41・フェアリーテール・15
小悪魔マユ・41
『フェアリーテール・15』
レミが言った「急場の問題」がキューバのナゾであることに気がついた……。
「ついてきて」
ミファは、そう言うと歩き出した。生まれながらの友だちに言うような気楽さだった。
道を少し行くと、声をかけられた。
「ミファ、今日は連れがいるんだね」
「うん、従姉妹のマユ。休暇で遊びにきてんの、昨日から」
「そりゃあ、気がつかなかった。こっち寄って、ジュースでも飲んでいきなよ」
「ありがとう、ベアおばちゃん」
というわけで、ベアおばちゃんの飲み屋兼カフェに立ち寄ることになった。
テラスのテーブルに収まると、港が一望だった。小型の漁船が多く舫っていて、ゆったりと波に揺られている。マストの間を器用に海鳥たちが飛び回り、こぼれた小魚をとったりしている。
マユは、不思議に思った。ミファは、なぜ自分のことを従姉妹なんて言ったんだろう。またベアおばちゃんも、簡単に信じ込んだんだろう……。
「はい、ベアおばさん特製のカリビアンソーダ」
「ありがとう。これにアルコールが入るとカリビアンリキュールになるんだよね」
「今日もサンチャゴのとこ行くんだろ」
ソーダを勢いよく、かつ一滴もこぼさずにテーブルに置きながら、ベアおばちゃんが聞いた。
「うん。今日は、あたしの番だから」
「サンチャゴって?」
「ああ、ポンコツの漁師。若い頃は遠洋航路の貨物船なんか乗ってたんだけどね、近頃は飲んだくれては、寝たり起きたり。身の回りのこともできなくなっちまって、ミファみたいな子供たちが交代で世話してんだよ」
「このごろは、寝たり、寝たり、寝たり、寝たり、起きたり、寝たりだよ」
「いよいよかね……」
「よいよいだけど、まだまだ」
「大人は世話をしないんですか?」
マユがソーダを一口飲んで聞いた。一瞬目が光って、ベアが続けた。
「サンチャゴは大人が嫌いでね。たまに正気になると大げんかになったりするから、ミファに頼んでんの。ま、マユもゆっくりしていきな」
「はい、ありがとう……勢いもいいけど、姿勢のいいおばちゃんね」
「昔は、踊り子やってたの。プリマだったんだよ。ほんとうはベアトリーチェって名前なんだけど、このお店開いてからはトリーチェを取っちゃったの」
「そうなんだ、女の人なのにベアなんて熊さんみたいな名前で変だと思ってたんだ」
ビュン!
感心しているマユの目の前を新聞が飛んでいった。
「びっくりするじゃないのよ!」
ミファが怒鳴った。
「かわいい子といっしょだからよ。紹介してくれよ!」
テラスの下で、日焼けした新聞少年が吠えた。
「わたし、ミファの従姉妹で、マユ。あなたは?」
「おれ、ジョルジュ。今夜空いてる?」
「マユには、婚約者がいるの。あんたなんか足もとにも及ばないような!」
「今はバイトの途中だから、終わったら、そのテラスぐらいには、足は及ぶぜ」
「油売ってると、ボスに言いつけちゃうぞ!」
「ヘヘ、じゃ、またミファのいないときにね」
口笛を吹いて、ジョルジュは行ってしまった。
「わたし、いつ婚約なんかしたの?」
マユが、おどけて聞いた。
「そういうことにしておかないと、直ぐに虫が寄ってくるからね」
「……どうして、従姉妹なの、わたしたち?」
マユがミファの耳に口を寄せて聞くと、奥で新聞を受け取ったおじさんが驚いた。
「白雪姫の国が内戦状態だってさ!」
マユは、おじさんたちの輪の間に顔を入れて、新聞のおおよそを読んだ。そして……落ち込んだ。
白雪姫の国は、王妃側と白雪姫側に別れて内戦状態。そこにアニマのゲッチンゲン公国が絡み、眠れる森の美女の国が仲介に失敗。争いに巻き込まれてしまった。そして、マユが、この港町に一瞬で来たような気がしていたが、実際には一週間かかっていたことを知ってしまって……ファンタジーの世界のゆがみは広がっていくばかりだ……。




