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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
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4・ライバル登場

小悪魔マユ・4

『ライバル登場』




「あ~あ、こんなになちゃった」

 里依沙がぼやいた。

「どうして、こうなっちゃうかなあ」

 沙耶もぼやいた。



 ただ、二人のボヤキは原因が正反対。


 横で知井子が笑っている。無邪気に笑うと、知井子は意外と可愛い。だけど両手で顔の下半分を隠して笑うので、この可愛さは本人も含め知っているものは、あんまりいない。

 その知井子が、顔の下半分隠さずに笑ったのだから、里依沙と沙耶のコントラストのおかしさは、かなりのものである。


 四人は、昼休みに校舎裏の学年菜園を見にきたのである。


 以前は、学級菜園だったが、ちゃんと管理できる。つまり根気よく面倒が見られる生徒が減ってきたので、里依沙たちが入学した年から学年菜園になり、希望すれば誰でも自由に栽培していいことになった。


 で、里依沙と沙耶の二人は、去年の秋に栽培を始めた。知井子は、土や虫が嫌いなので、参加しなかった。



 沙耶は手堅く、ソラマメとエンドウ。里依沙は無謀にもイチゴにチャレンジした。

 里依沙の方が、やや面倒見はよかったが、この差は、その「やや面倒見がよかった」をかなり超えたものがあった。

 里依沙のイチゴはたわわに実っているのに、沙耶のソラマメとエンドウはさっぱりの草ぼうぼうであった。

 マユも、こういうことには疎い。それに学期途中(みんなは知らないが)から、この東城女学院に来たので、それまでのいきさつも分からず「こんなもんかいな」と思った。


「ほんとうは朝早く摘まなきゃなんないんだよね」

 知井子が知ったかぶりを言う。

「朝早くなんて来れないじゃん。それに、ほっとくと虫がすぐに付いちゃうからね」

「げ、虫!?」

「今は、奇跡的に付いてないから。今のうちにやっちゃおう!」



 里依沙の鼻息で方針は決定した。 四人で、イチゴを収穫して家庭科の冷蔵庫で保管してもらうことになった。


 収穫し終えて、校舎裏を回って正門近くのアプローチまで来ると、マユはオーラを感じた。門衛の田中さんだけど、なんだかいつもと違う。

「先行ってて」

 マユは、そう言うと、小さい交番のような門衛詰所に向かった。


 田中さんは、パソコンのモニターを見ながら考え込んでいた。



「どうかしました、田中さん?」



 マユが、そう訪ねると、田中さんはすぐにエスケープキーを押し、門衛のモードに戻って、笑顔を向けた。

「いや、まずいところを見られてしまったね。気候のせいだろうね。少しボンヤリしてしまった」

 田中さんは頭を掻いたが、その残留思念が今まで点いていたパソコンの画面の残像といっしょにマユの、頭に焼き付いた。



 マユは並の女子高生ではない。「小」の字は付いてもあくまでも悪魔である。



「そう。なんだか心配ごとがあるように見えたから」

「ハハ、自衛隊じゃボンヤリするときはムツカシイ顔をする。こんなふうにね……」

 田中さんは実演して見せた。マユは女子高生らしく笑っておいた。

「いかん、いかん防衛機密だからね、今のは」

「ハ、田中陸曹長どの!」

 マユは、おどけて敬礼した。


 田中さんは、生徒の一覧表を見ていた。雅部利恵みやべりえという生徒の……で、違和感を感じていたのだ。



 田中さんは、職務熱心で、全職員と全生徒の名前と顔を覚えている。


 そう、顔と名前は……。



 しかし、この雅部利恵という生徒については、クラスや学籍番号、そして住所や緊急連絡先、本人のメアド、さらに左胸に小さなハート形のホクロがあることまで分かっている。

 門衛は、職務柄、マル秘になっている職員や生徒の情報をパソコンで見ることができる。しかし田中さんは、たった今まで、それを見たことがない。生活指導部から回ってきたクラス毎の顔写真を見て覚えたのである。それにパソコンの個人情報にも、胸のホクロまでは載っていない。もちろん田中さんは、生徒の更衣室を覗くようなことはしない。

 マユは、田中さんの残留思念を元に利恵の教室を見にいくことにした。


 利恵は、活発そうなポニーテール。窓ぎわの席で片ひじついてボンヤリ空を見ているように見えた。


 マユは、そっと意識を集中して利恵の心を読んだ……が……なにも読めなかった!?



