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放課後サバイバル日誌   作者: 海凪ととかる@沈没ライフ
入学・仮入部編

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四つ落とし

羽毛の処理が終わり、頭と脚を落とした鶏が、背中を上に向けたうつ伏せ状態でまな板の上に載っている。ここまでくれば完全にホールチキンだ。


袖を肘までめくった葵は、コハル婆が砥いでくれた出刃包丁を手にまな板の前に立った。


「今からするのは鶏の【四つ落とし】っていうさばき方よ。もも肉二枚、むね肉二枚がそれぞれ骨のついた状態で取れる一番基本的なさばき方ね。まずもも肉から外すわ」

 

そう言いながら、美鈴と結花が左右から見守る中、包丁でまず背骨に沿ってボンジリまで縦に切り込みを入れ、ももの付け根のあたりで横の切り込みを入れて十字を刻んだ。


「この切り込みを入れておくともも肉が外しやすくなるのよ。次に鶏をひっくり返して仰向けにして、ももの付け根の皮に切り込みを入れる」

 

皮を切ったところで一旦包丁を置き、両手でももをつかみ、背中の方向に曲げて関節をむきだしにする。


その関節に包丁を入れれば、サクッと小気味良い感触と共に骨同士が外れる。


「骨を切るのは難しいけど、このとおり関節の間になら楽に刃が入るのよ。そして、このももの付け根の関節を外したら、あとは引っ張れば胴体からもも肉を引き剥がせるわ」

 

右手に持った包丁の腹で胴体を押さえつけ、左手でももをつかんでべりべりと引き剥がす。


コツは要るが、慣れればさほど力を入れなくても外せるようになる。

 

同じ要領で反対側のもも肉も外す。


「うわっ早っ!! 葵ちゃんめっちゃ手馴れてるじゃんね」


「わあ、スーパーで売ってる、骨付もも肉だ」


結花と美鈴の素直な感嘆の声に葵の口元がふっと綻ぶ。仰向けの鶏を再びうつ伏せにして、今度は背中の肩甲骨のあたりから首の付け根まで八の字に切り込みを入れ、ひっくり返して仰向けにして胸の真ん中に縦に切り込みを入れる。


「次はむね肉を外していくわ。胸の真ん中の切り込みから包丁の先を使って少しずつ鶏ガラからむね肉を外していって、手羽の付け根の関節が見えてきたら、さっきと同じ要領で切り外す」

 

包丁の切っ先で胸骨の表面をなぞるようにして片方のむね肉を外し、ひっくり返して反対側のむね肉を外す。


「むね肉を外したその内側にも細長い肉がついてるけど、これはなにか分かる?」


「えーと……。あ、ササミです?」


「正解。笹の葉みたいな形だから笹身っていうのよ。鶏肉の他の部位は体の表面にある皮付きの肉だから衛生的とはいえないけど、この笹身だけは体の内側にある綺麗な肉だから新鮮ならお刺身でも食べられるのよ」


「お刺身!? 鶏肉のお刺身が食べられるんです!? 食べたいです!!」

 

目を輝かせて身を乗り出してくる美鈴に苦笑しながら、胸骨から笹身を外してそれだけ別の容器に取り分ける。


「じゃあこれは、あとでお刺身にしましょう。これで一応四つ落としは終わりなんだけど、内臓の中にも食べられる部位がいくつかあるから、後でそれも取るわね」


「食べられる場所ってどこなん?」


「まず砂肝とレバー、それとハツ、つまり心臓ね。でも、内臓、特に消化器系はかなり汚い部位だから、もも肉やむね肉と一緒にさばくのは良くないわ。残りの三羽の四つ落としが終わってから後でまとめてやりましょ。さ、じゃあ二人ともさばき始めて。まずは背中に十字の切り込みを入れるところから」


「よしっ。頑張ります」

 

気合十分の美鈴がナイフを鞘から抜き、結花も折りたたみナイフの刃を開いてロックする。


「あら、二人ともナイフ使うの? 包丁の方がやりやすいわよ?」

 

葵が今まで使っていた出刃包丁を指し示すと、二人は顔を見合わせてから笑った。

 

結花が片手でナイフをもてあそびながらちょっと照れたように言う。


「うちらはサバ研だから、やっぱりナイフの扱いに熟練したいんじゃんね」


「……」


その言葉を聞いた瞬間、葵は一抹の寂しさのようなものを感じた。

 

結花と美鈴はサバ研のメンバーだけど、自分はあくまで顧問代理の生徒会の人間。なんだか自分だけ部外者であるという疎外感を、ナイフで鶏をさばき始める二人を見て葵は強く実感してしまった。

 

野良鶏退治を経験したこの二人は、今後は正式な部員として扱われることになる。


でも、あたしにはサバ研に居場所はない。そう考えると、ちょっとこの二人がねたましくなった。

 

もちろん、そんな内心の想いは面に出さずに、葵は四苦八苦しながら鶏をさばいている二人にアドバイスしつつ、自身も二羽目の解体を始めていった。







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