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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
66/118

66・AKR47・10

小悪魔マユ・66

『AKR47・10』   




 マユはクララたちが用意してくれていた制服を着て、オモクロのプロダクションを目指していた……。


 雅部利恵(天使名ガブリエ)が肩入れしてからのオモクロは、それまでの「オモシロクローバー」から「想色クローバー」と名を変えたが、略称はオモクロのまま内容は一新。

 それまでのお笑い系ではなく清楚とビビットが売り。しかし、トークやバラエティーなどでは元のオモシロの味ものこしており、その手のコントやギャグをやらせると、AKRをしのいでいた。

 ディレクター兼社長である上杉は、関西のお笑い総合商社と言われるユシモトから資本提携をうけ、中堅プロダクションを買収、いちやく東京でベストテンに入る芸能プロにした。


 マユは、その新生上杉プロの前まで来た。なんと「見学自由」の張り紙がしてある。

 学校帰りの女子高生なども結構並んで、見学の順番待ちをしている。五十人一組で十五分の見学である。マユは、さっそく並んだ。


 一時間たって、やっと番が回ってきて見学の流れに潜り込めた。



 一階の展示室には、オモクロの歴史や、活躍ぶりをパネルや映像で見られるようになっており、メンバーの衣装なども展示してある。オモクロのこれからのスケジュールなども書いてあったが、AKRのえらいさんたちが言っていた新企画については書かれていなかった。

 ロビーにはメンバーの写真が並んでいて、ルリ子と美紀の写真も当然並んでいる。学校での意地悪グループの印象など全くなく、清楚なお嬢様キャラで額縁に収まっていた。プロフは生年月日と性別以外は、まるでデタラメ。


――学校では、人前で話すこともできないハニカミやです――笑いそうになった。


 五分ほどで展示室を出されると、階段を上がり、二階に連れて行かれた。



 なんとリハーサル室の隣りの部屋を見学室にして、リハーサルを見せてくれる。防音のガラス張りになっており、リハーサル室の音声は、据え付けのスピーカーから聞こえてくる。

 ルリ子と美紀もレッスンに励んでいた。そして気がついた。この二人には白魔法がかけられているのだ。歌唱力やダンスの能力が何倍にも高められている。実力でアイドルになった拓美や知井子に負けない歌とダンスである。マユは、拓美には体しか貸していない。あの子たちの力は、混じりけなしの実力である。しかし、白魔法は、本人には分からないようにかけられていて、ルリ子も美紀も自分の力と努力のタマモノだと思っている。

 

 このごろのルリ子たちは学校でも大人しい。加えて、他人への気配りや態度が優しくなった。これは白魔法ではなく、ルリ子たちが持った自信からくる自然な優しさで、この点では、マユも文句はない。しかし、その根本にあるのが、オチコボレ天使の利恵の思惑であるので、いただけないと思っている。


 運がよかった。


 残り時間五分というところで、リハーサル室に上杉ディレクターが入ってきた。

 オモクロの新しい企みというか企画は、メンバーにも知らせられていないようで、オモクロの子たちの心を読んでも分からなかった。

 上杉の心は読まなくても飛び込んでくる。それだけ自信と闘志に燃えているのである。

 新曲は『秋色ララバイ』で、見学者の前ではレッスンさせていない。オモクロにしては大人しい曲であるようだったが、サビからはオモクロらしくビビットで激しいものがある。上杉の心の中で踊っている曲自体は傑出したものではなさそうだが、オモクロの子たちの手に掛かると、思いがけずヒット曲になりそうな予感がした。

 

「え……!?」


 思わず声になってしまった。しかし、周りの女の子たちの声や想念に紛れて、たとえ、利恵が、ここにいても気は付かないだろう。

 上杉は、AKRに果たし状を突きつける気でいる。むろんエンタメの企画としてである。会場はすでに東京ドームを押さえてあるのだ。ユシモトの資本力の背景があってできることである。

 メンバー全体の、いわば団体競技と、選抜のソロで競わせるつもりでいるようだ。オモクロはすでに準備に入っている。果たし状を出された時点で、AKRは一歩遅れることになる。

 それに、なにより利恵が一枚かんでいる。どんな影響が出てくるか分からない。


――ん……?


 見学室を探っている思念を感じた。的は絞り切れてはいないが、あきらかに探っている。

 マユには分かった。リハーサル室のパイプ椅子に化けた利恵が、見学室からのマユの思念を感じて探っているのだ。しかし、マユは、ポチの体を借り、見かけも拓美とクララを足して二で割った姿をしている。マユとは気づいていないようだ。


――なんだ、オモクロに憧れている子たちの想いが大きくなっただけか。


 パイプ椅子の利恵は、おめでたく解釈したようだ。

 見学時間が終わって、出口に差しかかったところで、パンフが配られた。パンフの何枚かにメンバーのサインが書かれている。外に出てパンフを開くまで分からないが、当たった子は「キャ-!」とか「ウソ!」とか歓声を上げているが、マユは、違うことでほくそ笑んだ。

 パンフの中に、研究生の応募用紙が入っていたのである。


 マユは、小悪魔らしくほくそ笑んだ……。




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