34・フェアリーテール・8
小悪魔マユ・34
『フェアリーテール・8』
「「赤ずきんちゃん……!」」
レミと白雪姫が、頭のてっぺんから声を出した。
その二人の声を聞かなければ、赤い服がよく似合う、マユよりちょっと年上の女の子に見えただろう。
「わたし、どうしてここへ?」
「わたしが、魔法で呼び出したの」
「提案したのは、わたし」
白雪姫が、申し訳なさそうに言った。赤ずきんの顔色が冴えない。でも、目覚めた白雪姫を見て、赤ずきんは素直に喜んだ。
「まあ、白雪さん。生き返ったのね……ということは!?」
「残念だけど、魔法で、わたしが一時的に蘇らせただけ。あと三分ほどで魔法がとけて、また仮死状態にもどっちゃう」
「この人は……?」
「あ、前に話したでしょう……」
レミが説明しかけると、赤ずきんは分かったようだ。
「あなたが、このファンタジーの世界を救ってくれるのね……で、わたしは何をしたらいいの!?」
赤ずきんは、とびきりの笑顔になって聞いた。
「実はね……」
マユが説明すると、三人はエサを撒かれたハトのように顔を寄せ合った。
「「「くちびるの交換!?」」」
三人の声が、それぞれの頭のてっぺんから出て、三つずつの!と?がみんなの頭の上で、ぶつかりこんがらがってしまった。
「アニマ王子には、明日の朝、会った女性にキスしたくなるように魔法がかけてあるの。だから、明日、この森に来て赤ずきんちゃんにキスをするの。で、その時のくちびるが白雪さんのだったら、それで白雪さんは生き返ることができるのよ!」
「「「なーる……!」」」
また三人がいっしょに感心した……と!が、また三人分飛び出して、ぶつかって火花を散らした。
「でもさ、お城には若い侍女さんとか、かわいい女の子がいっぱいいるから、その子たちにキスしちゃうかも」
レミが心配げに言い、白雪姫と赤ずきんがうなずいた。
「大丈夫。効き目が出るのにタイマーをかけておくから。何時頃にアニマ王子は来るの?」
「判を押したように、朝の九時。それから、少なくとも日に三度は来るわ」
「じゃ、九時に……セット」
マユは、スマホを出して時間をセットした。
「へえ、小悪魔さんでもスマホ使うんだ」
みんなが感心した。
「スマホ型の携帯魔法端末。人間界にいるもんで、こういう型にしてあるの。じゃ、時間ないからいくわよ」
「「「うん!」」」
返事が揃って、また三人分の!が飛び出した。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……えい!」
マユは、スマホ画面の白雪姫と赤ずきんのくちびるを指ですり替えた。
「ああ……」
白雪姫は、赤ずきんの声を発したかと思うと、クルクルっと二回転して、棺に収まってしまった。
「時間ギリギリだったみたいね」
マユは、冷や汗をかいた。
「わたし、なんだか歌を唄いたくなってきた……」
赤ずきんが、白雪姫の声で言った。
「白雪さんて、歌が好きだったから!」
また!が一つ転がり出てきた。
「いつか王子さまがやってきて~♪」
赤ずきんは、白雪姫の声で唄いだした。すると、森の向こうからドアーフたちの「ハイホー」の歌声が聞こえてきて、うまい具合にハモった。
「ハイホー」は、いつか、驚きの声に変わり、七人分の歓声になって近づいてきた……。




