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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
97/118

97・オモクロヒットの裏側・2

小悪魔マユ・97

『オモクロヒットの裏側・2』    



 足利病院は美優が入院していた病院よりも立派だった。

 

 立派というのは、規模が大きく経営が順調だということで、中味のことではない。美優が入っていた病院は、なんともアットホームで、亡くなった美優が、結婚間近のナースの吉田にカメオを作ってやったほど、病院と患者の距離が近い。

 足利病院は、大きくて立派で、そして清潔であった。


 しかしマユには、なんだか天使に通じるような割り切った冷たさを感じた。


――安藤美紀様――と書かれた個室のドアをノックした。


「……どうぞ」

 微かだが、美紀の返事がして、仁科香奈の姿をしたマユは病室に入った。

「失礼します……」

「あ、あなたは……」

 美紀は、左のほお骨を骨折していたので、大きな声が出せない。でも気持ちは、はっきりと伝わる。

 こんな真っ直ぐで、素直な美紀の思念は感じたことがなく、マユは少し戸惑った。

「わたしのために、美紀さん……こんなことになってしまって、本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました」

「いいのよ、あなたのせいじゃないんだから。あなたこそ、無事でなによりだわ。あの位置じゃ、まともに頭に当たっていたでしょうから」

「ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」

「フフフ……痛い……笑うと響くの」

「ごめんなさい、笑わせてしまって!」


 ゴツン!


 マユは反射的に頭を下げ、ベッドの手すりに、したたかに頭をぶつけてしまった。

「フ……見舞いに来て、怪我なんかしないでね。で、オーディションの結果は?」

「はい、なんとか合格させていただきました」

「よかった。これからいっしょにがんばりましょうね」

「はい、よろしくお願いします!」

「頭……気をつけてね」

 マユは、また危うくベッドの手すりに頭をぶつけるところだった。

「わたし、しばらく選抜メンバーからは外れるけど、カナちゃんが代わりに入ってくれるから安心」

「カナさんって……」

「桃畑加奈子。おもしろクロ-バーのころにセンターだった。ついさっきお見舞いに来てくれて……」

 頭を手すりにぶつけたドジさで、気を許して、美紀はいろんなことを話してくれた。

 オモクロに入るまでは、自分でも嫌になるほど、意地の悪い子だったこと。ルリ子にくっついていればラクチンだったから。でも、こうしてオモクロのメンバーになれば、とても才能がある努力家で、今は心から尊敬できる仲間として見られることなど……やはり、美紀やルリ子は成長していた。オチコボレ天使・雅部利恵は間違っていなかったのだろうか……。


 病院の待合いを兼ねたロビーに戻ると、濁った思念を感じた。それは、あの桃畑加奈子のそれであった。

 加奈子は、ボンヤリとガラス張りを通して、晩秋の東京の街を見ていた。


「桃畑加奈子さん……ですよね」

「あなた……仁科香奈さん?」

「はい、いま美紀さんのお見舞いをしてきたところです」

「……本当は、わたしのはずだったのよ」

「え……?」

「ああやって、怪我をして、ベッドに横になっているのは、わたしのはずだったのよ」


 加奈子の濁った思念の中に、東京タワーとスカイツリーが見えた。

 たしかに、このガラス張りからは、その両方が見える。でも、それは何かの象徴のように思えた……。



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