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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
96/118

96・オモクロヒットの裏側・1

小悪魔マユ・96

『オモクロヒットの裏側・1』    




 危ない!


 そう叫びつつ、身を投げ出して香奈を庇いに出たのは、ルリ子の妹分の美紀であった……。


 マユのアバターである仁科香奈は無事であったが、庇った美紀は、落ちてきたベビースポットライトが左腕から顔にかけて当たってしまい、怪我をした。


 出血は少なかったが、どうやら左頬の骨が陥没骨折。左腕にも裂傷を負った。

「大丈夫か美紀!」

 マネージャーが直ぐに駆け寄り声をかけた。メンバー達も駆け寄って声をかける。

「だれか、緊急手当できる人いない!?」

 ルリ子が、美紀を抱きかかえ叫んだ。

「わたしが診る。元看護師だから」

 ヒッツメ頭のADのが、人をかき分けて美紀の側に来た。

「あ……仁科さん大丈夫……?」

 美紀が苦しい顔で言った。


 マユはグッときた。


あの、いつもルリ子の腰巾着というか携帯のストラップのようにくっつき、ルリ子と共に意地悪ばかりしてきた美紀が、初対面のオーディション受験生でしかないマユのアバター・仁科香奈を気遣っている。


「裂傷は大したことはないけど、ほお骨がどうにかなってる。すぐに病院へ!」

 元看護師のADさんが上杉ディレクターに言った。

「救急車じゃ、かえって混乱する。事務所の車で、二丁目の足利病院へ!」

 上杉の指示でスタッフが動いた。

 事故の顛末は観覧席の受験者やマスコミに分からないように、熟練のスタッフにより、モニターがすぐに切られ、観覧席の大きなガラスもスモークにされている。

 しかし、事故直後の様子や悲鳴は聞こえている。観覧席を通って正面玄関から出すことは不可能だ。

「裏口から出ましょう」

 気の利いたスタッフが、裏出口に通じるドアを開け、数人が付いて美紀は足利病院に運ばれた。


 オモクロは、利恵の言うとおり、白魔法の影響を脱し、自律的に成長した。ルリ子や美紀も人間的に成長している。


 マユは、混乱した。


 天使のおせっかいは、どこかで必ず歪みが起きてくるものなのに……間違っているのはわたし……?

「大丈夫、仁科さんのせいじゃない。これは単なる事故なんだから」

 優しく声をかけて、パイプ椅子に座らせてくれる子がいた……どこかで、見たことがある。

「すみません……」

「あなた、歌もダンスもすごかったわ。きっといい結果が出るわ」

 その子は、そう言うと、スタジオの片づけに戻った。


――あ、あの子は、こないだまでオモクロのセンターをやっていた、桃畑加奈子!


 笑顔でマユに接し、今はテキパキと後かたづけをやっている桃畑加奈子の心は自己嫌悪で濁っていた。

――なんで、自己嫌悪……?

 マユは、加奈子の心を読もうとしたが、仁科香奈というアバターは、大石クララとマユ本来のアバターを足して二で割ったものなので、人間的な技量はともかく、魔法の効きは半分である。元々オチコボレの小悪魔、正規の悪魔のように魔法は使えない。それが半分になってしまったのだから、加奈子のように心を閉ざされてしまうと、なかなか読むことができない。


「さ、オーディションを再開するんで、控え室に戻ってくれるかなあ」


 スタッフに促され、マユは、控え室の観覧席に戻った。

 何事も無かったように、オーディションは再会された。

 ガラスの向こうで、見本の歌を唄い、踊っているのは、桃畑加奈子であった。


 微かに、濁った心が見え隠れする。マユは仁科香奈のアバターの中でもどかしく感じながらも、このあたりから調べていこうと、思い始めていた……。


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