 そのとき、先生に呼び出されて、遅れてきた子が大橋とネームプレートが付けられた席に着き、お弁当を広げた。

 慌てていたんだろう、タコウィンナーが箸から滑って飛んだ。

 そして、前の席で三人で首を伸ばしてお喋りしていた子の襟から背中に入りそうになった。小悪魔の悲しさ、マユは、そのささやかな不幸にビビっと快感を予感した。

 ところが、タコウィンナーは命あるもののようにUターンして、我が身の不運に口を開け、絶望の淵から九十九パーセント落ちかけていた大橋という子の口にスッポリ入ってしまった。

 ゴクンと、思いのほか大きな音をさせて、大橋さんはタコウィンナーを飲み込んでしまった。まわりの子たちが気づいて、彼女を見つめ、大橋さんは、いま飲み込んだタコウィンナーのように赤くなった。


――いかが、出昼マユさん――


 雅部利恵は言った。唇も動かさずマユだけに聞こえる声で……。


 六時間目は、避難訓練だった。


 大半の子たちは、まじめに避難訓練していたが、ルリ子たちは、小声で喋りながらチンタラチンタラ。後ろを歩いていたマユたちは迷惑。で、マユは指一本動かして、ゴミ箱の中にあったバナナの皮をルリ子の足許に。



「ヒエー!」



 見事にルリ子はひっくり返り、そのルリ子を受け止めたルリ子の取り巻きたちも犠牲になった。ルリ子はアミダラ女王のパンツを穿いていることが判明。ルリ子の感覚が古いのか新しいのか分からなくなる。あのアミダラ女王がスリーディーで見えたら新しいのだろうけど、もう一度確認しようとは思わないマユであった。ま、とりあえず趣味が悪いことは確か。そして、少し可愛げがあるところが憎たらしかった。


 全生徒の避難は五分ちょっとで終わって優秀な成績であると消防署の人たちから誉められた……ところまでは、よかった。


 気をよくした校長先生が、延々と喋るのには閉口した。先生というのは偉くなればなるほど話がヘタ。マユは、ついイタズラ心で校長のカツラを吹き飛ばしてみた。みな一瞬アゼン。

――ざまあみろ!

 そう思った瞬間、校長の頭の髪は復活。

――え、そんな……。

 そう思って、もう一度吹き飛ばそうとしたが、校長の髪は風になびくだけであった。

 雅部利恵のオーラを感じた。

――ち、あいつか!?

 で、マユは、木枯らしの魔法をかけた。校長の髪は軽々と風に吹き飛ばされる……すると、すぐに校長の髪は元通りのフサフサに。



――こいつめ!



 マユは、再び校長の髪を吹き飛ばす。するとすぐにフサフサに……そんなことをくり返しているうちに、校庭のみんながざわつき始めた。しかし、もう意地の張り合いになったマユと利恵は汗をかきながら白と黒の魔法の掛け合いになった。あまりの早さに、人間たちには、校長の髪が半透明のようになり、ある種の納得をした。

 校長先生の髪は薄くなりはじめてきたんだ……長い付き合いの教頭先生でさえ、そう思った。

「マユ、なに汗かいてんの?」

「マユ、指がケイレンしてるわよ」

 知井子と沙耶が心配げに言った。

 同じようなことを利恵もクラスの仲間から言われている。



――くそ、これで勝負だ!



 マユと利恵は同時に念じた。

 ボン! 何かが爆発したような音がして、それは起こった。

 校庭や校舎がイチゴ畑とハゲ頭の地肌のマダラという異様な光景となり、育毛剤とイチゴの混ざった表現しがたいニオイに満ちた。


 結果的には集団幻覚ということになった。マユのお目付役である悪魔と、利恵のお目付役である天使が、同時に魔法の修正を行ったからである。

 時間を止めて、悪魔と天使は、それぞれの劣等生に説教をし、二人の成績をEマイナスからFに落とした。そして、これからは互いに干渉しないように約束をさせた。



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