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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
95/118

95・オモクロのオーディション・2

小悪魔マユ・95

『オモクロのオーディション・2』    



 その思念は突然飛び込んできた。


 うかつだった。


 オチコボレ天使の雅部利恵が、美川エルという、別のアバターを使って、この受験者たちの中に紛れ込んでいたのだった……。


 マユが、オチコボレ天使の白魔法を解いても、ルリ子たちは受験生たちの前で明るく元気に歌い踊っていた。けして学校にいるときの、いじめっ子の上から目線ではなく、新しい仲間を迎える喜びと励まし、自分たちがリーダーであることの、良い意味での誇りさえ見えた。


――どう、人間は、キッカケさえ与えてやれば、こんなにも良い方向に変わるのよ。


 美川エルの姿をした利恵の思念が、効き過ぎた暖房のように身にまとわりついた。


 一見正しそうだけども、何かが間違っている。


 それを考えている内に、美川エルたちといっしょに、スタジオの中に呼ばれた。五人一組の流れになっているようだ。

 エルの歌も踊りも群を抜いていた。踊りは振りも独創的で力強く優雅でさえあった。今のオモクロには無い気品と言っていい魅力があった。

 歌も透明感のあるメゾソプラノで、サビで声を張るところなど、審査員たちが思わずヘッドホンを外すほどの迫力。実際、スタジオと観覧席の境になっている大きなガラスがビリビリと振動するほどだった。

 

 エルの演技が終わると、スタジオは一瞬シーンとしてしまい、それから満場の拍手になり、それは観覧席の受験者たちの中からも湧き起った。

 エルは満ち足りた顔で、ていねいにお辞儀をした。

 輝く瞳、ほの赤く染まった頬……まさに天使の笑顔って、こういうモノなんだろうと、マユは仁科美香のアバターの中で思った。


――いいわ、これから小悪魔の力を見せてやる。


「では、13番、仁科香奈さん」

 声がかかって、マユは審査員の前に出た。

「じゃ、ダンスから……」

 ダンスは即興である。最初の二小節だけ聞いて、あとはアドリブである。

 仁科香奈というアバターは、AKRの選抜メンバーである大石クララと、浅野拓美が乗り移ったマユ本来のアバターの合成である。利恵のアバターであるエルにも勝るとも劣らない。


 それは、課題曲の『秋色ララバイ』が終わり、自由曲を歌っている最中に起こった。


 歌は、他の受験生と違って渋い曲を選んだ。『埴生の宿』である。

「たのしと~もぉ、たのもしや~♪」

 そう、思いをこめて歌い上げたその声は、怪しげなまでの蠱惑的こわくてきな響きで、エル同様に、スタジオも観覧席の受験者たちの心も揺るがした。

 そして……スタジオの天井のスノコのライトのネジも揺るがした。前のエルの声で緩んだネジが、香奈の歌の響きに耐えきれずに緩み、スタッフがうっかり甘くかけたチェ-ンで振り子のように振れて力を増して、香奈めがけて落ちてきた。


「危ない!」


 そう叫びつつ、身を投げ出して香奈を庇いに出たのは、ルリ子の妹分の美紀であった……。


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