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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
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7・ダークサイドストーリー・3

小悪魔マユ・7

『ダークサイドストーリー・3』   



 サタンとミカエルの戦いを除いて有史以来初めての「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」から一ヶ月。


 知井子の身長が一センチ伸びた。


 本人はビックリしていたが一センチなので、誰にも言わないし誰も気づかなかった。

 落第小天使利恵は、自分の白魔法のなせる技だと思っていたが、ただの自然な成長であった。利恵の思いこみのいきさつについては『小悪魔マユの魔法日記・3 知井子の悩み』を見ていただきたい。


 本題は知井子のことではない。


 ルリ子たちワルのアミダラ女王パンツに、ことの発端がある。

 マユのイタズラで、ルリ子の仲間の一人のスカートがめくれ上がり、アミダラ女王のパンツが丸見えになった。


 心を閉ざし、無気力な授業をやっていた片岡先生の心は読めなかったが、その瞬間、片岡先生はドキリとした。


 しかし、並の男が、こういう状況で感じるドキリとは違っていた。


 ブルネットの髪をした女性の顔が一瞬浮かんのである。



 そのことが気になって、マユは、階段の踊り場で片岡先生が手にしていた商売道具を滑らせた。さすがに片岡先生も「あ!」と声を上げて、閉ざされた心が、わずかに開いた。そこで時間を止めて、先生の心の闇を覗いてみようとしたのだが、落第天使の利恵も同時に時間を止めてしまった。その差0.01秒。世界はダブって止まってしまった。これが「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」である。



 仕方なく、落第ということで共通している小悪魔と小天使は手を繋いで、時間を同時に再起動した。


 それから、一ヶ月。知井子の身長が一センチ伸びた……だけではなかった。


「今日から、スミス先生の代わりとして赴任された、メリッサ・フランクリン先生です」



 英語科主任の山田先生が紹介した。片岡先生は、月に一度の通院で休んでいる。

「こんにちは。キョウから、みなさんの英会話のベンキョウのオテツダイをするメリッサです。どうぞよろしく」

 前任のスミス先生は、本国の友だちに頼んで買ってもらった宝くじが大当たり。日本円で五億円手に入れていた。



 なんでも、宝くじを買うのに並んでいたら、自分の前に宝くじマニアで何度も賞金を獲得しているキンバリーというオッサンがいることに気づいたのだそうだ。



 キンバリーというオッサンは、宝くじマニアの中ではカリスマと言われている人物である。面が割れないように、帽子を深々と被って、付けひげを付け、口には含み綿を入れ顔を変えていたので誰にも分からなかった。気づくのには理由があった。

 宝くじの行列の脇を、プラダを着込み、濃いめのグラサンをした女性が身を隠すように歩いていた。そして、ヒールを歩道のブロックに引っかけて倒れ込んでしまったのだ。

 で、倒れ込んだ先にキンバリーのオッサンがいて、彼女を抱き留めた。

 女性のグラサンが外れた。外れたその顔を見て、オッサンは驚いた。

 女性はオッサンが若い頃からファンであった、名女優のオリビア・ヤッセーであった。


「あ、あなたは!?」


 びっくりした、キンバリーのオッサンの帽子も付けひげも外れて、含み綿も吹き飛んだ。そして、勢いで、二人揃って列から外れて、はみ出してしまった。

 オリビアは、つい二ヶ月前に三番目の夫と別れたばかりであった。当然パパラッチたちに付け狙われており、このときも三人のパパラッチがカメラを構えた。そして気づいた。


「あ、宝くじのカリスマのキンバリーだ!」


「わたしの車に!」



 キンバリーのオッサンは騎士道精神を発揮して、路肩のパーキングに停めていたTOYOTAにオリビアを乗せて、幹線から外れた裏通りを通り、名女優を逃がしてやった。

 なぜ、辣腕のパパラッチをかわせたかというと、キンバリーは、若い頃、映画のカースタントのドライバーをやっていた。一度、オリビアを乗せた車でスタントをやったことがあり、その時から、ほのかな恋心をオリビアに持っていた。むろんパパラッチのバイクを撒くなど屁でもない。そして、TOYOTAが小型で、性能が良かったことも幸いした。やはり、イザというときは日本製である!



 ここまでハデにやれば、スミス先生の友だちも気づくわけである。



 で、スミス先生の友だちはキンバリーが外れた順番に立つことになり、本来なら、キンバリーが手に入れるはずであった宝くじを手に入れ、一等の五億円を当てたのである。

 それで、スミス先生は、安月給な日本の英語の講師をアッサリと辞め、本国に帰ってしまった。



 キンバリーのオッサンは、これが縁で、めでたくオリビアの四番目の夫になった。



 しかし、パパラッチの一人は、キンバリーがスピンをかけて方向転換をしたときに、ハンドル操作を誤り、車線を外れ、対向車線のヒュンダイに激突した。パパラッチは、命は取り留めたものの、腕や脚を骨折。仕事ができなくなり、半年前に買った家のロ-ンが払えなくなり、身重の妻といっしょに夜逃げをするハメになった。



 天使の幸せづくりというのは、どこかにしわ寄せがくるものなのであるが、利恵は、そこまでは知らないし責任を持つつもりもない。


「似てるわね……」


 メリッサ先生が、やる気になって、髪をまとめてオダンゴにしたとき、ルリ子が呟いた。

 メリッサ先生の面影は、アミダラ女王に似ていた……。


 



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