54・フェアリーテール・28
小悪魔マユ・54
『フェアリーテール・28』
ドロシーが三日分の食事を終えたころで声がした。
「じゃ、そろそろ行こうか!」
声の主は、いつの間にか目覚めたトトであった……。
言うまでもなく、行き先は「西の魔女」の城である。
イバラの森にさしかかったとき、西の空から一クラス分ほどの空飛ぶ猿たちが飛んでくるのが見えた。
「来た、最初の関門だ。みんなドロシーがさらわれないように気をつけて!」
かかしさんが、そういうと、ブリキマン、ライオンさん、それにトトはドロシーを真ん中にして、フォーメーションを組んだ……といえば、頼もしいドロシー親衛隊ができたように思えるが、みんな足が震えている。
ブリキマンなんかは、ガシャガシャと町工場の機械のような音がした。
「マユ、あなたの魔法でなんとかならないの……」
ドロシーは、トトを抱き上げると、空を見上げながら言った。
「そんなに、抱きしめちゃ、ドロシーのこと守ってあげられないよ」
「わ、わたしがトトを守ってあげるのよ」
しかし、ドロシーの足も震えている。トトを抱っこしていないと不安でしかたないのだろう。
「……あの猿たち、なんだか様子が変よ」
マユが呟くと、猿たちはお行儀良く、ドロシーたちの前に整列、二列目の猿たちは横断幕を広げた。
――熱烈歓迎、ドロシー御一行様!!――
一列目のセンターの猿が、もみ手しながら、一歩前に出てきた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。わたしたちは西の魔女の先触れとして、ご挨拶にうかがいました、WEST48で、ございま~す。まずは歓迎の歌と踊りを!」
そういうと、選抜メンバーらしい16匹が前に出て、クルンと一回転するとAKB48のような女の子のユニットになり「ああ、言いたかった!」を歌い踊り始めた。
――♪やっと気づいた、本当の気持ち! 正直に言うんだ! たった一つキミだけが好きだよ……♪
マユもドロシー一行もガックン……ときた。
16匹……16人のパフォーマンスに気を取られているうちに、猿たちは、みんなAKB風の女の子に変わってしまっていた。マユは一瞬AKRのみんなが懐かしくなった。
「あの……なんだか様子がちがうってか、勘狂っちゃうんだけど。西の魔女って、わたしたちの……カタキなんだけど」
ドロシーが、そう言うと、センターにいたポニーテールに大きなリボンの子が前に出てきた。
「前任の西の魔女は、定年で辞めました。オズの魔法使いは、次の西の魔女を公募したんです。で、書類選考で残った20人を、オズの住人で総選挙をやって、今の西の魔女が選ばれたんです。おかげで、わたしたちも猿の姿から本来の姿にもどることを許されたんです。さあ、西の魔女がお待ちかねです。わたしたちがご案内します。どうぞ着いてきてください。ちなみに、わたしはリーダーのナミカタです。よろしく!」
「あ、でも、わたしたち空は飛べないわ」
ドロシーが、ナミカタの背中に言った。
「ボクは、ハングライダーで飛べるし、マユのストローハットは飛行機になるから大丈夫だよ」
ライオンさんがフォローして、マユもうなづいた。
「ああ、飛んできたのは演出です。今の西の魔女は、もうイバラの森のお城にはいません。今はこっちの方です」
ナミカタたちは、ドロシー達を囲むようにして、にぎやかに歩き出した。
イバラの森の彼方に、先代の西の魔女のオドロオドロした城が木の間隠れに見えた。そっちに向かう道は封鎖されていて、一行は左手に延びる小道に入った。軽自動車がなんとか入れるぐらいの小道。楓の木が、両側から枝を伸ばしてトンネルのようになっている。
「く」の字に曲がった道を曲がると、遺跡のような門柱を通った。
すると、意外に開けた庭に出た。庭の真ん中には大きな木が、ゆったりと立っていて、その周りを囲むように草花や庭木があった。
「あれが、西の魔女のお家です」
ナミカタが指差した方向には、質素だけど清潔に手入れの行き届いた二階家があった。
「ありがとう……」
振り返ると、WEST48のみんなは居なくなっていた。
「え……?」
みんなが、そう思って、もう一度振り返ると、二階家のポーチのところに魔女が立っていた。
褐色の大きな瞳に、半分白くなりかけたブルネットの髪をひっつめにした骨格のしっかりした体。
西の魔女は、歯を見せずニヤリと笑った……。




