来世こそ長生きしたい
「けっこう降ってきたな…、怖い…」
私は、田舎にある実家に帰るため車で山道を走っていた。片側は谷、もう片側は山の斜面、街頭はほぼ無い。
年の暮れのことで、湿った雪がぼとぼとと降ってきている。視界はさほど悪くはないが、急カーブが多い道は心細い。
スタッドレスタイヤを履いていることに心底喜びながら、深夜進むのは自分が運転する車たった一台しか見当たらない。
あと30分も走れば実家に辿り着くという所で、雪にタイヤを取られて右に左にスリップしてしまった。
「ヒィッ!」
下り坂のカーブを曲がりきれずに縁石を乗り越え、ガードレールを壊して小さな白い軽自動車は谷に落ちていった。
これが私が死んだ顛末である。
目に柔らかなクリーム色の光が差し込み、全身をもごもごと揉まれるような押されるような感覚と、時々細い柔い針金のようなもので撫でられる感覚。全方位から聞こえるカサカサした物音に意識を浮上させると、ぼんやりと干し草が並べられたような、クリーム色の細長いものがそこらじゅうぎゅうぎゅうに詰められている中にいた。
なんだろうここは、熱さ寒さも感じない、山道から谷に落ちたとき自分は死を確信した、ここが死後の世界なんだろうか?そんなものが本当にあったのか?
ぼんやりと考えていると、少し離れたところから一際明るい光が入ってきた。周りにぎゅうぎゅうに詰められた干し草のようなものが光の方向に流れていき、自分の体も光に向かって押されていく。
流れに任せて光をくぐると、そこは草原で、はじめて自分がどこにいたのか理解した。薄茶色の泡が固まったような歪な楕円の塊、たくさんの干し草ようなものは、三角の頭に足が6本、後足4本は細く前足2本は鎌状になっている。小さくてもまごうことなきカマキリだった。
これは夢か?なんなんだ?私はカマキリに生まれ変わったのか?
卵から孵る数えきれない兄弟たちをぼんやり眺めながら、疑問と困惑が頭の中をぐるぐる巡る。カマキリの小さな小さな頭ではパンク寸前だ。
その時、急に空が陰り、たくさんの兄弟たちと卵ごと宙に持ち上げられた。
何!?これ以上何なんだ!?布?袋か?
ゆらゆらと揺さぶられ、しばらくするとその揺れもおさまり、袋の中を意味もなくもごもごと動き回っていると、袋から出されたと思ったら、出された先は水で溶いた小麦粉の中だった。
そして、私は水で溶いた小麦粉の衣をつけられ、熱した油でこんがり揚げられ、おそらく人間に食べられてしまった。
これが私の2度目の死んだ顛末である。
あぁ、来世があるなら今度こそ長生きしたい。
なんなんだこれは