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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
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5・ダークサイドストーリー・1

小悪魔マユ・5

『ダークサイドストーリー・1』          



 この時間は、いつもこうだ。


 誰も授業を聞いていない。


 英語の片岡先生の授業だ。


「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」


 一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。

 マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやっている。

 

 東城学院は、そこそこの私学で校則も厳しく授業もきちんとしている。この片岡先生の授業以外は。


 無秩序というのは、小悪魔にとっては望ましい状況なので、マユは好きだ。


 マユも、この時間は、魔法とも言えないイタズラをして楽しんでいる。ラノベに熱中すると膝が開いてくるルリ子の取り巻きの一人に、ちょいと指を動かす。足許から風が巻き上がり、スカートがひるがえる。アミダラ女王のパンツが丸見えになる。 

 ルリ子の仲間は、みんなアミダラ女王のパンツらしい。

『スターウォーズ』の3Dを見てファンになり、わざわざ輸入雑貨専門のネットショッピングでアメリカから買ったようだ。その子の股間のアミダラ女王と目が合って、片岡先生は一瞬ドキリとしたが、並の男が感じるドキリとは違ったので、マユは、少し意外だった。


 メールをやりとりしていた美紀とルリ子のスマホの画面にはいきなりダースベーダーのドアップを3Dで出してやった。


「おまえは、すでに我が暗黒面に取り込まれた!」


 ダースベーダーが一喝。美紀は悲鳴をあげたが、ルリ子は喜んで嬌声をあげた。

 スカートめくりよりも教室はどよめいたが、片岡先生は我関せずと、気のない授業を続けた。

 片岡のあまりな無気力さに興味を持って、マユは、彼の心を覗いてみた。

 

――……読めない!


 マユに見えた片岡の心は、具体性のない闇であった。ただダースベーダーのような力はない。

 普通の人間は、散文的な不満や、不安や、欲望が見えてくる。それが、先生の心からは見えてはこなかった。


 ちょうど四時間目の授業だったので、授業が終わったあと、マユは片岡の後をつけていった。

「マユ、食堂……」

 そう呼びかける沙耶の口にチャックをした。

 廊下を歩く片岡の心は空虚だった。闇ではなかったが、濃い雨雲の中のような空虚さ。

 階段の踊り場で、ちょっと魔法をかけた。片岡の手からチョーク箱やえんま帳やらが滑り落ち、階段を下の階まで落ちていった。


「あ、ああ……」


 さすがに、片岡は声をあげ、階段を駆け下り、商売道具を拾い集めようとした。

 階下にいた生徒たちがそれを手伝った。

 一瞬、片岡の心に具体的なイメージが浮かんだ。


 それは、一人のブルネットの若い女性だった。


「はい、先生」


 最後のチョークを拾い上げたのは、落第天使の雅部利恵だった……。


 



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