67・AKR47・11
小悪魔マユ・67
『AKR47・11』
パンフの中に研究生の応募用紙が入っていた。
マユは、小悪魔らしくほくそ笑んだ……。
「よし、これだ!」
会長室の窓辺の白線の二往復目には、新曲のタイトルが浮かんだ。
――間もなく列車が通過しますので、白線の後ろにお下がり下さい――
会長室の白線は特別製で、駅の構内アナウンス、そして列車の通過音やホームの振動まで再現できるようになっていた。窓ぎわのスリットからは、列車の通過に見合った風が「バン!」と吹き出し、光会長のキャップを吹き飛ばした。
光会長は、若い頃から、駅のプラットホームの白線の上に立ち、通過列車の振動と風圧を感じた時にアイデアがひらめく。
今、その効果が現れた。
『秋桜旋風』
季節性もインパクトも十分であった。あとは歌詞……。
光会長は、白線の設定を新幹線にした。会長は、足を踏ん張った。
新幹線は、シューっという独特の接近音がする……列車接近のアナウンスは、もう耳にも入らなかった。
ドバッ! という衝撃的な通過音と風圧のショックに、小柄な光会長は、部屋の端まで吹き飛ばされた。しかし、壁には衝撃吸収のためのラバーが貼ってあるので、怪我はしない。怪我はしないが、衝撃はハンパではない。二回転して、壁にぶつかるまでに、最初のフレーズがひらめいた。
特急電車、準急停車と間違えて、ボクはホームで吹き飛ばされた。
二回転ショック!ショック!
手にした花束、コスモストルネード!
「振り付けの春まゆみ、作曲の大久保は来たか!」
「はい!」
「ここに!」
振り付け師と作曲家が、息を切らしながら会長室に入ってきた。
さっそく、最初のフレーズに曲と振り付けが付けられた。
それから、二回新幹線が会長室を通過し、そのMAXな風圧で、会長室は、まさに嵐の中の状況だった。デスクの上の書類はもちろんのこと、パソコンのデスクトップまで吹っ飛び、会長用のロッカーは倒れ、カーテンは引きちぎられ、部屋の片隅で、他の細々したものといっしょに吹き寄せられていた。
三回目の通過では、光会長は、雄々しく足を踏ん張り、曲の一番を完成させていた。
ボクの心は、コスモストルネード!
振り付けの春まゆみも、二回スピンして決めポーズを完成させた。曲は、大久保がアドリブのアカペラ。
「決まった!」
作詞、作曲、振り付けが一度に決まった。
すぐに大久保はスコアに音符を並べ、春まゆみは振り付けのコンテを描いた。この間、わずかに十三分十三秒。三十分後には伴奏用の編曲がなされ、コンピューターに入力されて、一時間後には、AKRのメンバーが集められ、歌と振り付けのレッスンに入った。
「会長、すごいですよ!」
長年の付き合いである黒羽ディレクターも舌を巻いた。
「な~に。軽いもんよ」
光会長は、ポルコロッソ(紅の豚の主人公)のように決めてみた……あちこち傷だらけの姿は、まさにキザなアメリカ野郎と決闘で勝利したときのポルコそっくりではあった。そして、手には二番と三番の歌詞がしっかりと握られていた。
マユがもどってきたときは、すでに夕方で、AKRのメンバーたちは、一通り、新曲の『秋桜旋風』をマスターし、夕食を兼ねた一時間の休憩に入っていた。
「うそ、オモクロって、そんなクワダテ持ってんの!?」
マユの姿をした拓美が言った。
三人は、食事のあと、メンバーや研究生・スタッフたちで一杯のリハーサル室で話していた。
下手に個室で話すよりも、この方が目立たない。なんせマユは、クララとマユの拓美を足して二で割った姿をしているので違和感がない。
「この話、黒羽さんに言ったほうがいいかな」
「言わなくていいわよ」
拓美は、きっぱりと否定した。
「情報源聞かれたら困るし。わたし今度の『秋桜旋風』はいけるような気がするの」
「そうね、今のAKRは会長から、研究生まで一つになれてるものね」
クララも、拓美に同調した。
「わたしたちは、二つになってしまったけど」
マユは、いたずらっぽく言った。
「ごめんね」
拓美は、真っ直ぐに受け止めて、ペコリと頭を下げる。
「いいのよ、拓美の気が済むまで、その体貸してあげるから」
「もうしわけない」
「ほんとにいいんだって。わたしにもタクラミがあるんだから」
「え……?」
クララと拓美の声がそろった。
マユは、オモクロの研究生募集のパンフを見せた……。




