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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
42/118

42・フェアリーテール・16

小悪魔マユ・42

『フェアリーテール・16』  



 白雪姫の国は王妃側と白雪姫側に別れて内戦状態。そこにアニマのゲッチンゲン公国が絡み、眠れる森の美女の国が仲介に失敗。争いに巻き込まれてしまった。そして、マユが、この港町に一瞬で来たような気がしていたが、実際には一週間かかっていたことを知ってしまって……ファンタジーの世界のゆがみは広がっていくばかりだ……。




「ミファ、サンチャゴにこれ」


 ベアおばちゃんがミファに包みを渡した。


「その包み、何が入ってんの?」

 港町の狭い坂道を上がりながらマユは聞いた。

「タバコよ」

「サンチャゴのおじいちゃんに?」

「うん。もう自分じゃ吸えないんだけどね、これを焚いとくと、サンチャゴじいちゃんはうなされないの」

「サンチャゴじいちゃん、悪そうなのね……」

「うん。もう何年も寝たり起きたり。近頃じゃ、起きてるのは、日に二時間ほど。それも起きてるだけで、なんにも喋らないし、面と向かっても、視線も合わない……でも、分かるんだ。瞳の奥には、何か訴えかけてくるような光があるから」

「光……」


 そこで二人は、坂道の上に出てきた。


 カリブの海が一望に開け、吹き上げる潮風が、心地よく髪をなぶっていく。ストローハットが飛ばされないように、マユは反射的に頭をおさえた。

「うわー、すごいね、ここの眺め。100%の海だ!」

「晴れているときは絶景だけどね、海が荒れたときは、すごい風で、小さい子なんかは、とても通れたもんじゃないんだよ。この道をちょっと行ったとこの岬の先にサンチャゴじいちゃんの家があるの……ほら、あそこ」

 ミファが、道の先を指した。三百メートルほど先の岬に小さな小屋が見えた。


「お、ミファじゃないか」


 潮風に鍛えられた声が間近にしたので、二人は驚いて振り返った。驚いた拍子に、マユはストローハットを飛ばしてしまった。


「いや、すまん驚かせてしまったな」

「町長さん……」

「たまには、サンチャゴの様子を見ておこうと思ったんだけど、ミファ、行ってくれるところだったんだね」

「うん、ベアおばちゃんとこで時間くっちゃったけど」

「そっちのかわいい子は?」

「あ、従姉妹のマユ。休暇で訪ねに来てくれたの」

「そうかい。じゃ、わしが行くこともないな。よろしく頼むよ。マユちゃん、帽子すまなかったね」

「いいえ、たいしたもんじゃありませんから」

「じゃ、わしは、これで。ちょっと日が高くなっちまったけど、漁にに出てみるよ」

「大きなカジキマグロでも釣れるといいね」

「ああ、サンチャゴにあやかってなあ」


 町長は、ベアおばちゃんと同じように、瞬間マユの顔を見て坂道をもどっていった。


「ねえ、さっきも、そうだったけど、どうして従姉妹になっちゃうわけ?」

「サンチャゴじいちゃんの家に着いたら話す……マユ!」

「え……ああ!」


 

 マユは、自分の体が透け始めていることに気づいた。ミファの姿や景色もぼやけ始め、学校のトイレの個室が浮かんできた。だれかに魔法をかけられたとピンときたので、大急ぎで記憶を巻き戻した。

 ベアおばちゃんのカフェで飲んだソーダにアラームが点いていた。


――まだ時間がたっていない。間に合う。


 マユは、ソーダを飲むところまで戻ってみた。


「大人は世話をしないんですか?」

 マユがソーダを一口飲んで聞いた。一瞬目が光って、ベアが続けた。


 42章の、そこまで戻ると、こう変えた。


「大人は世話をしないんですか!?」

 マユはソーダを飲もうとした手を止めて聞いた。ベアは一瞬残念な目になって続けた。


 景色は、ほとんど学校のトイレの個室に戻っていた。手遅れかと思ったら、青いモヤを吐き出している便器の中から手が伸びてきた。とっさに手を掴むと、もとの坂道に戻された……握った手の主はミファだった。


「危ないところだったね」

「従姉妹じゃないってことバレてるみたいね」

「ううん、半信半疑ってとこ。マユが、この世界の人間だったら、ソーダの魔法は効かないから」

「そうか、じゃ、まだしばらくは大丈夫ね」

「でも、ベアおばちゃんまで、あいつらの仲間だとは思わなかった」

「急ごう」

「うん」


 二人は、岬のサンチャゴじいちゃんの小屋をめざして足を速めた……。 




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