
「ありがとうございますぅぅっ!」
「良いお返事ね。そんなお返事だと、あなたみたいな駄犬でも、少しは、かわいいわ…… それとも、喜ばれるだなんて……私の躾が悪いからかしら? なら、今度は、そのふにゃふにゃの○○○が立たなくなるほどに痛め付けてあげないとね……?」
優しく囁きながら、鞭をふるう。
ぴしっ、ぴしっ……
鞭が昭野2号の背中に当たる度、増えていく赤い蚯蚓脹れ。
「あ……ひぃっ……もっと……!」
あら、今のは減点。きちんと調教しなおしてあげなければ。
「今、なんとおっしゃいまして?」
ぐい、と心を込めて、ヒールで顔を踏みつける。
「あなたの主人は誰なのか、言ってごらんなさい!」
爪先をぐりぐりと頬にのめり込ませると、「ううううっ…… ぁんっ……」 と昭野2号が呻いた。
「シズナ様です……」
「よろしい」
鞭を、さっきよりも少しだけ力を込めて昭野2号の背に食い込ませてあげる。
「あ……ひぃぃっ……」
苦悶と悦楽に歪んだ顔が、なかなか素敵ね。
「さ、最高です! 女王様!」
「ふっ、まだよ! その腐れ○○○で存分に○○○といいわ!」
「ぁ……ああッ……うううううっ……!」
ひとしきり鞭打った後は、その背に優しく軟膏を塗りこむ。
無数に走る赤い筋を、一本一本爪でなぞりながら、聞いてあげるのだ。
「さぁ、次は……何をして差し上げましょうか?」
「何でも…… ぁんっ…… 女王様の御心のままに……」
「満点」
にいっ。唇が妖艶な笑みを形作っているのが、自分でもわかる。
素直な豚ちゃんは、本当に可愛いわ!
私は気分良く、滅多にしないサービス…… すなわち、昭野2号の顔の上に、お尻を優雅に載せたのだった。
★★★
「ふぅ……」
休憩室でミネラルウォーターを飲み、軽く目を閉じる。
お客さまには1人1人、心を込めて接客するのが私のモットーだ。
楽しいけれども、体力がいる仕事でもある。
それに、メンタルも重要だ。
こっちが心の底から感じていれば、お客様の性癖も解放される、という…… そこで私は、どんなお客様でも 『昭野さん』 だと思うことにしているのだ。
(うふふふ……すごく喜んで、苦しそうにしてくれたわ……)
ひと仕事終わった後も、良かった反応を 『昭野さん』 でリプレイすれば疲れが吹き飛ぶというもの。
「シズナ様」
スタッフが顔を覗かせた。
「お客様、こられました。スタンバイお願いします」
「わかったわ」
私は立ち上がり、調教室へ向かう。
……さぁ、次はどんな昭野2号なのかしら。
(……って、本 物 ぉっ!?)
部屋に入ってきた彼に、私の心臓が大きく跳ね上がった。
そう、次のお客は……まさかの。 『昭野さん』 ご本人だったのだ……!
(ええええっ! 既に覚醒めていたの? 昭野さんっっ)
世の中で自身の性癖を自覚してる人って、割かし少ないんじゃないかと思う。昭野さんだって、確かにM気質っぽかったけど……
(顔が良すぎるから絶対に自覚してないパターンだと思ったのに!)
……そして、いつかは私の手で覚醒めさせてあげようと妄想するのが、楽しかったのに……
(いえ、これはチャンスよ!)
私は自分に言い聞かせた。
もし私だとバレずに満足させることができれば、次回以降は昭野さんからの指名が増える可能性大!
けれど、もしバレれば…… いくらM属性でも、部下にたびたび性癖を晒すのは気が引けるだろう。
……ということは、絶対にバレるのは、ダメ。
(大丈夫よ! 会社とは全然雰囲気が違うもの!)
身バレが怖いなど、プロとして失格だ。
ここで絶対に引くものか……! 私はナンバーワン女王様なのだから。
「いらっしゃい! 罵ってあげるわ!」
私は鞭を手に、昭野さんに艶然と笑いかけたのだった。
制作:秋の桜子さま
(Picrewの「ぼくの女王様」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KXkjeiOcoO #Picrew #ぼくの女王様)