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静かなる女王  作者: 間咲 零
1/5

1. 小さな恋と大きな秘密

 あと1分。


 私は目だけを動かし、イライラと時計を見た。


 目の前では上司の昭野(あきの)が、 「今洞(こんどう)さん、この作業だけでいいので……お願いできませんか」 と丁寧に頼んできている。


 くっ……この丁寧な腰の低さ……清潔感……たまらない。


「無理です」


 ピシャリと言い切ると、昭野の整った顔が情けなさそうに歪んだ。


 ああ……可哀想。

 可哀想すぎて、胸がキュン、と甘くしめつけられちゃう……っ!


 顔が良いのが玉に瑕、だが……


「そこをなんとか……頼みますよ」


 ペコリと下げられたその頭頂部が、課長に昇格してストレスが増したせいか、はたまた周囲への気遣いしすぎか、で少々薄くなりかけているのが、また可哀想で。


瑕疵(かおのよさ)を補ってお釣りがくるぅぅぅ!!)


 内心で悶えつつ、私は伊達眼鏡の縁をクイッと押さえた。


「私、朝から申し上げていましたよね? 覚えておられないんですか?」


「いえ、覚えています……」


「今日は残業できませんから、仕事は早めに回してください、と申し上げたはずです」


「いえ、部長が急に……」


 しどろもどろの口調。ときめくこと、この上ない。


 ああん。もっと困った顔を見せてほしい……っ!

 そして、頭頂から毛髪がオールクリアされた後は、そこを優しく撫でてあげたい……。


 妄想に心を和ませつつ、私は冷酷に言い放った。


「言い訳なさらないでください。されても困りますので」


「はい、すみません……」


 時計の針が5時50分をさした。ついに、タイムアップだ。


 ……もっとお話していたかったけど、仕方がないな。


 名残惜しい気持ちを、言葉にする。


「申し訳ありませんが、時間切れです」


 断言された台詞に絶望的な表情をする、昭野。


 そうそう。その顔が見たかったのよね……! もう……癒されること、この上無い。


 最後は、少し御褒美を上げよう。


「明日、早めに出勤して始業前には終わらせます。それでお願いします」


「はい、ありがとうございます。助かります!」


 深々と頭を下げる昭野。

 部下に対してまで、こんなにペコペコしているようでは、きっと頭頂部の生命は後2~3年に違いない。


(うふふふ。もっと可哀想になぁれ♡)


 失礼します、と軽く会釈を返して去る私の背に、「お疲れ様です」 と昭野が声をかけてくれた。


 彼から見えているのは、黒いゴムで1つに束ねた髪と姿勢に気を付けた背中だろう。

 どこからどう見ても地味な、アラサー独身OL。それが私だ。


 私の、もう1つの顔…… それは、大好きな上司の彼には、決して見せられない。



 ★★★



 ネオンに彩られた通りを抜けて、少し歩くと、隠れ家ホテルのような優美な佇まいの店。

 黒地に流麗な金文字で 『辛子浣腸』 と描かれた、ゴシック風の看板の前を通りすぎ、裏口から入店する。


「おはようございます」


「おはようございます、シズナ様! お客さんの予約、もう3つ入ってますよ!」


 さすがはナンバーワン、と誉めてくれる店長に 「おかげさまで」 と返して、私はロッカールームに向かった。


 仕事用のグレーのスーツを脱ぎ、黒のハイレグボンテージに着替える。脚には網タイツとガーターベルト。


 髪を束ねたゴムを外し、櫛で左右に解き流す。


(ふっ……完璧よ!)


 鏡の中の私に微笑みかける。

 そう、午後6時半からの私…… それは、M男の心を一瞬で支配する 『女王様』 なのだ。


 さぁ…… 今日も、私の昭野(おきゃくさま)たちを、しっかりと調教(いや)して差し上げなければね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あのFAから生まれただけあって、とても S (ステキ)ですね。 [気になる点] 黒地に流麗な金文字の看板。 とても いたそうです。 [一言] 可哀想になあれ。 上司にいう言葉ではない…
[良い点] 頭頂部の毛がオールクリアとか辛子浣腸とか面白単語が多すぎるw 始まる前から感じる軽エロのオーラに脱帽モノです!
[良い点] さ、刺さってなんかいないんだからねっ(必死)
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