38・フェアリーテール・12
小悪魔マユ・38
『フェアリーテール・12』
――やあ、ここにいたのか!?
振り向くと、楓の葉っぱが一枚宙に浮いていた。
「そんなに気を遣わなくてもいいのよ、裸だと風邪をひくわよ」
赤ずきんが、葉っぱの方を見ないようにして言った。
――でも、姿を現したら、キミが辛いだろうと……。
「もう、気持ちの整理はついたから。それに透明になって身を隠すんだったら、その楓の葉っぱはよしたほうがいいわよ」
――透明でも……ここだけは、きまりが悪くって……。
「その楓の葉っぱがユラユラしてるの、かえっていやらしいわよ」
――そ、そっかなあ……。
「エヘン……あのう、わたしにはちゃんと姿見えてるんだけど」
マユが、楓の1メートルほど上のところを見ながら言った。楓がびっくりしたように落ちてしまい、マユの顔が真っ赤になった。
――ほ、ほんと!?
「ほんと」
楓は大あわてで、元の位置にもどると、道の向こうの薮の中に隠れてしまった。
「ごめんね、情けないとこ見せちゃって」
「あれが、赤ずきんちゃんのタソガレの原因なんだね」
「うん……あいつが戻ったら、説明するわね」
二三分すると、気配が服を着て現れた。むろん姿を現して……。
マユは、自分たちの斜め向かいに、別のベンチを出してやった。
「ひょっとして、キミがウワサの魔法使い……おっと、危ない。このベンチ、崖のすぐ間際だよ!」
「そう、事と次第によっては、ベンチごと崖下におっことしてあげるわ」
マユが、ふーっと息を吹きかけると、ベンチが後ろに傾いた。
「ワ、アワワワ……」
ジャニーズ系のイケメンが吉本のお笑いさんのように、慌てた。
「……と言うわけ」
「……なんだよ」
「エ――!!」
二人から説明をうけたマユは、レミから話をされたときのように驚き、慌てて口を押さえたが、漏れた鼻息で、イケメンを崖に落としてしまった。
「ごめん!」
そう叫ぶと、マユはラプンツェルのように髪を伸ばしてイケメンを助けた。
髪を伝って上がってきたイケメンは、バラエティーで罰ゲームをうけたお笑いさんのようになっていた。
「じゃ、なに、赤ずきんちゃんは、この狼男。それをそうだとは知らずに好きになっちゃった。で、この狼男は、狼になったときに、知らずにお婆ちゃんと赤ずきんちゃんを食べちゃったってわけ!?」
「うん……」
二人がそろってうなづいた。
「で、でもさ……どうして、そのことが分かったのよさ!?」
「……それは……ね……この人の裸を見たら、お腹に大きな傷があって」
「ボクは、腎臓結石をとったときの傷だと思っていたんだ。だってお母さんがそう言ってたから」
「わたしも、それで納得したんだけどね。デートが終わって、名残惜しいものだから、ずっと彼が帰っていく姿を見ていたの。そうしたら峠を越えた向こうで狼の遠吠えがして……てっきり彼が狼に襲われたと思って、怖さも忘れて駆けつけたの……」
「そうなんだ、赤ずきんちゃんは、自分も裸だったのにもかかわらず、ボクのことを心配して見に来てくれたんだ」
「すると、そのとき、雲がお月さまにかかって……この人が、ちょうど人間にもどりかけているところを見てしまって、思わず叫び声をあげてしまったの。マユちゃんほどじゃないけど、わたしの叫び声もすごくて、あのとき、わたしを助けてくれた猟師さんが駆けつけて……そいつは、こないだお婆ちゃんと赤ずきんちゃんを食べた狼だ。その傷はわたしが縫ったんだからなって」
「ボクは、なにも知らなかったんだ。そのとき、初めて自分が狼男だったってことが分かったんだ……」
マユは眉をつり上げて聞いた。
「でもさ、そうだったとしてもさ、自分のお腹にいきなり大きな傷ができて、なんとも思わなかったの?」
「ボクは、子どものころから記憶がまだらなんだ。血だらけで帰ったり、服がボロボロになっていたり……そのつど、お母さんが説明してくれて……」
「で……一つ聞きたいんだけども、そんな夕暮れ前に、なんで二人裸でいたのよさ……?」
「それは……」
「ねえ……」
見交わす二人の目から、☆が出て、ぶつかって、大きなハートマークになっていった……!




