97・オモクロヒットの裏側・2
小悪魔マユ・97
『オモクロヒットの裏側・2』
足利病院は美優が入院していた病院よりも立派だった。
立派というのは、規模が大きく経営が順調だということで、中味のことではない。美優が入っていた病院は、なんともアットホームで、亡くなった美優が、結婚間近のナースの吉田にカメオを作ってやったほど、病院と患者の距離が近い。
足利病院は、大きくて立派で、そして清潔であった。
しかしマユには、なんだか天使に通じるような割り切った冷たさを感じた。
――安藤美紀様――と書かれた個室のドアをノックした。
「……どうぞ」
微かだが、美紀の返事がして、仁科香奈の姿をしたマユは病室に入った。
「失礼します……」
「あ、あなたは……」
美紀は、左のほお骨を骨折していたので、大きな声が出せない。でも気持ちは、はっきりと伝わる。
こんな真っ直ぐで、素直な美紀の思念は感じたことがなく、マユは少し戸惑った。
「わたしのために、美紀さん……こんなことになってしまって、本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました」
「いいのよ、あなたのせいじゃないんだから。あなたこそ、無事でなによりだわ。あの位置じゃ、まともに頭に当たっていたでしょうから」
「ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」
「フフフ……痛い……笑うと響くの」
「ごめんなさい、笑わせてしまって!」
ゴツン!
マユは反射的に頭を下げ、ベッドの手すりに、したたかに頭をぶつけてしまった。
「フ……見舞いに来て、怪我なんかしないでね。で、オーディションの結果は?」
「はい、なんとか合格させていただきました」
「よかった。これからいっしょにがんばりましょうね」
「はい、よろしくお願いします!」
「頭……気をつけてね」
マユは、また危うくベッドの手すりに頭をぶつけるところだった。
「わたし、しばらく選抜メンバーからは外れるけど、カナちゃんが代わりに入ってくれるから安心」
「カナさんって……」
「桃畑加奈子。おもしろクロ-バーのころにセンターだった。ついさっきお見舞いに来てくれて……」
頭を手すりにぶつけたドジさで、気を許して、美紀はいろんなことを話してくれた。
オモクロに入るまでは、自分でも嫌になるほど、意地の悪い子だったこと。ルリ子にくっついていればラクチンだったから。でも、こうしてオモクロのメンバーになれば、とても才能がある努力家で、今は心から尊敬できる仲間として見られることなど……やはり、美紀やルリ子は成長していた。オチコボレ天使・雅部利恵は間違っていなかったのだろうか……。
病院の待合いを兼ねたロビーに戻ると、濁った思念を感じた。それは、あの桃畑加奈子のそれであった。
加奈子は、ボンヤリとガラス張りを通して、晩秋の東京の街を見ていた。
「桃畑加奈子さん……ですよね」
「あなた……仁科香奈さん?」
「はい、いま美紀さんのお見舞いをしてきたところです」
「……本当は、わたしのはずだったのよ」
「え……?」
「ああやって、怪我をして、ベッドに横になっているのは、わたしのはずだったのよ」
加奈子の濁った思念の中に、東京タワーとスカイツリーが見えた。
たしかに、このガラス張りからは、その両方が見える。でも、それは何かの象徴のように思えた……。




